「阿良々木さん、今日は本当に楽しかったです」
「な、なんだよ急に改まって……」
「迷子の私を救って頂いてからこの日まで、夢のような日々でした」
「八九寺……?」
「忍さんと羽川さんとなにより阿良々木さんとじゃれあって」
「やめろ…」
「本来なら味わえ無かったはずの時間」
「やめてくれ……」
「私は幸せでした」
「八九寺っ!!」
「できればもう少し……。叶うならいつまでもこの夢を見ていたかったです」
「待ってくれ……」
「でも夢はさめるもの。どうやら私はここまでのようです」
「そんなこと言うなよ!絶対に方法はあるはずだ!だから……」
「さようなら阿良々木さん。その……大大大好きでした!」
「待て!待ってくれ!!」
「えへへ……はにかみました」
「八九寺ぃぃぃぃ!!!!!」
「はっ!夢か!」
その日からおよそ1ヶ月間、僕が八九寺を家に保護し続けたことは誰にも責められまい。
その一ヶ月の間、僕が何をしていたかと言うと、だ。
「……八九寺ぃ」
「もう、ダメですよ、焦りすぎさん。それは一日一時間だけ、って決めたじゃないですかぁ……」
「……僕の名前を恋愛童貞喪失した思春期中学生のように言うな。僕の名前は阿良々木だ」
「失礼。噛みました」
「いや、わざとだ」
「甘噛みしました! はむっ!」
「わひょぉぅ!? そこはらめぇっ!」
「……やっぱり阿良々木さんは耳が弱いんですねぇ。戦場ヶ原さんに開発でもされましたか?」
「お前、ダメとか言いながらやる気満々じゃないか……」
「いやよいやよもスキーの内です」
「ああ、確かに最初は怖いんだけどさ、いざ滑ってみると意外とできるもんなんだよな、
スキーって。僕も経験あるよ」
「実は私は経験がないのですが」
「そうなのか?」
「ええ、スキー処女です」
「何か、処女って言葉つけると、なんでもエロく聞こえるな……」
「それはつまり……私の初めてを奪った阿良々木さんは、もうそれで満足という事ですか?」
「え?」
「もう、私の事……エロいと思わないって事ですか?」
「や、やめろよ八九寺……そんなつもりは……」
「じー」
「そ、そんな風に潤んだ瞳で僕を見つめないでくれ……」
「誘ったのは阿良々木さんですよ?」
「だからって……そんな目で見られると……もう……もう!」
「我慢できない、ですか?」
「八九寺ぃ!」
「いいですよ、阿良々木さん……私をこんな風にした責任、取ってくださいね」
という具合に、八九寺とやりまくりだった――
「という夢を見続けていたんだ」
「それをどうして私に直接言うんですか……」
「あ、いや、何か黙ってるのも気まずいし、八九寺だったら軽く流してくれるかな、って」
「信頼が重いです……」
オチも無く終わる