七月も後半に入ると、どこからともなく現れた蝉が狂ったように騒ぎ始める。  
 京都は六月にはもう夏と言ってもいいほど暑くなるが、やはり六月の暑さと七月の暑さというのは違う気がする。ただ  
の気持ちの問題なのかもしれないけれど。  
 
 ミミミミミミミミミミ……  
 ジジジジジジジジジジ!  
 
「師匠、蝉っていう生き物は夏にしばらく鳴いてすぐ死んじゃうです。その間に奴らが成す事は何一つありません。その  
癖にうるさいし、飛ぶし、おしっこかけるし、百害あって三千里とは正にこのことですよ。姫ちゃん、蝉は人類の手でこ  
の世から残らず根絶した方がいいと思うですが師匠はそれについてどうお考えですか?」  
「そんな自分勝手な事言ってどうするの。姫ちゃん、悪いけど話逸らそうとしても無駄だよ」  
 ぼくは手に持った紙を、水戸光圀公の印籠よろしく姫ちゃんの顔の前に突きつける。  
「これはどういうこと?」  
「うっ……」  
 悪事を暴かれた凶悪犯のようにうろたえる姫ちゃん。すっと、ぼくの手にある学校から郵送されてきた成績表から目を  
逸らす。  
「…………」  
 ぼくは無言で成績表を再びずいっと突きつける。  
 ……すっ。  
 ずいっ。  
 ……すっ。  
 ずいっ。  
「な、なんですかそれ? 姫ちゃん知りません。きっと間違えて送って来たんですよ。あ、あ、もしくは誰かが姫ちゃん  
の名前を騙って勝手にテストを受けたですよ。だからそれは姫ちゃんじゃないです!」  
「お前はキングオブ滅茶苦茶か」  
 観念したと思いきや、今度は開き直りとやけくそと言い訳と逆切れのコラボレーションで反撃してきた。なんて娘だ。  
ぼくはため息をついて言う。  
「あのね、そんな屁理屈ばっかり言って逃げようったってそうは行かないからね」  
「屁理屈も理屈の内です!」  
「だからそれが屁理屈だろ」  
「また師匠はそうやって頭ごなしに決め付けるですけどね。それじゃ師匠はその成績表が本物かどうか学校に問い合わせ  
たですか? それが偽物じゃないってどうして言い切れるですか! 証拠もないのに決め付けてかかるなんて師匠は本当  
にダメ人間です。それより師匠、姫ちゃんはおトイレに行きたいのでさっさとそこをどいて欲しいのです!」  
「はいはい、言い訳は後で聞くから。ちょっと来い一姫」  
 そう言って、ぼくは姫ちゃんの両脇を持ってひょいっと持ち上げる。同世代の女の子の中でも特に小さい姫ちゃんの体  
は地上から一メートルほど浮き上がった。  
「うきゃー! セクハラぁ! 何するですか、姫ちゃんもう十七歳ですよ!」  
「うるさい、ちょっとお説教だ」  
 そのままじたばた暴れる姫ちゃんを連行する。  
 まったく、最近は口ばっかり達者になって困ったもんだ。  
 
 次の日から、姫ちゃんの勉強特訓が始まった。  
 姫ちゃんも始めの内はぼくの目を逃れようとこそこそ隠れていたけど、みいこさんの説得のおかげでなんとか毎日来て  
くれるようになった。もっともそのみいこさんも、始めの内は姫ちゃんをかばってわざわざぼくに注意しに来るほどだっ  
たのではあるが。しかし最終的にはぼくの熱烈な説得によって納得してくれたのである。  
 
「いの字、お前ちょっと姫をいじめすぎじゃないか?」  
「みいこさん、この成績票を見て同じ事が言えますか?」  
「…………」  
「…………」  
「……わかった、私からも姫を説得しておこう」  
 
 こんな塩梅。  
 姫ちゃんも現金なもので、以来態度を一変させてちゃんと勉強をするようになった。やっぱりみいこさんの言葉はぼく  
なんかと違って説得力があるのだろう。微妙に納得がいかないけれど、でもまあ納得できないこともない。  
 そういうわけで、姫ちゃんの夏休みは午前中が学校の補習、午後がぼくの家庭教師という勉強漬けの毎日になってしま  
った。  
 遊びたい盛りの姫ちゃんにそこまで勉強を強いるのはかわいそうだったが、しかし、だがしかし、このままでは卒業が  
リアルに危ういので、ぼくは心を鬼にして姫ちゃんにつきっきりで指導することにしたのだった。  
「ただいまですー」  
「あ、おかえり姫ちゃん」  
 部屋で改めて姫ちゃんに教える範囲の復習をしていると、制服姿の姫ちゃんがドアからひょっこり顔を出した。  
 高校の制服というのは不思議なもので、ともすれば中学生にも見えてしまう(というか普通に中学生に見える)この姫  
ちゃんですら、少し大人びて見えてしまう。よく考えたら姫ちゃんは十七歳なのだったなんて、当たり前な事に驚いてし  
まったりするのは、外見云々以外にも原因はあるだろう。  
「今日も暑そうだね」  
「はい、蝉がうるさいです」  
「そうだね」  
「なので崩子ちゃんに近所の蝉を全て退治するよう依頼しておいたです」  
「…………」  
「成果が出るのが楽しみです」  
「…………」  
 突っ込むに突っ込めず、ぼくは話題を逸らす。  
 
「でも姫ちゃん、毎日来るようになって偉いね」  
「はい。姫ちゃん、ちゃんとした大人になりたいですから」  
「ふうん?」  
「……はい」  
「…………」  
「…………」  
「…………」  
 それはいいけど姫ちゃん、なんで意味ありげにぼくを見ながらそんな言葉を。  
 …………。  
 みいこさん?  
「それじゃ姫ちゃん、着替えて来るですよ」  
「……うん」まだいまいち釈然としないが、まあ、聞き流すことにする。「うん、行っておいで」  
「はいっ!」  
 そう言って姫ちゃんは自分の部屋に戻って行った。軽いステップの足音が遠ざかって行く。  
 姫ちゃん、元気いっぱいだなあ。  
 ぼくは冷蔵庫からオレンジジュース(姫ちゃんの家庭教師を始めてから冷蔵庫に常備してある)を出してコップについ  
だ。そこに氷を浮かべれば、とりあえず夏場には最高級のもてなしとなる。夏休みなのに姫ちゃんはこんなに頑張ってる  
んだから、せめてこれくらいのねぎらいはしてあげたい。  
「お待たせしたです!」  
 しばらくして姫ちゃんが勉強道具を抱えて戻ってきた。  
 今日は黄色のタンクトップシャツにピンクのスカートという格好。原色で統一した幼い感じで高校生が着るにはどうだ  
ろうと言った感じではあるが、小柄な姫ちゃんにはよく似合っていた。その印象もあいまって、私服の姫ちゃんは本当に  
中学生に見える。  
 姫ちゃんの服はみいこさんに見繕ってもらっているらしいが、それを知った時は驚いたものだ。この格好にしても甚平  
を普段着にするみいこさんからは想像もできないチョイスである。鈴無さんほどではないが、みいこさんも中々美少女好  
きなのかもしれない。  
 ……人は、自分に無い物に憧れるというが。  
 確かにみいこさんがこの格好で現れたら、誉めるとか云々以前に心配になるかもしれなかった。  
「それじゃ、今日はまず数学からね」  
「はい。あ、師匠、今日学校でわかんなかったところがあるです」  
 そう言ってパラパラと問題集をめくる姫ちゃん。  
 随分変わったなあ。  
 ……きっかけはともかく。  
「この sinθ-cosθ が……」  
「ああ、これはね。…………、……」  
 
 コップの中で、溶けかけた氷がカランと音を立てた。  
 
「今度ここにお友達を連れて来たいですけど、構いませんか?」  
 ある日、いつものようにぼくの部屋にやって来た姫ちゃんがいつも通りの元気な笑顔で言った。  
「お友達?」  
「はい、正確には元先輩ですが。前の学校の先輩なのですよ。転校する前も、してからも、姫ちゃん本当に良くして貰っ  
てるですよ」  
「……ふうん」  
 前の学校、か。  
 首吊高校。  
 そこのことを、ぼくは未だによく理解できていない。  
 ある日突然哀川さんが「この娘を預かれ」と言って姫ちゃんを押し付けて行ったけど、ぼくは姫ちゃんの過去のことを  
ほとんど知らないのである。それとなく話を振ってみたこともあるが、いつも姫ちゃんは曖昧に言葉を濁すのだった。  
 あまり、良い過去とは思えないが──しかしこの姫ちゃんの嬉しそうな顔を見て、ぼくは少し、安心する。  
「それは是非お礼をしなきゃね」取り繕うように言う。「うん、是非連れておいで。遠慮は要らないよ」  
「はい!」  
 まるで子供のように喜ぶ姫ちゃん。姫ちゃんは年齢以上に幼い所があるので、まるで小さい妹でも持ったような気にな  
る。  
 …………。  
 妹、ね。  
「おもてなしとかもしないといけないです」  
「あ、そうか。でもこの家何も無いよ」  
「そんな事は見ればわかるですよ」  
 ぬけぬけと言いやがる姫ちゃん。  
 たまにこうやって毒吐くんだよなあ……。  
「でも何もできないじゃ困るですよ、ご招待するからには」  
「っていうか、そう言うのは姫ちゃんが自分で考えてやるべきだよ。姫ちゃんがお世話になった人でしょ?」  
「あ……そうですね。それじゃお世話係は姫ちゃんが任されました」  
「うん、任せたよ」  
 普段ならほぼ間違いなく面倒くさがりそうな係だが、姫ちゃんは嬉しそうだった。  
 よっぽどその先輩が好きなんだろうな、と思う。そう考えると、もしその先輩が男だったらなんだか複雑だ。あ、いや  
、でも前の学校は女子高だっけ。……今度はまるで娘を持った父親のような心境だった。  
「……さ、まあそれは置いといて。今日は昨日の確認のテストからだよ」  
「はいです」  
 問題に集中している姫ちゃんの邪魔にならないように静かに待つ。外からこれでもかと言わんばかりに聞こえてくる蝉  
の鳴き声に、崩子ちゃんが駆除してくれればもう少し静かになるかなあなんてとんでもない戯言をぼんやりと考えている  
と、姫ちゃんがぽつりと言った。  
「師匠、どうもありがとうございます」  
「ん? 先輩のことなら、別にそんなにかしこまらなくても大丈夫だよ」  
「いえ、そうじゃなくて」  
 そう言って、困ったような、申し訳ないような、嬉しいような、複雑そうな表情で笑う姫ちゃん。  
「先輩にも、師匠にも、哀川さんにも。姫ちゃんはずっとお世話になりっぱなしです」  
 
「…………」  
 その真っ直ぐな言葉に、思わず返す言葉に詰まる。  
 そう言えば、なぜだろう。姫ちゃんはいつも不安そうにしている。頼りなく、心細そうに、弱く見える。  
 何か、負い目でもあるような。  
 何かを裏切ってきたような。  
 何かを見捨ててきたような。  
 元気そうに笑っていても、快活そうに喋っていても──覗く、暗い部分。  
 まるで容易く壊れてしまいそうなくらい、脆い気がする。  
 だからと言うわけではないけど。  
 だからなのかもしれないけど。  
 つい、何かしてあげたくなる。  
 それがたとえ、こんな些細な、他愛のない事でも。  
「姫ちゃん」  
「……なんでしょう」  
 神妙そうに答える姫ちゃん。ぼくは姫ちゃんの目を見つめながら、静かに言った。  
「おっぱいが見えているよ」  
「…………」  
「…………」「…………」  
「…………」  
「…………」「…………」「…………」  
「…………」  
 重い沈黙が続く。  
 そっぽを向いて黙り込んでしまった姫ちゃんの背中を見て、さてこの状況はどうしたものかと自分でやっておきながら  
困っていると、  
 ふと。  
 ぞわり、と、違和感を感じた。  
 何か、雰囲気で……そんなことがあるはずも無いのに、体の自由を物理的に拘束されたような。  
 まるで次の瞬間、体中がバラバラに引き裂かれてしまいそうな、本能的な恐怖が頭をよぎる。  
 しかしそれも一瞬のことで、すぐに元に戻る。  
「師匠のえっち!」  
 姫ちゃんが振り向きながら叫ぶ。  
「…………」  
「変態! 卑劣漢! ケダモノ!」  
「…………」  
「痴漢! 助平! えーっと……変態!」  
「それはさっき言ったよ」  
「うっ、ううーっ!」  
 泣きそうな顔で悔しそうに歯噛みする姫ちゃん。  
「なんでなんでそんなに偉そうにしてるですかっ! 居直り後藤とはこの事です! 師匠なんかもう知りませんっ!」  
「…………」  
 やりすぎた。  
 
「もう知らないです! この変態ししょ……んむぅっ!」  
「姫ちゃん、そんな大声出したら近所迷惑だよ!」  
「んー! んー!」  
 機先を制して姫ちゃんの口を強引にふさぐ。  
 その傍らで、姫ちゃんの両手を押さえつけつつさりげなく胸たっちも敢行する。  
「んー! んーっ!」  
「しーっ!」  
 既にぼくは姫ちゃんを抱きしめるような格好になっている。ぼくが不自然に胸に手をあてていることに動揺しているの  
か、軽いパニックに陥っているらしい姫ちゃんは必死に抵抗する。  
 いつまで経っても抵抗をやめない姫ちゃんに、ぼくは最終手段を決行した。  
「姫ちゃん、静かにしないと……こうだよっ」  
「んーっ?! んんー!」  
 タンクトップのかわいいシャツに手を差し込む。お腹を撫でながら姫ちゃんを抱き締める腕に力をこめると姫ちゃんは  
慌てて体をよじるように抵抗したが、体格の小さい姫ちゃんにはどうすることもできなかった。  
 そのまましばらく少女の肌を撫でる。すべすべの姫ちゃんの肌を指先でなぞりながら、絹のようなとはよく言ったもの  
だと感心してしまう。  
 お腹を撫でる手を徐々に胸に移動させると、姫ちゃんはどうやら下着をつけていないようだったので、これ幸いと小さ  
いながらもふくよかに柔らかい胸の膨らみを揉みしだく。なだらかに盛り上がった双丘をつつ、となぞるように上り、そ  
の頂きにある少し固くしこった部分をきゅっとつまむ。そのまましばらく姫ちゃんの、恐らくかつて他の誰にも触られた  
ことの無いであろう部分を思う存分堪能する。……それにしても姫ちゃん、いくら小さいと言っても17歳の少女である、  
やはり下着くらいは着ていた方がいいのではないだろうか。そんな事をまるで無関係の第三者のようにぼんやりと思う。  
 小さな胸をできるだけ優しく揉みながら、口を塞いでいた手を離して姫ちゃんの唇を奪う。姫ちゃんは驚いたようにびく  
りと体を震わせたが、大人しくぼくの仕打ちを受けている。最後にぺろりと姫ちゃんの唇を舐めて、ぼくは顔を離した。  
 改めて姫ちゃんと向き合う。姫ちゃんは羞恥に顔を真っ赤に染めながら、目をぎゅっと閉じて、ひたすらぼくの気の済  
むのを待っているようだった。或いは静まらないとやめないと言うぼくの言葉に従っているのだろうか、気がつくと姫ち  
ゃんの抵抗もほとんどなくなっている。ぼくは一旦行為を止めて姫ちゃんの言葉を待つ。  
「…………っ」  
 それでも姫ちゃんは何も言わない。  
 何かを言おうと口を開いても、それは言葉にならずにまた口は閉ざされる。  
 小さな嗚咽だけが部屋に響いていた。  
「……っ、こ、んなっ、こんなの、ししょお、っ……」  
「…………」  
「……えぐ、ひめちゃ、……ひっく」嗚咽にむせびながらも、姫ちゃんは言う。「姫ちゃんも、好き、ですけどっ……」  
「……姫ちゃん」  
 ぼくは改めて、正面から姫ちゃんを抱き締める。姫ちゃんはぼくの胸の中で泣きじゃくり続けた。  
 そのままじっと姫ちゃんを抱き締めていると、ようやく姫ちゃんは少しずつ落ち着いてきたようだった。頃合を見計ら  
って、ぼくは言う。  
「姫ちゃん、ごめんね」  
 何を今更、と言った感じだが、とりあえず謝っておく。  
 姫ちゃんは何も言わない。重苦しい雰囲気に包まれるが、ぼくは根気強く姫ちゃんの言葉を待つ。  
 やがて、姫ちゃんがまだ水分を含んだ声で言った。  
「師匠」  
「……うん」  
「なんで、こんなことするですか」  
「…………」  
 ぼくが押し黙ると、再び沈黙が降りた。今度は姫ちゃんがぼくの言葉を待っているようだった。  
「……その、えっとね」  
「…………」  
「姫ちゃんがあまりにもかわいくて、つい」  
「…………」  
 再び沈黙が降りる。姫ちゃんはぼくの胸に顔を埋めているので、表情が見えない。  
 
 しばらくして、ぼくの胸の中で姫ちゃんが呟くように言った。  
「……姫ちゃんはですね、別に、その」  
「うん?」  
「その……師匠は、その、だから、」  
「……うん?」  
「だからっ!」  
 何故か怒ったようにぼくの胸を叩く姫ちゃん。  
「いいんですよっ!」  
「…………」  
「…………」  
「……うん?」  
「だからっ!」  
 再び叩かれる。今度こそ怒ったように、姫ちゃんはぷいっと言った。  
「もうっ、師匠はもういいですっ!」  
「ごめんごめん、悪かったよ」  
 謝りながら、姫ちゃんに口付ける。  
「んっ……!」  
 突然の口付けに姫ちゃんはまたも驚いたように目をまん丸に開いたが、やがて目を閉じた。ぼくは目を閉じたりはしな  
い。今まで一緒にいた中で一番近い距離で、姫ちゃんを見つめる。  
 一度口を離して、再び唇を重ねる。今度は舌を伸ばして大胆に姫ちゃんを求める。  
「んむぅ……」  
 恐らくこんなことをするのは姫ちゃんは初めてなのだろうけど、最早されるがままな姫ちゃんは何も抵抗しない。ぼく  
はここぞとばかりに姫ちゃんの口の中を丹念に舐め上げる。  
「あむ……んー……」  
 初めてのディープキスに夢中になっている姫ちゃん。ぼくはキスを続けながら姫ちゃんの胸にそっと触れた。  
「んっ……」  
 未成熟ながらも熱っぽい声を漏らす姫ちゃん。乳首を挟んで弄ぶと、姫ちゃんは微妙に体をよじらせた。ぼくは口を離  
すと、まじまじと姫ちゃんを見つめながら尋ねてみる。  
「……感じてるの?」  
「…………っ」  
 真っ赤になって顔を手で覆ってうつむく姫ちゃん。とてもわかりやすかった。  
 ぼくはそっとピンクのスカートに手を伸ばす。ふくらはぎ、膝、腿の上を順になぞるように撫でて行く。その部分に近  
づくにつれて、姫ちゃんの緊張が高まって行くのがわかる。  
 スカートの中に手を差し伸べる。足の付け根を伝って、そっとその部分に触れてみる。  
「──っ」  
 姫ちゃんが息をのみ、声にならない悲鳴を上げる。それには構わずそこを下着の上から何度もなぞる。  
「や……あ……」  
 だんだん息が荒くなり始めた姫ちゃん。その反応に満足しながら、今度は下着の横から指を滑り込ませる。姫ちゃんは  
焦ったように「あっ」と声を上げたが、そのまま指を差し込む。既に濡れ始めた姫ちゃんのそこを、指で舐めるように撫  
でた。  
 
「きゃうっ!」  
 姫ちゃんのそこを弄びながら、姫ちゃんの空いた手をぼくの同じ部分へと誘導する。ぼくのしようとしていることがわ  
かったのか、姫ちゃんは以外にもむしろ自分から体勢を変えてぼくの物をズボンから取り出した。  
「……これが、……」  
 驚いたように、感心するように、或いは畏れるようにぼくのそれを見つめる姫ちゃん。  
 ぼくの物を姫ちゃんの身長の割には細くて長い指が掴んだ。  
「熱い……」  
「うん」  
「どうやったらいいですか?」  
「こうやってしごいてみて」  
「こうですか……?」  
 言われた通りにおずおずと手を動かし始める姫ちゃん。  
「気持ちいいですか?」  
「ん……そう、続けて」  
 ぼくの言葉に安心したように行為を続ける姫ちゃん。先端に漏れ始めた先走りの液に気付くと、それをなんとなく、と  
いった感じで先端にまぶし始める。  
「んっ!」  
「……気持ちいいですか?」  
「……うん」  
「えへ」  
 嬉しそうに笑う姫ちゃん。  
 やっている行為にはまるでそぐわない、純粋で無垢な笑顔。  
「…………」  
 そういうのを見ると、いじめたくなるのがぼくという人間だった。  
「姫ちゃん、ぼくもしてあげるよ」  
「え……ひゃあっ」  
 スカートと下着を脱がせ、その部分を露わにする。  
「やんっ! ……師匠、恥ずかしいですからやめ……」  
「え? 何?」  
 言いながら姫ちゃんの蜜壷に指を突きたてる。  
「やあんっ!」  
 既に濡れそぼっているそこは、ぼくの指を難なく飲み込んだ。  
「姫ちゃん、気持ち良くしてくれてありがとうね。お礼にぼくが気持ち良くしてあげるよ」  
「や、ししょ……ああんっ!」  
「え、何?」  
 わざとらしく聞き返しながら、今度は陰核をぺろりと撫でる。  
「ひゃうっ!」  
 どうやら姫ちゃんにもぼくのいじわるが伝わったらしく、必死に抗弁を試みようとするが、  
「やめ……きゃん!」  
「いいかげ……ああんっ!」  
 拳を握り締めて快感に耐えるばかりだった。  
「うわ、姫ちゃん、凄い濡れてるよ。これじゃ畳まで汚れちゃう」  
「で、でも……っ、んああっ!」  
「全然止まらないね……どうせならもう布団出そっか」  
「ふぁっ……は、はい……です」  
 
「姫ちゃん、自分でここ触ったことある?」  
「な、何を言い出すですか」  
「ねえ、どうなのさ?」  
「そそ、そんなこと……」  
 耳まで真っ赤になる姫ちゃん。  
「……あ、あるわけ……」  
「無いの?」  
「あ、当たり前ですっ」  
 目を逸らして落ち着かなげに答える姫ちゃん。  
 本当にわかりやすい子だった。  
「……まあ、いいけどね」  
「何がですか。全く、本当、嫌な感じのししょ……っ……んんっ……!」  
「え、何? 聞こえないよ」  
「い、いじわるで……すぅっ……あっ……!」  
 かわいらしく身をよじる姫ちゃん。ぼくは姫ちゃんに覆いかぶさった。  
「……それじゃ、挿れるよ」  
「はい……です」  
 緊張した風にぐっと目をつぶる姫ちゃん。ぼくは姫ちゃんのおでこにキスをする。  
「痛かったら言ってね」  
「……はい」  
 徐々に押し入ってもなんだと、ぼくは一気に腰を進めた。  
 ずぶぅ……っ  
「んんぅっ…………!」  
 姫ちゃんが痛みに顔をしかめた。当たり前だ、痛くない筈がない。  
 ぼくは一旦動きを止めて姫ちゃんに尋ねる。  
「大丈夫?」  
「ぜ、全然大丈夫です……」えへへ、と無理矢理笑顔を作って言う。「前門のコアラ、後門の女将です」  
「それは用法も言葉も間違ってるぞ」  
 言わなきゃばれない間違いをわざわざ晒す姫ちゃん。一気にムードが崩れてしまい、思わずがくっと肩の力が抜けた。  
 姫ちゃんには数学よりもまずは国語かもしれない、と一瞬素に戻る。それがおかしくて、思わず噴出してしまう。  
「──あ」  
 と、突然、姫ちゃんがぼくを指差した。  
 
「……ん?」  
「師匠、今ちょっと笑いました」  
「…………ん」  
 ん。  
 笑ったっけ?  
 しかし姫ちゃんは嬉しそうに笑っている。痛みが抜けきらないのか、目の端には涙が浮いている。  
「初めて見たですよ、師匠の笑顔」  
「…………」  
「もっと、笑えばいいのに」  
「…………」  
 残念そうに言う。  
 ぼくは答えない。  
「姫ちゃんが今元気に笑えるのはですね、師匠のおかげなのですよ」  
「……そっか」  
「だからですね、姫ちゃんはお礼をするのです」  
「ふうん?」  
「いつか姫ちゃんが師匠を笑わせるです」  
「…………」  
 そう語る姫ちゃんは、何故か誇らしげだった。  
「……そっか」  
「はいっ」  
 何かしてあげたくなる、か。  
 何かしてもらうのは、どっちなのだろう。  
「楽しみにしてるよ」  
 それがぼくの本心なのかどうかは、ぼくをしてよくわからなかったが、  
「はい!」  
 姫ちゃんは元気に笑っていた。  
「師匠、……ん」  
 姫ちゃんから重ねられた唇。  
 姫ちゃん。  
 姫ちゃん、か。  
 
「師匠、姫ちゃんは、姫ちゃんで良ければ、なんでもするですよ」  
「……うん?」  
「その、キスでも、……その、……おっぱいとか触りたくなっても、仕方がないから姫ちゃんがさせてあげます」  
「…………」  
「だからそんな、……一人きりみたいな、そんな顔はしないで下さいね」  
「…………」  
 ああ。  
 まったくもう。  
「……まったくもう」  
「はい?」  
「姫ちゃんっ!」  
「っ、ひゃうっ!」  
 ぼくは行為を再開する。  
「気持ちいいか?」  
「ふあ……は、はいっ」  
 まったく。  
 まったくもって、とんだ戯言模様だ。  
 こんな簡単な事に今気付くなんて。  
 こんな大切な事に今気付くなんて。  
 こんなに愉快なのは久しぶりだった。  
 今すぐ笑い転げてしまいたくなるほどに。  
 姫ちゃん、ぼくはね。ぼくは。このぼくは。  
 人間失格の殺人鬼と同類項であるこの戯言遣いは。死で死を洗う阿鼻叫喚を生きてきたこの欠陥製品は。  
 このぼくは。  
 残念ながら、君を好きみたいだよ。姫ちゃん。  
「ひめ、ちゃん」  
「……ししょ……気持ち、いい……ですぅ……」  
「姫ちゃんっ!」  
「は、あんっ! あ、あああっ!」  
「ぐぅっ……!」  
「やはああんっ!」  
 
 

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