“プルルルル…………ピッ”  
 ワンコール目で出やがった。  
 絶対に電話が掛かってくるのが、最近凄い勢いで増え始めたぼくの数いる天敵の序列二位、あの最悪の魔女はわかっていたんだろ。  
 もちろん一位は真姫さんがいなくなったいま、ぼくの恩師であるところの、中学生で成長が止まっている解剖マニアだ。  
「おまえだろ、いらん知恵つけたのは」  
 前置きなどない。ぼくらの間にそんなものはいらない。  
「なに? あたしの名前知らね〜〜〜の? 残念だが知ってるよ、七々見奈波つぅ〜〜んだろ。それより崩子ちゃんに………うッ!?」  
 七々見の決めゼリフを、適当に流して言おうとしたぼくの口上は、ねっとりと這う生温かい感触に遮られた。  
 通話口を押さえて視線を下に向けると、上目づかいの崩子ちゃんと目が合う。  
 まだ多分にあどけなさの残る可愛い顔。だけど将来の美人が約束されている顔だ。  
 血を塗ったように鮮やかな、紅い唇からのばされた舌が、丁寧に甲斐甲斐しく這い回っている。――――――ぼくの勃起に。  
「お兄ちゃん、こんなのはダメでしょうか?」  
 先走りの液でぬるぬるになっている勃起に、崩子ちゃんは嫌な顔一つせずに指を絡めると、乙女の祈りみたいなポーズで、亀頭の裏筋を  
れろ〜〜んと、ぼくの視線を充分に意識しながら舐め上げた。  
 キャンディーっていうのは、言い得て絶妙だな。ぺろぺろと美味しそうに舐めている。上目づかいは忘れない。  
 
「いや………うぉッ………ダ、ダメでは………んッ……け、決して…………くぅん……………な……なな………七々見奈波ッ!!」  
 放って置いたら一体なにを叫びそうになるのか。怖くなったぼくは、その衝動を代替行為で電話口の、元凶である魔女にぶつける。  
“ツーーーーツーーーーツーーーーツーーーー”  
 あの野郎。切ってやがった。この間僅か二、三十秒。少なくとも一分は経ってないはずだ。なのにあっさりと切りやがった。  
 世界は自分を中心に回っていると、信じて疑った事は、きっとないのだろう。  
「はぁうッ!?」  
 などとどうでもいい事を考えている間も、崩子ちゃんの熱の篭もった口唇愛撫は無論続けられていて、顔を傾けるとハーモニカみたいに  
勃起にチュッチュッと吸い付きながら、唇を行ったり来たり上下させていた。  
「うぁッ………は……くぅんッ……ああッ…………」  
 やつめ。なんつぅー事を年端もいかない少女に教えてやがるんだ。  
「ンあぁッ……はぅッ……んンッ……ぅああッ!!」  
 崩子ちゃんは口を大きく開けると、ぼくの勃起をぱくりと咥え込む。  
 でも崩子ちゃんの小さな口では、それほどのサイズでないぼくの勃起でも、先端をしゃぶるのが精一杯のようだ。  
 んくぅんくぅと、赤ん坊が哺乳瓶からミルクを飲むみたいに吸い付いている。すげぇ気持ちいい――――by想影真心。  
 七々見に感謝しそうになってる自分が、ぼくは心底気持ち悪くなるくらい嫌になる。  
 実際本当に崩子ちゃんにこんな事を止めさせたければ、ぼくが一言命令するだけで済むのだ。闇口にとって主人の言葉は絶対である。  
 なのに七々見の所為にしてして、見苦しい責任逃れをしようとは、最悪、否、ぼくは最低だろう。  
「ちょっ……お……ンッ……あッ………はぁッ……ン……んふぁ…………うぁッ!!」  
 まぁ、それはそれとしてだ。  
 満足にはぼくのスタンダードサイズの勃起すら、収める事の出来ない崩子ちゃんの口内だが、やっぱり闇口の名は伊達ではない。  
 真空状態になってるんではなかろうか。  
 小さい身体なのに崩子ちゃんの吸引力はすさまじく、ずずっ……じゅる……と、少女の口元からするにははしたない音が立つ度に、  
ぼくの勃起には痛みを伴うほどの快感が、それこそすげぇ勢いで全身を走っている。  
 
「あッ、ほ、崩子ちゃ……ああッ……も……やば……もう……ダメッ…………くぁッ!!」  
 この少女には格好よろしくないところは、もう結構な数見られてはいるが、その中でもいまの情けなさはハイエンドクラスだろう。  
 ぼくの普段よりトーンの上がっている切羽詰った声に、勘の鋭い崩子ちゃんは、経験はなくともセンスの良さをみせて、自然と小刻みな  
頭の振りを速くしていた。  
 おかっぱの黒髪がちょこちょこと、可愛く揺れているのを見下ろしながら、  
「んぶッ!?……こふッ…えふッ……んンッ………ふぅ……むぅッ……んむぅ……………」  
 崩子ちゃんの口唇の中で、自分勝手な欲望を盛大に解き放つ。知識としてではなく経験として、初めての穢れをその口内に味あわせた。  
「……………………………」  
 やちまったな戯言遣い。そんな思いが半分。しかし残り半分に達成感があったりして、ほんと自分が嫌になる。  
「ごほッ、えはぁッ、………ご、ごめんなさい…………えふッ…………お兄ちゃん……………」  
 健気にもぼくの出した精液を嚥下しようとした崩子ちゃんだが、飲み切れずにボトボトと手に落としてしまっている姿が可愛かった。  
 チャームポイントの紅い唇も、ぼくので白く汚されている。  
「お兄ちゃん………次は…………次はちゃんと全部飲みますから…………だから…………だからわたしを見捨てないでください」  
 涙目で訴えてくる崩子ちゃんだが。う〜〜〜〜ん。七々見のやつ。どんな偏った情報を植えつけてくれてるんだ。…………素直に感謝。  
 ぼくの勃起にまた力が、ぎゅんぎゅんと漲ってくる。ああ、わかったよ。認めてやる。ぼくはペド野郎だ。  
「可愛い可愛いぼくの……ぼくだけの崩子ちゃんを見捨てるなんて、そんなのあるわけないだろ」  
「お兄ちゃん…………」  
 肌の色が元々、白すぎるくらい白いのでよく目立つ。  
 おかっぱの黒髪をなでなでしてやると、顔が耳まで一気にカァーーッと染まっていた。  
 クールな崩子ちゃんにしては、珍しい年頃の少女みたいな反応。だが戯言であるはずのぼくだって随分と珍しい。  
 少女に誓った言葉には、欠片すら戯言はなかった。  
 
                               終わり  
 

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