―羽川のおっぱい……柔らかくて良い匂いだったなぁ……。  
 
帰り道、ふぅ…と溜め息混じりに羽川の感触を思い出そうとする。  
今の僕は間違いなく今までの人生でベスト3、いやワースト3に入る間抜けな顔をしているだろう。  
優等生で眼鏡の委員長との情事の余韻に浸り、惚けた顔で夜道を歩く男子高校生がそこにはいた  
 
というか、僕だった。  
 
途中で八九寺を見かけた気がするがきっと気のせいだろう。  
気のせいではなかったとしても今の僕にはEカップ以下の女の子なんぞ眼中にないのだ。いわゆるアウトオブ眼中。  
僕は思う、「おっぱいは正義!」なんてセリフは間違っている。  
おっぱいが正義なのだ。  
 
そんな馬鹿な事を考えてるうちに我が家が見えてきた。  
 
……ふと、立ち止まる。  
見慣れた、いつもと同じ風景のはずなのに酷く違和感を感じる。  
いや、いつもと違う所があった。  
具体的に言うと玄関の前、  
もっとに具体的には、そこで仁王立ちしている『何か』。  
 
――死。  
 
たった一文字の言葉が脳裏をよぎる前に僕は脱兎の如く駆け出していた。  
生物の、生物たる本能。生に対する執着。  
それが僕を突き動かしていた。  
同時に玄関にいた影も滑るように動き出す。  
 
―なめらかに。  
―そして速い。  
文字通り「あっ、」という間もなく距離を詰められる。  
息が切れる。  
動悸がひどい。  
思わず走馬灯がよぎる。  
 
 羽川の顔  
 羽川の声  
 羽川の柔らかいおっぱい  
 羽川の安産型のおしり  
 羽川のちょっと濃いめの陰毛  
 
――おかしい、羽川の事しか出てこない……。  
そんな馬鹿な事を考えてる内に、いや、そんな馬鹿な事を考えていたからか、  
影はすぐそこまで、息遣いがはっきりと聞こえる程距離を詰めていた。  
刹那、影が  
 
―飛んだ。  
 
そして、僕を  
 
―捕らえた。  
 
「兄ちゃん!」  
 
聞き慣れた声。聞きたくない声。  
僕のでっかい方の妹。  
今現在顔を合わせたくない人物No.1に見事輝いた人物。  
表彰してやるからどこかに行ってくれ。  
そんな僕の切なる念が脳筋馬鹿の火憐ちゃんに通じるはずもない。  
容赦ない追求が始まる。いや、尋問と言った方がいいかもしれない。  
「何で逃げたんだ兄ちゃん。」  
火憐ちゃん、その顔怖いから。  
「火憐ちゃんが追いかけてきたからだrぎゃああ」  
腕を捻り上げられた。おもいっきり。  
 
訂正します。拷問です。  
 
「嘘つけ!兄ちゃんが先に走ったんだろ!」  
そう、その通りだから。話せばわかる。  
とりあえず腕を放そう、な?  
 
僕の肩が脱臼する事だけは免れたものの、火憐ちゃんは相変わらず自由にはさせてくれない。  
僕の生殺与奪は完全に火憐ちゃんが握っている。  
というか火憐ちゃんに背後から抱きしめられている。  
―ああ、こんな時羽川なら背中におっぱいの柔らかさが感じられるのにな…  
なんて貧乳に大変失礼な事を考えた瞬間、火憐ちゃんが僕をさらに強く抱きしめた。  
必然的に、僕は本日何度目かの死の危険を感じ取った。  
 
「兄ちゃんの馬鹿…。どこ行ってたんだよ………帰りが遅くなるなら、連絡ぐらいしろよ……。」  
 
 
――心配しただろ。  
僕の耳元でそう囁いた火憐ちゃんの声は、とても小さかったがとても優しかった。  
家族の優しさに包まれたようで、とても安心した。が、同時に罪悪感が沸いた。  
兄の帰りを心配してた妹。その兄が一目妹を見るなり脱兎の如く逃げ出せばそりゃ怒るわな。  
 
――謝ろう  
火憐ちゃんは僕の後頭部あたりに顔を押し付けて黙っている。  
今しかないな。  
「火憐ちゃん。ごm「兄ちゃん……。」  
僕の謝罪は火憐ちゃんの静かな声に遮られた。  
火憐ちゃんは僕を解放?し僕に向き直る。  
 
嫌な予感がする。  
むしろ嫌な予感しかしない。  
 
「兄ちゃん…。」  
「なんだ?やっぱり汗臭いか?」  
焦りを火憐ちゃんに悟られないように、出きるだけ平静を装っておく。  
 
「女の人の匂いがする…。」  
 
………………。  
 
まずい。  
 
「女の人、  
 
 ……羽川さんの匂いがする。」  
 
非常にまずい。  
 
「…羽川さんと一緒だったの?」  
僕は無い脳味噌をフル稼働させて言い訳を考えてる。  
大丈夫。火憐ちゃんは僕以上に脳味噌がない。落ち着け暦。  
「あ、ああ。テストも近いしつば…羽川と一緒に勉強してたんだ。火憐ちゃんも羽川の頭の良さは知ってるだろ?自慢じゃないけd」(ベロン  
え……?  
うわっあああ信じらんねえこいつ僕の頬舐めやがったよ!  
「兄ちゃん……この味は嘘をついてる味だよ……。」  
「お前はどこのブチャラティだよ!」  
使えるのか?スダンド使えるのか?兄ちゃんにも出し方教えてくれよ!  
 
「……兄ちゃん、怒らないから言って。  
 …羽川さんと何してたの?」  
 
 
……………。  
言えない。  
 
言える訳ない。  
 
羽川とあんな事やこんな事したなんて。  
ましてや途中で現れたブラック羽川とも勢いであんな事やこんな事して  
「にっ人間の交尾は激しいニャーーーーッ!!!」  
だの  
「そっそこはチガウ穴ニャ〜〜〜〜〜!!!」  
とかしちゃったりとか口が裂けても言えない。  
………うわぁ、マジで言えねぇ…。  
 
「黙ってるって事はやっぱりやましい事があるんだな、兄ちゃん。」  
………。  
「浮気か。」  
………は?  
「浮気か、兄ちゃん。」  
………浮気?いやいやいや  
「いや、そもそも別に火憐ちゃんとは何でもないだろ!なんで浮気になるんだよ!」  
なんで彼女とエッチしたら浮気になるんだよ!お兄さん分かりません!  
「あぁ?何でもないだって?」  
 
あ、ヤバい。キレた。  
 
これ一年にあるかないかのマジギレだよ。  
目が本気だ。  
『キレてますか?』  
なんて聞いたら一瞬でマウントとられて原型がなくなるまで殴られそうだ。  
火憐ちゃんはプルプル震えてる。我慢してるんだな。  
と、火憐ちゃんが重い口を開いた。  
「……兄ちゃんは………あたしの、ファーストキスも、ファーストタッチも奪って………  
 それで、あたしのヴァージンも奪って………  
 ………お尻の、初めてもあげたのに………痛かったのに………  
 …………全部、兄ちゃんに…あげたのに………。」  
 
「………それなのに……何もないだなんて……。」  
 
 
――酷すぎるよ……兄ちゃん…。  
 
火憐ちゃんは泣いていた。  
 
気がつくと僕は火憐ちゃんを抱きしめていた。  
火憐ちゃんに抱きしめられた以上に強く抱き優しく頭を撫でてやる。  
―そう言えば。こんな風に頭撫でてやるのも久しぶりだなぁ。  
しばらく火憐ちゃんの頭を撫でていると、うなだれてたアホ毛が嬉しそうにヒョコヒョコと動き出した。  
よし、機嫌直った。  
分かりやすい奴だ。いや、僕も人のこと言えないか。  
 
火憐ちゃんが顔を上げる。  
目と目が合い、当然のようにキスをする。  
優しく、触れ合うだけ。  
それだけなのに心が満たされる。  
火憐ちゃんはうっとりした顔で僕の顔に鼻を擦り付けてくる。  
まるで子猫が親猫に甘えてくるようだ。かわいい。  
もう一度言おう、かわいい。  
僕は真理にたどり着いた。  
火憐ちゃんが正義だという真理に。  
おっぱいが正義なんてまやかしだったんだ。  
火憐ちゃんのちっちゃいながらもツンと上を向いた生意気おっぱいが正義!  
僕はもう迷わない!  
 
そんな世紀の大発見をよそに火憐ちゃんの方から僕にキスをしてきた。  
僕がいつも火憐ちゃんにしているように、火憐ちゃんが僕にキスの雨を降らせる。  
相変わらず器用な奴だ。馬鹿なのに。  
僕の顔に一通りキスした火憐ちゃんは今度は僕の耳たぶを甘噛みした。  
 
―んぅ。  
思わず声が出てしまう。恥ずかしい。  
 
「兄ちゃん。」  
 
やめなさい。耳元で喋るのはやめなさい。今敏感だから。  
 
「兄ちゃん。」  
 
半ば諦めて火憐ちゃんの方をを見る。  
すっげぇ男前な火憐ちゃんがいた。  
ヤバい。ドキドキする。  
その男前な火憐ちゃんに目を見つめられる。  
正直ヤバい。  
 
「兄ちゃん  
 ……好きだぞ///」ちゅっ  
 
はい墜ちたー。墜ちましたー。  
かわいすぎです。反則です。お兄さん認めません。  
この技で墜ちない女はいないと思ってたら自分が墜とされました。  
 
 
「兄ちゃんは誰の物か、その体にしっかり教えてやるからな!」  
 
言うが速いか火憐ちゃんはすでにメロメロのグニャグニャに骨抜きされた僕を抱き上げた。  
いわゆるお姫様だっこで。  
 
僕の脳内ではドナドナが流れていた。  
 
 
つづくかも  
 

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