「なあなあ」  
「なに、火憐ちゃん?」  
「月火ちゃんってさ……ちゅー、したことある?」  
 
 その瞬間、二人の間には沈黙が落ちた。  
 
「………………」  
「………………」  
「……火憐ちゃん」  
「……もしかして、だけど……月火ちゃんも?」  
 
 そして、その沈黙をもって、当事者から聞かされて知っていた月火は無論の事、知らなかった  
火憐もまた、自分と同じ災害が妹の身に降り掛かったのだと察した。  
 
「……うん」  
「そっか……」  
 
 大好きな彼氏に捧げたかった初めてのキス。  
 それを、二人とも、大して仲がいいわけでもない(当事者比)、実の兄に奪われた。  
 それは、二人にとってはトラウマ物の大事件だったりしたのだが、当の兄はといえば、  
『やっぱり妹とキスしても何も感じないな』などとのたまわったのだ。  
 そんな事が許されようか。いや、許されない。  
 となれば、行うべきは復讐。リベンジだ。  
 
「……だな」  
「……だね」  
 
 そこまでの意志の疎通をアイコンタクトで終え、二人は部屋を出た。  
 向かう先は兄の部屋。標的は、兄、阿良々木暦。  
 
「さて、と」  
「……これから、どうしよう」  
 
 標的の部屋へと至った二人は、そこで途方に暮れていた。  
 目の前には、ぐっすりと眠り込んでいる兄、阿良々木暦の姿がある。  
 
「復讐って言っても……何してやりゃいいんだろうな?」  
「……うーん……キスは、そもそも私たちとしたのが初めてだろうし」  
 
 妹達の兄への評価はそれほど高くないようだった。  
 兄が恋人と星空デートで初キスを済ませていた、などという事は、彼女たちには知る由もない。  
 
「だったら兄ちゃんの初体験を奪ってやる、ってのはどうだ!?」  
「そっか! お兄ちゃんきっと童貞だよね! 彼女さんいるって言ってたけど、多分まだだろうし!」  
「……そっか、兄ちゃんは童貞だったのか」  
「……悲しい事実だね」  
「よし! とにかくその作戦で行くぞ、月火ちゃん!」  
「うん、わかったよ、火憐ちゃん!」  
 
 決心した二人は、早速行動に移った。  
 
「下、脱がせてっと………………な、なんか恥ずかしいな」  
「そう? 私はちょっとドキドキしてきたよ」  
 
 そして、それがとうとう二人の目の前に現れる。  
 
「うわ……」  
「うわ……」  
「これが兄ちゃんの……なんだな」  
「これがお兄ちゃんの……なんだね」  
 
 当然というか何と言うか、それは眠りこけている状態では勃起していなかった。  
 想像していた物と違うその風体に、二人は首を傾げる。  
 
「なんだかぐんにゃりしてるな」  
「うん、そうだね。もっと、こう、上むいて立ってるもんじゃないの?」  
「確かに、神原先生に見せてもらった漫画ではそうだったな」  
 
 なんてものを見せてるんだあのエロ後輩は!?と、本来ならツッコミが入る場面だったが、  
ツッコミ担当は未だ眠りの中故に、場には奇妙な沈黙が満ちる。  
 
「でも、確か、これって、触ったり舐めたりしたら、大きくなって立つんじゃなかったっけ?」  
「ああ、確かにそうだった。何か、男って口でされるのが好きなんだってさ」  
「へんなの。セックスって、股の間にある穴にこれいれてするんじゃないの? 口でもするんだ?」  
「うーん……あたしも詳しくないからよくわかんねえ。今度神原先生に聞いてみとくな」  
「でも、すごいね、神原さん。何でも知ってるんだ」  
「ああ、あたしもそう言ったら、なんでもは知らない。エロい事だけだ、って言ってた」  
「……どっかで聞いたことがある台詞だなぁ」  
 
 言葉を交わしながら、二人はおっかなびっくり、その柔らかくてぐんにゃりとした物に手を触れる。  
 二人の小さな手のひらに包まれただけで、それは少しだけ大きくなった。  
 
「で、どうするの?」  
「……どうするんだっけ?」  
「あんまりぎゅっとしたら痛いよね」  
「だな。……確か、ゆっくり上下に擦るんだっけ?」  
「こんな感じ?」  
「うお、何かぴくっとした……うわわ、大きくなってきたぞ! なんだこりゃ!」  
「おちんちんだよ」  
「月火ちゃん、あたしの事馬鹿だと思ってないか?」  
「うん、この街で一番だよね」  
「へへっ、照れるぜ」  
「うーん、火憐ちゃんはホントMカッコいいね……」  
「……これで、いいのか?」  
「……た、多分。だって、もうすっごい大きくなったし、固くもなってきたし」  
 
 言葉通り、兄のそれは、すでに天にそびえんばかりに大きくなり、いつでも行為ができる状態にあった。  
 
「よし、じゃあ……あたしが行く」  
 
 その物から一瞬たりとも目を離す事なく、火憐は決意を込めた表情で宣言した。  
 手は服にかかり、もともと軽装だった彼女は、あっという間に下着姿になった。  
 可愛らしいスポーツブラに包まれた、可愛らしい胸が、緊張故にわずかに荒くなってきた呼吸で小さく上下している。  
 
「……ずるい、火憐ちゃん」  
「わりぃ、月火ちゃん。でも、これだけは譲れねー」  
「もう……火憐ちゃんがそんな顔して言う時は、本当に譲ってくれないんだから」  
「ごめんな、月火ちゃん。でも……兄ちゃんの初めてを奪う女は、一人だけしか存在できないんだ」  
「……いいよ。私は後で、お兄ちゃんの処女貰う事にするから」  
 
 与り知らぬ所で物凄い事が決定した事なぞ露知らず、下半身を露出し、物をおったてたまま、それでも阿良々木暦は  
ぐっすりと眠り続けていた。  
 そして、眠りの中で、彼はついにその時を迎える事になる。  
 
「じゃあ……えっと、ここ、濡らさないといけないんだっけ?」  
「そうだね。って……火憐ちゃんのそこ、もう……」  
「あ、あはは……あたしも、ちょっと興奮してるのかな」  
 
 すでに、そこはしとどに濡れそぼり、少なくとも外見上は男を迎え入れる準備を整えていた。  
 その事に羞恥と共に安堵を覚え、火憐は兄の身体にまたがるようにして、そそり立つ物に自らの秘所を  
触れさせた。  
 
「い、いくぞ……月火ちゃん」  
「うん、頑張って、火憐ちゃん」  
 
 だが、二人はとてつもなく大事な事を忘れていた。  
 そんな事忘れるような事かよ!?と、兄が起きているならば間違いなくツッコミが入ったであろう、  
非常に大事な大事な事を。  
 そして、その忘却していた物は、永遠に失われる事となる。  
 
「よ、よし……せーの……ぐぎぃっ!?」  
 
 火憐は、自らの秘所に兄の物を導き、そして、そのまま一気に腰を落とした。  
 瞬間、走る激痛。  
 凄まじい痛みが、阿良々木火憐の全身を駆け巡った。  
 
「か、火憐ちゃん!?」  
「ぐ……こ、これはちょっと……うっかりして、た……いっぅう……」  
 
 忘れていた事。  
 それはつまり、初めてなのは、何も兄だけではないという事。  
 火憐も(そして月火も)また、処女だったという事を、うっかり彼女たちは忘れていたのだ。  
 結合部からしたたり落ちる純潔だった証。顔をこれ以上無い程にしかめ、歯を食いしばり、火憐は激痛に  
耐えていた。目からは涙がこぼれている。  
 
「そりゃそうだよね、私たちだって初めてなんだし……ってなんで気付かなかったの私たち!?  
 これじゃ本末転倒だよぉ!」  
 
 今更ながら、月火はその事に気づいたようだが、時すでに遅し。  
 最早、阿良々木火憐の処女は、永遠に失われてしまったのだ。  
 
「だ、大丈夫!?」  
「こ、これは……あん時より……つらい、かも……ぎひぃっ!?」  
「お、お兄ちゃん!?」  
「あ、にいちゃ、だめ、や、やめ……いた、いたいぃ!」  
 
 涙をこぼす程の激痛に晒されているというのに、なんという事だろうか。  
 眠りの中で、処女の隘路に挿入した夢でも見ているのだろうか。いや、夢ではなく、現実に挿入している  
わけだが、何にしろ、その快感が原因となったのだろう。兄が腰を突き上げ始めたのだ。  
 当然、火憐はさらなる激痛に襲われる事になる。  
 こぼれる涙は玉となり、顔色は真っ青だ。横で見ていた月火も、そのあまりの有様に、呆然とするしかない。  
 
「いっ、やっ……やめっ、にいちゃ、んっ……うごか、ない……でっ……あっ、ふぅんっ」  
 
 だが。  
 元来のM性故か。  
 それとも、何か別の理由があるのか。  
 程なくして、火憐の声に艶のような物が混じり始める。  
 
「ひっ、ひぃんっ……いた、い……いたい、よぉ……でも……あっ、ん……なんか、へん、だ……あたし、へんっ……!」  
 
「か、火憐ちゃん……気持ち、いいの?」  
「……そ、そうかも……気持ち、いいの……かもっ、んっ! ジンジンしてっ、いたっ、いっのにっ……でもっ、  
 だんだん、それが……気持ち、いいっ! あっ、すご……気持ちいい、これっ! 兄ちゃんの……あんっ!」  
 
 真っ青だった顔には朱がさし、瞳はとろけ、舌までだらしなく出して、火憐は完全に感じ始めていた。  
 
「……い、いいなぁ……火憐ちゃん、気持ちよさそう……んっ」  
 
 気づけば、その痴態にあてられたか、月火もまた、己の秘所へと手を伸ばしていた。  
 触れてみれば、そこはすでに、挿入前の火憐のそれのように、しっとりと濡れていた。  
 
「……。これ以上、濡れたら……ダメ、だから」  
 
 その事実に赤面しながら興奮し、月火は自らの下着を脱ぐ。言い訳めいた言葉にすら、興奮はその  
度合いを高めていくようで、あっという間に月火の息は荒くなっていく。  
 
「あんっ、すごいっ! にいちゃん、すご……あっ、ふぅんっ、おく、とどいて……いいよぉっ!」  
「あっ、あっ……あぅんっ! 火憐ちゃん……お兄ちゃん……凄いよぉ……あっ、ふあっ」  
 
 兄の、夢見心地ながら激しい腰使いに、火憐は一気に頂点まで突き上げられる。  
 最早痛みなど何処かへと消え去り、ただただ激しい快感だけが、彼女を追い詰めていた。  
 そして、それを見て自ら慰める月火の動きも、加速度的にその速さをまして行く。  
 
「あっあっあっ、ああっ、あああっ、なんかっ、くるっ! くるよ、にいちゃ……んっ! きちゃうぅぅぅぅうっ!!」  
「火憐、ちゃ……おにい、ちゃ……わ、わたし、もっ……いっちゃ……うぅぅううううっ!!」  
 
 そして、二人は同時に達した。  
 火憐は、自らの股間から潮を吹きちらしながら、身体をこれ以上無い程に反らせて、びくびくと震わせた。  
 月火もまた、自らの股間から愛液を飛沫のようにほとばしらせながら、腰を突き上げるように身体を反らせていた。  
 二人だけではない。達した瞬間、火憐は自らの中に注ぎ込まれる熱いものもまた、感じていた。  
 
「あ、あは……す……ごい……あたし……いっちゃ……た」  
「火憐……ちゃ……ん……おにいちゃんも……すごかっ……た……よ……」  
 
 やがて、あまりの激しさに、疲労がピークに達したのか、火憐も月火も、兄の身体にすがりつくようにして  
寝息を立て始めた。  
 三人ともがほぼ裸だという事がなければ、そして、火憐の股間から白と赤が混ざった物が垂れ落ちていなければ、  
それは非常に微笑ましい、兄妹の光景のようにも、みえた。  
 
 
 後日談というか今回のオチ。  
 
「なんじゃこりゃあ!?」  
 
 朝目が覚めたら、妹に全裸で覆いかぶさられていた高校生が、そこにはいた。  
 っていうか僕だった。  
 見れば、月火ちゃんもその側で、あられもない格好で眠りこけてるじゃないか。  
 ……って、なんだこのにちゅっとした感覚……。  
 そこで、僕は初めて気づいた。  
 妹の初めてを奪った上に、中出しまでしてしまった兄が、そこにはいた。  
 っていうか、僕だった。  
 
「なんじゃこりゃあ!?」  
 
 もう一度叫んでみても、どうやら夢ではないらしい事がわかるばかり。  
 
「なんじゃこりゃあ!?」  
 
 三度叫ぶ僕には、この後待ち構える運命など、知る由もなかった――  
 
「というわけで」  
「というわけで」  
「兄ちゃんには責任とってもらわないとな!」  
「私は……奪われて無いけど……」  
「いいんだ、月火ちゃん。あたしたちは姉妹だ! 責任は平等にとってもらわなきゃなんねー!」  
「そうだね! 火憐ちゃんの言うとおりだよ!」  
 
 知る由も無いから、語る事もできないわけで……これにてこの話は終わり。  
 あとはまあ、勝手に想像してくれればいい。僕がいかに悲惨な目にあったのか、を。  
 
「じゃあ行くぞ、兄ちゃん! いざラブホテルー!」  
「いざラブホテルー!」  
「なんじゃそりゃあ!?」  
 
  叫んでも 応える者は 誰も無し  
    誰でもいいから 助けておくれ  
 
                暦 心の歌  
 
「後ろの穴だけは勘弁してくれー!」  
「いいや」  
「勘弁」  
『してあげないっ♪』  
 
                                                         信長  
 
 
                                         尾張  
 

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