27  
 
 まさか。  
 いまこの気持ちを表す言葉は、多分、これで合っていると思う。  
「…………」  
 うっかり崖から落ちたとき(彼女達と同じノリで岩場を飛び跳ねたのがマズかった)、打ち付けた身体が痛んだがそれはどうでもいい。  
 そんなの慣れてる。  
 だからいい。  
 とりあえずそれはいい。  
「…………」  
 大体いまはそれどころじゃなかった。  
 迫る脅威。  
 THE・月の輪熊。  
 哺乳類食肉目クマ科ヒマラヤグマ属。  
 日本にしか生息してない熊で、九州ではすでに全滅したとかしないとかいう、絶滅を危惧されている世界的にも希少な動物。  
 ……らしい。  
 自宅で五十連打に挑戦中の玖渚に聞いたところ、熊としては、さほど大きくはないそうだ。  
 体長は1m30から2m。  
 重量は100kg〜〜180kgくらい。  
「…………」  
 でけぇじゃん。  
 人間に置き換えれば横綱クラス。  
 それこそあいつのちっこい身体なんか、頭から爪先までがぶりと、彼、もしくは彼女らは、美味しく残さずイケるだろう。  
「…………」  
 まぁもっとも、それは玖渚に限った話しではない。  
 ぼくは果たして何日ぶりのご馳走なのか、だらだらと、山の熊さんは本能に従って涎を垂らしてる。  
 うん。  
 とてもわかりやすい。  
 目の前にぬっと現れた熊は、餌がないのかそれとも狩猟の才能がないのか、それは知らないが、ぼくを喰ってやる気満々みたいだった。  
 
「…………」  
 そしておそらくはそうなっていただろう。  
 彼女達が来てくれなかったら、確実にそうなっていただろう。  
 右手の手のひらが。  
 左手の手のひらが。  
 毛むくじゃらの身体に、クロスするように、添えられた。  
「川遠――」  
「――境域」  
 ぼくが喰らうわけでもないのに、一瞬、既知の衝撃に、背中がずきりと痛み、息が詰まる。  
“ドシッ”  
 肉を響かす鈍い音。  
「失せろ」  
「失せろ」  
 シンメトリーの声。  
 まさか。  
 この《二人》の小さな背中を、こんなにも頼もしく見る日が来るとは、ぼくは想像すらしたことがなかった。  
 ぶっ飛んでる。  
 熊がでんぐり返ってぶっ飛んでる。  
 ごろごろと転がって木にぶつかる様子は、何だか漫画みたいにコミカルだった。  
「…………」  
 でも笑えない。  
「お怪我はありませんか《いーちゃん》さん」  
「お怪我はありませんか《いーちゃん》さん」  
 深空ちゃんが。  
 高海ちゃんが。  
 二人同時に、ぼくへと、振り返る。  
 目には優しいが生命には優しくない存在、《澪標姉妹》の登場だった。  
 効果音がほしいね。  
 ドドドドドッ……、みたいな。  
「お怪我はありませんか《いーちゃん》さん」  
「お怪我はありませんか《いーちゃん》さん」  
 やはり重なる声。  
 固まっているぼくに、二人は可愛らしく小首を傾げ、再度同じことを訊いてくる。  
 仕草が年齢より子供っぽい。  
 今日の二人のファッションは、あの気合の入った法衣ではなく、今時の女の子らしい、オフショルダーとミニスカート。  
 
「《いーちゃん》さん?」  
「《いーちゃん》さん?」  
 どちらがオフショルダーで、どちらがミニスカートなのか、それはぼくには、玖渚じゃあるまいしわからない。  
 わからないが。  
 二人ともなかなかに可愛いんだから、いつもこんな格好してればいいのに、と思った。  
 まあ、法衣は法衣で、  
「あれはあれで捨てがたいけど」  
「は?」  
「は?」  
「いやいや、何でもないよ。ありがとう、高海ちゃん、深空ちゃん。それで、どうして二人はこんな山の中に、都合よくいるのかな?」  
 いやいやと十回は言わない。  
 二人の着せ替え妄想は、望外に愉しいが、とりあえずいまは後回しだ。  
 そんな場合じゃない。  
 熊がよたよたはしてるが起きだしてる。  
 だけど、  
「ごめんなさいです」  
「ごめんなさいです」  
 二人は後ろに迫る熊など、心底からどうでもいいように、ぺこりと揃って、ぼくにしおらしく可愛らしく頭を下げた。  
「へ?」  
「僕た……私達、朝からずっと、《いーちゃん》さんのことを、尾けてました」  
「僕た……私達、朝からずっと、《いーちゃん》さんのことを、尾けてました」  
 そう言ってから二人は、ちょっとだけ顔を上げる。  
 まるで《怒られるかな?》と窺う、小さな子供のようだった。  
「…………」  
 結構ツボだったり。  
「おっ?」  
 軽やかに流れるstar man。  
 携帯が鳴った。  
 圏外のはずなのに、ぼくの携帯が鳴った。  
「ごめん、ちょっと待って」  
 何も考えずに、出る。  
 前にもこんなことがあったような、と、微かには思ったが反射で出る。  
「ロリですね」  
 切れた。  
 それだけ言って切れた。  
 ディスプレイを見てみるが、そりゃもう当然のように非通知。  
 
「…………」  
 はて?  
 いまの声は真姫さんのものではなかったぞ。どこかで確かに聞き覚えのある、機械的な そして抑揚のない作り物みたいな声。  
 濡衣さん?  
「…………」  
 どうでもいいか。また圏外になってるし。  
「ごめんなさいです」  
「ごめんなさいです」  
 黙ってしまったぼくを、怒ってると勘違いしたのか、二人はさらにシュンとなって、神妙に、ほとんど直角に頭を下げてる。  
「ああ、うん、いいよそんなの」  
 ぼくは鷹揚に頷いた。  
 べつに心が広いからじゃない。  
 本当にそんなことは、どうでもいいからだ。  
 出夢くんには片手間で失神させられ。  
 零崎には鼻で笑われのされたものの。  
 これでも二人は立派な(前出の二人に言わせれば半人前だが)プロのプレイヤーである。  
 自分の間合いくらい、わかってはいるだろう。  
 だがそれでも、  
 言わずにはいられない。  
「頼むから後ろを、……見てくれない」  
 言われて振り返った。  
 深空ちゃんと高海ちゃんは素直に後ろを、何の警戒もせずに、少なくともぼくにはそう見える風に、自然な感じで振り返った。  
 慎重に間合いを、熊が詰めてる。  
「…………」  
「…………」  
 それを見てやっと二人は、ゆるりと構えを取った。  
 熊がぴたりと歩みを止める。  
 当たり前だが熊という動物は弱くない。  
 そしてヤワくもない。  
 さっきは不意打ちだったからこそ、熊も無様にぶっ飛んだが、逆を言えばそれは、不意を打っても、一撃では倒せないということだ。  
 爪。  
 牙。  
 何なら体当たりを入れてもいいだろう。  
 三つの武器。  
 熊はそのうちどれか一つでもヒットさせれば、深空ちゃんと高海ちゃん、二人の身体を引き裂くことなど造作もない。  
 
「《いーちゃん》さん、少し……離れていてください」  
「《いーちゃん》さん、少し……離れていてください」  
 もちろんそんなのわかってるだろう。  
 深空ちゃん。  
 高海ちゃん。  
 そろそろこの二人の間合い、攻撃ゾーンであると同時に危険ラインでもあるエリアに、熊が踏み込もうとしてるみたいだった。  
 野生動物の本能でそれがわかるのか、熊の方も不用意には近づいては来ない。  
「…………」  
 吹く風が否が応でも気分を煽る。  
 雰囲気。  
 睨み合ってるのが双子少女と月輪熊という、えらくシュールな光景ではあるものの、どことなく時代劇の殺陣を見てるみたいだった。  
「…………」  
 ぼくは固唾を呑んで見守る。握る手はじっとりと汗ばんでいた。  
 と。  
「うん?」  
 突然。  
 シャツで拭いていた手を掴まれる。  
 ぼくの右手は、左手で、強くもなく弱くもなく、ふんわりと、柔らかく包むかのように握られた。  
「…………」  
 慣れ親しんでるぬくもり。  
 人肌のぬくもり。  
 少女も弱冠ではあるが、手に汗を掻いていて、ぼくのものとも混ざってベタベタするけど、それがちっとも嫌な気分ではない。  
 むしろ温かさを感じて落ち着く。  
「お兄ちゃん」  
「何?」  
 小さく囁くような少女の声に合わせて、ぼくも小さな声で答えた。  
「ここにいては澪標姉妹の邪魔になります」  
「うん」  
 確かにそうだろう。  
 どう見てもスーパーヘビー級の月輪熊と、どう見てもミニマム級の深空ちゃんと高海ちゃん。  
 階級は端と端。  
 それでもお荷物のぼくがいては、二人は正面からぶつかるしか選択肢がない。  
 が。  
 哀川潤。  
 想影真心。  
 匂宮出夢。  
 この辺の化物クラスの人外ならともかく、二人はまだそこまでの域には、到底達してはいないだろう。  
 
 正面衝突は苦しい。  
「戯言遣いのお兄ちゃん。大変卑しくも惨めではありますが、こんなとき、闇口には伝統的な戦いの発想法があります。それは………」  
「……逃げる」  
「主人の安全が第一ですから。闇口に美学なんてものはありません」  
 少女はちらりと、深空ちゃんと高海ちゃん&熊を一瞥すると、ぼくの手を引いた。  
 それはいつもと変わらない動作。  
 だけれど気のせいか、急かしてる気がする。  
 本領を発揮できない二人が、普段は仲が悪いけど心配なんだろう。  
 きっと。  
「まぁ、お兄ちゃんが居なければ、彼女達も心置きなく殺れるでしょう。危なくなったらそれこそ、澪標姉妹も逃げればいいんです」  
 優しい娘だ。  
 東京に居る萌太くん、  
「無様に命からがら方々の低であっても、《殺し名》のくせにどの面下げてであっても、できるものなら、逃げ帰ってくればいいんです」  
 ごめん。  
 声は深空ちゃんと高海ちゃんにも聴こえるくらい大きくなっていた。  
 二人の肩がさっきからぴくぴくしている。  
 退路は断たれた。  
 完全に。  
 これでも二人のプライドは山より高い。  
 少女は頬に人差し指をさして、クールな風貌に似合いもしない、けれど口元が思わず緩んでしまう、そんな可愛らしいポーズをとる。  
 いや、実際可愛い。  
「では、息災と、友愛と、再会を」  
 そして別れの言葉と共に、いまはぎゅっと握ってるぼくの手を、《早く行こう行こう》、そう言うように引っぱった。  
「……それじゃ二人とも、その、……頑張ってね」  
「はい」  
「はい」  
 こくんと頷く深空ちゃんと高海ちゃん。  
 ずきりと痛むぼくの良心。  
 少女に連れられて歩く、真に真っ暗な闇の中を、一度だけ振り返ると、ぼんやりと浮かんでる二人のシルエット。  
「…………」  
 帰ったら二人の頭を撫でてあげよう。  
 なんてなどこぞの漫画の主人公みたいな、自惚れたことを考えてたのがバレたのか、振り向いた崩子ちゃんに「きっ」と睨まれた。  
 
 
 28  
 
 時間を省略したかのようだった。  
「…………」  
 いや、そうじゃない。  
 まるで消し去って飛び越えたみたいな、そんな、眼で見ても観えない不思議な感覚。  
 ぼくには瞬間が少しも認識できなかった。  
 少女の手に握られてる魚も、きっとそうだったろう。  
 あのときと同じ。  
 結果だけだ。  
 そんなものは四年も前で、とっくに完治してるはずの腹部が、ずきりと、引き攣るみたいに、鈍く疼くみたいに鋭く痛む。  
 ぼくは思わず腹を押さえた。  
 未来への動きの軌跡は読ませずに、結果だけを残して、崩子ちゃんが、おかっぱの髪を揺らして振り返る。  
「戯言遣いのお兄ちゃん」  
 魚を高く上げてぼくに見せてくれた。  
 それは別段、自慢げでもなく、得意気でもなく、さも当然のように、おそらく、この少女を知りもしない他人には、そう見えただろう。  
「…………」  
 でもそうじゃない。  
 主人に狩った獲物を逐一見せたがるのが、何も猫科の動物に限ったことじゃないと、ぼくはこの四年間でこの少女から学習した。  
「わんわん」  
 そして気づけばさらに一尾を、反対の手に持って、崩子ちゃんはゆっくり岸へと上がってくる。  
 濡れてる足をぴちゃりぴちゃりと、川原の石に晒しながら、ちょこんと、ぼくの隣りに可愛らしく腰を降ろした。  
「二尾で足りますよね?」  
 バタフライナイフで魚の腹を手早く捌き、ずぶりと、口から小枝を突き刺しながら、崩子ちゃんが小首を傾げて訊いてくる。  
「…………」  
 相変わらず少女の仕草は四年経ってもツボだ。  
 飽きないね。  
「崩子ちゃんは夕飯どうするの? それとももう何か食べた?」  
「いえ。これからです」  
 ポケットをごそごそして、さっと取り出したのは、みんな大好きカロリーメイト(マンゴー味)。  
「足りるの?」  
 この少女は徹底した肉差別主義者なので、魚は当然食べないだろうけど、それだけでは育ち盛りなだけに、自称保護者としては心配だ。  
 
「…………」  
 もしかしてもしかすると、ダイエットでもしてるんだろうか?  
 頭巾ちゃんもそうだったけど、この年頃の女の子は、それが自らに与えられた使命だと、勘違いしてそうだから怖い。  
 はっきりいって病気だよあれは。  
「ええ。お昼はちゃんと食べましたから平気です」  
「ああ、そうなんだ」  
 それは一安心。  
「にしんそばのにしん抜き、とても美味しかったです。今度また行きたいですね、お兄ちゃん」  
「うん。あのコラボは意外なほど美――」  
 いや待って。  
「崩子ちゃんはそれを、どこで食べたのかな?」  
 まぁ、高海ちゃんと深空ちゃんが都合よく現れた段階で、今日の三人の一日のスケジュールは、大体手に取るようにわかったりするが。  
「お兄ちゃんの四つ隣の席にいましたよ。哀川潤さんにご馳走していただきました」  
「は?」  
 焚いてあった火の周りに、魚を丁寧に並べながら、何でもないことのように少女は言うが、……え? 誰にご馳走されたって?  
「最初は」  
 弱冠ぼくから視線を逸らしながら、しかし悪びれた風もなく、崩子ちゃんは事の次第を説明する。  
 ぺきりと枝を折る音が、辺りに妙なほど響いた。  
「お兄ちゃんがアパートを出てすぐに、バイクで追いかけようかと思ってたのですが、エンジンがどうやっても掛かりませんでした」  
「だろうね」  
 ミココ号はぼく以外の人間、特に若い女性の言うことは聞かない。  
 後ろのシートに乗せることすらも極度に毛嫌いする。  
 随分前に一度、みいこさんを乗せたときなど、ブレーキが利かなくなったうえに、暴走までしやがって本気で死ぬかと思った。  
「…………」  
 エヴァじゃねぇんだからさ。  
 ちょっとくらいなら他人を乗せてもいいじゃん。  
 勿論愛してるって巫女子ちゃん。  
「そこで難儀していると、あらかじめ約束でもしてたみたいに、哀川潤さんがクルマで颯爽とやって来て――」  
 そのシーンが簡単に眼に浮かぶ。  
 三人の少女を『悪りぃ悪りぃ待たせたなぁ』、そう言って有無を言わさず、愉しくて堪らん嬉々とした表情でクルマに乗せたらしい。  
 そしてほぼ丸一日の尾行。  
「…………」  
 あの人も忙しいのか暇なのかよくわかんない人だ  
「お兄ちゃんたちがクルマを捨ててからは、哀川潤さんとは別行動ですが、戻ればみい姉さんのクルマは直ってますよ」  
「そうなんだ」  
 
 崩子ちゃん。  
 ありがとうだけどさ、もうちょっと早く教えに来てくれると、ぼくとしてはより嬉しかったり。  
 元の道は距離にして十キロはあるだろう。  
 まぁ、それは、この際、ホントに、津々浦々、どうでもいいけどね。  
「澪標姉妹が勝手に先走ってくれたので、姫姉さまやお兄ちゃんの隣りにいた髪の長い人には、どうも途中で気づかれてたみたいです」  
「そうなんだ」  
 どうも姫ちゃんがぼくの方を、ちらちらと、やたら見るとは思っていたが。  
 だから子荻ちゃんもあんなルートを、二人に気づいてたからこそ、わざわざ通ったのかもしれない。  
 玉藻ちゃんは、  
「…………」  
 あの娘は気づいても気づかなくても、そんなものはどうせ一緒だろう。  
「殺気はなかったので放って置かれたみたいですが、助かりましたね。姫姉さまにでも迎撃されてたら、命はなかったですよあの二人」  
「そうなんだ」  
 危ない危ない。  
 二人がそうして放って置かれなければ、ぼくはいまごろは山の熊さんに、美味しく愉快に食べられてたはずだ。  
「…………」  
 もっとも。  
 その場合は代理品が用意されてるんだろうけど。  
「でも本当に今夜のお兄ちゃんは、二人のこともそうですが、最初の遭遇が熊なんですから、憑りつかれたみたいに運がいいですよ」  
「そうなんだ」  
 お? 魚がいい具合に焼けてきてる。  
 空腹は最高の調味料。  
 普段は特に食指のそそられない食べ物も、そう、キムチ大盛りだって、いまのぼくにとってはご馳走だ。  
 手を伸ばす。  
 息を吹きかけて、ぱくりと一口。そしてもぐもぐと。  
「…………」  
 うん。  
 美味い。  
 喉元過ぎれば何とやらで、事態は多少の光明は見えたものの、まるで何にも解決してないのに、ぼくは完結した気分になっていた。  
 当然。  
 完結したものは解決しなくてはならないのに。  
 迂闊。  
 間違えて、思ってしまった。  
「哀川潤さんに聞いたところでは、この山に、ぞくぞくと集まってるらしいですよ。プロのプレイアー」  
 カロリーメイトをはむはむしながら崩子ちゃん。  
 
 耳に入れたくはないけど、入れとかないと命に関わる話を、ぼくの横顔をじっと見つめながら、噛んで含めるように話してくれる。  
 せっかく美少女と暗闇で二人っきりなのに、ひたすらに色気のない話だった。  
「…………」  
 ああ、でも、それは部屋にいるときも一緒か。  
 ぼくの抱きまくら。  
「お兄ちゃんにも知ってる人が、この中にいるかもしれませんね」  
「ふうん?」  
 これでも本格的にあっちの世界に踏み込んで四年。  
 そこそこは場数を越なし、噂だけでなく体験として、かなりのプレイアーをこの眼で、見るのではなく観てきている。  
 有名どころならわかるはずだ。  
「まず哀川潤さんを筆頭に、《愚神礼拝》の零崎軋識・《自殺志願》の零崎双識・《戦闘メイド》の千賀三姉妹・《病蜘蛛》の市井遊馬・  
《人喰い》の匂宮出夢と理澄・《拷問狂い》の園崎魅音に《鉈女》のレナ、……etc etc」  
「なるほど」  
 知ってる人も数名いる。  
「…………」  
 しかし話が通じそうな奴がいない。  
 きっと。  
 百鬼夜行やサバト、それにオカルト満載のハロウィンってのは、こんな感じだろう。  
 お菓子はいらんから命を出せって奴ばっかりだ。  
「…………」  
 そして勿論お菓子も食べる。  
 こうして考えてみてわかったことは、ぼくの知り合いには破滅的に、ろくなもんじゃない奴が多いということだ。  
 そんなのは、ホントに、いまさらだけど。  
「接敵されたらわたしだけで、お兄ちゃんを守れるかどうか。崖を背負って登るのも、まさか哀川潤さんじゃあるまいしで不可能ですし」  
「例え崩子ちゃんにできたとしても、それはちょっとばかり嫌かな」  
 ぼくが背負われるのは、逆ならばともかく、些か以上に絵面が萌えなければ美しくもない。  
「…………」  
 いやいや、待ってよ。  
 それはそれで、なかなか萌えは、結構あったりするのかな?  
 ふむ。  
「このテーマは熟考する価値があるな」  
 言いつつキレイに喰い終わった二尾の魚の骨を、ぽいっと火にくべると、同じくカロリーメイトを胃に収めた崩子ちゃんの手を取る。  
 
「そろそろ行こうか」  
「けれど、わたしだけでは――」  
 繋がれた手をじっと見ながら、崩子ちゃんは小さく呟いた。  
「だいじょうぶ。崩子ちゃんがいてくれれば、安心」  
「あ」  
 ぼくは崩子ちゃんの手を引いて、その声よりも小さくて可憐な身体を起こす。  
「さ、行こう」  
「……はい。戯言遣いのお兄ちゃん」  
「うん」  
 なんだかなぁ。  
 少女を騙しているつもりなんて、一切合切でないのだけど、究極絶無で本心からの台詞なのだけど、背筋がぞくぞくしたりする。  
 ロリコン。  
「…………」  
 なんだかなぁ。  
 こうやって人は道を踏み外していくんだなと、妙に感慨深く思ったり思わなかったりした。  
 

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