自分で言うのもなんだが僕は平凡な高校生ではない。
少なくともここ数ヶ月は波乱万丈な生活を過ごしていると言えるだろう。
しかし。
だけど。
今起こっているのは人間をやめた地獄のような春休みの出来事に匹敵するような、そんな事態だった。
脳が考えることを停止しようとするなんて僕には初めての経験である。
「……………………女の身体になってる」
呟いて聞こえた自分の高い声に違和感を感じ、胸の脂肪の重さに違和感を感じ、股間の寂しさに違和感を感じる。
着の身着のまま家を飛び出した僕はかつての羽川を思い出した。朝起きたら猫耳が生えていた羽川も今の僕みたいな気持ちだったのだろう。
ただあの時の羽川と違うのは僕には誰にも連絡する気がないことだ。まあそれも当然、誰が好き好んでこんな姿を見せるものか。
とりあえずあとで忍が目を覚ましたら相談してみることにしよう。
自然と僕は学習塾跡の廃墟に向かう。
――――同時刻のある電話
「大変だ戦場ヶ原先輩! 早朝トレーニングをしていたら街中で阿良々木先輩がかくかくしかじか」
「あらそれは大変ね、私達が何とかしてあげないと。詳しい話を聞きたいから阿良々木くんの妹さんに連絡を取って例の学習塾跡に呼んでくれるかしら? どうせあの男……今は女ね、行く場所なんてあそこくらいよ」
「了解した。戦場ヶ原先輩はどうするのだ?」
「とりあえず頭のいい何でも知ってそうな同級生を連れて行くわ」
――――街中
(はあ……帰りたくねぇなぁ……)
(おや、あそこでため息をついて歩いているのは……阿良々木さん? いえ、女性……気になりますね、後をつけてみましょう)
――――阿良々木家
「遊んでるとこ悪い月火ちゃん! なんだかよくわからないけど兄ちゃんがピンチらしい! 神原先生から連絡が来たので行ってくる!」
「火憐ちゃん、当然私も行くよ」
「あ、あの、撫子も行く」
――――学習塾跡
「考え事をしてたら随分遅くなってしまったな……ん?」
「遅かったわね阿良々木くん」
「大事ないか阿良々木先輩!」
「な、なんでお前らが」
「そんなことより事態の解決が先だよ阿良々木く……阿良々木さん」
「何で言い直した羽川!」
「いいからいいから、楽しも……何とかしようぜ姉ちゃん」
「お前ら絶対楽しんでるだろー!」
日曜日早朝。
人通りのない廃墟に僕の悲痛な叫びが響いた。
続かない