こよみトーチャー  
 
なんというかやってしまった。  
その、ちょっとばかり魔が差したというか  
熱い夏が僕を狂わせてしまったというか。  
 
目の前にはすんすん泣いている見知った小学生と、その背中を慰めるよう撫でている金髪幼女。  
しかも半裸で、所々に白く濁った液体が付着していて起こった行為の激しさを表していた。  
凄い興奮して気持ちよかったしなー  
いつもの忍とはまた違う新鮮な抱き心地とか嫌がり具合でついつい盛り上がって  
忍も呼びだして二人で責めまくってしまったのだ。  
「すまん……八九寺、お前が魅力的すぎるから……」  
暑いですねぇなんて胸元のボタンを外してパタパタしてるもんだから  
誘惑されてるのかなって先走った感もある。  
「うっうっ……」  
泣きながらも恨めしげに僕を見る八九寺にちょっとだけ興奮するが抑える。  
「その、なんだ、色々あったけれどまた遊ぼうな」  
何を言っているんだコイツという忍の眼差しがちょっとだけ痛い。  
一応泣きじゃくる八九寺の身体を拭いてあげてから僕は帰宅するのだった。  
 
それから数日後の放課後の事だ。  
「もう阿良々木くんと付き合うようになってだいぶ経つけれどそろそろいいと思うの。  
 阿良々木くんもそのつもりでいてよね」  
僕に背中を向け顔を見せずに話す戦場ヶ原。  
「戦場ヶ原。それって」  
「あまり女のほうから言わせないで欲しいわ」  
僕は戦場ヶ原を後ろから抱きしめた。  
「凄く、凄く嬉しいよ戦場ヶ原」  
紅潮した頬へキスをする。しばしの間があって  
「―――ここではダメよ。阿良々木くん」  
スルリと僕の腕から抜け出して戦場ヶ原が遠ざかる。  
「だから日曜日にね…………」  
・  
・  
・  
・  
・  
今日のデートはとても上手くいったと思う。  
食事も終え深夜になり後はラブホテルへ直行という時だった。  
戦場ヶ原はお手洗いに消えしばらく時間経っての時  
僕の記憶は突然途切れてしまった……   
 
目が覚めると戦場ヶ原が僕を見下ろしている。  
月光を反射した黒髪が黒曜石のように輝いていて神秘的な佇まいだ。  
「―――綺麗だ――戦場ヶ原」  
無意識に呟いてから、手を戦場ヶ原へ伸ばそうとするとギュッと絞まった。  
「――え?」  
見ると鉄骨を切って溶接したかのような大きく頑丈な椅子に体と脚を縛られており  
複雑な結び方をしているワイヤーに手と首が繋がれて拘束されている。  
しかも椅子自体が鉄の床に螺子止められておりピクリとも動かない。  
まわりを見渡すと工場を思わせる機械が幾つも鎮座しており  
わずかな電灯と月光が薄暗く僕と戦場ヶ原を照らしている。  
なんかデジャブ?  
「またかよ!戦場ヶ原!何故僕がこんな目に!?」  
前にも同じような事があったが今回はNGワードらしい言葉は言っていないし  
そもそも今日はデート中だ。監禁拘束される言われはない。  
「私は今とても悲しんで怒っているわ。阿良々木くん。  
 やってはいけない事をしたあなたが悲しく、そうせざるを得ないほど  
 追い詰めてしまった私自身が許せない」  
あまり表情を変えないが僅かに無念を感じさせる戦場ヶ原。  
「何のことだかわからない。―――戦場ヶ原、僕が一体何をしたと言うんだ」  
「こういう事です。阿良々木さん」  
機械の影から八九寺が現れた。  
 
「馬鹿な!八九寺だと!」  
目を冷たく輝かせ酷薄に八九寺は笑う。  
「戦場ヶ原さんへ告げ口をさせていただきました」  
「そんな!戦場ヶ原はお前を見る事も話す事も触る事もできないはず!」  
「それは阿良々木さんのおかげで解決しました。  
 今日は家に帰りたくないの……戦場ヶ原さんがそう思った。  
 それは阿良々木さんと一夜を共にしたい時でした」  
「そんなんありか!お前のキャラ設定はそんな曖昧なもんなのか!」  
「メタ発言は私の分野なので阿良々木さんは遠慮してくださいっ。  
 迷い設定はフレキシブルかつ適当なんです」  
 
バチッ!!!!!!!  
 
と、突然轟音が響く。無表情のくせ不機嫌そうな戦場ヶ原は轟音を出した何かを降ろしながら言う。  
「お話は終わりかしら。……あなた達はとても仲がよくて大変羨ましいわ」  
「そんなわけあるか!」 「そんな事ありません!」  
歯を剥き出しにして威嚇しあう僕と八九寺。  
それを見て戦場ヶ原はほんの少し眉をピクピクさせて話しだす。  
「話しは聞いたわ。発情した牡犬の阿良々木くんが八九寺ちゃんを襲って  
 幼い身体を貪ったということね。弁解はあるかしら?阿良々木くん」  
僕は口を開こうとするが  
「無いわね。はい、では裁判を始めます。  
 被告人・阿良々木くん 被害者・八九寺ちゃん  
 裁判長・私 検事・私 弁護士・私   
 裁判員・私 傍聴人・私 死刑執行者・私」  
僕の味方が誰一人いない!  
「なんで死刑執行者までいるんだよ!裁判は裁判でも魔女狩り裁判か!」  
八九寺が嬉しそうに口をだす。  
「イメージとしては漫画版デビルマンで悪魔狩りしてるようなのがいいですよねえ」  
「それ裁判すらやってないから!」  
「ポロリもあります!阿良々木裁判!」  
「そのポロリって僕の首だよな……」  
 
僕は四肢分解された上首を切られて槍で晒し者にされたくはないぞ。斬った先からくっつくかもしれないけど。  
「さて被告人・阿良々木くん 言い分はあるかしら?なければこのまま死刑執行と洒落込むとするわ」  
「人命が失われるのをお洒落みたいに言うな!」  
「いいじゃない。阿良々木くんなら殺して解して並べて揃えて晒されても水に浸ければ戻るでしょう?」  
「戦場ヶ原にとって僕は乾燥ワカメなのか!?」  
確かに殺して解して並べて揃えても水に晒されれば乾燥ワカメは増えて戻るけどさ。  
「阿良々木さんの大事な所は乾燥したシイタケみたいでした」  
「そんなわけあるか!僕のはマツタケぐらいある!」  
大体先走り液と精液と八九寺の蜜で濡れ濡れだったし。  
「適当に高級な物と比べるあたり、思った以上に貧困なモノなのね」  
 
戦場ヶ原はふうと溜め息をついてこちらを見下ろす。  
「真面目な話、どうしてそんな事を?――――性欲が抑えられないと言うなら  
 まず彼女である私に相談するのが筋というものでしょう?」  
僕は目を伏せ答える。  
「…………怖かったんだ。戦場ヶ原に拒絶されるかもしれないことが」  
「私の気持ちはおかまいなしですか!」  
ツインテイルをいからせて(?)八九寺が怒声をあげる。これ外れたり飛んだりでもできるのか?  
「うーん なんかお前だと受け入れてくれそうな気がして」  
途中からはわりと受け入れてくれたかも。何よりも国家権力に捕まらないしな。  
「私は受け入れないと思ったと。阿良々木くんは私より八九寺ちゃんを信頼しているのね」  
「いや言葉の綾ってやつ。もちろんガハラさんを一番信頼してる」  
僕だけの愛称を使って親近感のアピールも忘れない。  
「謝ってください。そうしたら許してあげます」  
「……すまん。八九寺、僕が悪かった」  
身体を縛られているためできないが、見かけだけは土下座するような気持ちで謝る。  
「阿良々木くん。今回は年中発情期の貴方を見過ごした私にも責任があるわ。  
 だから今回だけは許してあげる。八九寺ちゃんもいいわね。約束通り阿良々木くんは謝った。  
 なんなら憂さ晴らしにちょっとだけ阿良々木くんに使ってみる?」  
先ほどの轟音を響かせた道具を八九寺に差し出す。  
俯いたまま顔を拭うと八九寺は顔を上げて答える。   
「いいえ。阿良々木さんはちゃんと謝ってくれました。私は許します」  
                                ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  
……?なにか違和感のある答えだった。  
八九寺は許してくれる。そして戦場ヶ原も許してくれる。危機は脱したはずだ。  
「そう。よかったわ。幾ら阿良々木くんが溜まってるとは言っても小学生に手を出すなんてね。  
 体だけの事とはいえ二度は許さないわ。次があったら裁判無しで私の持てる全てを賭けて教育してあげる。  
 もちろん死刑なんてしない。一生一緒にずっと暮らして管理してあげるんだからね」  
別の意味で怖いが内心胸を撫で下ろす。が、しかし  
「違うんです」  
ボソリと八九寺が呟く。  
「違うんです。阿良々木さんは」  
比喩抜きで瞳が光の反射をなくし曇ったガラス玉のように無機質な色合いへと変わる。  
「性欲が抑えきれないというのは本当だと思います。けれど  
 いえ、だから小学生に手を出したというのは違うんです」  
「八九寺!なにを……」  
「黙って!どういう事かしら」  
戦場ヶ原は僕の口を塞ぎしゃべれなくする。  
「阿良々木さんは私を見かけるといつも抱きついたり胸を触ったりスカートを覗き込んだりしてきます。  
 私が嫌がっているのにいつもいつもいつもいつもいつもそれこそ毎日のようにいやらしく私に触れてきます」  
ち、ちょっと待て、スキンシップだから!しかもしないと怒った事もあったのに!  
だが口を塞がれているため喋れない。  
 
「あの日私がお話しをしていると突然阿良々木さんに連れ去られ縛られて地面に押し倒されました。  
 阿良々木さんは楽しそうに私の身体を弄って汚していきました。  
 困って助けてほしい時―――そんな時助けてくれると約束した阿良々木さんが―――」  
この子何言ってるの!さっきまで元気だったのに唐突すぎる!暴れると口から手が外れた。  
「違う。違うんだ。戦場ヶ原!八九寺の言ってる事はデタラメだ!八九寺が僕をハメたんだ!」  
ここが正念場だ!生き延びるためには手段を選ばない!  
「先にハメたのは阿良々木さんじゃないですか。すごく痛かったんですよ」  
ケロリとした顔で反論してくる八九寺。やっぱり演技か!  
「男の人は痛くないからいいですよね。―――そういえば童貞野郎の阿良々木さんの初めては  
 私と言う事でよろしいんでしょうか?」   
「ちげーよ!初めてでレイプなんてするか!」  
即反論するが、傍らから立ち昇る鬼気に背筋が震える。  
「じゃあ阿良々木くんの初めては、一 体 だ れ な の か し ら?」  
「あわわわわわ…………」  
失言だったー!  
「阿良々木さんは私よりも小さな忍さんをかしづかせ二人で私を汚しました……」  
ここぞとばかりによよよと泣き崩れる八九寺  
「横暴に振舞う阿良々木さんの前で忍さんはまさに性奴隷。  
 きっと私だけではなく数々の少女の処女を奪ってきた  
 ナチュラルボーンシリアルロリータハンターとは阿良々木さんその人にほかなりません!!!」  
「長い!どんな肩書きだよ!それにそんな事やってない!」  
「妹さんまで毒牙にかけていると知った時、私は信じる事ができませんでした……」  
ニュースでまさかあの人が……みたいに語る八九寺。  
「妹とキスとか胸触るぐらいならノーカンに決まってるだろ!」  
「ないわ」 「ないですね」  
あ、息ぴったりですね。ないですか。そうですか。  
 
戦場ヶ原は俯いて、はぁーーーーととても長い長いため息をついた。  
「また私騙される事だったわ。ごめんなさい。八九寺ちゃん。そうね。私では最初から無理だったということね。  
 童貞だから私に遠慮していたのではなくて未成熟な体への魅力を裏切れないから  
 代わりに私を裏切るほうを選んだのでしょう?」  
「ま、待った!戦場ヶ原!愛しているのはお前だけだ!」  
これは本当の事だ。阿良々木暦は戦場ヶ原ひだきを愛している。  
―――それだけは変わらない事実!!!!! ただし事実が一つだけとも限らない。  
戦場ヶ原は売られていく養豚場のブタを見るかのような目で僕を見下した。冷たく残酷な目だ……  
「信用できないわ。すでに阿良々木くんは二度裏切った。一度目は体を。二度目は心を」  
八九寺を横目で見る。息をついてもう一言  
「本当に私を愛しているのなら何故性欲を我慢できず八九寺ちゃんを?」  
―――――――僕は言い訳もとい説得の言葉を放つ。  
 
「急に八九寺がきたので―――」  
「殺すわ」  
 
間違えたー!  
 
戦場ヶ原は謎の道具をこちらへ向ける。  
スチールとプラスチックで構成されており、道具本体に持ち手とトリガーのようなものがついている。  
 
バチッ!!!  
 
轟音が響き、何かが射出され僕の頬を掠める。  
わずかに血が流れるが、常人とは違う僕の眼が射出されたものを捉えた。  
それは小さなコの字型をした金属のようなものだ。  
「……ホッチキス?」  
一瞬だがそうとしか思えない。だが戦場ヶ原が持つ道具はホッチキスにしては  
大きく飛ばした針も2倍ほど大きい。  
戦場ヶ原はそのまま僕の右手の甲にそれを押し当ててトリガーを引く。  
 
バチッ!!!  
 
「……っ!」  
手の甲に金属の針が差し込まれ青い静脈をまたぐように縫い付けられる。  
痛みが脳にまで走り衝撃でのけぞる。  
小学生ぐらいの頃指にホッチキスを押して針が刺さった事はあるけれど  
それと違って、針の根元が見えないほど甲に深く食い込んでいる。  
「これはガンタッカーといって板や壁にラベルと布を貼り付けたりするものなの。キャンバスを貼ったりする時も使うわ。  
 ホッチキスよりずっとバネが強くて文具というよりは、工具であって本当は私の趣味ではないのだけれどね」  
戦場ヶ原は自分の手よりも大きいガンタッカーとやらを持ち上げ撫でる。  
「阿良々木くんと付き合うと決まった時、ついつい舞い上がってしまって  
 私の貞操は阿良々木くんに捧げたいからそれまで誰かに奪われたりしちゃいけない……  
 そう思ってもっともっと強力な自衛のための武器を用意したの。  
 ―――それなのに阿良々木くんのほうが貞操を奪われていたとは笑い話ね」  
口元に手をあてくっくっくと笑っているようで目は笑っていない。  
今度は動かせない左手を取って指を握ると根元辺りにガンタッカーを押し付け  
 
バチッ!!!  
 
「……っ」  
中指と人差し指が針で繋がってしまう。  
骨に引っかかったのかずれて指と指の間の肉と皮を括り付け串刺しにしている。  
「あらやだ、本当に痛そうなのね。」  
まるで小指をタンスにでもぶつけた人を見たかのよう心配する戦場ヶ原。  
「……うん。ごめん。戦場ヶ原。すっげぇ痛い……」  
数センチに満たない針が刺さっているだけで何よりも痛い。  
今までもっと苦痛を感じるような事があったけれど今日はそれ以上に痛かった。  
「ひぃぃぃ……」  
八九寺は顔を蒼白にして慌てている。  
戦場ヶ原は冗談じゃ済まさないのを理解してなかったらしい。やる時はやる性格なんだ。  
まあ僕もヤル時はヤっちゃう性格だけど。  
「戦場ヶ原さん少しだけ、やりすぎじゃないでしょうか?」  
伺うよう問いかける八九寺。  
「もう八九寺さんのような悲しい事は起こさせないから安心して」  
明らかに八九寺の言いたい事が聞こえていない伝わっていない戦場ヶ原。  
「……そうね。次は阿良々木くんの悪い事をする粗末なモノを教育してあげたいわ」  
「それだけは勘弁してください」  
身体を縛られているためできないが、土下座するような気持ちで謝る。  
 
「冗談よ。愛している人の子供が産めなくなったら嫌じゃない」  
しなを作りやーねとぶりっこする戦場ヶ原。状況が状況だけにシュールを通り越してホラーだよなーこれ。  
「―――だからロボトミー手術をしようと思うわ」  
「ホラーどころじゃねぇ!」  
慌てて暴れだす。  
「大丈夫。道具はないんだけれど熟練してるならアイスピック一つでできる。  
 今回はコンパスの針でやってみようかしら。」  
「経験あるみたいに言うな!」  
「これで阿良々木くんが廃人になっても私がずっとずっと一緒にいてあげる。  
 例え阿良々木くんがそのせいで私を殺したくなっても喜んで殺されてあげるわ」  
「うわーーーーーーーーーーーーー!」  
 
もう逃げるしかない!  
両手の傷口が修復され針が肉に押し出されて抜け落ちる。  
そのまま両手に力をこめてワイヤーを引っ張り出す!  
瞬間、意識が一瞬飛んだ。  
「……あ、げぼぉ、げほっげほっ」  
手と繋がっているワイヤーが首の頚動脈を的確に締め付け自らを落としていた。  
「な、なんだこれ!」  
妙に張りのあるワイヤーがどこに手を動かそうとしても首を締め付ける。  
それを見た戦場ヶ原は微笑みながら話しだす。  
「普通の手段では捕まえれない人を拘束するにはどうすればいいのか勉強したの。  
 どんなに傷が治るとしても人間なら脳への血流を阻害すれば意識を失うってこの本に書いてあったわ」  
どこからともなく漫画を取り出し見せてきた。  
「ってARMSかよ!」  
 
皆川亮二の馬鹿野郎!逆恨みで先生を責める僕。  
それよりも本当に実行する戦場ヶ原の行動力を見習うべきなのかもしれない。  
吸血鬼の状態なら脳への血を阻害されようが首が引き千切れようが大丈夫だが  
治癒スキルだけの今の僕には逃れられない。忍が協力してくれないと無理だ!  
「気は済んだかしら。じゃ続きいくわね」  
「し、忍ー!助けてくれー!」  
恥も外聞も捨てて叫びをあげる。  
「この後に及んで他の女を…… よほど命が惜しくないようね」  
どんなに暴れても首が絞まるか他の部分は動かせない。  
(お前様、もの凄い恐怖感じゃの)  
神のお告げを聞いた気分だ!  
(忍!なんとかしてくれ!)  
(その事なんじゃが―――すまんの。今宵は諦めてくれ)  
(え゙)  
(正直言って儂もお前様の所業にはドン引きじゃ。  
 存外蝸牛の言うようにそこらの幼女を食い散らしかねん)  
(誰がするか!大体忍だって少しは楽しんでただろ!)  
(お前様の命令だったじゃろうが。好きでしたものか。―――まあ大丈夫じゃろ。たいした拷問具もありゃせん。  
 もっと酷い拷問を見たことあるがお前様なら耐えれよう。儂も頑張ろうぞ)  
(た、頼む!今回だけは助けてくれ。いや助けろ!)  
八九寺の時と同じく命令権を強要する。少しの沈黙の後  
(―――仕方があるまい。助けてやるから少々待っておるがよい)  
(少々ってどのぐらいだよ!10分もあれば僕だった廃人ができかねないぞ!)  
「ガンタッカーを頭に10連発ぐらいインプラントすれば阿良々木くんが更生しないかしらね♪」  
「ひぃーー」  
慌てるな時間を稼げ。時間を稼げばきっと忍がどうにかしてくれる!  
 
「―――落ち着け、戦場ヶ原―――話し合おう。きっと僕達は思い違いをしている。話せばわかる!わかるから!」  
「いいわよ。阿良々木くん。話し合いましょう」  
やったか!  
「―――ただしその頃には、阿良々木くんは八つ裂きになっているけどね」  
(し、忍ーーーーーー!)  
(助ける……!助けると言ったが……時間の指定はしておらぬ………  
 つまり……儂がその気になれば10年後助けるということも……可能じゃろうということ……)  
「いやだー!死にたくないー!逝きたくないー!」  
 
僕と忍はゆっくりと道を歩いて行く。  
「いやー酷い目にあったな忍」  
結論だけ言うと僕は助かった。  
本当は残酷なグリム童話もびっくりのごう……じゃない教育を受け続けた結果  
忍のほうが根負けしてワイヤーと椅子を全て斬り裂いたのだ。  
「NASA製の4ミクロンで200kgの張力があるワイヤーが切れるなんて……」  
と、戦場ヶ原は妙に説明的な台詞を言って不思議がっていた。(どっから手にいれたんだよ)  
 
「あるじ様よ、なかなかの我慢強さであったな。」  
「あれは我慢というより、痛すぎて頭がおかしくなって痛みを感じなくなってたんだよ」  
脳内麻薬が分泌されたのか生存本能が守ってくれたのかはわからない。  
「儂にはそういう機能がないからのう」  
教育に賛成だった忍のほうが純粋に痛みを感じたのには少しばかり反省する。  
「頭が吹っ飛ぶぐらいはともかく脳をクチュクチュされた感覚は幾ら体験しても慣れないと思うよ」  
ちなみに八九寺は僕への教育を見ている最中、手首より先が肌色から鉄の色に変わった辺りで気絶していた。  
 
「まあ、なんとか生き延びれてよかった。次は気をつけないと」  
「お前様よ。懲りるという事を知らんのか。儂も教育と言う名の拷問は受けとうない」  
忍はほんの少しばかりトラウマができたらしい。  
曰く戦場ヶ原はバートリ・エルジェーベトを越える逸材だとか。  
あれ以来戦場ヶ原はデレ期に入っており順調に僕とお付き合いを重ねている。  
ただたまにフラッシュバックが起きて僕の元気が無くなってしまう時がたまにある。  
そんな僕にも戦場ヶ原はとても優しく慰めてくれていた。  
色々あったが今日も僕は元気だ。生きているって素晴らしい。  
 
でも、あれからずっと頭に異物感があるような気が………………  
 
 
 
終了  
 

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