「……うに? うにに?」  
 ぼくの右隣に座っていた玖渚が、突然、左肩を押さえて蹲った。  
「どうした?」  
「大変ですっ!! 大変なのですっ!!」  
 などと言いつつ玖渚は、食事中だというのに、バタバタと派手に身悶えてる。  
「だから、どうしたんだよ?」  
「トラブルなのですっ!! アクシデントなのですっ!! ハプニングなのですっ!! か、肩が、僕様ちゃん肩が、か、かか…………」  
 力を溜めるように一拍おいて、  
「かゆ〜〜〜〜いっ!! かゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆい、かゆ〜〜〜〜〜〜〜〜いっ!!」  
 猛烈な勢いで肩を引っ掻き始めた。  
 その姿が尋常じゃない。  
 床の上をぐるぐると、あっちこっち転げまわっている。  
 断っておくが――これは食事中の風景だ。  
 そんなのいまさらだけど、マナーとかエチケットとか言う言葉は、玖渚友の前には、一切合切で微塵も置かれてなどいない。  
 そしていまはそんなことよりも、  
「お、おい、友」  
 玖渚は手加減抜きの目一杯で引っ掻いてるのか、爪先が走るたびに、ぼろぼろとぼろぼろと、何かが次から次へと落ちてきている。  
 それを見て最初ぼくは、皮膚が破けたのかと思った。  
 だが血が出ている様子はない。  
「それは垢です。肩の悪い細胞が垢となってでているのです」  
 華麗に優雅にお辞儀する天才シェフ佐代野弥生。  
 烏の濡れ羽島に集う変人たちの中でも、比較的限りなく常識人だと思っていたが、やはり朱に交われば赤くなる。  
 実に嫌な感じにこの島の色に染まっていた。  
「…………」  
 可哀想に。  
 
 

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