太陽が昇りだそうとし、空が明るみ始める時刻。
耳朶に響き渡る、とてつもなく甘い声。
阿良々木暦を眠りから覚ました声は普段のものとは違っていた。
普段通りであれば妹たちの暴力を伴った目覚ましが大半なのだが、今朝は違っていた。
何事か、と思い目を開いた彼の視界に映ったものは。
彼自身より一回りは小さい丸みを帯びた肉体、さらさらとした綺麗な金髪。
呼吸音とともに喘ぎ声が漏れ、ときおりびくんとはねあがる身体。
彼の右腕を枕とし、秘所やら胸やら全部ひっくるめて擦りつけているその人物は。
ベッドに潜り込み、自身の体を使って自慰行為に耽っている忍野忍だった。
何故? とか 何事? と言った疑問符で頭がいっぱいになる暦。
戸惑っている暦の動きで起きたことに気付いたようで、忍は動きを止め、暦に声をかけた。
「おはよう、お前様。といっても儂はもうすぐ寝るのだがな」
「お、おはよう忍……何してるんだ?」
「いやの、久しぶりに自らを慰めるのも乙なものかと思うてな」
へぇ、吸血鬼でもオナニーなんてするんだな、などと考えている暦。
現時点ではそんなことよりもっと考えるべき事項があるのに寝起きのせいか頭が働いていない。
「おかずを目の前にしてするのは贅沢じゃぞ、お前様」
「はぁ…………オカズって僕か!?」
「おや、まだ頭が働いておらんかったのかの? まあよい、そのまま体を貸しておけ」
そう言い放つと、またも身体を擦りつけ始める忍。
小さいけれど、柔らかで確実にふくらみを感じさせる胸が暦の腹部に。
穿いていないようで、たまに「ぬちゅ」などと液体の滴る音を奏でる秘所が暦の太ももに。
それ以外にも全身で抱きしめるかのようにして暦に密着し自慰行為に耽る忍。
「し、忍!?」
「そのまま動く出ないぞ……儂はもうすぐ、ぁ、逝けそう……んっ!」
ひときわ大きな声をあげ、絶頂を迎える忍。
既に濡れていた部位から潮を吹きだし、まるで痙攣したかのように身体を震わせている。
その間も暦は事態についていけずただ疑問符を浮かべているだけであった。
「ふぅ……賢者タイムじゃ、そのまま寝るとするかの」
「あ、あぁそう」
「お休みじゃお前様、片づけはよろしく頼んだでの」
「あぁそう……はぁ!?」
言うが早いか忍はそのまま暦の影の中へと帰って行ってしまった。
後に残されたのはなぜか右太もものあたりだけ思い切り濡れているパジャマと、潮がかかりパジャマ同様濡れているベッド。
そして急展開すぎてついていけていない阿良々木暦だけであった。
しかし、時間は刻一刻と過ぎており、ある時間となった。
「兄ちゃん、朝だぞっ! 早く……」
「お兄ちゃん、早く起き……ないと……」
妹たちが、いつものように起きてこない兄を起こしに来る時間であった。
ドアを蹴り開けてなだれ込んできた妹たちが目にしたその光景は。
お漏らしをした兄、のように見えなくもない訳で。
「兄ちゃん!? 高校生でお漏らしはさすがにダメだぞ!! 近づきたくねえ!!」
「そんな!? お兄ちゃんがこの年になってお漏らしをするなんて!! 嫌あぁっ!!」
下の階の親にも聞こえるであろう大音量でそう言って部屋から逃げだす妹たち。
暦はただ茫然と座りつくしていることしかできなかった。〈終〉