鐘の音が響き渡る教会内。
結婚式。一生涯の伴侶を決める、神聖な儀式。
ウエディングドレスを着た新婦。七々見奈波。
タキシードを着た新郎。戯言遣い。
戯言遣いと呼ばれる人類最弱の詐欺師と、魔女と呼ばれる腐っても女子(というにはやや年を取りすているかもしれない)な一般人。
占術師を除けば、この組み合わせを予想出来た者はいないだろう。
何せ、当の本人たちも四年前は欠片もそんなことを考えてはいなかったのだから。
偶然に偶然が重なった運命の度が過ぎた悪戯によって、この二人は結ばれた。
「それでは、誓いの口づけを」
限りなく透明に近いグリーンのサングラスをかけた神父が告げる。
新郎がウエディングベールをそっと上げて、新婦は受け入れる準備をする。
互いの唇が触れ合い、今此処に、神聖な誓いが――――
「……ねぇよ」
草木も眠る丑三つ時。
パチリと、不愉快に目が覚めた。
心臓の鼓動は激しく荒れて、全身から滝のような汗が流れる。
休息の為の睡眠時間だというのに、まるでフルマラソンを終えた後のような疲労感だ。
悪夢にも程がある。
おのれ魔女め。お前は一体どこまで僕を苦しめるんだ。
「というか、何で神父なんかやってんだよ兎吊木さん……」
兎に角、今夜はもう眠れそうにない。寝たら悪夢の続きを見そうで怖い。恐い。デスクワークでもしよう。確か、まだ手付かずの資料が幾らかあった筈だ。
ぐにぃ、と立ち上がろうと手を付いたところに、柔らかい何かを感じた。
「……」
「ぅ…ぅん……いのすけぇ…」
「――――」
絶句する。言葉を失う。
手を付いた先は、振り向いた先には、一糸纏わぬ姿の魔女が、安らかに眠っていた。
戯言遣いの悪夢は、どうやら今から始まるらしかった。