忘物語 <ワスレモノガタリ>
第観話 こよみチャーム
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雲一つない青空、快晴の月曜日。
新学期初日である本日の朝、始業式開始と共に山奥で目覚めた僕は、登校を完全に諦め、ゆったりもせず急ぎもせず、自転者を押して自宅に向かっていた。
その道中、――昨日僕の家にうっかり忘れたリュックサックを回収するため――僕に同行する女子小学生、八九寺真宵に、
僕が今朝 (と言っていいのか分からないが) まで体験していた、壮大な冒険のあらすじを――個人のプライバシーに関わる部分はうまく避けつつ――話していた。
「パラレルワールド…なるほど、阿良々木さんは、私の成人姿の美しさに、唖然呆然となったわけですね…ふむふむ、異世界でも私のポテンシャルは健在のようで、何よりです」
「やはり最も食いつくポイントはそこか。しかし八九寺、僕はそういう理由でしどろもどろになったわけじゃあ…」
「『八九寺、蕩れ』と言いたかったんですよね?」
「何故お前がその台詞を知っている?」
「何故も何も、私の家の前で言っていたじゃないですか。クールな表情で。」
「消えたフリして見てたのかお前?あんな感動的な名場面になんて後付けをするんだ!」
「いやー、あのドヤ顔を写真に残せなかったのは本当に悔しかったです」
「僕の思い出が黒歴史になってしまう!」
あのシーンがプチ『未成年の主張』だったなんて!
「ところでキザラ木さん」
「最近クールキャラを見失いつつある僕には、むしろ有難い形容詞かもしれないが、しかし八九寺、僕をナルシストみたいに呼ぶな。僕の名前は阿良々木だ」
「失礼、噛みました」
「違う、わざとだ」
「噛みまみた」
「わざとじゃない?」
「一応、言葉にしておいていただけませんか?」
「勘弁してくださいお願いします!」
ぐぬぅ…ここぞとばかりに攻めてきやがる…
このままではこれから先ずっと、僕はこのネタでいじられ続けなければならなくなる…
どうにかして黙らせなければ…
ふむ…ここは子供相手には百発百中、あの技を使うとするか。
「八九寺ちゃん、お小遣いをあげよう」
「もうその手には引っかかりませんよ。どうせ偽物でしょう」
「ぐっ…」
畜生、バレていた…
絵になったのがまずかったのか。
やはりアニメ化には様々な弊害が…
「まあ害を成すのはほとんどの場合、阿良々木さんですがね」
いやいや、そんなことはないだろう…
たぶん。
「ところで阿良々木さん」
おお、八九寺から話題を変えてくれるとは。
さすがに僕の思い出を汚すのは気が引けたか。
「今更ですが、どうして本来年上の私に対して、阿良々木さんは呼び捨てなんでしょうか?」
「本当に今更だな?」
忍に続いて八九寺、お前もか!
「阿良々木さんがあちらの世界で見た通り、私はもう大人の女性なのです。にも関わらず、呼び捨てやちゃんづけはいただけませんね」
「…じゃあなんて呼べばいいんだよ」
「八九寺さま」
「だからなんでお前がこのやりとりを知っているんだよ?お前シルエットすら出てねえ頃だぞ!」
「いえ、戦場ヶ原さんが先日、私の芸風を真似たと小耳に挟みまして、なら私もあの方の芸風を真似てみようかと」
「あいつのは芸風とかじゃねえよ!」
ていうかどういう経緯で小耳に挟むんだよ。
個人情報保護の概念は無いのか、この世界。
「ではこれからは八九寺さま、と呼んで下さいね」
「…HACHIKUJISAMA」
「英語発音はいただけませんね、ちゃんと言ってください」
「…パチ九寺さま」
「人を偽物みたいに呼ばないでください。私の名前は八九寺です。」
「失礼、噛みました…」
「いいえ、わざとです…ていうか阿良々木さん、無理矢理ボケとツッコミを入れ替えても、何も誤魔化せませんよ?阿良々木さんの私生活はジム・キャリーの如く、今現在も視聴者に筒抜けなんですから」
「全世界生中継だと?くそっ、なんということだ!今すぐ外の世界への扉を探さなくては!」
どこだ、どこにある!
やはり水平線の果てとかか?
「はあ…そのウザいまでのノリの良さに、ヒロインの方々は騙されてしまうんでしょうか…」
とかなんとか。
あれこれ喋っていると、思っていたよりも早く、僕達は阿良々木家へと辿り着いた。
別に滅亡したからとかではなく、仕事へやら学校へやらで誰も居ない、静まり返った我が家の自室へと、僕は八九寺を案内し、椅子に腰掛けて一息つく。
ふと目をやったデジタル時計に表示されている時刻は、九時五十三分。
学校では始業式が終わり、ホームルームが始まる頃だろうか。
うーん…本来居るべき場所に居ないと言うのは、高揚感にも似た不思議な感覚を感じるな…
いやいやいやいや、せっかくこの夏休みを目一杯使って勉強したと言うのに、新学期一日目からのうのうとサボってしまったのだ。
現実を見ろ僕。
「阿良々木…さん、ちょっと…」
僕がセルフ説教をしていると、ベッドに腰掛け、無事再会したリュックの中身を確認していた八九寺が呼びかけてきた。
「ん?なんだ八九寺、また僕のベッドで眠るとか言うんじゃないだろうな?」
こいつのパジャマ姿はレアだし、もう一回見たいっちゃ見たいけど。
「そうじゃ…なくて…ですね…」
………ん?
なんだろう、この今までに無い空気…
普通ギャグパートの次はもう一度ギャグパート、たまにシリ、アス、パートじゃなかったっけ…?
あれ?今の文章、句読点が多すぎたような…?
いや、この語り部の達人、阿良々木暦に限ってそんなミスはありえない。きっと気のせいだ。
「あ…あららひ…しゃぁん…」
「は、八九寺?」
呼吸を荒げ、口を半開きにしながら八九寺は、のそのそと僕の脚に寄りかかってきた。
うねうねと艶かしく、全身を脚に巻きつかせる八九寺に対し、僕がリアクションをとれないでいると、視界の脇、僕の影から忍野忍が、むにゃむにゃと瞼を擦りながら現れた。
「…眠くて言うのを忘れておった。向こうの儂から頂いたエネルギーが少々余ったのでな…はわぁぁ…迷惑をかけたお詫びの品でも無いが、お前様が前々から興味津々じゃった、『魅了』の能力をプレゼントしといたぞ」
たいそう眠そうにアクビをしつつ、ピンクのワンピースを着た金髪幼女は言った。
「は……………?」
『魅了』だって…?
それは羽川いわく、吸血鬼の眼に宿る能力で、目が合った異性を操り人形にしてしまうという、あの『魅了』…?
「お前様用にアレンジしたから、本来の『魅了』とはちと違うがの」
「お、おい忍……!」
「完全な操り人形じゃと、Mなお前様は退屈じゃろうから、女の性を極端に増大させるまでに効力を抑えてある。初めては発動まで時間がかかったようじゃが…どうじゃ、最高じゃろう?淫乱女があるじ様に奉仕しまくりじゃ。お前様にも色々好みはあるじゃろうしな」
「お前、僕をそんなレベルのマニアックな変態だと思っていたのか…」
「いや、申し訳無いが、もっと濃厚なプレイとなると、ちょっと儂にはついていけないというか…」
「いや、違う違う違う!自分のマニア度を不当に低く評価されて…っておい!お前までなんで、僕の青春の会話を使いこなしてるんだよ?」
「お前様の記憶はぼんやりじゃが、儂にも伝わってくるからのう。このこそばゆい感覚、こっちが恥ずかしくなるわい」
ああ、そうか――八九寺に僕の情報を流していたのは、お前の仕業か…
四六始終、生活を共にしていても、僕のプライバシーは守る暗黙の了解とか、完全に無視か…
「うぅ…阿良々木さん…なんか暑いですぅ…」
足元の少女がスルスルとブラウスを脱ぎ始めた。
「ちょ…待て八九寺!僕はそんな……え?」
椅子から飛び退き、脱衣を止めようとしたはずの僕の手は、何故かブラウスを乱暴に取り去ってしまった。そして直後、全身の力が抜け、僕はそのまま床にへたり込んだ。
「ぁん…自分で脱ぎますよぉ…」
「いや…あの…ええ?」
…なんで?僕は八九寺を脱がせようとして…いやいや逆…あれ?どっちだっけ…?
思考がまとまらない…?
というか、何かに頭の中をかき混ぜられているような…
と、その様子を見ていた忍が言う。
「あ、もう一つ忘れておった。吸血鬼性が薄いから、お前様も性欲に支配されるじゃろうな。まあ副作用みたいなモノじゃ」
うわあ、とんでもないことさらっと言ったよ…
ってことは総合すると…
「うむ、お前様が女を果てさせるまで奉仕は止まらん、ということじゃな。」
しれっと忍ちゃん。
最低最悪じゃねえか…何がプレゼントだ、この変態金髪幼女。
つーか僕がそれじゃ、お前も――
「阿良々木さんも脱いでくださいよぉ…」
身体を保護していた布を全て取り払い、薄い肉付きだが張りと輝きが眩しい、若すぎる肌を見せつけながら、八九寺は僕のパーカーに手をかける。
「は…八…九寺…」
本能が――急上昇する情欲が支配する僕の腕が、八九寺の柔らかい身体を抱き寄せると、いつの間にか全裸になっていた忍が、僕の胸に手を這わせてきた。
「ふふふ…儂にもお前様の熱が流れ込んで、眠気がとんでしまったわ…こんな小娘に欲情しおって、やはりお前様は根っからの鬼畜じゃのう…どれ、儂もあるじ様に奉仕するとしようかの…」
「ああ…やっぱり、お前もエンジン…かかっちゃうのな…」
相変わらず後先を気にしない吸血鬼幼女と、息を切らし頬を赤らめた小学生少女は、未発達な肢体を僕に這わせながら、その柔らかそうな口元に妖しい笑みを浮かべていた。
今や――僕の理性は本能に完全に喰われ、行動に一切のコントロールが利かなくなっていた。
ただしかし、理性自体が無くなったわけではない。
むしろ、通常よりはっきりしているぐらいだ。
言うなれば今僕は、僕の身体をした男と少女と幼女の絡みを、感覚とセットで強制的に見せつけられているような状態である。
こんな体験型DVDがあったら、バカ売れするんだろうか――などと、理性が冷ややかな現実逃避をしていても、本能には全く影響が無いようで、現実は益々、盛り上がる一方で――
心臓が激しく脈打ち、ジワジワと汗ばむ僕の全身をあらわにした少女と幼女は、それぞれ僕の耳から胸へと、まんべんなく舌を這わせていた。
「はぁ…ありゃりゃぎさぁん…胸が熱いです…」
「くくく…あるじ様の欲求が伝わってくるぞ…ほれ…ここじゃろう…?」
「くぁっ…!」
耳の中やら乳首やらを貪られ、悶える僕を見て、にやにやと楽しそうに笑う忍は、僕の腰の辺りに移動すると、刺激の度に震える、粘液を垂れた塊に視線を移す。
「いじって欲しくてたまらないという感じじゃな…くく…それに…小娘もヒクついておるわ…」
忍はいきり勃つ僕を、その小さな両手で握りしごきながら、僕の腹に跨っていて目の前に見える、八九寺の蜜原にべろりと舌を伸ばした。
「はっ…!あっ…舐めっ…吸われてますぅっ…!」
僕が強い刺激に息を漏らしたと同時に、ビクンと背中を反らせて少し揺れた、八九寺の胸の先端を、僕は指先でそれぞれ強く摘んだ。
「ひゃっ…あ…らりゃぎさ…もっとぉ…」
八九寺の喘ぎ混じりの懇願を聞き、僕は指の根元で先端を挟みつつ、掌全体で膨らみを柔らかく歪ませていく。
「手…いいです…ひぁっ!しっ…舌ぁ…入っ…!」
僕の視点からはよく分からないが、忍の舌が八九寺を掻き回しているらしい。
それはかなりの快感のようで、八九寺は、舌をだらしなく垂らして震えていた。
「ほれ…お前様…そろそろ挿れてやるがよい…」
八九寺と僕から少し離れた忍は、ベッドの淵に背を預け、僕に促してきた。
「八九寺…」
僕は八九寺の背中に両腕を回し抱き寄せ、反転して上下を入れ替え、八九寺の開いた脚の間に腰を沈めていった。
入口に触れるか触れないかの辺りで、八九寺は僕の背に手足を絡めてきた。
「思いっきり…どうぞ…?」
眼前で囁かれ、僕の腰は勢いよく進み、一気に八九寺の奥にぶち当たった。
「かっ…!うぅぅぅっっ!」
八九寺の両手の爪が僕の背中に深く食い込み、僕の腰に絡めた脚が震える。
「はっ…!あぁぁぁ…」
八九寺が大きく息を吐き出し、僕への四肢の拘束が少し緩められると、僕の腰は激しく動きだし、八九寺を責め始める。
「うっ…んんっ…!はぁっ…熱くてぇ…固ぁ…ふわぁっ!」
「くぁ…八九…寺…」
八九寺の中はまるで吸盤のように僕に吸いてきて、お互いから溢れる粘液が、ぐちゃぐちゃと音をたてている。
「んんっ…よいぞお前様ぁ…その…調子じゃ…」
そして、横で僕の八九寺の重なりを見ていた忍からも、ぐちゃぐちゃと液を撒き散らしながら、自分で自分に、指を何本も突っ込んでいた。
その一人悶える様に、僕の欲はより激しさを増していく。
「ひゃっ!ああっ…くぅっ!」
奥をえぐるように、乱暴に八九寺を突くたびに、金切り声にも似た喘ぎが部屋に響いた。
「ああっ…わかるぞお前様…こみ上げてきてるのが…儂も…そろそろ…くぁっ…!」
僕の根元でぐつぐつと沸き立つものが、忍にも強い快感をもたらしているようで、その指の動きは、より激しくなっていた。
僕の下で喘ぐ八九寺も、どうやら限界らしく、唇をひくひくと震わせていた。
「はっ…はぁっ!あらぁ…ら…いっぱい…くださ…いぃ…!」
八九寺の熱く火照る身体を、僕は両腕で強く締めつけながら、奥の奥をさらに貫かんばかりに、腰を押しつけた。
「八…九寺…!出っ…!」
僕の中から、体験したことの無い異常な容量の塊が飛び出し、八九寺の、とろけた小さな空洞へ叩き込まれた。
「はぁっ…!すご…いぃっ…!ひゃぁぁぁっ…!」
八九寺はアゴからつま先まで激しく痙攣すると、僕に絡めていた手足をパタンと床に投げ、惚けた顔から涙と涎を流しながら、すうっと、瞼を閉じていった。
「ふふ…凄い量じゃったな…さすが鬼畜なあるじ様、小娘にそんなに種付けしたかったのか…」
僕にあわせて果てた忍も、床に四肢を広げ、ぐったりとしていた。
僕が未だ吸いついてくるものからゆっくり抜け出ると、八九寺から、少し吐息が漏れた。
下に目線を移すと、八九寺の腰から太ももまではネトネトと粘つき、その中心からは、缶コーヒー一本分はありそうな量の白濁液が、トプトプと湧き出ていた――
虜にした少女が眠りについたことで、ようやく僕の理性は解放されたらしい。
ただ、体力の消費がかなり激しく、まだしばらくの間は、立ち上がれそうになかった。
「ふぅ…まあまあよかったぞお前様。さて、いい加減儂の眠気も限界じゃな…とっぷりと眠らせてもらうとしよう…おやすみじゃ、お前様…」
清々しい、満足したという表情で、床に寝そべっていた忍はそのまま、影に沈んでいった。
RPGのモンスターが実際居たとしたら、こんな風に消えるのだろうか――とか、だいぶ熱が冷めた頭で、少し?気なことを考えていると、突然、背にしていた部屋の扉が勢いよく開いた――
ああ、なんのことはない――
八九寺が言う通り、物語で害を成すのはやはり、僕の間抜けな行動だ。
僕が全裸の状態で扉を蹴破られる、なんてことは我が家では日常茶飯事なのに。
冷静に対応しようと思えば、できたはずなのに。
それなのに僕は、振り返ってしまった。
見て、しまった。
始業式を終えて足早に帰宅し、早朝家に居ずに連絡も取れなかった僕に文句を言おうと、部屋に怒鳴り込んで来た、二人の妹の四つの目を。
ばっちりと、見てしまった――
――どのくらいの時間が経ったのだろうか。
何故僕は、こんな状態になっているのだろうか。
何故僕は、仰向けで寝転がされているのだろうか。
何故僕は、火憐の股間を股間に擦りつけられているのだろうか。
何故僕は、月火の股間を顔面に擦りつけられているのだろうか。
何故僕に、跨る妹二人は、女同士でキスをしているのだろうか――
「…にぃ…ひゃあん…つきひ…ひゃ…ふぁぁ…」
「んっ…かれんちゃぁん…舌ぁ…いいよぉ…」
押しつけられた月火の臀部に、視界は遮られているので、触覚や水音や喘ぎ声での現状把握になるのだが、まあとにかく、犯罪的なトライアングルが構築されているのは確かなようだ。
火憐のとろけた肉が、僕を咥え込み前後に揺れ、月火の濡れた溝が、僕の鼻先から顎先までに擦りつけられている。
僕の顏前と腰の辺りで聞こえる、ぐちゃぐちゃとした水音とは別に、それぞれ僕の腹に手をつき、身体を支えながら喘ぐ、妹達の声が部屋に響く。
「ふわぁっ…!にいちゃんのぉ…奥でごりごりして…すごいぃ…!」
「はぁ…かれんちゃんも…おにいちゃんも…口がぷるぷるしてるぅ…かわいぃ…」
どうやら火憐の方は最高潮に感じているようで、月火より遥かに早く、強く前後に腰を流し、咥えた僕をぐねぐねとこねくり回す。
その激しい動きに、先程八九寺にあれほど注いだのが嘘のように、僕の腹の下から大量の熱がこみ上げてくる。
「ふっ…!かれ…ちゃ…」
「あはっ…!ほら、かれんちゃん…おにいちゃんも気持ちいいってぇ…」
僕の言葉を肉の壁で遮りながら、月火が伝える。
「うんっ…!にいちゃんの…すごいびくびくしてるぅっ…!」
「か…れっ…!」
火憐の動きが限界まで強くなり、ホースの先をつまんだような勢いで、僕の大量の熱は火憐へと強く注がれた。
「あふぁっ…兄ちゃんのがぁっ…おなかに…ばしゃばしゃかかってるぅっ…!あっ、ああぁっ…」
僕の腹についた手がブルブルと震えると、火憐は僕のまっすぐ伸ばした脚を背にする形で、後ろに倒れこんだ。
「あっ…ひ…にぃ…しゃぁ…」
僕の足首を枕にして震える火憐だったが、それは少しの間だけで、すぐに柔らかな寝息が、脚にかかってきた。
火憐が倒れたのを、僕の顔を跨いだまま、眺めていたであろう月火。
しかし、優先順位は完全に僕の方が上らしく、火憐を気遣うことなく、腰を曲げて手を添えたのは、様々な液体にまみれ、未だそそり勃つ僕だった。
「あぁすごい…お兄ちゃん…ねばねば…がちがち…おいしそう…」
月火は両の太股で僕の頭を挟んだまま、目の前の起物に指先を絡め、そのプルプルとした、柔らかな唇で吸いついた。
「はぁっ…!つき…」
「あぁ…おにいちゃん、さぼっちゃだめぇ…」
月火はそう言うと、僕の口に蜜にまみれた肉をぐりぐりと押しつけてきた。
「んっ…ぶぅっ…!」
「あはぁっ!もっとめちゃくちゃしていいよぉ…はぁ…そうだぁ…こっちも…してあげるね…」
月火は、僕をしごいてぬるぬるになった、右手の細長い指――おそらく中指を、僕の『穴』に一気に、根元までをねじ込んだ。
「あっ!がっ…!つ、月火ちゃ…」
月火は刺した指を、そのまま僕の中で動かし、ぐりぐりと擦り出す。
「あはぁ…きゅうきゅう締まって…びくびくしてる…お兄ちゃん…」
「くっ…はあぁぁ…」
月火の強烈な責めに少しでも対抗しようと、僕も目の前の裂け目を両手で広げ、その粘つく隙間を舌と唇で、じゅるじゅると貪る。
「へぁぁっ…おにいひゃぁん…もっとどろどろ…らしてぇっ……」
上下に頭を振って、指を蠢かせ、じゅぷじゅぷ音を立てながら、月火は激しく僕を舐め回し、しゃぶりつく。
そのぬるい吐息、熱く包む口内、柔らかく絞られるような感覚に、僕はすぐに限界を迎えた。
「はっ…くぅっ…!」
三度目にも関わらず、さらに量が増した僕の白濁が絞り出されると、月火はより深く僕を咥え込み、喉奥で締めつけてきた。
「んぶぅっ…!ふぅっ…んくっ…!」
放出の反動で、僕は顔に垂れてくる蜜の元――ヒクつく柔らかい溝に、じゅうっ、と息の限り吸い付いた。
「あぶっ…ひゃぶぅぅぅっ…!」
僕から出た汁をじゅるじゅるとすすりながら、絶頂を迎えた月火は、その快感に耐えるため、僕に刺していた指も含めた、両手指の爪を、僕の左太股全体に、ぎりぎりと食い込ませた。
超痛かった。
「あぁ…おにぃ…ひゃ…どろどろ…れたぁ…」
月火は全身を強張らせた後、僕の先端を右頬の内側に当てたまま、ゆっくりと脱力していき、僕の上半身を敷いて、眠りについていった。
数分後――感覚を取り戻した腕で月火を横向きに返し、僕は上半身を起こした。
あまり頭に血が回ってないのか、少しぼやけた視界に映るのは、僕の足首と脚の付け根をそれぞれ枕にして、静かに眠っている火憐と月火の姿。
その二人の妹の『口』からどろどろと溢れ、流れ出したものは、床に広がり、混ざり合っていた――
――真っ裸の少女達を放置するわけにはいかないので、僕はタオルで三人の身体の拭き、服を着せて、八九寺は僕のベッドに、火憐と月火は妹部屋の二段ベットにと、先程乱暴に扱ってしまった分、なるべく丁寧に運んだ。
その間、僕の頭の中は度々真っ白になっていて、ふと気がついてみると、僕は自室のベッドに身体を放り投げていた――
「僕って…僕って…僕って…僕って…僕って…僕って…僕って…僕って…僕って…僕って…」
シーツを掻きむしり、僕が毛虫のように蠢いていると、影から忍が――妹達との行為での感覚が伝わっていたはずだが、まるで反応しなかった忍が――至極機嫌が悪そうな、しかめっ面で現れた。
「…なんじゃお前様。伝わってくる心があまりにブラックじゃから、目が覚めてしまったではないか。さてはまだやり足りんのか?」
パジャマのつもりなのか、忍が今着ているワンピースは、ピンクはピンクでも、超スケスケ生地で、お肌見放題だった。
「なあ忍…一夫多妻制がある国って、どこだっけ…あ、実の妹を妻にできる条件込みで…」
「ん?お前様、妻にする予定なのは、ヶ原さんだけではなかったのか?」
「いや…さっきのアレ…確実にできちゃった婚のスタートライン、切っちゃっただろ…?」
「…?ああ、言っとらんかったか。『魅了』は吸血鬼にとっては些細な嗜みじゃからな。性欲を激しく増大させるが、子は孕みはせんし、虜にした異性には記憶も残らんぞ」
「え…」
都合よすぎる設定が明らかに…
いや、でも八九寺や妹達とやっちゃったことには間違い無いし…うあああ………
「別によいではないか。あやつらも、お前様と交わりたい、という本能が元々あったから、あそこまで乱れたわけじゃし」
「そういうもんなのか…?」
「そういうもんじゃ」
ふむ、そう考えれば罪の意識は……消えないな。
でもまあひとまず、そういうことだとして。
「忍、僕はもう『魅了』はこりごりだ。こんな能力、早く消してくれ」
「ふむ、そうかもう充分か。あるじ様が満足したようで何よりじゃ」
こいつ、僕の感情が伝わってるくせに、なんでちょいちょい会話が?み合わないんだろう…
「しかし儂にはどうにもできんな。お前様が自分で対処するしかないのう」
なんと無責任な。
さすがはミステイク忍、といったところか。
「まあいいよ…で、方法は?」
「うむ、二通りじゃな。プランAは今すぐ能力が消え、プランBは半日ほどかかるが…どちらがよいかのう?」
「決まってるだろ、今すぐだ。プランA。で?何をすればいいんだよ?」
それならと、忍は言う。
「両眼をえぐり出すのじゃ」
「プランBで」
完全な吸血鬼状態でも勘弁願いたい、グロテスク極まりない方法だった。
「なんじゃまったく、はっきりせんあるじ様じゃのう」
「悪かったな優柔不断で。いいから、早く方法を教えてくれ」
「ふむ…特別何をするでもない。お前様に与えたのは、元々は生命エネルギーじゃからの。普通に生活していればエネルギーは消費され、半日ほどで消滅するじゃろ。」
「え?それって要するに、放っとけば消えるってことか?」
「まあそうじゃな」
「なら最初からそう言えよ!」
プランAとの対価の差がとんでもない!
もはや何らかの悪意を感じる!
「まあもう能力を使いたくないと言うのなら、今日はもう誰とも会わないことじゃな」
「まあ…そうなるな」
部屋の時計が示す時刻は、十一時四十一分。
今から半日だと、大体日付が変わる頃までは、人を避け続けなければならないようだ。
いや、明日の朝ぐらいまでは、余裕を持つべきだろう。
「明日は必ず、学校行かなきゃな…」
あまりにも濃密な、事件だらけの今日の午前はようやく、終わりに近づいていた。
後日談というか、今回のオチ。
僕は二段ベッドの上下で、すやすやと眠る火憐と月火を一度確認した後、自室に戻り、忍と今後の計画を立てていた。
僕の能力が収まるまで、誰にも会わなくて済む場所を考えていたのだが、まあそんな条件を満たす場所はごく限られていて、今夜の寝床に決定したのは、毎度お馴染み、学習塾跡の廃墟である。
「でも行くのはいいとして…その道中で、誰かと目が合ったらまずいよな…」
ラブコメ作品で見られる、超能力やら発明品やらが原因で、主人公が街中で不特定多数の人間に追いかけられるという、嬉しいのか苦しいのか分からない事件が起こりかねない。
「それなら心配いらん、お前様の『魅了』は体験版みたいなものじゃ。直に眼球を見られなければ、何も起こらん。そのための道具ぐらいなら、残り僅かに余るエネルギーでも、作れるじゃろう」
そう言って、忍が掌の上に一瞬で作り出したのは、某アクション映画で、仮想世界出身の救世主が愛用していたものに似た、黒のシャープなサングラスだった。
「これを使うがよい」
うわお…満面の笑みだよ忍ちゃん…
天才じゃろ儂!って背景に見えるような。
これをかけてこの質素な田舎町へ繰り出せと…?
僕を何のエージェントにするつもりだ。
「…あ、ありがとう…流石、忍はセンスいいなあ」
しかしここは大人しく従おう。
まあサングラスや眼鏡の類いは持ち合わせていないし、下手に突っ込んで大泣きでもされたら、少女達が起きてしまうかもしれないし。
……あれ?
なんか僕、娘に弱すぎる、駄目なお父さんみたいじゃね…?
「あとお前様、食糧が必要じゃろうからミスタードーナツに寄って行こうではないか」
「絶対に嫌だ」
うん大丈夫、ちゃんと断れた。
――それからすぐ、僕は必要な荷物をまとめ、忍と八九寺(家に放置はできない)を連れ、家を出た。
そして――夜型のくせに、この陽の下、頑なに影に戻らず、自転車に乗ると言う忍(何故か僕と同型のサングラスをかけていた)と、依然起きる気配の無い八九寺を、自転車の前後にそれぞれ乗せて、僕はゆっくりと、ペダルを漕ぎだした。
このまま明日になれば、僕の周りには、ようやくの静けさが訪れるのかもしれない。
しかし、今日の異常な出来事を――忘れられた僕の罪を、この先僕は、三人の少女に、話さなくてはならない。
理由がどうあろうと、やはり、隠していいことではないだろう。
まずは、僕の背中で眠る少女に――
腕時計を見ると丁度、時刻は正午。
午後が始まった。