「さて、清掃任務を開始するか」  
 その時だった。  
 ヴーンッという振動音と共に、どこからか鳴り響く帝国のテーマ。ダースベーダーが登場  
する時に鳴るあれである。  
「ん? おい、神原。お前の携帯じゃないのか?」  
「どうやら、そのようだ。これは戦場ヶ原先輩からの着信メロディだな」  
「お前、いつのまに着メロなんて使えるようになったんだよ。て言うか、この音、やけにくぐ  
もってるけど、どこから鳴ってるんだ? もしかしてこのゴミ山の中に埋もれてるんじゃない  
だろうな?」  
「うむ。これは、私が毎回毎回名乗ることに呆れた戦場ヶ原先輩が、設定してくれたもの  
なのだ」  
「いや、その話は後でいいから、とりあえず電話に出ろよ。今日、僕がお前の部屋に来て  
ることはあいつも知ってるんだから、その電話が切れる前に出ないと、僕もお前も明日の  
太陽を拝めるかわかんねえぞ」  
「ああ、私も電話に出たいのは山々なのだが、阿良々木先輩がこちらを向いていてはそう  
するわけにもいかない」  
「? どういうことだよ」  
「阿良々木先輩ともあろう人が察しが悪いな。では、私が後ろを向こう」  
 そう言うと、神原は僕に背中を向け、穿いていたスパッツを太腿までずり下ろした。  
 その下から現れたのは芸術的なラインを描く引き締まった尻。こいつ、やっぱりスパッツ  
の下はなにも穿いてないのか。てか、割れ目の下の見えちゃいけないとこまで、ほとんど  
見えそうになってるじゃねえかよ! *ってなんて呼ぶんだっけ? アスタリスク?  
 神原はそんなことは気にせずに、おもむろに股間をまさぐると携帯電話を取り出した。  
それはなにかわからない――いや、わかりたくない液でぐっちょりと濡れていた。  
「か、神原さん? 今、携帯をどこから取り出したんでしょうか? いや、待て。言わなくて  
いい。でも、かわりに一つ聞きたいんだけど、いつもそこにしまってる……のか?」  
「? うん。もちろんだ。私の携帯電話は防水だから、問題は無い」  
「問題はそこじゃねえ!」  
「そうだったな。問題なのは、電話がかかってくるたびに、この振動が気持ちよくて電話に  
出るのが勿体ないと思ってしまうことだったか」  
「そこでもねえよっ!」  
 気が付けば携帯の着信音は鳴り止んでいた。そして、次に、僕の携帯電話から着信音が  
鳴り響く。その音は、聞いた者に死を告げるバンシーの泣き声のように、不吉な響きを伴い、  
いつまでも鳴り止むことはなかったのであった。  
 
 
了  
 
 
 
 
 「あれ? でもこれ、戦場ヶ原からじゃない――羽川……?」  
 これはどんな状況であろうとも、取らざるを得ない。ピッ、っと。  
 「もしもし。ああ、今は大丈夫……とは言い難い状況だけど、まあ、大丈夫……えっ!?  
……ああ、そ、そうなんだ。うん……うん。あ、ああ。うん、じゃあまた」  
 「羽川先輩からだったのか?」  
 「ああ。てっきり、戦場ヶ原が僕の携帯にかけなおしてきたんだと思ったんだけど」  
 「私もそう予想していた。で、羽川先輩はなんと? ああ、これは私が聞いていいことで  
はなかったか」  
 「いや、別に構わないんだけどよ。……なんでも、帝国のテーマじゃなくって、正しくは  
帝国のマーチ。それとダースベーダーじゃなく、ダースベイダーなんだとさ。どこかに保  
管される時に恥ずかしいだろうから、ってなんのことだ?」  
 「それだけ?」  
 「あと、神原、お前の――っておい神原! その格好のままこっちを向くんじゃない!!」  
 「ひぁんっ!」  
 また、その時だった。  
 再び、ヴーンッという振動音と共に、帝国の "マーチ" が神原の股間から鳴り響く。  
 今度は神原がこっちを向いていたため、その股間から小さなバスケットボールのストラ  
ップが飛び出ているのがはっきりと確認できた。  
 それを引っ張って携帯電話を取り出す神原から、とっさに目を背ける。にゅるんと携帯  
電話が出てくる時に、なんだかピンク色の貝のようなものが見えたような気がしたが――  
いや、僕はなにも見ていない。断じてなにも見ていないが、しばらく貝類は口にしないで  
おこうと心に決めた。……特に赤貝は。  
 「か、神原駿河だ! 機動力は通常のザクの三倍――ああ、構わない。お願いする。……  
これは、戦場ヶ原先輩。……うん。言われたとおりに……ああ、それなら、阿良々木先輩  
に替わろう。阿良々木先輩、戦場ヶ原先輩からだ」  
 そう言って、神原は愛……いや、体液まみれの携帯電話をこちらに差し出す。  
 「そんなもんに触れるか! そのまま話すから、スピーカーホンにしろ」  
 「やりかたがわからない」  
 「あ……。ごめん、僕が悪かった。こっちからかけ直すから、とりあえずその電話を切れ」  
 「? よくわからないが、阿良々木先輩がその方がいいと言うのなら、そうしよう。あ、  
戦場ヶ原先輩。阿良々木先輩が――ああ、聞こえていたか。では、そういうことなので」  
 神原が通話を終了したのを確認して、僕は自分の携帯電話から戦場ヶ原に電話をかける。  
 
 ……出ない。  
 そのまま、たっぷり十分ほど待たされたところで、ようやく電話が繋がった。  
 「なにかしら? 今、忙しいから、また後でかけなおしてくれる?」  
 「そもそも、そっちからかけてきたんだろ。で、どうしたんだよ」  
 「ふむ。阿良々木くんは私に通話料がかからないように、わざわざ私から神原にかけた電  
話を切って、かけなおしてきたのかしら。でも、心配しなくていいのよ。私、神原にはコレク  
トコールでしか電話しないから」  
 「……そうか、それは安心したよ。で、なんなんだ?」  
「別に用はないわ。ただ、神原の部屋を掃除してあげるお優しい阿良々木くんに、少しばか  
りの潤いを与えてあげようと思っただけ」  
 「てことは、今回のことはお前の仕組んだことか! お前、後輩になんてことさせんだよ!」  
 「五月蠅いわね。この蠅。それに、これは神原も望んだことよ。ああ、心配しなくていいわ。  
神原の膜は、もう私が姦通済みだから」  
 「よけいに悪いわ!」  
 「ああ、それから、また神原の携帯が鳴ると思うけど、今度は取る必要は無いって言って  
あるから気にしないで。じゃ、神原の部屋の片付け、頑張ってね。早く済ませないと、廊下  
が神原汁で水浸しになるから、せいぜい急ぎなさい」  
 あいつ、言いたいことだけ言って切りやがった。  
 またまた、その時だった。  
 神原の股間からモーターの振動音と、もう聞き飽きた帝国のマーチが聞こえてくる。  
 
 掃除、始めるか。あとで廊下も拭かないとな。  
 廊下で身悶えする神原の方を見ないようにしつつ、僕は部屋の片付けに取りかかる。  
 神原のおばあちゃん、うっかり通りかからなければいいんだけどな。それだけが、今、  
僕が願うべき唯一のことだった。  
 
 
了  
 

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