「はい、こことこことここが間違い」  
「え、ここも違う? ……ああそっか、  
 二種類酸が出来るのか」  
「うん、次亜塩素酸を聞く引っ掛け問題っていうか、  
 重箱の隅をつついた問題。  
 過去センターでは追試も含めても2回しか出てないけど、  
 2回も出てる問題、とも言えるからね」  
「……もしかして羽川、各問題の出題回数とか全部覚えてるのか?」  
「まさか、こうやって阿良々木君に出題してる問題は、  
 作るときに全部調べながら選んでるから、覚えてただけだよ」  
「お前は何でも知ってるな」  
「何でもは知らないわよ、知ってる事だけ。  
 ……ってどうしてこう何度も言わせたがるかな、違うって言ってるじゃない」  
「ありがとう、それでも言ってくれる羽川さんが、僕は大好きだよ」  
「はいはい、馬鹿な事言ってないで、それじゃもう一回こっち解いてみて、  
 この調子だと、もう次で全問正解出来るかな」  
「……今更だけど悪いな羽川、問題作るのだけでも相当な手間だろうに、  
 こんな遅い時間までつき合わせて」  
「気にしないで、寧ろこっちこそ夕飯までごちそうになって、  
 悪いかなって思ってるくらいなんだから」  
「それにしたって、僕が問題を解いてる間すごく暇で退屈だろ?  
 今度から何か時間をつぶせる本とか用意しておくよ。  
 特に読みたい本無かったんだよな? 僕の本棚」  
「いいよ別に、阿良々木君が勉強してる所を見るの楽しいし」  
「楽しいかあ?」  
「うん、私と同じ大学に行くために、こんなに頑張ってくれてるんだなーこの彼氏は、  
 って思いながら見てると凄く楽しいよ」  
「それ、嫌味か?」  
「どっちかって言うと、プレッシャーをかけてるつもり」  
「……精一杯頑張らせていただきます」  
「よろしい」  
 
 そして再び視線を下げて問題に向かい始めた阿良々木君を眺める。  
 今しがた言った事に嘘偽や遠慮に気遣いは全く無く、  
 本当にこうやって阿良々木君を眺めているのは楽しかった。  
 少なくとも、好きに漫画とか読んでもらっていいから、と言われて漁った本棚に、  
 エッチな写真集を見つけた時より、遥かに心穏やかで居られる。  
   
 阿良々木君の勉強を見てあげるようになったのは、  
 彼と付き合うようになったのとほぼ同時だった。  
 初めてキスをしたのも、初めてエッチをしたのもこの阿良々木君の部屋で、  
 勉強を見てあげた後や、いけないんだけど偶には勉強の最中に、そういう事を何度もした。  
 だからといって勉強をおろそかにしているつもりはない。  
 阿良々木君はもともとやれば十分に出来るくらい賢かったという事もあり、  
 順調に成績は伸びてきている。  
 このままのペースで成績が上がり続ければ、本当に私と同じ大学に入る事が出来るだろう。  
 まあそう簡単に、物事は上手くはいかないんだろうけど。  
   
 何て考え事をしていると、問題につまったのか向かいに座っている阿良々木君の手が止まっていた。  
 この部屋にある勉強机は、二人で向かうには少し小さく、  
 そもそもイスが一つしか無かったので、私が来るようになってからは、  
 背の低い座敷用のテーブルを出してきてもらって、二人で向かい合って床に座っている。  
 ベッドの縁に置かれた時計を見ると、10時を少し回ったところ。  
 私はなるべく阿良々木君の集中を切らさないように立ち上がり、  
 彼の背後のベッドに腰掛けた。  
 背後から覗き込むと、あと残った問題は1問で、  
 それ以外の問題も、全問正解している。  
 この化学のテストを全問正解すれば、今日のノルマは終了の予定だ。  
   
「よし……出来た、と思うけど」  
 
 最後の一問の答えを書きいれ、  
 何処か自信なさ気に阿良々木君がそう呟いた。  
   
「どれどれー?」  
 
 もう全問正解なのはわかっているんだけれど、  
 ちょっと意地悪して回答を確認するフリをする。  
 ベッドから腰をあげ、背後から阿良々木君の頭を抱きしめるように身を乗り出して、  
 頭上から回答を覗き込んだ。  
   
「あのー羽川さん、そういう事されるともし間違ってても、  
 もう一回やり直し出来る精神状態じゃなくなっちゃうんですけど?」  
「え、なんで?」  
「いやいや解るだろ? 自分の胸に聞いてみろって」  
「ちょっと解んないな、阿良々木君代りに聞いてみてよ」  
   
 言ってさらに深く、もはや頭を挟むように胸を押し付ける。  
   
「ホントちょっと待ってくれ羽川――」  
「んっ」  
 
 見上げるようにこっちを向いた阿良々木君の顔は既に真っ赤で、  
 それがなんだか可笑しくて、気がついたら上下逆さまなのも気にせずに口付けていた。  
   
「んっ……っとと」  
 
 そのまま深く口付けようとした所で、眼鏡が落ちそうになって顔を離す。  
 まだポカンとしている阿良々木君の頭を胸に抱えたまま。  
   
「大丈夫、全問正解してるよ?」  
 
 少し意地悪く言った。  
 
「なんだか今日は随分と積極的だな、羽川」  
「そう? 阿良々木君がで問題を解いてる間、すごく暇で退屈だったせいかも」  
「それ、嫌味か?」  
「どっちかって言うと、彼氏に構って欲しいなーって言ってるつもり」  
「……了解です」  
 
 両手が顔に伸びてきて、逆さまの無理な体勢なまま、今度は深く口付けられた。  
   
「んんんっ」  
 
 舌が普段と違った場所を違った角度で責めてくる。  
 前歯と舌の間の、柔らかい所を擦られ、  
 かと思うと巻きつくように舌が絡み付いてきた。  
 粘膜同士が擦れるグチュグチュという卑猥な音と、  
 いつもと少し違って聞こえる互いの息遣いが部屋に響く。  
   
「ぷぁっ、ごめんちょっと待って」  
 
 ぼやけた視界の中で、阿良々木君が少し苦しそうな声を上げた。  
 いつの間にか私の眼鏡は阿良々木君が持っていてくれたみたい。  
 彼はこういう細かい気遣いが出来る人なのだ。  
   
「流石に首が痛い」  
「……ちょっとは我慢しようよ、男の子なんだから」  
 
 まあ、私もちょっと無理な体勢で苦しかったし、  
 本気で文句を言った訳では無いけれど。  
   
 苦笑しながらテーブルに私の眼鏡を置いた阿良々木君に、  
 そのまま背後のベッドへ押し倒される。  
   
「いやでも今の意外と苦しいって、スパイダーマンみたいに上手くキスできないし」  
「スパイダーマン? ああそういえば、そんなシーンもあったね。  
 糸にぶら下がったまま、上下逆さまの状態でキス」  
「しかも雨の中でだぜ? どれだけアブノーマルな状態なんだよって話だ」  
「じゃあ普通にしよ? んむ、ちゅうっ」  
 
 被さるように私に密着した阿良々木君の重さが、  
 少し苦しくて心地良い。  
 普段は意気地がないというか、遠慮しすぎなくらいなのに、  
 いざ事が始まると、多少強引にでも私を求めてくる。  
 荒々しい、という訳ではないのだけれど、  
 優しく押しつぶしてくる感じ。  
 
 たっぷり4,5分くらい何度も口付けられ、  
 息苦しくなってきたところで、舌を開放された。  
   
「んは、はあ、はぁ」  
「大丈夫か? 羽川?」  
「うん、大丈夫」  
 
 笑いながら阿良々木君の後頭部を撫でる。  
 すると今度は首筋とか、鎖骨のあたりを舐めるように愛撫されはじめた。  
   
「ふっ、ん……そうだ阿良々木君、スパイダーマンじゃないけれど、  
 今度息抜きに、映画でも見に行こうか?」  
「ん、いいのか? 遊びになんか行っても」  
「多少息抜きは必要だって、まだ夏なんだから先は長いし。  
 それに阿良々木君最近よく頑張ってるしね」  
「サンキュ、でも何だか羽川の口から、息抜きなんて単語が出るのは意外な感じ」  
「……そんなに阿良々木君が、もっと私に厳しくして欲しいっていうならそうするけど?」  
「いやリクエストとしては、僕が先に息抜きしたいよーって言うと、  
 もうだらしないんだから、もっとシャキッとしなさい、  
 とか言いながらも甘やかしてくれる感じというか」  
「そんな意味不明なリクエストは聞けません。  
 あんんっ」  
   
 いつの間にか前をはだけられ、ブラの上から胸をすくい上げるように揉まれた。  
 そして直ぐにベッドと体の間に手が入ってきて、ホックを外される。  
   
「こんな事ばっかり上手くなって」  
「羽川のブラなら全部一瞬で外せるぜ、  
 あの水色のレースっぽいやつだけはちょっと面倒だけど」  
   
 手は胸に置きながら、谷間の部分に顔を埋められる。  
 私は何だか汗の匂いをかがれている気がして、最初は嫌がったんだけど、  
 こうするとすっごく幸せな気分になれるんだ、と力説されてからは許している。  
 というか諦めている。  
 引き続き私は両手で阿良々木君の頭を撫でながら、髪の毛をさらさらと手で遊んでいた。  
   
「……もしかして阿良々木君、私のブラのホックの構造全部覚えてるの?」  
「おいおい何を今更当たり前だろ羽川?   
 そんなのお前と付き合うようになってから2週間で全部覚えたぜ」  
「阿良々木君は何でも知ってるね」  
「何でもは知らないぜ、羽川のおっぱいの事だけ」  
「それと洋物全集2005の46ページから、  
 5ページにわたって紹介されているブロンドの女の子の事くらいかな?」  
   
 ピタリ、と阿良々木君の動きが止まる。  
   
「いやーやっぱり向こうの人可愛いし、はおっぱい大きいよねー?  
 そりゃあ本に折り目が付くくらい見ちゃうよねー?」  
「痛い痛い! 羽川さん爪がっ、後頭部!  
 ていうか何で知ってるの……ああ、さっき!」  
   
 エロ本くらい彼女の目の届かない所において欲しいものである。  
 結構本気で、阿良々木君の頭に爪を立てた。  
   
「いや、別に怒ってるわけじゃあないんだよ?  
 阿良々木君がプライベートでどんな本を買っていようと、  
 それが私と付き合うようになってからも、月3冊のペースを維持していようと?」  
「明らかに怒ってますよね羽川さん!?  
 ていうか今度は本当に何でそんなことまで知ってるんだ?」  
「まあ私が満足させられてないっていうなら、しょうがないって思うんだけどさ」  
「そんなことありません、羽川さんのおっぱいが一番です。  
 羽川さんのおっぱいさえあれば他には何もいりません」  
「買ってるじゃない、エロ本」  
「いや、なんていうか妥協だよ妥協、  
 羽川さんが居ない日は、ああいった本で妥協をね」  
「え、阿良々木君毎日してるの?  
 それとも男の子ってそういうものなのかな?」  
「そんな恥ずかしいこと言わないといけないのか?   
 あ、いやごめんなさい、他の男子はわかりませんが、  
 僕は毎日のときもあります。  
 でも普段は週5,6回くらいです」  
「殆ど毎日じゃない……でもそっか、  
 そんなに若さをもてあましてたら、しょうが無いのかな」  
 
 言って阿良々木君の頭を解放してあげる。  
 けれど阿良々木君は幸せポジション(彼命名)から顔を退ける様子は無かった。  
 
「許していただけるのでしょうか?」  
「うん、だけど今ある本は捨ててね?  
 それで今度からは、せめて私から隠し通すように」  
「そんな無茶な」  
「じゃあ諦めなさい、代りに私のおっぱいなら、  
 出来る限りいつでも触らせてあげるか、らっ」  
   
 言い終わる前に阿良々木君は動きだしていた。  
 胸の全体をそれぞれの手で包み込むように揉みながら、先端を唇でついばまれる。  
 彼は私に体重をあまりかけないよう、  
 起用に両肘でバランスをとりながら、愛撫を続けた。  
   
「ふぁぁ、んんっ」  
 
 軽く歯を立てて吸われたり、その状態のまま先端の部分を舐められたりした。  
 その度に私は自分でもびっくりするほど、いやらしい声を出してしまう。  
   
「あ、ああん……あぁ、あっ」  
   
 ジンジンするし、される程に切なくなってくる、  
 けれどやめて欲しくない。  
 そのまま彼に抱きしめらるようにされながら、もう一度キスをされた。  
 同時に空いている方の手で、やっぱり起用にスカートと下着を取り払われる。  
 
「んぁぁぁああっ!」  
 
 突然酷く淫猥な声が、キスを押しのけるように出る。  
 それを自覚した後に、ようやく彼の指が一本、  
 とても深いところまで差し込まれている事に気がついた。  
   
「うわっ」  
「……うわ、とか言わないでよ馬鹿」  
「いやなんか、思ったより凄くすんなり入ったっていうか、  
 むしろ飲み込まれたっていうか」  
「黙れ……うあん、やっ、そこっ」  
 
 そのまま無遠慮に、ぐちゃぐちゃと中をかき混ぜられる。  
 言われて、いや言われるまでも無く、  
 自分のそこが彼の指を飲み込むように動いているのが解った。  
 自身の体ながら酷くいやらしくて恥ずかしい。  
   
「ちょっとまって、ゴムつけるから」  
 
 そう言って一度私の中から指を引き抜き、ベッドの下に置いてある箱を取り出した。  
 もう少し場所を考えてそういうものは置かないと、家族にバレバレではなかろうか?  
 まあエロ本すらマトモに隠せない彼には、どちらにせよ期待は出来ないけれど。  
   
「いくよ、大丈夫羽川?」  
「ん、早く……っ――はっ」  
 
 阿良々木君が中に入ってきた瞬間、思わず両手両足で彼にしがみついてしまった。  
 とろけきってしまった体が、勝手に快感を求めて動き出しそうになるのを、  
 歯を食いしばって必死に耐える。  
   
「きつっ、ちょっと力抜いてくれ、羽川」  
「やだっ」  
「やだって、このままじゃ動けないって」  
「動いたら気持ちよくなっちゃう」  
「何言ってんだっ? んっ」  
 
 自分でも何を言っているのか解らなかったので、彼の口と一緒にふさいでしまう。  
 我慢できなくなったのか、阿良々木君は結構無理やり体を引いた。  
   
「んっ、んんんんん!」  
 
 引き抜かれる時に擦れるのが気持ち良くて、  
 思わず彼を追うように、腰をこっちから打ち付けてしまう。  
   
「ふあああああんっ!」  
 
 小さく達してしまったかもしれない、よく判らない。  
 たった一往復の動きで、こんなにも乱れてしまうのが恥ずかしくて、  
 でもそんなことも気にならなくなるくらいに、気持ちが良かった。  
 私の拘束がゆるくなったのを境に、阿良々木君は激しく動きはじめる。  
   
「あら、らぎくんっ」  
「羽川っ、羽川っ!」  
 
 今更ながら声大きすぎるんじゃないか、なんて頭によぎって、  
 だからじゃないけれど、目の前にあった顔を抱き寄せてキスをした。  
 そして抱き合ったまま、一匹の淫らな獣のように私たちは動き続け、  
 事切れるように、一緒に果てた。  
 
「映画、どうしよっか?」  
 
 お互いに繋がったまま、息をととのえ、  
 そのまま何もせずに結構時間がたっていた気がする。  
   
「羽川は何か見たいのあるか?」  
「んー、あのジブリのやつとか?」  
「あれは家族で、っていうか妹達と見に行く予定なんだよな」  
「なんだ、私に言われるまでも無く遊ぶ機満々じゃない」  
「あいつらが一緒じゃ遊びなんて感じじゃねえよ、餓鬼のおもりだ。  
 むしろストレス貯めて帰ってくると思う」  
「はいはい、シスコンの惚気話は聞き飽きましたよーだ」  
「まあ映画は今度でもいいかな、  
 それよりこうやって偶にはガス抜きしないと、  
 羽川さんが溜まって今日みたいに偉い事に……痛い痛い!」  
「阿良々木君わざと言ってるでしょ?」  
「いや、なんていうか羽川に怒られるのが何か嬉しいっていうか、痛っ!」  
「変態発言も程ほどにしないと愛想つかしちゃうよ?」  
 
 なんて、火憐ちゃんと月火ちゃん達が呼びに来るまで、  
 私たちはベッドの上で二人でごろごろと時間を過ごしていた。  
   
 おしまい  
   
   
 

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