欠陥製品とさよならした人間失格こと零崎人識(つまり俺)は、自殺志願を  
もつ妹を探し当てた。あの情報は結局役に立たなかった。  
 
面倒なので放っておいた。  
けど、当面やることもなく、人を殺せなくなった俺は兄貴に死ぬ間際に  
任された、零崎になりたての妹を、探して探して見つけ出した。  
再会の場所は、変哲もない公園だった。  
「何してんだお前」  
零崎舞織は、最後に別れた時よりいくらか薄汚れた風体でジャングルジムに  
腰掛けていた。  
「人識くんこそ、どうしたんですか?わたしのこと捨てた癖にー」  
足をぶらぶらさせながら、《妹》は呑気な口調で言った。  
 
水音がした。舞織がシャワーを浴びている。  
お前の面倒を見るという主旨の言葉を伝えた時、まず《妹》が要求したのは、  
食事と風呂と寝所であった。赤い請負人との約束により、人を殺さないと決めた。  
彼女はそれを守っていたようだ。ほんの少し前まで普通の女子高生であった彼女が  
金もなくこの数ヶ月間をどう過ごしたのか、あの薄汚れた格好で概ね予想がついた。  
コンビニで食料を買い込み、格安のビジネスホテルに宿泊することにした。  
というわけで、お泊りである。  
「傑作だぜ、なあ、欠陥製品」  
いつもの決め台詞を呟く。  
 
「ふぅ、いいお湯でした。生き返りましたよ」  
そんな台詞を言いながら、バスタオルのみを身体に纏った舞織がバスルームから出てきた。  
妹大好きの変態兄貴が見たら、飛びつくか卒倒するかあるいは説教するか、ともあれ、刺激に  
満ちた姿であった。  
(つーか、そのニットキャップ被りながら入ったのか?まさかな)  
むしろそっちの方が気になる人識であった。  
ちなみに、彼女の両手は義手である。  
赤い請負人から見逃してもらった後、そこまでは彼女の世話をしたのであった。  
そしてそのあとは、気の向くままに旅を続けた。  
誰かもわからない誰かと出会うために。  
 
「人識くん、まいおりん的にはご飯食べたいです」  
ベッドの隣に腰掛けながら、舞織は言う。実に刺激的なシチュエーションである。  
おっかしいな、こんなイベントが進むようなフラグ立てたっけ?などと考える人間失格。  
背の高い女性が好みだと言っても(具体的には170cm)こんなに間近に全裸同然の  
女性がいて平常心であれるほど、人識は枯れてもいないし朴念仁でもない。  
「食べれば?俺も風呂入るとすっからろ  
「一緒にお食事しましようよ、兄妹なんだし」  
「言っただろ、俺は兄貴以外は家族と認めてないんだよ・・・あ、そうだ、一応  
知らせておくことがある」  
「何ですか?」  
「俺としてはどうでもいいことだし、お前にとっても比較的どうでもいいことかもしれんが・・・」  
人識は、零崎一賊が全滅したという事実を端的に説明した。  
 
それはご愁傷様です、的なことを舞織は言った。実際、それぐらいしか言うべきことはないだろう。  
彼女にとっては、その程度の問題だろう。この少女は奇怪な大鋏《自殺志願》の本来の所有者・零崎双識  
とこの自分としか面識がないのだ。  
そのあと、舞織は黙り込んだ。何を考えているのか、自分の気持ちすら理解できない人間失格には  
推察することすらできなかった。  
だから、予定通りに風呂へ入ることにした。  
これからどえするべきかうつらうつらと考えながらシャワーを浴びた。  
 
北へ行くか南へ行くか。北海道へ行こうか沖縄へ行こうか。  
あるいは海の向こうに渡ってみるか。金はないがツテとコネはあることだし。  
ただ、《能天気な元女子高生、ただし殺人鬼みたいな☆》を連れて歩くことを前提にすると  
なると、もっと考えねばなるまい。まったく、傑作であった。  
シャワーを浴びて水気を拭き、バスロープを羽織る。バスルームからでる。  
舞織は先刻と殆ど変わらぬ姿勢で、ロダンの考える人と化していた  
「なんだ、まだ考え込んでやがったのか。飯食わねーのか」  
ベッドの端に座り、コンビニ袋手繰り寄せる。自分から危険な距離までよるつもりは  
毛頭ないのだ。  
 
時間が過ぎる。交わす言葉もなく、就寝することになった。照明を落とす。  
ベッドは舞織が使い、ソファーは人識が使う。毛布を一枚被ってそのまま眼を瞑る  
明日のことは明日考えよう。面倒だし。  
 
どれくらい時間が経過したか。  
「人識くんは、悲しくないんですか?」  
舞織はそんなことをポツリと呟いた。  
 
「何が?」  
「家族の人、もういないんですよね」  
「そのことか。言っただろ?俺にとっての家族は兄貴だけだ。お前を見つけた  
あの変態眼鏡だけだ。あとは他人より少し親しい程度で、家族ってつもりはなかったよ。  
大将なんかは俺のこと嫌ってたみたいだし」  
一瞬、一賊中、もっとも残虐な殺し方で有名な《愚神礼賛》のことを思い出す。  
「でも・・・」  
「なんつーか、中学のときの委員長の方が、印象には残ってるな。その頃俺に付きまとってた  
野郎もいたが、もうソイツもいないし・・・」  
中学時代。もう捨てた名前で呼ばれていた時のことを思い出す。  
「でも・・・わたしは寂しいです」  
舞織は言う。  
「家族・・・特に仲良かったわけじゃないですけど、やっぱりもう会えないとわかったら  
寂しいですよ。クラスメイトとも、もう会えないし・・・」  
舞織は言う。  
「お兄ちゃん、言ってました。殺人鬼は孤独なものだって」  
「それは俺も昔聴かされたことがあるな」  
つい、口を挟んでしまう。  
 
この世でただ一人、家族と呼べた人。零崎一賊の長兄。できたばかりの妹を庇い  
そして死んだ男。映画を見た。勧められた本を読んだ。不味いカレーを食わされた。  
刃物に刺される痛みを刻み込まれた。もう、この世のどこにもいない、彼の兄。  
「どうして、探してくれたんですか?」  
「兄貴にお前の面倒を見るように頼まれたからだよ」  
戯言を言ってみる。これこそが戯言だろう。  
「だったら・・・」  
舞織は――泣いているようだった。声の感じから察することができる。  
理由は知らない。  
「だったら――なんで見捨てたんですか?わたし、あの時から、ずっと寂しかった・・・」  
そう、一度は見捨てた相手だった。義手を用意して、嵌めるところまで付き合い、そしてそこから  
別れたのだ。あの時点では、彼女は殺人鬼でありながら人を殺すことを禁じられ、自分を活かす術すら  
しらないただの少女でしかなかったのだ。見捨てたと言われても仕方ないし、人識自身も実際にはそんなつもり  
だったのだ。  
 
人識はこの場を取り繕う言葉を捜す。即ち戯言を。  
「あー・・・やることがあったからな、俺には」  
結局、曖昧な言葉しかない。案外、本音かも知れない。毎度のことだが、自分でも自分の  
気持ちがよくわからないのだ。  
舞織がこちらを向いた。薄明かりなので表情はよくわからない。  
「俺は会いたい奴がいるんだよ。そいつと会ったら、何かがどうにかなるんだよ」  
それが誰なのか、未だによくわからない。  
それらしき相手には何度か出会った。だが確信がない。  
或いは、あの欠陥製品だったのかも知れない。水面の向こう側である彼。  
だが、確信は持てない。  
 
「俺と一緒にいるのが嫌なら、それでもいいんだぜ。それなりに  
信用できる知り合いにお前を預けるって手もあるし」  
「そっちの方が嫌ですよう」  
舞織は言う。  
「今度こそ最後まで一緒にいましょうよ」  
舞織は言う。  
「だって私たち、たった二人だけの家族じゃないですか」  
舞織は言う。  
「俺の家族は」  
「双識のお兄ちゃんだけっていうんでしょ。家族が嫌なら  
私は人識くんの彼女で我慢します」  
「我慢ってなんだよおい」  
「むしろそっちが本命、みたいな?」  
舞織がうふふと笑った。さっきまでの泣きそうな態度はなんだったのか。  
「ねえ、人識くん、エッチしたことあります?私はないんですけど、  
どんな感じかわかります?」  
いきなり話題が跳んだ。  
 
「あー、ちっと待て。なんでそんな話題になったんだ?」  
「えー、修学旅行とかだと、こういう話で盛り上がったりするじゃないですか」  
「かは、修学旅行なのかこれは」  
さっきまでのシリアスな雰囲気は、何処かへと旅立ったらしい。  
「で、どうなんです?」  
「俺は秘密の多いことがチャームポイントだからな。内緒ってことで」  
「うなー、、人でなし、殺人鬼、通り魔」  
「全部当たってるじゃねーか」  
「で、結局私のことどうするつもりなんです?」  
「何が」  
「妹にするか、彼女にするかってことですよぅ」  
話が戻った。一度逸らしておいて戻すとは。  
「別に、妹じゃなくてもいいし、彼女なんて甘ったるいもんは俺にはいらねえよ」  
「うー、でもー」  
「何だよ」  
「どっちかにしておかないと、また捨てられそうだし・・・」  
結局、それを恐れていたのか。  
「どっちもいらねえよ。一緒にいることに、理由なんて必要ないだろ?それに・・・」  
「それに・・・?」  
人間失格はそれから先を言わなかった。  
 
「人識くん・・・・人識くんってば。もう寝たんですか?」  
「ぐぅ・・・すやすやすや・・・・・」  
「起きてるじゃねーかよ」  
「かはは、傑作だな」  
「傑作ですね」  
意味のない会話。  
 
そして二人は添い寝することになった。  
その間のことを説明するとこうなる。  
「この部屋寒いですよぅ。添い寝してくれませんか」  
暫くして舞織がこういったのだ。  
「所詮安いビジネスホテルだからな」  
「雨露凌げるだけ野宿よりましですけど・・・・それに、少し熱があるみたいなんです」  
「お前が?」  
「風邪引いたみたいなんです。うなぁ」  
 
人識は渋ったが、舞織の泣き落としに勝てず添い寝するはめになった。  
傑作だぜ。人間失格は、《妹》の体温を間近に感じながらつぶやいた。  
 
「こうしてると恋人同士みたいですね」  
「寝言は寝て言えよ。つーか、まだ続いてたんだなその話」  
「モチのロンですよう。絶好の機会ですし」  
うふふふ、と自嘲気味に笑ってみる。  
「それにしても、こんなにかわいい子がモーションかけてるのに、冷たいですね人識くんは」  
「俺はちっとも優しくないからな。甘えるなよ」  
《兄》は天井を見つめながらぼんやりと言う。  
「人識くん」  
「今度はなんだ」  
「えっちなことしてみませんか」  
「本気かよ」  
「マジと書いて本気と読む世界です」  
「微妙に間違ってるぞ、それ。それよりも、熱があったんじゃないのか?」  
「現在進行形で熱があがってるっすよ大佐殿」  
「誰が大佐なんだよ軍曹殿」  
 
「人識くんって、好きな人とか居ます?」  
「なんでそんなこと聞きたがるんだよ」  
「だって、いっつも私ひとりが喋ってばっかりだったじゃないですか。人識くんの  
お話も聞きたいですよ」  
「前にも言っただろ?俺は秘密が多いのが売りだからな。その辺のことべらべら喋ると  
イメージダウンに繋がるんだよ」  
「お兄ちゃんなら――双識さんなら色々話してくれたと思うんですけどね」  
「妹大好きの変態兄貴だからな、前から妹欲しいとかほざいてたし。俺は別にほしくねーって  
言ってるのに全然聞きやがらねーでやんの」  
 
結局、その晩は色々話しながら眠ることになった。  
人識は話した。今はもう全滅した零崎一賊のことを。  
《自殺志願》の兄のこと。  
《愚神礼賛》の大将のことを。  
《欠陥製品》《みなものむこうがわ》の彼のこと。  
《赤い請負人》のことに関しては、舞織も色々思うことがあった。  
「俺はあれから殺してないが、お前はどうなんだ?」  
「してないですよ、意外と何とかなるものですね。凄く辛い時もありますけど」  
「本能なんて理性的であろうとすれば、意外と押さえ込めるもんだよ。その調子でやっていければいいな」  
《兄》が逝き、《妹》を託されたあの日。  
そして電車での対決。死を覚悟したあの瞬間。舞織が人識を庇ったの見て、あの赤い請負人は言ったのだ。  
そんなのずるいと、そんなことされたら何もできないのだと。  
だから、見逃す代わりに、もう人を殺さないと約束させられた。  
「ホントに、どういう人なんですかね。あの赤いお姉さん。新手のスタン使いみたいな雰囲気だしてましたけど」  
「正義の味方だろ、多分」  
究極の暴力の具現。だというのに、あの甘さはなんなのやら。人識には理解できないし、したくもない。  
人を殺さない殺人鬼。人を殺させない殺人鬼。傑作中の傑作だ。  
 
そうしているうちに、舞織は人識の腕をそっと掴んだ。  
人識は特に反応しなかった。  
「人識くん…」  
寒さに耐えるような声で、呼びかける。  
「なんだ」  
素っ気無く呟く。  
「わたしを一人にしないで下さいね。もう一人ぼっちは嫌ですから」  
舞織が言った。  
人識は答えなかった。  
「人識くん………人識くん……」  
人識は答えない。人間失格は何も言わない。反応しない。ただ天井をぼうっ…と眺めている。  
「人識くん……何か言ってくださいよぅ…戯言でもなんでもいいから……」  
触れた手が微かに震えていた。呼吸が微妙におかしい。熱があるというのは誇張でもなんでもなかったらしい。  
「お前、もう寝ろ。疲れが一気に出たんだろ。無理せず眠れ」  
彼女の面倒を見るのを放棄して、どれくらい経ったのか。  
その間、彼女はどうやって過ごしていたのか。  
再会した時の薄汚れた風体を見ただけで、訊かなくても凡そ推察はできる。  
殺す事を禁じられた殺人鬼。少し前まで普通の女子高生として生活していた少女が、ホームレスとしての  
生活をする技能も覚悟もなかった少女が、どうやって今日まで過ごしてきたのだろうか。聞くまでもなく推察できる。  
「起きたら……居なくなったりしてませんよね」  
舞織は従おうとしなかった。この調子だと、こっちが眠れそうにない。だから戯言をいうことにした。  
誠実さの欠片もない言葉で、この《妹》を寝かしつけてやろうと思ったのだ。  
「一緒にいてやるよ、一緒にいてやるから…」  
「本当に?もう私のこと捨てたりしない?」  
「安心しろ、今度は最後まで一緒だ」  
「……信用できないですよぅ」  
じゃあどうしろっつーんだ。人識はそう言いたくなるのを堪えた。  
代わりに、身体を動かして、舞織の頬に触れた。こんな風に人に触れるのはいつ以来だろう。人識には思い出せなかった。  
「前科があるから不安になるのはわかるけどよ、これからは一緒にやってくんだ。もう少し俺を信用しろよ。  
そうじゃないとやってけねーだろ?」  
撫でてやると、くすぐったそうに舞織は眼を瞑った。  
これで収まったか、と安堵しかけたその時であった。  
「じゃあ、キスしてくださいよ。そしたら信用してあげます」  
舞織は言った。まだその話続いてたんだ、とツッコム気力はなかった。  
その代わり尋ねる。  
「それでいいのか?」  
「キスは誓い合った相手としかしないんですよ。だから、これは儀式みたいものです」  
うふふふ、と熱に浮されながらも無邪気に笑う。仕方ないか、と人間失格は諦めた。  
舞織は瞼を閉ざす。睫長いな、とか人識は思っている。  
熱があるので上気した顔が微妙に色っぽい。  
傑作だと胸中で呟いて、上から覆いかぶさるようにして、顔を近づけた。  
「ん……」  
熱のある唇に己の唇を静かに重ねた。  
柔らくて、熱い唇の感触に少し頭がぼうっ…とした。  
「んふ…んん……」  
唇の隙間から吐息が漏れる。悪戯心が沸いた人識は、その隙間に舌を挿しいれた。  
「んん?」  
疑問符付の声。歯並を舌先でちろちろと舐め回す。  
「んん、うー……」  
舞織は何か言おうとするが、それは必然的に閉じた歯を開けることになる。  
人識がそれを見逃すはずもなく、舞織の舌を舌先で突付いた。  
「ふなっ…ふー…」  
さて、そろそろ辞めておかないとヤバイかなと思ったら、舞織が逃がさじと  
腕を首の後ろに回した。  
 
これはどうしたものやら。人間失格は考える。キスしている。  
現在はむしろされている方だが。正直気持ちよくて脳髄が蕩けそうだ。  
結論。剥くか。決めると実行までは限りなくスムーズであった。唇を離して息を吸う。  
もう一度キスをする。強く深く吸う。ざらざらと舌を絡める。  
息が続く限り、舌を吸ったり絡めたりする。  
酸欠になる寸前、唇を離す。舞織は息も絶え絶えの状態に陥っている。  
快楽と酸素不足でふらふらになっている間に次の行動に移る。  
バスローブを剥いで滑らかな裸体を晒す。舞織は身を捩り、顔を覆った。  
だが、まだ発育する可能性を秘めた形のよい乳房や、湯上りでピンク色に染まった  
お腹とかは隠していない。やんわりと乳房に触れながら首筋をペロリと舐める。  
「ひゃうっ」  
と、舞織が震えた。ちゅうと吸いながら、乳房を揉み始める。  
「はうぅ、変な感じが、あぅ」  
円を描くように優しく乳房を動かして、  
「ふぅ、そんなにされたら、あっ」  
乳首を口に含む。  
「ふにゃあ」  
乳首を吸うと舞織が鳴いた。  
反対の乳首をくりくりと弄る。瞬く間に硬くなり、つんと勃起した。  
舞織は感じやすい体質らしい。あらゆる愛撫に恥らいながらも応え、身体が溶けてゆく。  
太股を擦り合わせ、もっともっとと身体が刺激を欲している。  
太股の合わせ目に手を伸ばすと、蜜が垂れていた。  
「感じやすいんだな、舞織」  
耳を甘く噛みながら囁く。  
「ふなぁ、人識くんが、うなぁ、上手だからですよぅ」  
かかる吐息すら快感なのか、びくんびくんと振るえながら舞織は抗弁した。  
「ふぁ、私、初めてなんですよぅ」  
「あ、左様で」  
相手の事情が分かったところで、斟酌しないのが零崎人識が人間失格と呼ばれる由縁である。  
耳を舐めながら太股の内側に指を侵入させて、愛液を潤滑油として、秘裂を撫でる。  
「うっひゃあ」  
変な声をあげる舞織に委細構わず、水音をさせながら割れ目を擦る。  
「なんつーか、恐ろしく感じやすいな、お前」  
呆れた様に呟きながら、体勢を変え、既に勃起した逸物を取り出す。  
好みから外れているとは言え、ここまでやっておいて発情しないほど、人識も偏屈ではなかった。  
「入れるぞ、覚悟はいいな」  
「あの、出来れば痛くないように。痛いの、嫌いなんですよ」  
「かは、初めては痛いって相場が決まってるからな。大人になる痛みってやつだ、少しだけ我慢しろよ」  
人識は躊躇というものをしなかった。入り口に宛がい、潤滑油で半ばまで入れると、一気に処女膜を貫  
いた。舞織の背中が弓なりに撓った。苦痛はむしろ、後からじわりとやってきた。  
「いっ…痛い……痛いですよぅ……」  
初めて胎内に異物を入れるその痛みに、はらはらと涙が零れ落ちる。  
痛いと訴える舞織に、人識は腰を動かすことで応じた。  
「はっ、あ、い、いたいぃ、あぐっ、ふぅ」  
舞織は泣きながら喘ぐ。人識はゆっくりと腰をグラインドさせる。  
暫く舞織は泣き止まなかった。そして人識はゆっくりと動かしながらも止まることはなかった。  
逸物で膣内を擦り、無慈悲に掻き回す。そうやって動かす内に、舞織の反応に変化が生じてきた。  
脚を絡めて、必死に身体全体でしがみ付き、呼吸と喘ぎ声がやや落ち着いてきたのだ。  
「なんか、あっ、少し、痛みが、はっ、減ってきたみたい…ひぁっ!」  
実際、舞織的には痛みが鈍痛に変わってきた程度である。しかし、熱が痛みを誤魔化している様で、  
喋る余裕ができたのも事実である。  
ちろっと、人識の首筋を舐めると、人識は驚いた。  
舞織は笑っていた。ぎこちないながらも、人識を安心させるように。  
 
また変なのと縁ができたな。改めて人識はそう思う。  
あの時、兄貴の腕の中で、血塗れになりながらも笑っていた新しい《零崎》。  
あの時も思ったのだ。変なやつだと。  
面倒くさいと思いながらも、義手の手配をしてやった。  
別れた後も、心の片隅に彼女のことが引っかかっていたのも事実だ。  
そして再会したこの新米の《零崎》を前にして、何を思うというのか。人識はわからない。  
そしてこの少女は何を思っているのか。等しくわからない。  
 
人識は笑わなかった。ぐいぐいと腰の動きを強めて、射精を促す。  
その動きにあわせて舞織の身体が踊るように動く。  
「いくぞ」  
短く終わりを告げる。  
「うっ、いあっ、は、もう、痺れて、あっ…!」  
人間失格は逸物を引き抜き、腹の上に射精した。  
 
何とも言えぬ時間が流れた。無駄に喋りまくる笑顔の素敵な殺人鬼・零崎人識が  
非常に居たたまれない気持ちを抱きながら、天井を見つめている。  
《自殺志願》を継ぐ者・零崎舞織も、ぼんやりと天井を眺めている。  
何を言うべきか、何も言うべきではないのか。  
「あのさ」「あのう」  
「「………」」  
「何だよ」  
「人識くんこそ、どうしたんですか?」  
「……あれでよかったのか?今更よくないとか言われても手遅れだがな」  
「人識くんは、嫌だったんですか?」  
「別に、俺は良かったなーとしか言えないけどな。気持ちよかったし、反応よかったしな」  
「うー、私も途中までは気持ち良かったですから、良かったです。まあ、破瓜の痛みは通過儀礼ですし、  
根に持ったりしませんよええしませんとも」  
じとりとした視線を人識に向ける。人識は笑った。  
「じゃあ、いっか」  
「でも、これでずっと一緒に居られますね」  
ああ、そんな話もあったっけ、と今更思い出す人識だが、流石に口を出すのはやめておいた。  
本当に、傑作だぜ、なあ欠陥製品。胸中で呼びかける。  
 
「これからどうするんですか?何処へ行くんですか?」  
「特にあてはねーな。やることと言ったら、零崎を終わらせるぐらいしか  
残ってねーし」  
「終わらせたら駄目ですよ」  
「なんで?」  
「新しい弟や妹が出来るかも知れないのに、終わらせたらその子たちの居場所が  
なくなっちゃいますよ」  
舞織はそう主張した。  
だから、  
 
「零崎は当分終わりそうにないぜ、欠陥製品」  
 
                                  【零崎は終わらない?】  
 
 
 
 

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