「みんな、ごめんなさいが言えるいい人達ではないか。ここは私の顔に免じて許してやってくれ」
「ずいぶんな言いようだな、おい! 何様だ!」
「二年二組、阿良々木先輩のエロ奴隷神原駿河、変態だ!」
「な乗る時に変なキャッチコピーをつけるな! 著しく僕の名誉が傷つく!」
「がんばる駿河ちゃんと呼んでくれても構わないぞ」
「そのあだ名は定着しなかっただろう」
「うむ、このあだ名と同じように悪い空気もすぐ消え去る。全裸一貫、許し合う心が大切だぞ」
「ぜん裸は関係ない」
「なにっ? 私の出番かっ?」
「神原。興奮しすぎよ」
「なにっ? では戦場ヶ原先輩が脱いでくれるのかっ?」
「なんで私が脱がなければならないのかしら」
「でも、阿良々木先輩の前では……」
「んふふ、ちょっと聞いて頂戴。昨日なんかね……」
以下五千行ほど惚気話
「貴方は一肌脱ぐまでもなく、話の後半では大抵半裸ではないかしら」
「脱ぎたくて脱いでるわけじゃねえよ! 破れたりとか、不可抗力だ!」
「阿良々木くんが不可抗力で脱がされる事に快感を覚える変態だったなんて……!」
「なんでそうなる!?」
「そういえば、神原の時は、一肌どころか人肌まで脱いで、内臓が丸見えだったわね」
「また嫌な事を思い出させてくれるな……」
「内臓がないぞう、なんてギャグをリアルに目撃させられるなんて、夢にも思わなかったわ」
「確かに引き摺り出されてそれ掴まれてぶんまわされたりしてたから、身体の中には内臓
が無いも同然の状態だったけどな!? 断じてギャグじゃねえよ!」
「まさに腸展開」
「それ某動画サイトのタグで既出だから!」
「傷ついた主人公を助ける為、そこに颯爽と現れる美少女も、唖然としたでしょうね」
「いや、それお前だろ……っていうか、お前あの時どっちかというと神原助けに来た
感じじゃなかったか?」
「確かに、阿良々木くんはアウトオブ眼中だったような気がするわ」
「さりげにひでえ……」
「広田さくら風に言うと、ユーアーノットアイ」
「なぜアイドル女子プロレスラーとして武道館でデビューする程将来を嘱望されていたのに、
いつの間にかお笑い路線で自己を確立してしまった人風に言い直すんだよ!?」
「鶴見亜門風に言うと、WWE」
「確かにあの人WCW以外眼中に無いけどな! 名前聞いてどんだけの人が、
『ああ、確かに鶴見亜門はWWE眼中に無いよなぁ』って納得するんだよ!?」
「まあ、そんなコアな話はどうでもいいのだけれど……実は私……」
「なんだよ」
「ゴールドバーグのファンだったの」
「続くのかWCWの話!?」
「そうね。誰もわからないでしょうからやめましょう」
「……で、何を言いたいんだ、一体?」
「そうね……一肌脱ぐなら、人肌を脱ぐ覚悟をしなさい」
「僕じゃなかったら死ぬだろ!?」
「失礼、噛みました」
「どこをどう噛んだんだ……」
「一肌脱ぐなら、私を脱がす覚悟をしなさい」
「それ遠まわしにお前のエロい奴書いてくれってクレクレじゃねえか!?」
「だって、結局私のエロいのは少ないままで、皆妹さんや忍ちゃんに走っている
じゃないの。やはりこのわがままバディーが、ロリぃな娘を好む人々の嗜好に
合っていないという事なのね……」
「……なるほど、つまり戦場ヶ原がロリ場ヶ原になる怪異に出会う話を書けば、
万事丸く収まるわけだな」
「……というわけで、ついでにロリ場ヶ原さんを書いてくれる人も募集してあげても
いいのよ? も、もちろんついでなんだからねー」
「お前って、やっぱりツンデレじゃないよな」
「西尾維新は、どうもツンデレというものを誤解しているのではないかしら。
ほら、めだかちゃんの例もあるし」
「確かに、あれはツンデレではないよな」
「ま、そんな事はどうでもいいのよ。とりあえず、私はクレクレも出来たし、非情に満足
したわ。そろそろ終わりましょう」
「非情で合ってるんだな……。で、結局、後日談というか今回のオチは?」
「オチをつかせたかったけどダメだった……つまり、これを書いた人は、皆を落ち着かせ
たかったらしいけれど、こんな有様じゃ落ち着くどころか再燃しそうね」
「つまり……落ち着かない……オチは、つかない、と?」
「そうとも言うわ」
「まったくもってグダグダすぎる!」
「いつもの事よ」
終わり
「戦場ヶ原がゴールドバーグのファンだとは知らなかったよ」
「またまた、阿良々木先輩ともあろうお人が、そんな謙遜をしなくてもいいのだぞ。
その年齢でゴールドバーグネタにツッコミをいれられる阿良々木先輩だからこそ
戦場ヶ原先輩も安心してボケられるのだ」
「その年齢って、お前の方が僕よりさらに一つ下じゃないか。ああ、ゴールドバーグ
って言えば。なんだっけ? 必殺技があったよな」
「うむ。スピアーとジャックハマーが代表的な必殺技だな」
「名前だけじゃどうも思い出せないな」
「では、この不肖神原駿河。実演してみせようではないか」
「え? 実演って、おいまさか。まて神……」
そう言う僕の鳩尾に、神原のカモシカのような長い脚から放たれた後ろ回し蹴りが
炸裂する。正中線を走る人体的急所を正確に射抜かれ、僕は前屈みにその場に崩れ
落ちる。
神原は軽いステップでぼくから距離を開けると、姿勢を低くし、片手を地面につけて
アメフトの選手のような体勢で力を溜める。
「か、神原……なにを!?」
それを押しとどめようと、力無く手を伸ばして立ち上がろうとした僕に向けて、神原は
容赦なく追撃をかけてきた。
「スピアー!!」
全身に溜めた力を、その尋常じゃない脚力を誇る脚に乗せた神原が、畳に穴を開ける
勢いで(いや、事後で確認してみると、本当に畳に神原の足の形に穴が開いていた)
その一歩を踏み出したかと思えば、低い姿勢を保ったまま、もの凄い速さで僕に向け
て突進してきた。
肩を鳩尾に食い込ませてタックルされたかと思えば、同時に両手で脚を刈り取られ
る。二度に渡る鳩尾への打撃を食らうと共に、背中から畳に押し倒された僕の肺から
急激に酸素が押し出されていく。
そうして再び畳を舐めることになった僕を、神原はその猿の左手の腕力で軽々と抱
え上げる。いわゆるブレーンバスターの体勢だ。そのまま数秒間、僕を持ち上げたま
ま体勢を保持すると、観客の歓声は波打ったように静まり、皆、その時を静かに待つ。
って観客って誰だよ! いくら神原の部屋が広いといっても、観客入れられるほど
広くはねえ!! それによく見りゃアリーナ最前列にいるのはガハラさんじゃねえか?
「そして、これがジャックハマーだ!!」
そう叫ぶと、神原は僕の体を瞬時にパワースラムの体勢に持ち替えて、巻き込むよ
うに体を回転させると、全体重を浴びせつつ、その左腕で僕を畳に叩き付けた。
「キャー! ゴーバー!!」
うるせえよ! 畳に全身像が残るぐらいな勢いで彼氏が畳に叩き付けられてんのに、
これまで聞いたことないような黄色い声で、歓声をあげないでくれ!
そのままの体勢で神原に畳に押しつけられたまま、スリーカウントの幻聴を聞いた
僕であった。
「さて、では次の技の実演に移ろうではないか」
「お前、次の技って、まだやる気かよ……」
「勿論だ。ここからの四十八手が本番ではないか。ああ、もちろんこれは試合の本番
と、違う意味の本番をかけている。さあ、最前列で阿良々木先輩を応援している戦場
ヶ原先輩のためにも、いい試合にしよう。これからが本当の肉と肉とのぶつかり合い!
私達の戦いはこれからだ!」
打ち切り