「いやー、30分のコメンタリーなんて、あっという間だったな、羽川?」
「…羽川?なんでまた阿良々木は、好きでもない女子を呼び捨てにしてるのかな?」
「ええっ!?それ継続すんの!?もう収録終わってスタッフさんも皆帰ってるのに!?」
「何を勘違いしてるのよ…今までのは只の肩慣らしじゃない。完璧に私達二人きりになった、これからがいいところなんだから…」
…厳密に言えば僕の影に忍が居るから三人だけど…まだ日の出てる時間だからあいつは起きてないか。
「いや確かにずっと、僕に座ったままだなとは思ってたけど…って羽川?いや羽川さん?なんで自分のブラウスに手を突っ込んでるんですか!?」
「んー?だってこうしないとブラが取れないじゃない…のっと!」
羽川は制服のブラウスの裾から、スルッと純白のブラを取り出した。
「…えいっ!」
「う…うわっ、なんだよ!?」
羽川が突然、ブラをアイマスクのように僕の頭に巻き付けてきた。
かなりの容量を誇るブラらしく、胸片方の部分だけで僕の頭半分がスッポリ覆われた。
「どうせ阿良々木のことだから、前にゲットした私のブラでこんなことしてたんでしょ!?いやらしい」
「いや、あの…」
否定できないのもあるが、お前の今してる行動はどうなんだと思って固まっていると、両頬に掌の感触がして、唇に柔らかいものが押しつけられた。
というか、差し込まれた。舌が。
「んんっ!?は…はへっ…かわっ…!?」
「はあっ…んんぁっ…ふうっ…」
羽川が身体中を擦り付けながら、吸ったり舐めたり、激しく僕の唇を、口の中を刺激してくる。
ブラのせいで視界が悪い分、羽川から漏れてくる声と吐息、甘い香り、その火照る肌の熱がよく伝わってきて、その上で口内を蹂躙された僕は、身体中がとろけてしまって数分間、抵抗できずされるがまま、快感に身を任せてしまった。
そしてようやく僕の唇から離れると、
「…ふぅっ…んっ…そのまま…動かない…でね…」
と僕にブラを被せたまま、息切れしながら耳元で荒く息を吹きかけるように囁き、羽川はしばらくぶりに僕の下腹部から立ち上がった。
衣擦れの音と、何か携帯電話の電子音のような音がして、十数秒程で再び羽川は僕に腰を下ろし、目の前のブラを取り去った。
「…っ!?おいっ…!?お前…」
まあ正直ある程度の予測はついてしまっていたが、それ以上。僕の太股の上にはスカートとパンツを脱いで、はだけたブラウス一枚の羽川が座っていた。
…いや…裸よりはるかにエロいぞこれ…
胸の谷間はバッチリだし、ブラウスの裾から羽川の陰毛がチラついてるし、太股とか綺麗すぎるし!
なんか全てが輝いている!僕が今まで見てきたエロ本て何だったんだ!
ていうかそのトロンと溶けた目で見つめないで!
「ど…どうかな…阿良々木くん…」
あれ?「阿良々木くん」になってる…
いつもの羽川に戻ってる…?
「勢いで脱いじゃったけど…やっぱり恥ずかしいや…えへへ…」
可愛すぎる!やめて!このタイミングで恥じらわないで!萌え死ぬ!
「い、いや…あの…き、綺麗です…」
じゃなくって!バカ俺!ダメだってこれ以上は!
「ん…ありがと…じゃ…」
羽川が僕のズボンのファスナーを下げ、トランクスから強く脈打ってしまっているモノを取り出す。
「いっ…いや羽川!ダメだって!」
「んー?まあこんなときだから呼び捨てでも構わないけど、阿良々木の、こんなにぬるぬるになっちゃって、すごいしたがってるじゃない…」
「また戻ってる!」
「往生際が悪いぞ…」
そう言うと羽川は、僕の肩を抑え、身体を寄せ、僕を挿し入れた。
「ふぅぁっ…!」
羽川の上半身がピンと張り、顎が上がる。
「羽っ…川…!」
「…ちょっと痛いけど…阿良々木の熱くて、びくびくしてるのが奥に当たって…いい感じだよ…」
羽川の中が吸い付いてくる。
熱くてぬるぬるして溶けてるようで、挿れただけで出そうだった。
「羽川…もう…抑えらんねえよ…」
「いいよ…好きに…して…?…しよ?」
耳を舐めしゃぶられながら囁かれ、僕の理性は弾き飛び、羽川の腰に腕を回し激しく腰を揺さ振る。
「あんんっ!激しっ…いいよっ!もっと…もっとして…」
ぐちゅぐちゅと下からの音が聞こえ、僕と羽川はくちゅくちゅと舌を貪り合う。
「はふっ…阿良々木くん…こっちもして…?」
羽川は僕の右手をとり、ブラウスの中の、汗に濡れ、激しく揺れている膨らみに導く。
もう呼び名のことなんてどうでもよく、ただお互いを求めることしか頭に入ってこない。
僕はそのまま強く弱く乳房に指を沈ませ、固く経った部分を摘み転がし撫で回す。
「ひぃんっ…!いい…いいよっ、気持ちいい…!」
目の前の女性を淫らに乱れさせている快感に、僕の動きはより激しくなる。
お互いの上半身も下半身も、汗なのか涎なのか涙なのか何なのか、もうわからないぐらいぐしゅぐしゅの液体にまみれていた。
僕の腰は羽川を激しく突き上げ、羽川の腰は僕を奥に擦り付けるように、艶めかしく前後に細かくスライドされている。
「んあぁっ!…はひぃっ!もう…だめっ…」
羽川の全身ががくがくと痙攣して、中の僕を絞るように、締め付けが強くなる。
僕達は蛇のように全身を絡ませながら、力の限りお互いを押し付け、その溶け合う快感をしゃぶり尽くす。
「羽川っ…僕も…もう…くうっ!」
「阿良々木…くん…いっしょに…イこっ?…んふああああっ!」
僕は震える羽川を抱きしめながら、その熱くどろどろと絡みついてくる奥に、欲の塊を流しこんだ。
「はあっ…あっ…すごっ…阿良々木くん…びゅるびゅるって…でてる…」
「羽…川…」
そのまま暫く二人共動けず、数分経ってようやく息が落ち着いてきた。
そのとき。
後頭部に千枚通しで刺されたような鋭く凍てつく視線を感じ、僕はこみ上がる嫌な予感を押し殺しながら、ゆっくりと振り返った。
この部屋の扉はかなり分厚い防音仕様になっており、上部に30cm程の小窓がある。
その小窓を指先でつうっと撫でながら、顔の右半分を覗かせ、軽く口角を震わせながら、女が僕を観ていた。
もちろん家政婦じゃあなかった。
戦場ヶ原ひたぎさんだった。
遅れて気づいた羽川は、何のつもりか、道端で偶然会った友達への対応のごとく、笑顔で彼女を手招きする。
「戦場ヶ原さん、私が呼んだんだよー」
「…………」
羽川が何を言ってるのか全く理解ができないまま、重厚な扉が開かれ、戦場ヶ原がゆっくりとその姿を見せる。
下からスニーカー、デニムパンツ、パーカーとフランクな私服だったが、その背後に蠢くどす黒いオーラに、全身が冷え、心臓がジワジワと締めつけられ、押し潰されていくのが分かる。
「ほら戦場ヶ原さん、こっちこっちー」
部屋に充満する重い空気を全く気にせず、僕に跨ったまま羽川は戦場ヶ原に声を掛ける。
扉がバタンと力の限り閉められ、ガチャンとドアレバーが下ろされたとき、僕の頭に「ゲームオーバー」と、暗い、絶望的な台詞が響き渡った。
ような気がした。
全身が硬直し、指先一つ動かせない僕の背後に戦場ヶ原は歩み寄り、その何の感情も無いかのような、真の無表情で見下ろしてくる。
「さっ、じゃあ戦場ヶ原さん、これから阿良々木暦の身体についてのコメンタリーを始めましょうか」
「…そうね羽川さま、この恥知らずで気の多い浮気性のゴミ虫を髪の毛一本残さず解剖しましょう…」
「面白そうじゃのう、儂も参加しようではないか」
まるで『ハムナプトラ2』での悪の神官の最期のように、全身を複数の手足に絡めとられていく感触を覚えながら、この密室で、これから行われるであろう惨事は、何かいいことありました、なんて言葉では決して締めくくれないであろう事を、僕は確信していた。
おわり