秋の夜も更けてゆったりとした時間が流れる僕の部屋。  
月火と一緒にのんべんだらりと漫画を読んで適当なひと時を過ごしていた。  
僕は床からベッドに背中をよりかかって読んでいて何故か月火は当然のようベッドを占領している。  
パラリパラリと小さくページをめくる音と月火が足で軽くベッドを叩く音だけが響いて虫の鳴く声すら聞こえない。  
ふと頭の後ろにいる月火を見るとベッドに肘を立てて特に熱中しているわけでもなく漫画を読んでいた。  
なんとはなしに本を置いてからベッドに広がっている月火の長い髪に触ってみると  
僕の髪の毛と比べて素材から何まで違うんじゃないかってぐらい柔らかい。  
触り心地がよいから指の間で弄んでみるとなんとなく気分がよかった。  
「なーに?」  
「いや、なんとなく」  
弄ぶ手を止めないまま答えると月火は、触ってもいいけどひっぱらないでよーと答え漫画に目を向けた。  
うーむ、なんだろうか今日は妙に触りたい。  
ベッドに座ってから手に取ってペシペシと叩いてみたりズリズリと擦ってみたりカミカミと噛んでみたり―――  
「なにしとんじゃー!!!」  
口に入れる直前、月火に止められてしまった。  
「いや、僕にもわからないが触ってたらつい」  
「妹の髪をつい食べようとするってどんなキャラよ!」  
「言われるとなんか怖い人だよなあ」  
やれやれと首をふると月火は不思議そうに問うた。  
「っていうかお兄ちゃんどうしたの。暇なの?」  
「暇は暇なんだが、なんとなく触ってみたくなって」  
「しょうがないなー。ほらこっちこいや」  
より目になった月火が手招きをするのでベッドに登ると  
「えいやっ」  
と押し倒された。  
ぼよんって感じにベッドで跳ねて、僕の上で月火がぽよんって感じにくっつく。  
「これで触りやすいでしょ」  
む、上に乗られているので必然背中と髪に触りやすいのだがこれはこれで予想外だ。  
「いいんだけど突然なんなんだ?」  
「お兄ちゃんこそ突然だよ。いいじゃない。なんとなくだよ。なんとなく」  
 
月火は僕の胸元にぽふっと顔をつけてそのまま力を抜いた。  
まあついでだから頭でも触ってみるか。  
撫で撫でしてみるとやっぱり手触りがいいな。反対ので流れる髪を梳いてみるのもまた面白い。  
「んぅ……」  
月火も撫でられるのが気分がいいのか吐息を少しだけ吐き出す。  
さらさらとした手触りの髪が気持ちいいし、体重も軽くて胸とか足も柔らかいのもたまには悪くない。  
すくった髪が指の間から流水のように零れ落ちて電灯の光できらめくのも綺麗だ。  
そういえばこんな風に上にのっけてる事はなかったけど月火を抱き締めているのは久しぶりな気がする。  
中学生か小学生の頃だろうか。一緒に寝るぐらいならゴールデンウィーク中とか最近もよくあるけどさ。  
そんな他愛もない事を考えながら髪を弄くっていると僕の胸板で月火が顔を上げジト目で睨んできた。  
「お兄ちゃん、どこ触ってるの……?」  
そりゃお前の髪さ、と答えようとしたのだがふと気付くと  
長い髪の先端があるほう。背中の下側。浴衣の帯の向こう側。  
まあ強いて言えばお尻の部分を両手で揉み解しているように見える。  
「いやこれは、そう、なんとなくだ」  
「なんとなくか」  
「うむ。なんとなくだ」  
なんで通じているのかよくわからない問答で納得したのかぽすんと頭を胸に落とした。  
まあどうせ触っているのだから一応続けて触ってみよう。  
上等なクッションとでも言うべきか指がむにむにと簡単に沈んで気持ちいい。  
「んにゅ……」  
変な声を出す月火もあんまり嫌じゃなさそうだ。  
浴衣とパンツ越しでも伝わってくるぷよぷよ感はそうあるものでもないし。  
太ももとお尻の境目辺りを撫でてみたり、指を握ったまま上下に揺らしてみたり  
その度になんだか俯いた月火の耳が赤くなっていってるみたいだ。  
と、俯いたまま月火が身を乗り上げてくると僕の肩辺りに頭を置いた。  
そして僕の頬に顔をよせて動かなくなる。これもなんとなくだろうか。  
まあついでだからお尻を撫でるのを辞めてぎゅぅっと月火を抱き締めてみた。  
 
「ふあぁ……」  
漏れた吐息が微妙に気持ちよさそう。  
「月火ちゃんとこうしてると落ち着くな」  
昔を思い出したりしてさ。そんな記憶が多いのもちょっと不思議だけど。  
「私もちょっと……安心するかもー……」  
だらっーとした口調とリラックスした口調が交じり合ってる月火はふんにゃりしちゃってる。  
抱いたまま背中を撫でてみたり髪に触ったり月火を抱き枕にしていると  
かんちがい……しちゃいそう…………  
ぼそりと月火が何か呟いて、同時にほっぺへと妙に柔らかい感触が触れた。  
「月火ちゃん……?」  
「なんとなくだよ!なんとなく!」  
照れ隠しっぽく顔を赤らめた月火が頭の横で顔を押し付けて妙にうーうーと唸ってじたばたしている。  
まあいっか。なんとなくならしょうがないな。  
じたばたしてる月火にあわせて抱いたままごろごろしていると  
唸りが途中で笑いに変わって気付かない内に僕と月火はくっついたまま眠ってしまっていたみたいだった。  
 
 

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