「ねぇ暦」
「なんだいひたぎ」
うぅむ、こうしていざ名前で呼び合うのはやはり照れる。
まぁ夏祭りなんて非日常のイベントの時くらいはいいだろう。
二人で色々見て回ってたっぷりはしゃぐ。
最後に花火を見て僕たちは歩きながら帰路につく。
周りは人気がなく、まるで世界が僕たちだけになったみたいだ。
家まで歩くには少し遠いが、浴衣で自転車というのも変だし、何より戦場ヶ原と一緒なら悪くない。
ひとつ大きいのが余ったからと片付け始めていた屋台でもらった綿菓子を二人でかぶりつく。
「そういえば阿良……暦」
「ん?」
やはり戦場ヶ原も名前で呼ぶのは慣れておらず、時々言い直すがそれも今日だけだろうと思うと突っ込む気も起きない。
僕は気付かなかったふりをして聞き返す。
「なんだいひたぎ?」
「今日は事ある毎に私の方を見ていたけども、そんなに私の浴衣姿良かったのかしら?」
くすくすと少しからかい気味な笑顔で聞いてきた。
僕は即答する。
「ああ、すっげぇ可愛いかったから」
「…………!!」
息を飲んでさっと顔を逸らす戦場ヶ原。
暗がりでも頬に赤みが差しているのがわかる。
僕は綿菓子を持ち替え、そっと戦場ヶ原の手を握った。
戦場ヶ原もきゅっと握り返してくる。
しばらく無言で歩く僕たち。
「暦」
「ん?」
「浴衣ってなぜか脇の部分開いてるのだけど何故だか知ってる?」
「んー……やっぱり夏に着るし、涼しくなるよう風通しをよくするためじゃないか?」
「いえ、違うわ。正解は」
戦場ヶ原はひょいと握っていた僕の手を自分のその浴衣の隙間に差し入れさせる。
「せ、せせせ戦場ヶ原?」
「こんなふうに男が手を入れるためだそうよ、昔からみんなこういうことしていたのね」
いやいやいやいや、なに冷静に言ってるんだ!
柔らかいのが僕の手のひらに触れてるんだぞ!
……え?
「あのーひたぎさん、ひょっとしてブラは」
「着けてないわよ、浴衣なんだから当たり前じゃない」
じゃ、じゃあこの指の腹に当たる固いものはひょっとして。
「ん……あまり動かさないで。乳首が擦れちゃうわ」
「!!」
もう言葉も出ない。頭が混乱しまくってる。
そこで追い打ちのような戦場ヶ原の言葉。
「もちろん下も着けてないわ……確認してみる?」
そう言って脇の茂みの方をちらりと見やる戦場ヶ原。
そして。
僕たちは周りを窺いながら茂みに入っていったのだった。