この島には二人の人間が居る。
そのうちの一人は鑢七花、虚刀流七代目当主である。
もう一人は鑢七実、鑢七花の姉である。
「七花、ちょっと」
鑢七花は姉・鑢七実に声をかけられた。
「あそこの木。柿が生ってるから収穫しましょう」
「おぉ、本当だ。取ってくるよ」
「待ちなさい、姉の話は最後まで聞きなさい」
「? わかった」
目上の存在である姉には全く頭の上がらない七花。
彼は姉の言う事を素直に聞き入れ、話の続きを促した。
「あなた、この前はまだ熟してないのに取ったでしょう?」
「あぁ、あん時は固くて苦かったな」
「だからわたしが選定するのよ」
「いや、姉ちゃんじゃ届かないだろ?」
以前七花が柿を取った時には持ち前の身体能力を生かし跳躍して収穫した。
その際七花は目についたものから取っていったため、まだ青い柿まで取っていた、と言うかそっちが大半だったのだ。
ゆえに彼女は自分が選ぶと主張した。
しかし、彼女は病弱の身である、姉思いの七花はあまり激しい運動をしてもらいたくないと考えている。
「姉ちゃんは病気なんだからさ、俺みたいに高く跳ぶのは無理だろう?」
「無理でしょうね、たとえ出来ても七花はさせてくれないでしょう?」
「そりゃあな、止めるに決まってるよ」
「だから七花には肩車してもらうわ」
「肩車? 親父の言ってた柔道の技の肩車か? 異種稽古してどうするんだ?」
「そっちじゃないわよ、わたしを担いでもらうのよ」
あぁなるほど、それも肩車と言うのか、と七花は一つ賢くなった。
姉の言う事は絶対な弟・七花は説明を受けて、早速収穫しようと柿の木のところまで行った。
「それじゃ七花、わたしを担いでちょうだい」
「おおわかった。担げば良いんだな」
軽くしゃがみ、姉が肩の上へ乗るのを待つ七花。
七花にまたいで来た姉はとても軽く、七花はその軽さにすこしだけ驚いた。
落ちない様に両手を姉の足に添えつつ立ち上がり、姉に尋ねた。
「なあ姉ちゃん、これで良いのか?」
「ええ、大丈夫よ。今から熟したのを選ぶわね」
姉が橙色に熟し切った柿を選ぶ間、七花は手持無沙汰でぼんやりとしていた。
姉ちゃんって柔らかいんだな、と首に当たる太ももの感触を受けた七花は思った。
病気のせいか痩せ細っているにも関わらず、どこもかしこも柔らかい。
自身の引き締まった肉体しか知らぬ七花は、初めての感触に興味津津である。
初めての経験に、七花は無自覚に手に力を入れ、太ももの柔らかさを堪能していた。
「ぁ……んっ……」
へぇ、俺のと違って滑らかな手触りで気持ちいいんだな、とか。
あ、なんか汗ばんできた、これはこれで気持ちいいな、とか。
そんな事を考えながら姉の太ももを(その自覚がないけれど)弄っていた七花は、やっと姉の声に気付いた。
「どうした姉ちゃん? 体調崩したのか?」
「いえ、そうでは、ないわ……ぁ……」
その声が体の調子が悪く苦しんでいる声ではなく、快感により喘いでしまっているとは気づきもしない七花。
一般教養だけでなく性知識にも乏しい七花は、その声が自分が足を触っていたせいであるとは思いもしない。
「なら姉ちゃん、なんで苦しそうな声出すんだ?」
「七花……あなたの、せいでしょう?」
「? 俺なにかした、姉ちゃん?」
「とにかく、手を動かすのは、やめて」
「ん? あぁ、いつの間にか動かしてたんだな。分かった」
ようやく自身が姉の体を弄り倒している事に気づき、その動作をやめる七花。
七実は弟の妙技でほんの少し顔が上気しており、いまだに息が整っていない。
七実も七花と同じく性知識はそれほど持ち合わせていなかったが、雌の本能がその行為を悦んでいた。
無垢だった七実が初めて快楽に身を投じた瞬間だった。
その日以来、木の実の収穫は姉弟そろっての行動となった。
毎回七花が肩車をし、七実が選定・収穫を行う。
その一連の流れの中に七実が食料調達以外の何かに意味を見出している事を七花が知ることはない。
〜終〜