翼!嬉しい知らせだ!係長に昇進したぞ!」
そう言って嬉しそうに、子供のように笑う、私の旦那様、阿良々木暦。
高校生のひねくれていた頃だったらその事実をどのように私に伝えたのだろう。
なんて、最近は高校時代のことを思い出す。
彼が大学生だったとき、私は世界各国を旅していた。
世界中を回ればそれなりに、というか様々な出来事があった。
テロに巻き込まれた事もあった。
なけなしのお金の入った財布をスられた事もあった。
テキサスで知り合った元海兵隊から実践格闘術を教わった。
レイプされそうになった時にはそれが役に立った。
悪いことばかりでも無かった。
ロンドンのエミリーは元気にしているだろうか。
アフリカのある少数民族で難産があった時は、村中で祈り、助け合い、命が産まれた瞬間には歓びあった。
チリで忍野さんの足跡というか爪痕を見つけたときには驚いた。パスポート持ってたんだ。
フランスで大規模アートを企画した時は本当に楽しかった。
警察に止められた時は残念だったけれど。
それでも、高校生の頃に皆と過ごした日々には、敵わなかった。
私が世界を回っている間、阿良々木くんやその元彼女戦場ヶ原さんの世界も回っていた。
戦場ヶ原さんはある日突然失踪したらしい。今現在発見されたという話はない。
死んだことにならないよう、親御さんが捜索願いを取り下げたのが悪かったのかもしれない。
阿良々木くんは、高校時代以上に色々な怪異と出会ったらしい。
忍ちゃんと共闘して、新怪異殺しを倒した話は今でもよく語る。
聞く度に敵の大きさや使った技、その他もろもろが変化するけれど。
そしてそれらの怪異との戦闘を陰で支えていたのは他ならぬ戦場ヶ原さんだったのだろう。
阿良々木くんが戦場ヶ原さんを失ったのは半身を引き裂かれるのと同意だっただろう。
・・・そこにつけこんじゃって悪かったかな。
私は阿良々木くんと結婚した。
唐突だと思われるかもしれないが、それなりに様々な紆余曲折を経た結果だ。
阿良々木翼、いい名だと思わない?
私たちは結婚式はしなかった。
阿良々木くんが嫌がったのだ。「友達、いないから」なんていって
私も無理にしたくはなかったから節約になったかもしれない。
「二人だけの結婚式」なんてキザな事を阿良々木くんは実行したけど。
まぁそんなこんなでこんなそれで、今私たちは幸せだ。
二人の幸せは二人で分かちあっても二人分。
さて、回想はここまでにして、愛しの旦那様に抱きついてあげますか。
「おめでと、暦」
ギュゥ、と音を立てて翼は抱きついてくる。
流石翼、僕の気持ちを分かってくれている。
そもそもコイツは、他人の気持ちが良く分かる奴だった。
それが育った環境に依るものなのか。
簡単に決められる事ではないのだろう。
あぁどうしても、翼の家庭の事を考えると、あのゴールデンウィーク、もといブラックウィークの事も思い出してしまう。
一緒に埋めた銀色の尾の無い猫の事を、否、猫など一切関係のない翼の事を。
ついでに黒い下g、ゴホンゴホン。
何回も何回も同じ事を考えているとどうしてもいつものルートと違うコトを考えてしまう。
√いつも=変なこと、みたいな。変なこと乗の変なこと=いつも、ではないが
ほら、いつもの通勤路とか通学路とか、たま−にいつもと違う道を通りたくなったりするだろ?思考もそれと一緒ってことだな。
じゃなくて、何の話だっけ?下着の色の話?数十ページに渡って話したことなどないぞ?あるわけねぇじゃん。
「?暦、どうしたの?」
あぁいやうっかり考え込んでしまった。大きい方の妹は今頃42.195Km程走ってるかな。
「下着何色?」
「黒だけど、上も下も」
あれ?僕今何聞いたんだ?なんか凄い後悔が僕を襲う!
「なんか変だよ?暦」
「ごめん、僕今何聞いた?」
翼は少し嘆息しつつ、口を開く。
「暦の血の色」
恐い!むしろ怖い!
オチがついたところでノーマルパート。
「何かお祝いしよっか、何がいい?」
「僕に聞けば答えは分かるだろう」僕はキメ顔でそう言った。
「あぁうんごめんね。」
なんか謝られちゃった。妹に謝られるのとはなんか違う気がする。
「じゃあえっちな事以外で。」
チィッ!余計なことを言ってしまったか!
「もぉ、暦のエッチ(はぁと)」
みたいなノリで来てくれると思ったのに!
一ミリも希望はなかったけどね!
・ ・・いや戯言だよ?
「じゃあ・・・台詞のなをにゃに代えるで」
「にゃんか微妙にゃ要望だにゃ」
まさか応えてくれるとは思わなかった!
というわけで恒例のアレ
「翼、今から僕の言う台詞を復唱してくれ」
中略
「かーわーいーいー!」
「・・・もういい?」
げんなりとした顔で僕を見る翼。
ていうか録音するの忘れてた。
「ん〜と、じゃあボケは無しにして、そうだな〜、暦何か食べたい物ある?何でもいいよ」
因みに現在の時刻午後5時。僕達が夕飯を食べるのは大体七時半位だから、よっぽど凝った料理じゃ無ければ大抵の物は作れるだろう。
だからこそ、だからこその。
「翼、お前が食べたい」僕はキm(ry
「ん〜と・・・」
反応に困っているようだ。そりゃそうだろう。
「ハイ」
翼は両手を拡げてきた。まるで羽根のように。
「ハイ?」
僕はこの場合どうすればいいのだろう。
「だから、連れてって。」
「甲子園か?」
「んもう、違うわよ、ベッド」
事も無げに言う翼。
「あ、あぁ」
翼の身体を持ち上げる、翼の両手を僕の首に絡めて、所謂お姫様抱っこだ。
お姫様抱っこだ!
「ちゃんとしてよね、暦」
「ごめん、突っ込まれるのかと」
「・・・この流れでそれを言うってことは、暦は私にこのセリフを言って欲しいのかな?」
「どんなセリフだ?試しに聞こう」嫌な予感がしないでもない。
「突っ込むのはわた「うわああああああああああああ!」
危うくシモネタを。
と、そんな事してる内にベッドである。
家は狭いのだ。