軽い用事を済ませて京都駅に降り立ったときの事。
「お久しぶりですわね、お友達」
相変わらずいきなり耳元で声がしたと思ったら、小唄さんだった。
「ああ、久しぶりですね」
三つ編みに丸眼鏡。デニムパンツに編み上げ靴、そして……
「………」
「どうかしました?お友達」
小脇にボストンバッグを抱えていた。
…はみ出ている諭吉の束は見なかった事にしたい。
「いえ。それより、最近音沙汰なしでしたね。どうしてたんですか?」
まぁ大泥棒である彼女の消息が掴めたら警察も苦労はしないだろうし、
彼女もわざわざ自ら捕まる様な事はしないだろうけど。
「無粋な質問ですこと。…久しぶりにこうして出会った事ですし、お茶でもご一緒しませんか?」
コインロッカーに諭吉が詰まったバッグを無理矢理押し込むと、小唄さんは振り向いて微笑んだ。
「さあ、生きましょうか。お友達」
「あの……」
「はい?」
先導をきって歩く小唄さんに尋ねる。
「お茶がしたいんじゃ…」
「お茶も出来ますわ。お友達」
そこは営みの場所。
誰かの愛憎の巣窟であり
誰かの営業場所でもある。
……ネオン輝くお洒落なビル。
「……ラブホで?」
「いけませんか?お友達」
小首を傾げて問われては断るものも断れませんよ。
後になって考えてみれば、この辺でおかしいと気付いてもよかったんだよな。