それは初めてのことだった。
民倉荘、二人きりの彼女の部屋。
薄暗い中にまばゆい橙の光が差し込む。
夕日が綺麗だった、その部屋の中で。
その直後、戦場ヶ原は涙を浮かべて僕を見つめる。
「痛っ」
普段とは異なる感覚に身体が震えていた。
慣れない痛みに耐えるため――
いつもよりキツい目で、あるいは縋るような目で僕を見据える。
それでも大粒の涙が零れそうになる。気丈な女、たまにしか見せてくれない表情。
僕に何か言いたそうだけれど、痛みのため声にならない。
「お、おい、大丈夫か……」
――そしてそれは零れた。零れてしまった。
僕に抱かれ、肩を震わせ涙を流しながら無言で頷く戦場ヶ原。
「お前、足の小指、箪笥にぶつけるなんて意外と間抜けだなあ」
数分後――僕は地獄を見ることになるのだった。