「あの、子荻ちゃん、ぼくに話があるってなに?」
彼女は珍しく思いつめたような、行き詰ったような表情をしていた。
なにか無意識のうちに彼女を傷つけてしまったのかもしれない、だが相手はあの≪策師≫の子荻ちゃんだ、チョットやそこらじゃそんな気に病むはずがない。
「・・・・・・」「・・・・・・」「・・・・・・」
うーむ、完全に何かやっていたみたいだ。しかし心当たりは全くない。きっとぼくにとってなんともないことだったのだろうが、
子荻ちゃんにとってはなにか重要なことをやってしまったのだろう。とはいえ、ここ最近子荻ちゃん側から会わないような配慮をしていたところがあった。
仕方がない、こういうときは男のぼくから聞くべきだろう。
「あんな重大なことに今まで気が付かなかったなんてとんだ≪失策≫でした」
そんな重大なことなんかあったかな?少なくとも無意識のうちに≪無為式≫が彼女に何か影響を与えたとしか思えない。
だが、それはぼくのせいなのだろうか、うーむ・・・
「そして、不確定なことがこれ以上続くと今後の私に支障が出ます」
そういうと子荻ちゃんはぼくのそばに近づいてきて
「あなたと一緒にいると調子が狂います」
「それは≪無為式≫のせいで・・・」
「私もはじめのうちはそう思っていました。ですが貴方と距離をとるようになってから感じるようになったこの胸を締め付ける様な痛み」
「えっと・・・」シオギサン、ソレハツマリイワユル
「それらを統合して導き出された答えは唯一つでした」
「どうやら私は、荻原子荻はあなたのことを好きになってしまったみたいです」
・・・ぐはっ
「そ、それで貴方は私のことをどう思っていますか?」
どう、と聞かれてもぼくにはそれに答えることはできるのだろうか・・・
気が付けば彼女の顔は耳まで真赤になっており、視線はぼくの顔に向けられていた。
「それは・・・」
「嫌いではない、又はそれに近い否定で返すのは止めてくださいね。私のことが好きか嫌いか、その二点だけで答えてください」
・・・ぼくは、ぼくは、
「ぼくは子荻ちゃんが、ぼくのことを好きなくらいには」
「そうやって戯言で受け流すのは、好きじゃ有りません」
ずいっ、とさらに一歩近づくと子荻ちゃんの鼓動が聞こえるきがした。
「……」
与えるか、奪うか。
ぼくは3秒ほど悩んだ挙句何も言わずに態度で示した。
「──ッ!」
ドン、っと僕を突き放すと
「な、何を考えているんです!誰かに見られたらどうするつもりですか」
「ぼくは見られても構わない、それくらい子荻ちゃんのことが好きだ。っていう事を表現しただけだよ」
そもそも、ココに呼び出したのは子荻ちゃんだから誰かが来ることなどまず無いだろうしね。
「それとも子荻ちゃんは僕の事はそこまで好きじゃ無かったってことかな?」
「……バカ」
ぼくは何時もとは違う弱気な彼女をやさしく抱きしめた…