ゆっくりと重い眠りから意識が浮上する。
もっと眠っていたいと思ったけれど、浮上する力には逆らえずゆるゆると意識が覚めていく。
が、せめてもの抵抗で瞼は閉じ続ける。意識的に耳から音を切り離す。
そうしないと。
…そうしないと、起きてしまう、から。
何か、遠くで音が聞こえたような気が、した。
枕が気持悪い。
柔らか過ぎる白い枕、清潔すぎるシーツ、効き過ぎたベットのスプリング。
どれもこれも天涯孤独にして貧乏学生な自分、戯言師にして傍観者たる自分の物は何一つない。
今現在にして、この肉体ですら。
ずるりずるりと、遠くから音が聞こえたような気が、した。
◆ ◆ ◆
ずっと後悔している。何故、あの男の…あんな男の電話を取ったのかと。ものすごく今更ではあるのだけれども。
「面白い事を考えたんだけれど協力して欲しい。玖渚友の為になる事さ。君にとって悪い事では無いだろうし。」
何であんな男の言う事に耳を貸してしまったのか。その挙句がこのザマか。
後悔は後の祭りの役立たずと言うが、あの場合は後悔よりも呆然と言った方が相応しいかも知れない。
「玖渚友の、『死線の蒼』の為ならば俺は…俺達は何事でも行う。
その幸いの為だけに、その為だけに。君もそうだろう?」
呼び出された店で対峙して、いつか交わした会話と同じ様にぼくは黙っていた。
何故ならあれは会話ではなかったから。
沈黙、静寂、少し溜息。
滔々と流れ行く言葉は右から左へと零れ、大気へと還る。
会話と言う物は、コミュニケーションの手段であり互いに話すべき筈だ。少なくとも普通はそう言うものであり、そう言うものであるべ
きなのだ。だがぼくには話すべき事は無く、『害悪細菌』たる彼には溢れんばかりの愛情と情熱を含んだ言葉があった。
それは多分に一般的なものよりも歪み歪んでいたが。
そして、それは別にぼくに対するべき言葉ではなかった。それは彼にとっての事実でありそれだけの事であり
言葉にする事による事実の確認でありつまりは僕にとっては特に、いや全く、まさに皆無に等しく意味の無い事だった。
ましてや彼に、僕を傷付けようと言う攻撃的な意思が皆無だとくれば。
…ならば、一体何故に自分を呼び出したのか。
疑問は残った。彼は玖渚に関してだけは全くの本気で行動する人間であり、それは取りも直さず僕にとっては諸手を上げて歓迎できる代
物ではない事が多かったので。
だからこそ『協力』などと言う『普通』な言葉に警戒してわざわざ出向いて来たのだけれど…意味が無かったかと、ふと思った。
ふと。
その時にふと、気が付いた。
流れが止まっていた。
鼓膜を震わし続けていた言葉が、聞き流していた音が。
それに気が付いたのと同時に、強い視線を感じてぼくははっとした。
兎釣木垓輔の、『害悪細菌』の口がひたりと塞がって、ほんの少しだけ笑みを浮かべていた。
背筋が寒くなりそうな、温和な表情だった。
「だからね、お願いがあるんだけれど…玖渚友の幸せの為に、ほんの少し不幸になってもらえないかな?」
いきなりの言葉だったが、そんなに驚くべき内容では無かった。
ぼくは席を立とうとした。無言の行動、それを回答にしようとして…果たせなかった。
勢いで立ち上がったのは良かったが、身体がそのまま崩れた。
力が入らなかった。くたくたと椅子の足元に倒れこんだ身体は、ひんやりとした床に触れて初めて自分が熱いのだと知った。
異変、異常、危険。
何が起こったのか?毒でも盛られたのか?疑問はあったが考える事が出来ない状態だった。
熱い、アツイ、あつい。
普通じゃないこの成り行きに逆にあっさり納得できるのが笑えた。全くをもって笑える状況では無かったのだが。
ひんやりとした指が、自分の手を取る。
「じゃあ、君の事を家まで送るよ。家と言っても玖渚のマンション、だけれどね。」
僕は今まで何回も何回も危険な目にあってきたと言う事を嫌々ながらも自負している。紛れもない事実だ。無論好き好んでの事ではない
。
だから、くらくらする頭であの時も考えた。
何であんな男の言う事に耳を貸してしまったのか、来るのではなかったと。
…今更の戯言だ。最初から分かっていた事じゃないか、そうだろう?
抱き起こされ、持ち上げられ、運ばれる。
軽々とその両手に持ち上がった身体の、自分の身体がまるで自分のものでは無い様に熱く、頼りなかった。
意識が黒く混濁し陥落し、とぷんと水のように深い眠りの奥へと落ちる様に沈む。
◆ ◆ ◆
ずるり、と聞き間違えようもない音が傍らで響いてぼくは飛び起きた。
起きようとして果たせなかった。
両方の手が重い物に拘束されてそのままその重みに負けて動く事も出来ない。
未だ目を開けても、明けきらぬ宵闇の時間故に部屋は薄暗くその侵入者の姿をうかがい知る事は出来ない。
とは言え、その荒い息と拘束される手を濡らす夥しい汗に、その相手は容易く推定する事が出来た。
「…よく来れたね、友。」
答えは無く、ぜぇぜぇと湿った息が降って来る。
今現在、結局玖渚のマンションに空いている部屋の一室に仮の居を構えざるを得なくなったのは、
先ほどの夢で見たあの災厄の権化の固まりの様な男のせいだ。
あれが全ての原因だ。諸悪の根源、罪悪の巣だ。
…そう、そう言う事にしておこう。
だから、自分の上に重く伸し掛かっている存在の所為では決して無い。
そう、そう言う事だ。
◆ ◆ ◆
玖渚友の幸せの為に、ほんの少し不幸になってもらえないかな?
なに、君が女性になったからと言って誰も悲しがったりしやしないから安心しなさい。
無論それが見苦しくは無いと言う事もこの俺も保障してあげよう。
いや寧ろ愛らしいとか可愛らしいとか言ってあげた方が良いだろうね。
元々よりもこちらの方が玖渚だけではなく世の為にも良いかもしれないよ?
愛玩物と言うものは世の中に幾つあったとしても多すぎると言う事はないのだからね。
さぁ、私の『死線の蒼』の願いにして望みにして犠牲たる生贄として
相応しい姿形にしてそれでしか在り得ない存在になって、
そのまま生きながらに逝き続けるシロモノになり下がりなさい。
大丈夫死にはしないよ…多分、そう多分ね。
◆ ◆ ◆
彼はまさしく本気であり狂気であり残酷であり冷静であった。
そしてぼくは今、玖渚友の家にいる。
極めて細心の注意を持って平面構成されたその家の中に、唯一つだけ存在した
例外のその部屋を選んだのは意識しての事ではなくむしろ無意識だったのだと思う。
だがだからこそ多分、ぼくは今ここにあるこの状態を予想していたのだろう。
でなければぼくは、玖渚友と言う存在を拒否する為にこの部屋を選択した事になる。
もしくは、死に等しい選択を以って試す為に。
玖渚友がこの部屋に到達するまでに絶対的に避け得ないたった2段の段差。
そのほんの僅かな高低が絶対的な距離となり防波堤となる。
その筈だった。予定としては、多分。
『大丈夫死にはしないよ…多分、そう多分ね。』
在るべき身体を変じさせられたのはぼくだけではなくそれは彼女も一緒で。
つまりは目が覚めて後最初にぼくがした事はと言うと、その結果がもたらすであろう己の身の上の安全を憂う事だった。
その次には玖渚の身体の状態の心配だったが、それはどっちかと言うと杞憂で少なくとも以前よりは少しマシと言う結果だった。
つまり一人で瀕死の状態になってまで、夜這いを敢行して来る位には。
「…。」
「…。」
「…。」
沈黙が重い。
と言うか、伸し掛かっている身体が段々ぼくに重みをかけてきて…それが実際問題として重い。
実際、本気で動けなくなってきている。
と、呼吸が落ち着いてきたらしい玖渚が口を開いた。
「普通はさ、ここできゃあっとかイヤァっとか騒いでくれる所じゃないの?
それがこーゆー時のお約束とかパターンとか形式美ってもんでしょ、ねぇいーちゃん。」
「…あのな…。」
ここでそーゆー事をお前が言うかと突っ込みを入れたくなるが、気力が萎えたので溜息で代用。
ついでに墓穴を掘らない様に脳内で玖渚の行動をシミュレートして、白旗を揚げる。
どんな事を言ってもこの状況では揚げ足を取られるだけになりそうな気がする。と言うか、
多分に自分にとって有難くない目的が相手にあってそれを敢行するだろう意思が固いなら、何言ったって無駄なような気がする。
そもそも何に対してのお約束とかパターンとか形式美だと言うのか。
その辺が一番問題の様な気がしたが、その辺りが最大の地雷原の気がする。
つーことで不穏な部分は聞かなかった事にして成り行きに任せる、以上。
「どうした、何かあったのか?」
いや、ぼく自身も玖渚にしてもあり過ぎる位あったので物凄く白々しい台詞だとは思うけど、とりあえず無難な言葉をチョイス。
「んー?俺様ちゃんは前に比べれば全然へーきだよ。だってこれ位で済んでるしね。」
後半部に強調点が付いてる様な気がしたが軽く視線を泳がせて、それも聞かなかった事にする。
と言うか、口様と質は前と同じなのに、あからさまに低く男声になった玖渚の言葉に、別の意味でちょっと涙が出そうになる。
あの小柄な青髪の風変わりな少女は影も形も無く消えうせた、アーメン。
と言うかこれで良いのか『害悪細菌』。
こいつはお前にとっての崇拝対象だったんじゃなかったのか?それとも存在そのものが崇拝対象であって、
その性別なんていうものは些細な事でしか無いとでも言うのだろうか?
それともこれこそが破壊屋の破壊屋たる所以だとでも?
…ああもうアイツの事は考えないようにしよう。あいつは存在自体がすでに戯言を通り越して悪い冗談だ。
そしてその迷惑被害っぷりは戯言の域を遥か斜め上に跳越している。
ともあれ今現在目の前の解決すべき問題は、この身体の上にずっしり伸し掛かった玖渚友(♂)だ。
それにしても女でも男でも違和感のない名前って言うのはこう言う時に便利なのかもな。
普通はその『こう言う時』と言う事態はありえない筈なんだが。
だがありえない筈、なんて言葉今までどれ位否定されてきた事か。
それも大抵は『最悪』の方向で。
ならば少なくとも『最悪』の状況で無いだけよしとするべきなんじゃ無いのか?
感情の方は未だに納得出来ていないが、それでも取りあえずは。
「これ位でコレなら、それで済んで良かったと思え。どうせ朝になればそっちに起こしに行くんだから、
朝になるまで待ってれば良かったのに…。」
正直明かりを点けて様子をじっくり見たいのだが、無理なので必死に薄闇に目を凝らす。
顔色はよく分からない。が、髪までぐっしょりと汗に濡れてはいてもその表情に苦しさは無い様だった。
発汗発熱動悸息切れ、ただし時間経過に比例して下降中。つまり今までと違って時間経過により
自然に自己回復中…と都合よく解釈するのは都合が良すぎるだろうか。
医者でないぼくが判断すべき事ではないのだが、それでも心配は心配で。
緩んできた拘束から片手を抜いて、つい、とその顔に向かって手を伸ばす。
汗の水滴が時折ぽたりと零れるその頤にそっと指を這わせ、頬から耳の方へ滑らせて
そのまま左の手のひらをぺたりとあてがった。
どうやら発熱の症状は完全に除外しても良さそうだ。ひんやりとした体温はしっとりと湿っている以外は
普段のとおりの様で、ひとまずは安堵の溜息を吐く。
「やだよ。ほんっとうに久々の折角の一つ屋根の下なのに、いーちゃんは冷たいんだね。このれーけつ漢、女ったらし、ヒトデナシ。」
その仕草をどう取ったのか、どうやら不機嫌モードのスウィッチが入ってしまったらしい。声音が思いっきり拗ねている。
これが以前の姿形サイズでやるなら正直そう言うのも可愛らしいと言っても良いのだろうが、
今現在やられてもあんまり嬉しくない。
言われている内容も内容だし。
さてはてどう言いくるめたモンかね、と考えを巡らした瞬間、ふいっと玖渚の声が低くなった。
「…でもさ、」
緩く掴まれたままだった右手首に、ぎりっと強い圧迫が加わる。
「いーちゃんも『コレ』ならもーそー言うのも出来ないだろうからさ、女ったらしってのは撤回しておいてア・ゲ・ル♪」
…。
この状況は、やっぱり本当に『最悪』かもしれない。
今までとは別の意味で。
今更だけど。
でもその相手がコイツならどうなってもいいや、とも思う自分はやっぱり色々とどうしようもない欠陥品なのかもしれない。
危機感が無い、とも言うのだろうけれどそれもまた今更だ。
動きの止まったぼくの左手を、玖渚の空いた手が捕らえた。
絡められた指の感触と同時に、ふわりと手の甲を長くてしなやかな蒼髪の糸が叩く。
「く、なぎさ…」
名前を呼ぶ。
最後まで呼ぶ事が出来ず、息を呑んで口を閉じた。
手のひらに触れた、熱く湿った何かの動きに気を呑まれる。
ぴちゃりと、音がした。
水を舐める音。舐めとる音。
生々しいその音は、ざわざわとぼくの肌をざわめかせて、手のひらと玖渚の接点から響いてくる。
それほど大きくは無い音なのに、無視出来ない位に響く。
「あ、や…やめ…っ」
静止の声は、息を飲む音で止まる。
玖渚の口に丸ごと飲み込まれた指が一本。
神経が細かく張り巡らされた指を、口全体できゅううっと吸い上げられて一瞬、何がなんだか分からなくなりそうになる。
ナニヲサレテイル?ナニヲシテイル?モクテキハナニ?
…ボクハナニヲスレバイイ?ドウシタイ?
その未体験かつ初体験の感覚に展開しようとしていた思考全てが中断、混乱、停止。
ぶっ飛んだ。
吸い上げられるその感触と同時に指の中の全ての血が指先から爪の間に集中して、ぎゅうぅっと熱く濃く凝縮されて、
もうこれじゃプツンと皮膚が切れて玖渚の口の中に全部ぶちゃあっと紅くてしょっぱくて熱くて
どろどろした濃くて汚い血液を爪と肉の隙間から吐き出してしまう、と思った。
それ位強烈で、鮮烈な感覚。
吸い上げられる感触と吸い上げている相手が玖渚であると言う事実、それに混乱するぼくの脳裏は
その急激な感覚に同調して真っ赤に染まり、どう動けばいいか分からない全身に変な風に力がこもる。
あえて言うなら、頭蓋骨の内側に張った毛細血管が太く充血して網目を主張して肝心の脳味噌は
貧血でくらくらしているような、そんな感じで、思考は出来ずに身体が反射で動いているだけで。
そんなぼくを見つめながら、玖渚は無言のままだった。
まぁ勿論口が塞がっていると言うのもあるのだろうけれどけれど上から降ってくるその視線はとてもとても、強い。
イタイ。
皮膚がその熱を孕んだ視線に反応して、ちりちりと熱を宿す。
不意に口の中で玖渚のの舌がずるり、と動いた。
痛い位に吸い上げられて皮膚に重さと熱さを感じ始めていたその指に、まるで蛇の様に絡みつく。
じゅるり、と聞こえた音と共に指先から電気が奔った。
指の腹からなぞり上げられて爪の表面に舌先が這い、そのまま捻じり込む様に爪と肉の間に舌先が強く押し付けられる。
肉と爪の合わせ目を抉じ開けられかけて、鮮烈な痛みが貫いた。そのあまりにも強烈な一瞬の刺激の流れに
脳味噌がショートする。
押さえ込まれたまま背中が弓形に強く緊張し、引き絞るかのように頭を枕にめり込ませる。
反り返った爪先がシーツにきつく爪を立てて、無駄に作った皺の間でびくびくと震え続ける。
コレハ一体ナニ?
疑問がぼくの麻痺しかけた脳裏にやっと朧気に形を取ろうとしたその瞬間、指が開放された。
緊張しきっていた全身の力が抜け、支えを失った手をそのまま浮かせておく事も出来ずに僕は自然に動きを任せた。
すなわち重力に従って、ぐったりと身体を横たえた寝台に左手も同じく横たわろうとする。
その、ぼくが全身全霊で全部緩みきったその瞬間が、玖渚の狙いだったらしい。
脱力しきった両方の足と足の付け根に、強い力で暴力的にヤツの膝頭が捻じり込まれた。
足を閉じるなんて事も出来ないぼくを、疲れ切ったぼくを、まるでさっきまでの事なんてほんのお遊びだとでも言うかの様に
握ったままだった右手をぐっと強く押さえつけて寝巻き越しに宛がわれた固い関節がごり、と蹂躙した。
ショートを通り越して、火花が出た様な感じが背骨を駆け上がって脳味噌で弾けた。
声も出せずに全身で強張りガクガクと震えているぼくは、本当にそれが一体ナニなのか理解出来ず
考える事も出来ずにいて、たった一つだけ、ぼくを見ている玖渚の唇が、多分笑みを浮かべているのだろう
事だけが何となく空気で分かった。
「いーちゃん、好き。」
前に言われた言葉と、同じ言葉が降って来る。あの時と違う声音、違う熱、異なるベクトル。
すなわち低い声音で、熱い熱を孕んで、強く要求する力を持って。
それでもそれは、玖渚で、その言葉は玖渚の言葉で…要求で。
そして彼女は彼女を拒否できないぼくを知っていて、承知の上でそんな言葉をぼくに囁く。
どろどろに溶ろけたぐずぐずのこの肉体を欲しいって言うなら全部全部奪っていけばイイのに、
それなのに要求する。
自分の物ではないように感じる手を動かして、ゆっくり釦を外す。
たどたどしいその仕草を視線が辿る。それを感じて、全身の産毛がぴりぴりと逆立つような気がする。
前開きの寝巻きは布地の重みで自然に左右に分かれ、あっけなく中身を晒す。
ぼくが玖渚の要求を断る事なんか在り得ないし、玖渚も僕の願いを聞かない事は無い。
だからコレは多分徹頭徹尾双方の合意の行為の筈なんだけれど、だけれども少しだけ指が震える。
多分そんな事百も承知で、その上で要求しているんだろうけど。何て性悪。
「愛してる。」
だからぼくは、あの時最後まで言えなかった言葉を完全に最後まで音にする。
玖渚の耳に届く様に、聞こえなかった事にならない様に。
薄闇に白い歯を並べた半月が浮かんで、にぃっと笑って、玖渚の身体が落ちてくる。
開放された右手と作業を終えた左手で、ぼくは重なってくる身体を抱き止めた。重なって組み敷かれて、
ああ流されてるなぁなんて思って一瞬後にはそんな考えの事なんてきれいさっぱりと忘れる。
それどころではなく、一切合財ぼくの全部が解して並べて揃えて晒されて…玖渚のモノになる。