「てっきり、誰かが阿良々木先輩にいたずらされる私を書いてくれると思ったら、またも  
 や小さな女の子ばかりがもて囃されているではないか。まったく。こんなことではこの  
 国は!……だがそれがいい」  
「急に人を部屋まで呼びつけたと思ったら、いきなりわけわかんない発言をすんなよ」  
「いや、ここは高校生組のエロヂカラというやつを見せつけてやらねばと思ったのだ。  
 そこでこの不肖神原駿河、一肌脱いでみた」  
「確かに脱いでるけどよ……。これはいったいなんだ?」  
僕の目の前には、全裸の神原が仰向けに横たわっていた。そして、そんな彼女身体の上  
には要所要所に飴やケーキなどのお菓子が乗せられ、見えてはいけない部分を絶妙に  
覆い隠していた。  
「なにって、胸の上に乗っているのはリンゴ飴。その周りでリンゴ飴を支えているのは、  
 バーンブラックというフルーツ入りの焼き菓子だ。どちらもハロウィンの定番だな。  
 それから……」  
「僕が聞いているのはお菓子の説明じゃない。 なんでお前が、ハロウィンのお菓子で  
 女体盛りなんてやらかしてるのかっていうことだ!」  
「言ったではないか。私がTrickして阿良々木先輩がTreatするのだと。これは全て私の  
 お祖母ちゃんが先祖伝来の味を阿良々木先輩にと、端正込めて作ってくれたお菓子だ」  
「ええっ! お前のお祖母ちゃんケルト民族の血を引いてたの!?」  
「ああ、そうか阿良々木先輩は飲み物が無いのが不満なのだな。確かに甘いものや焼き菓子  
 ばかりでは、喉も乾くだろう」  
「だからお前は人の話を聞け」  
「そこは抜かり無く用意してあるぞ。ハロウィンに付き物のこれ。アップルサイダーだ」  
そう言うと、神原はあおむけのまま脇に置いてあった瓶を取る。そして瓶の栓を抜くと、その  
中身をぴったりと両腿を閉じたままの自分の股間に注いだ。  
「さあ、これで完成だ。ああ、サイダーの中に豆が一つ入っているが、それは食べてはいけな  
 いぞ。軽く歯を立てるぐらいならいいが、強くは噛まないでほしい」  
「噛まねえよ!ってか飲まねえよ!」  
「そう遠慮するものではない。今日はTrick no Treat。いや、Treat for Trickの日なのだから!」  
「そんな日はこの世界のどこの暦にも存在しねえよ!!」  
「なにを言う!ハロウィンは怪異に関係した私達にこそ、相応しいお祭りではないか。そう思って、  
 もうみんなに連絡もしてあるのだぞ」  
「なん……だと……?」  
ふと気付けば、玄関に繋がる廊下の方から何人かの足音が聞こえていた。そして、神原の部屋と  
廊下を隔てる襖の前に来たところで、その足音は鳴り止んだ。  
「神原。いるのでしょう。入るわよ」  
「私、ハロウィンのパーティーって初めてだなぁ。楽しみだねえ」  
「暦お兄ちゃんはもう来てるんだよね?」  
「ええ。玄関に確かに阿良々木さんの靴がありましたから」  
「なあ、ハロウィンってどんなお菓子を食うんだ?」  
「さあ?あたしはお菓子を食べられるならなんでもいいよ」  
僕はとっさに庭に繋がる障子を開けて逃げようとしたが、不意に影から伸びてきた白い手が僕の足  
首を掴む。その不意打ちにバランスを崩した僕は、逃げようとした勢いのまま、俯せに倒れ込んだ。  
「ふむ。なんだか懐かしい匂いに釣られて目を覚ましてみれば、古き良き菓子が並んでおるの。お前  
 様。せっかくじゃから、ご相伴にあずかろうではないか」  
ああ、アップルサイダーって子供の頃のクリスマスに飲んだきりで、もっと甘ったるいものだと思っ  
てたけど、ちゃんとしたのは甘いだけじゃなくて、結構美味しいもんなんだな。  
後輩の引き締まった太腿に顔を埋めながら、そんなことを思う。その僕の後ろで襖が開き、蟹と猫と  
蛇と蝸牛と蜂と不死鳥の仮装をした女子達が、クラッカーを鳴らしてなだれ込んできた。  
「Trick or Treat!! お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!」  
 
 
 
「それはいいとして神原。あなた965の16行目のTrickとTreatが入れ替わってしまっているわよ。  
 これだと、あなたが阿良々木くんにいたずらをして、その報酬にもてなしを受けるみたいじゃない。  
 なに?あなたは人の彼氏に援交でも持ちかける腹づもりだったのかしら?」  
「ん?ああ、本当だ。正しくは「私がTreatして阿良々木先輩がTrickする」だな。阿良々木先輩に  
 いたずらをするというのもなかなかに魅力的だが、私はやっぱりいたずらされる方がいい」  
「まあ、どちらにせよ、二人とも私にロコされることにかわりは無いのだけれどね。ああ、それと神原。  
 一応ツッコミを入れておくと、Trickは子供じみた馬鹿げたいたずらの意味なのであって、あなたの  
 言うような性的ないたずらの意味はないわよ」  
「心外だな。私だって、それぐらいのことはわかって言っているぞ」  
「どうだか。なにせブレスレットを深呼吸のことだと思っていたあなたのことだから」  
「ではもっと私らしく、Trick or Treatを言い換えてみようではないか」  
「残念な結果しか見えてこないのだけれど、一応は聞いてあげるわ」  
「ああ、そうそう。いたずらと言えば、いたずら坊主という言葉はいやらしいな。戦場ヶ原先輩?」  
「この残念な子は、いきなりなにを言い出すのかしら」  
「腐れ坊主が檀家の後家の心の隙間につけ込んで、まずは母親に手を出した後で、ゆくゆくはその  
 娘にまで手を伸ばし、母子ともどもいたずらを……」  
「神原。かーんーばーるー。ちょっと帰ってきなさい」  
「うむ。恥ずかしながら帰ってきた。なんの話だったかな?」  
「Trickにはいやらしい意味は無いっていうところよ。ハァ、なぜ私がサポートをする役割になっているのかしら」  
「ああ、そこだったか。ではもっと私らしく、こういう風に言ってみてはどうだろう。Trick or Fuck!!  
 犯してくれなきゃいたずらするぞ!これはだな、TrickとFuckが韻を踏んでいて、お菓子と犯しでも……」  
「もういいわ。あなたはそのままあなただけの道を突き進んでちょうだい」  
「ああっ、戦場ヶ原先輩!私のことを諦めないでくれー」  
 
 
 
 

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