000  
正直、この話を積極的に語りたいとは思わない。  
何故ならこの話は、なんの高揚もなんのカタルシスもなんの感動もない、  
皆が僕に溺れて、僕が皆に溺れただけの、夏休みの幕間劇であり、  
それ以外の何物でもないからだ。  
だがしかし、僕と羽川の絆を再確認し、少女達が僕をどう思っているかを  
考える良いきっかけにはなったのだから、まあいいだろう。  
貝木ではないが――僕は今回の件から、女は須らく危険で、  
危険でしかないと同時に…とてつもなく優しい存在だ、という教訓を得たのだから。  
 
 
001  
白い砂浜。  
質素な旅館。  
青く輝く海。  
そう、阿良々木暦、人生初めての海旅行である。  
というわけで、阿良々木ハーレム一同。せーのっ♪  
「うm  
『でもそーんなーんじゃだーめっ♪』  
「違えよ!そこは『海だーっ!』だろうよ!」  
僕もそのボケを全く期待しなかったかといえば嘘になるけども!  
 
 
いや、ちょっと話を飛ばしすぎたか…とりあえず、海旅行の経緯を話そうか。  
このままだと僕が勉強を放棄しちゃったみたいじゃないか。  
 
夏休み。なんとか影縫さん姉妹を撃退して、一息ついたところ。  
受験勉強のはかどり具合を両親は大いに喜んでくれて、一泊二日の旅行を提案してくれたのだ。  
ちょっと勉強が楽しくなってきていた僕は戸惑ったのだが、  
ファイヤーシスターズの前に僕の躊躇など無意味も良いところだった。  
 
そしてそこからドラマが始まる。  
 
直後に羽川から電話がかかってきて、海へ行かないかとの提案。  
一も二もなくオッケー。  
更には何気に超リッチウーマン神原から、バス一台借りての旅行のお誘い。  
羽川との相談の結果、行き先は海ということでオッケー。  
まあそのあとはなんやかんやのてんやわんやで、一泊二日の海旅行、  
@阿良々木ハーレムと相成ったわけである。  
…瑞鳥君と蝋燭沢君がついてくるのは流石に予想外だったのだが。  
 
…バスの運転手が忍野だったのは、流石の流石に予想外だったのだが。  
本人曰く、路銀が尽きた所で神原のお祖母ちゃんに会ったらしく、  
僕の知り合いであることを主張し話を通した…との事だ。ぜってー嘘だろ。  
 
 
002  
まあそんな事は何の関係もなく、今重要なのは僕らが海に来ているということであって、  
それはつまり皆が水着姿を披露するということなのだ!  
「いやあ、瑞鳥君、蝋燭沢君…なんだろう、なんというか、目に悪い光景だとは思わないかい?」  
「…お義兄さん…いや、暦さんって、結構オープンに変態だったんですね」  
「僕はお義兄さんに全面的に賛成です」  
「ああ、蝋燭沢君。ポイント稼ごうとしても無駄だから」  
「なら言わせてもらいますが。暦さんっていつもさっきみたいに女性をはべらしているんですか?」  
「よし、ちょっと表に出ようか蝋燭沢君」  
「すみませんでしたお義兄様」  
蝋燭沢君の言うさっきとは、ハーレムメンバー達が一斉にサンオイル塗りを僕に頼んでくるという  
非常識極まりない僕には何の罪もない事件のことである。  
悪ノリで火憐ちゃんと月火ちゃんまでもが僕の方に頼んできたため、  
瑞鳥君と蝋燭沢君はたいそうショックを受けていた。これも僕には罪のないことである。  
 
まあそんな些事は放っておこう。今重要なのは皆の水着姿だろう。それ以外に何があるというんだ!  
戦場ヶ原、羽川、忍はパラソルの下で談笑している。  
人間二人は二人ともむしろ水着自体の面積は大きいのにそのプロポーションのせいでえらい化学反応だ。  
忍?普段通りだよ、普段通り。ワンピース。泳ぐ気はゼロだ。まあパラソルから出たら死ぬもんな。  
いや、よく見れば談笑しているのは前者二人だけで、忍は座っているだけなのだが。  
ていうか忍が本気でビビってる。ガクガク震えてる。何故だろう――僕は考えるのをやめた。  
いやー、羽川がまだ上着を羽織ってるのが残念でならないなー。  
ていうか忍野がパラソルの陰から追い出されて日光に晒されてるのが何気に哀れだなー。  
 
火憐ちゃんと神原は、既に海にインして活動を開始している。  
二人ともいい感じに競泳用。…プライベートでそんなん着てるやつ初めて見た。  
体を動かすことに関しては両者ともストイックなので、なんだかもうあそこだけ少年漫画みたいだ。  
最早何をしているのかも分からない。競泳かもしれないし、シンクロかもしれないし、  
もしかしたら神原後輩の変態劇場が開催されているのかもしれなかった。不穏な話だ。  
 
月火ちゃんと八九寺と千石は三人で砂の城製作に夢中だ。  
月火ちゃんはビキニスタイル、残り二人はスク水。スク水だぜ?実在したんだな、スク水…。  
初顔合わせになる人見知り二人がいるので心配していたが、あれでなかなか相性いいじゃないか。  
砂の城のクオリティが高すぎるのがやや気になるが。  
まだ底の方しか出来ていないのに既に砂は三人の膝のあたりに達している。  
どんなキャッスルおっ建てる気だよあいつらは。  
 
んで、僕ら野郎三人は、パラソルをもう一本立てて、皆を見回しているのだった。  
逆に、怪異に関わったかの少女達も、ちょくちょくこっちを見ている気がする――のは、気のせいだよな。  
ああ平和。実に平和。平和は良いことだよ。  
まさかこんな平和な旅行に、怪異が絡んできたりはしないよな!  
 
と、軽率にフラグを立ててしまったことを、のちに僕は後悔することになる。  
 
 
003  
とりあえず僕たちも海に入る事にした。  
せっかく海に来たから、というのもあるが、何より僕らで足を引っ張らないと  
火憐ちゃんと神原の人外コンビが海の環境を破壊する恐れがあったからだ。  
というわけでビーチバレー大会、開催!  
……零封されました。野郎三人で女の子二人に零封されました。ぐすっ。  
 
落ち込んだ僕は月火ちゃん達の城を見に行った。  
相変わらずクオリティ高すぎである。既に城は三人の腰の高さに達している。  
こういうのって無性に蹴っ飛ばしたくなるのだが、月火ちゃん以外も絡んでいる以上足は出せない。  
ちょっと残念。  
 
戦場ヶ原と羽川――には、怖くて近づけなかった。  
火花散ってる火花散ってる。忍、もうガクブルだったし。助けに行った方がいいかなあ。  
…やめとこう。障らぬ神に祟り無し、だ。怪異だって寄っていくから酷い目に遭うんだもんな。  
僕は経験から学ぶのだ。ほら言うじゃないか、君子危うきに近寄らず。…ごめん忍。  
 
そんなわけで。泳いだり遊んだり、子供組三人のキャッスルが完成を目前にして  
非情な荒波(火憐ちゃんと神原とのバトルにより発生)にさらわれたり  
相変わらず少女達の視線を感じたり…うん、色々あったね。  
でもまあいいや。こんな話聞いていてもつまらないだろう。  
一泊二日の海旅行初日は、何事もなく平穏に過ぎ去ったのだから。  
……夜までは。  
 
 
004  
夕方。予め予約を入れておいた旅館に入る。二人部屋をいくつか予約したので、  
部屋割は羽川製作のくじ引きで決めることになった。結果。  
 
僕と羽川。  
戦場ヶ原と神原。  
八九寺と千石。  
火憐ちゃんと月火ちゃん。  
忍野と忍。  
瑞鳥君と蝋燭沢君。  
 
「……嘘だっ!こんなに都合よく決まるくじ引きが有るはずがないっ!」  
「まあ、くじ引き作りを第三者に任せなかった皆のミスだよね」  
「…はっ!まさか仕組んだと言うのか!?」  
「仕組んだと言うのよ」  
「それこそ嘘だっ!?誰がどれを引くのか分からないのに仕組めるはずがない!」  
「仕組み方は企業秘密です」  
相変わらず底知れないマイラバーだぜ…。  
まあ羽川と二人っきりは素直に嬉しいのでいいや。  
 
まだまだ平和な時間は続く。  
旅館の夕飯に舌鼓を打って(神原のお祖母ちゃんの料理にも匹敵する)、  
温泉に入って日頃の(主に影縫さんとのバトルの)疲れを癒して、  
浴衣姿の羽川に萌えたら小一時間説教されたりもした。  
「もう、全く…暦くんは、相変わらずだなあ――」  
 
そう言って僕ににじり寄ってくる羽川。ちょっとぶたれるくらいの事だと、思っていたのに。  
そこからなのである。全てが狂い荒波に呑まれ、僕らが溺れ出したのは。  
そう、羽川と部屋に二人っきり。その幸運が僕に舞い降りた時点で、嫌な予感がしていたのだ。  
アンラッキーメーカー、三歩歩けば厄介事を引き込んでくるこの僕が、  
ただで幸運にありつける訳がなかったのだ。  
流石にそれが――羽川に、いきなり脱がされる事だとは、予想も出来なかったけれど。  
 
 
005  
「…おい、翼…何するんだ?右隣には忍野、左隣には戦場ヶ原だぞ?洒落にならなうわぁっ!?」  
「……暦くん、暦くん、暦くんっ」  
あ。駄目だこれ。猫に魅せられたときとは違う――狂った、イッてる眼だ。  
怪異か。そうか怪異なのか。くそう、こんなことならフラグ立てるんじゃなかった!  
「ちょ、やめろ翼!駄目だ、脱がすな脱ぐな挟むなぁぁぁぁああああああっ!?」  
そんなあ!う、嘘だあっ!は…初めてのパイズリが正気を失った羽川とだなんてっ!  
ああ、妹たちの気持ちがわかった気がする…ごめんな、火憐ちゃん、月火ちゃん…。  
やばい、超気持ちいい。くそ、こんな状況でさえなければ!くそう!  
悔しい…だが気持ちいいもんは気持ちいいので僕の息子は既にライフ0である。大ピンチだ。  
 
――と、そこで、救済の音。  
僕らの部屋の戸が、開く音――。  
戦場ヶ原か!これを見られるのはアレだけど、初『パイズリでイカされる』まで奪われるよりましだ!  
 
――と、そこで、絶望の光景。  
「…虫…いえ、阿良々木くん」  
「…阿良々木先輩」  
同じくイッてる眼の、ヴァルハラコンビ――。  
あ、こりゃ駄目だ詰んだわ。さようなら僕の性的身の安全。こんにちは爛れた生活。  
諦めは大切である。  
 
もう諦めたので言っておくと、その後八九寺と千石と火憐ちゃんと月火ちゃんも来た。  
その度に僕は救済された気分と絶望的な気分を味わった。  
総じて僕を性的な玩具にした。地獄だった。  
 
 
戦場ヶ原がひたすら僕にキスをしてくる。こちらの息の都合を考える気など更々なく、  
矢継ぎ早に深々と僕の口内を蹂躙する。  
神原は僕の左手で…千石は僕の右手で耽っている。僕の手は既にとろとろにふやけている。  
勘弁してくれ…なんかもうモロに色々見えてるし。  
僕の息子を責め立てるのは羽川と八九寺。羽川が茎を、八九寺が袋を。  
…あれ、なんか涙出てきた…。  
火憐ちゃんと月火ちゃんは僕の足を舐めている。それこそ以前火憐ちゃんが言ったみたいに  
指を順に全て…すんげえドン引き。涙引っ込んだし。  
 
まあそんな訳で喋れない腕動かない足動かない、な僕は、  
なされるがままのリアル大人の玩具と化しているのであった。  
…うん、普段のギャグパートで使ってる台詞で誤魔化そうとしても、自分の気持ちは偽れないや。  
可憐な少女やら学園随一の才媛やらを回りに侍らせている奴なんかと友達にはなりたくないな。  
今日に限って、それは僕だった。  
…ギャグパートの台詞を繰り返しても、流れは変わってくれなかった。  
引っ込んだ涙が再び出てきた。  
 
 
006  
もう何度白濁液を吐き出しただろう。  
もう何度少女達の愛液を受け止めただろう。  
もう――やめてくれ。止めてくれ。正気に戻ってくれ。  
このままじゃあ、僕は…お前らと、今まで通りの関係ではいられなくなる…。  
とか何とか言ってみたけど、現時点で既に今まで通りとか無理だよ!  
無茶ぶりだよ!僕にそんな甲斐性はない!  
 
「…っ、ぁ…っぐぅ、…ぅうっ」  
くぐもったうめき声が僕の口から洩れる。  
どれだけ時間が経ったのだろうか。  
三十分か?一時間か?二時間は――経ってないよな?  
あれから少女達は位置を変え手段を変え手を変え品を変え、僕を辱め続けた。  
羨ましいとか言い出す奇怪な奴がいたら、ぜひ変わってやりたい。  
いや、気持ちいいよ?いいんだよ?だけどさあ。だけどもさあ!  
 
何度か忍に助けを求めてみたのだが、来てくれる気配はない。  
大方忍もこの感覚に苦しんでいるのだろう。  
だとすると、僕がこいつらを一瞬でも引き離さないと…そうすれば、忍が来て  
怪異を吸い出してくれるはずだ。頼むよ忍。今度十五個位ミスド食わせてやるから。  
よし、そうと決まれば対策を考えよう。  
こいつら全員ずっと耽ってるからもう全身ふらふらだろう。だから、引き離すこと自体は容易なのだが。  
問題は僕の方も何度もイカされて既に動けそうにないことだ。  
…いや、もうこの時点で詰んでるじゃねえか。どうしろってんだ。  
忍ー!忍助けてえー!  
 
と、そんな心の叫びが届いたのかどうだか知らないが、ついに救世主、いや忍が現れた。  
扉を開けて。やっぱりイッてる眼で。  
「……あるじ様、あるじ様……」  
「……………うそぉ」  
僕の人生は、今日で終わりなのかもしれなかった。  
 
結局、少女達が正気を取り戻すのには、事件開始から二時間半を要するのだった。  
 
 
007  
「全員正座ぁ!」  
「………」  
「今回怪異が絡んでた事は分かってるが、それでもお前らどんな痴女だよ!  
もうちょっと自制の欠片くらい見せろ!僕のことがそんなに嫌いか!」  
「………(好きだからするんだってことが何故分からないんだろうかこの鈍感男は)」  
「とにかく!今後一切こういうことのないように!」  
「………」  
 
皆が正気を取り戻し、とりあえず皆精液だったり愛液だったりが  
全身にべっとりだったので風呂に一度入り直し、僕は説教を開始した。  
流石に皆反論はなかったのだが、その後そのまま羽川と二人で寝る勇気は無かったので  
(いや、もう襲われはしないとは分かってるんだけどな?いつもはただただ神々しい羽川が、  
今に限ってはかつての完全体忍よりも恐ろしかった)  
瑞鳥君と蝋燭沢君の部屋に邪魔させてもらうことにした。  
 
言い訳はどうしよう。女子が襲ってくるから?言える訳ないだろうが。  
…一人が怖いから?ださいよ。火憐ちゃんや月火ちゃんの評価まで落とすよ。むしろ落ちろって感じだが。  
女子に追い出された?羽川はそんなことしない。  
…女子がパジャマパーティをするので追い出された?あ、よし、これでいいや。  
僕の卑猥な妄想丸出しだが、まあ僕の受けた屈辱よりましってものだろう。  
そんな訳で、当初の予定とは随分違う経過を経て、  
僕はやっとゆっくりと眠りについたのだった。  
 
翌日。  
本当は昼まで遊んで、丁度夕方直江津に着くくらいの予定だったのだが、  
前日のあれが余りに気まずかったので誰もなにも楽しめず、結局は十時にもならないうちに  
阿良々木ハーレムは帰路につくのだった。  
 
 
008  
帰りのバスでの、雑談。  
「なあ、忍野」  
「んん?なんだい阿良々木くん。あんな事があった翌日だってのにもう元気がいいなあ。  
なんかいい事でもあったのかい?」  
「悪い事しかねえよ。今回絡んできた怪異が結局何だったのか聞きたいんだが」  
「…ま、いっか。今回の阿良々木くんは、珍しく完全に被害者だからねえ。  
…『縁結びの神様』、だよ。有名でしょ?縁結び」  
「縁結びぃ?」  
「縁結び。阿良々木くん、『縁のある女性』が多すぎるからね。神様がちょっと張り切り過ぎたんだよ」  
「ちょっと待て、多いってなんだよ多いって。僕にとって縁があるのは羽川だけだが」  
「君にとってはそうでも、ツンデレちゃんは本来の日常を。迷子ちゃんは家族を。  
百合っ娘ちゃんは腕を。照れ屋ちゃんは全身を、それぞれ君に救われた――と、思っている。  
後聞いた話僕があの街を去った後ジャージちゃんと着物ちゃんも助けたんでしょ?  
縁を感じてても、全然不思議じゃない。それに、『女の子』の方が、『縁結びに頼る』ことは、多いだろ」  
 
そういうものなのだろうか。…まあ、いいか。そういう事にしておこう。  
こうやってなあなあで済ませるから酷い目に遭うんじゃないか、とか  
そうやって気にしないからまたその内似た様な目に遭うぞ、とか  
そんな心の声は気にしない。僕は経験から学ばないのだ。  
 
「まああの子たちが溺れた怪異はそんなところだけれど…そういえば阿良々木くん。  
忍ちゃんに最後に血をあげたの、いつ?」  
「ああ?…確か、三日前だな」  
「ああ。それも原因の一つだね。知ってるかい阿良々木くん?まあ知らないだろうねえ――  
吸血鬼の特性のこと。『誘惑』ってんだけど」  
「特性?能力じゃなくてか?」  
「うん。特性。だから本人の意思とは何の関係もなく――吸血鬼である、というだけで発動する力さ。  
『誘惑』はね、『魅了』の劣化版みたいなものなんだ。なんだか気になる、とか見過ごせない、とか。  
そんな『自意識に影響を与えない程度に』、対象に自分を根付かせる。  
君がかつて忍ちゃんを見捨てられなかったのも、委員長ちゃんが君を見過ごせなかったのも、  
もちろん今回の事にしたって、『誘惑』の影響は少なからずあったと思うよ」  
「……わりとどうでもいい」  
特性だろうが能力だろうが、結局はそれが僕のパーソナリティだ。  
今回の件は、ただタイミング悪く、僕たち全員がちょっとした荒波に呑まれた程度の事だ。  
所詮ちょっとした荒波でしかなかったんだから、僕たち全員、こうして溺死はせずに済んだのだから、  
原因が何だろうが理由が何だろうが、この際いいや。  
 
 
009  
後日談。というか、今回のオチ。  
後日どころか当日中だしな。  
バスが、直江津に着いた。  
皆が順々にバスを降りていく中での会話を抜き出してみた。  
 
「阿良々木先輩――今回のことは、本当に済まなかった。この神原、一生の不覚だ」  
「…いや、お前らしかったっちゃあお前らしかったし、まあ僕にも原因はあったらしいから、いいよ」  
「いや、だが…それでもただで許してもらうのでは、私の気が済まない。  
ついては、私の体を――」  
「黙れ。そして帰れ」  
にたにたと気味の悪い笑みを湛えた目でにじり寄ってくるのでつい顔面を殴ってしまった。  
自分のことを尊敬する後輩の顔面を思い切りぐーで殴ることが許される場面は、確かに存在するのだ。  
 
「…あ、あの…暦お兄ちゃん、…その、ごめんなさい。撫子は、その、……ごめんなさいっ」  
「えっと、あ、千石ー?」  
こちらが何も言えない内に、千石は半端ないスピードで走り去ってしまった。  
しばらくあのカチューシャ姿は拝めそうにない感じだ。  
 
「それでは、にゃにゃにゃ木さん。また今度会えると確信しております」  
「僕の名前を猫の鳴き声のように言うんじゃない、僕の名前は阿良々木だ」  
「失礼、噛みました」  
以下略。八九寺はいつも通りだった。  
照れ隠しなのだと好意的に解釈しておいた。  
 
「……ごめんなさい……?ありがとう……?…………」  
「……」  
「……ごちそうさまでした」  
「最終的にそう落ち着くんだ!?」  
らしいといえばこれ以上なくらしい……のか?  
 
と、まあ、こんな感じ。ちなみに妹達とは互いに気まず過ぎてまだ口を聞いていない。  
で。本命の羽川とは、こんな感じだった。  
 
「…ごめんなさい、暦くん。私、酷いことしたよね」  
「…まあしなかったとは言わないが」  
「だから、そうだなー。よし、一つサービス。何でも言うこと一つ聞いてあげる」  
「いやいや…いいって。そこまで気にしなくても」  
「気にする。暦くんが優しいのは分かってるし、今そう言ってくれてるのも本心だって分かるけど、  
それでもそれじゃあ私の気が済まないから」  
「だからさあ。お前の気が済まないて言ってもさあ…僕的には、今の関係が好きだから。  
特別何かして欲しいってのは無いんだよ」  
「…それでも、私は不安なの。今のままじゃ、私はこの先ずっと本当は暦くんに嫌われてるんじゃないかって  
思ってしまうから。お願い、暦くんのために何かさせて。何かない?  
『東大に合格させてほしい』でも『エッチなサービスをしてほしい』でも『一週間猫語で喋ってほしい』でも、  
私に出来る事なら、なんでもするから」  
「……」  
猫語に真剣に釣られかけた自分が心底嫌になった。  
「……じゃ、今度するとき、フェラして」  
猫語の妥協案として自分の恋人にフェラチオを強制する鬼畜の姿がそこにあった。  
あろうことか、僕である。信じ難いことだ。  
「…うん、わかった。じゃあ、またね」  
ちゅ。  
そうして互いに触れるだけの優しいキスをして、別れる。  
そんな今の暖かい関係が、僕は本当に好きだから。  
さっきは場を逃れるためにああ言ったが、本当にさせる度胸なんかない(ていうか、そんな度胸は要らない)し、  
また明日からは、いつも通りに勉強を教えてもらおう。  
 
こうして、奇妙奇天烈で頓珍漢な形ではあったけれど、僕たちの絆はまた深まったのだった。  
 

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