「んー…………っと」  
 問題集の答え合わせを終えた僕は腕を上げて大きく伸びをした。  
 なかなかいい点数だ。この調子ならまだ上げることができるだろう。  
 もっとも。  
 今更こんなことをしていても意味はないのかもしれないけれど。  
 こんな。  
 世界が滅んでしまった今の状況では。  
 ……まあそうは言っても手持ち無沙汰なのである。  
 日を選んで花火をしようと思い当たったものの昨日も今日も快晴が続き、先延ばしの現在。  
 意外とすることがなく暇なのだ。吸血鬼体質のおかげで眠気もあまりないし。  
 ちなみにその本物の吸血鬼こと忍野忍はといえば。  
「………………」  
 僕の対面で膝を抱えながらソファーにうずくまっていた。  
 昨日までは花火が楽しみだのなんだのとテンション高く騒いでいたのだが、どうかしたのか今は黙って一言も発さない。  
 いや、原因などわかっている。どうせ我に返って改めて罪の意識にでも苛まれているのだろう。  
 いくら僕が気にするなとは言っても、原因が違う自分だったとしても、自分がやったことだと意識してしまっている。  
 ここは何か声をかけて気を紛らわしてやらないと。  
 そうだな……。  
「忍、キスしよっか」  
 なんでじゃ!!  
 数日前にした遣り取り。  
 同じツッコミにどう対応しようか僕は考えていたのだが。  
「……………………」  
 予想に反して忍は何も言い返してこなかった。  
 すっと立ち上がって僕の傍らに腰を下ろし、顎を上げて目を閉じる。  
「いや、何でだよ!?」  
 思わず僕の方がツッコミをいれてしまった。  
 するなら百年後とか言っていたお前はどこへ行った!?  
 まあそんなのはいまさらではあるんだけどさ。  
 忍は顔を伏せ、そのままぽすんと僕の身体にもたれかかり、腕を巻き付けてくる。  
「忍…………?」  
「……お願いじゃお前様」  
 少ししゃくりあげるような声を出す。  
 普段の陽気な面影など微塵も感じられない。  
「儂に……儂に罰を…………この身体に、与えてはくれぬか」  
「…………」  
 精神への重圧と責任からの逃避がせめぎ合い、出した結論がそれ。  
 要するに忍は僕に自分を犯せと言っているのだ。  
 できるだけ乱暴に。荒々しく陵辱せよと。  
 あるいは僕の心も弱っていたらその提案を受け入れたかもしれない。  
 でも。  
 僕は。  
「駄目だよ忍」  
 僕はお前を抱かない。  
 少なくとも今ここでは。  
 顔を上げた忍は悲しみに満ちた表情を僕に向ける。  
 
「僕は自分には優しいからさ」  
「……?」  
「言っただろ、お前のしたことは僕のしたことだって。お前を罰したら僕は僕にも罰を与えなきゃいけなくなる」  
 僕の言葉に忍はくくっと鼻で笑った。  
「何じゃそれは。そういうのは優しいのではなく甘いと言うのじゃ」  
「何とでも言え」  
 僕は忍の頭をぽんぽんと叩き、軽く撫でてやる。  
 ふにゃっと相好を崩し、されるがままになるのを見て僕はほっと息をついた。  
 精神的にも幼いゆえに打たれ弱いが回復も早いようだ。  
 ギリギリで零れ落ちずに目元に溜まっていた涙を見つけた僕はそこにそっと唇を寄せる。  
「ん……」  
 忍は特に抵抗の意志を見せず、僕の背中に回した腕に少し力を込めた。  
 顎を上げて突き出された唇に、今度は僕も何も言わずに自分のを合わせる。  
 最初は触れるだけ。やがて押し付ける力が強くなり、僅かに開かれた唇からお互いの舌先が触れ合い出す。  
 舌を擦らせて唾液をぐちゅぐちゅと絡ませ合い、激しく吸う。  
 顔を離すとつうっと二人の唇の間に糸が引いた。  
 うーむ。  
 抱かないと格好つけてはみたものの結局欲情してしまった。  
 僕のズボンの中で暦ジュニアが大人になってしまっている。  
 さて、どうしたものか……ん?  
 忍がにやにやと目尻を下げながら、開けた口をちょいちょいと指差す。  
 んー……しばらくヌいてなかったしお世話になろうかな?  
 いや、エロい意味合いだけでなく、忍に体液を与えなきゃいけないし。  
 それに忍を罪の意識から逸らさなきゃならないしな。  
 はい、言い訳おしまい!  
 僕は忍を抱えてソファーに横たわらせた。  
 そのまま傍らにしゃがみ込み、片手で頭を抑えて再び唇を合わせ、空いているもう片手で忍の身体を弄り出す。  
 忍は僕の頭に腕を回してより唇を押し付けさせ、自分の服を消した。  
 全身のきめ細やかな肌をを余すとこなく僕の手が這う。  
 うなじから胸、腕、腋、腹、脚へと揉んだり摘んだりせず、あくまで手触りを確認するかのように撫で回した。  
 そこからゆっくりと手のひらに力を込め始め、より卑猥に愛撫していく。  
 ほとんど膨らみがなくとも桃色の突起だけは立派に自己主張している胸を揉みしだき、その突起を指の腹で摘む。  
 小振りな尻を掴むように揉み、脚を開かせて太ももを撫でる。  
「ん……く……ふぁ……あ……」  
 合わせた唇の隙間から忍の声が漏れ出た。  
 が、忍もされっぱなしではいない。  
 
 屈んでいる僕の股間に腕を伸ばしてくる。  
 手探りだけで器用にベルトを外してファスナーを下ろし、ガチガチに固くなった肉棒を取り出した。  
 少し体温の高くなっている手のひらで握られると、今度は僕の方から呻き声が出る。  
 しごかれてるわけでもない、強弱をつけられてるわけでもない。  
 ただそっとその小さな手で握られているだけなのに、どうしようもない快感が僕を襲う。  
 このまま腰を振って出してしまいたい誘惑に駆られる。  
 それを堪えて忍と唇を離して立ち上がり、肉棒を忍の口元に持っていく。  
 忍は心得たように口を大きく開き、亀頭をくわえたかと思うと、一気に喉奥まで飲み込む。  
 とはいってもその小さな身体だ。口内に入る体積などたかが知れている。  
 が、その口に含まれなかった根元部分はすぐさま忍が作った指の輪っかに包まれてしごかれていく。輪っかと言っても忍の小さな指ではとても肉棒の円周を覆えるものではないのだが。  
「う、ああ……気持ち、いい……忍……っ」  
 思わず出た僕の言葉に気をよくしたか、忍の口の動きが激しいものになった。  
 唇の締め付けに強弱がつき、舌がカリ首や尿道口を這い回る。  
 僕はイキそうになるのを堪えながら忍の股間に手を伸ばし、しとどに濡れている蜜壷に指を差し入れた。  
「んっ! んふぅっ! うっ!」  
 くいくいとかき回すと忍の身体がびくんびくんと跳ねる。  
 かと思うと忍の空いている方の手が自分の股間に伸び、陰核を弄り始めた。  
 僕も少し肉棒を忍の口から引き抜き、ちょうどカリ首辺りに唇の輪っかがくるようにして、空いている手を肉棒を掴む忍の指に添えて一緒にしごく。  
 互いが互いに自慰をして、それを手伝い合っている構図だ。  
 そして限界はあっという間に訪れる。  
「忍っ、忍っ、いくぞ、出すからな、口の中に全部出すから!」  
 忍ももう達する直前なのか指の動きが大きくなっていた。  
 蜜壷をいじる僕の指に絡む愛液がぐちゃぐちゃと卑猥な音を響かせる。  
 いよいよ限界か忍の唇にぎゅうっと力が込められた。  
 そしてその動きに反応して。  
 僕は遂に射精する。  
「うっ! うあっ! あああっ! あっ! あっ!」  
 出る瞬間にぶわっとさらに肉棒が膨らみ、激しい勢いを伴いながら精液が噴射される。  
 びゅぐっ、びゅぐっとはっきり音まで聞こえてきそうなほどの量と勢いに僕の脳が快感に焼かれた。  
 精液が尿道を通り抜けるたびに全身が打ち震える。  
 
 悦楽に身を任せっぱなしにしてしまい、気がつくと僕はソファーの背もたれ部分に突っ伏してしまっていた。  
「ん……っ……ふ……ん」  
 忍も達したか、四肢を投げ出してぐったりとしている。  
 それでも差し込まれていた肉棒は口から離さなかったが。  
 無意識なのかどうかわからないが、そのまま口を蠢かせて肉棒を啜る。  
 尿道内に残った精液も吸い出され、喉を鳴らして飲み下されていく。  
 名残惜しくもその口から肉棒をずるるっと引き抜き、忍を抱き起こす。  
 そして僕がソファーに横になり、身体の上に忍をのしかからせてぎゅっと抱き締める。  
「んー……」  
 忍はすりすりと身体を軽く押し付けてきたので、その背中を優しく撫でてやった。  
「のう、お前様よ」  
「何だ?」  
「このまま……少し寝てもよいか?」  
「ああ」  
 例え疲れてなくともある程度は寝ていた方がいい。  
 僕は忍の頭を撫でる。  
「花火、楽しみじゃな。誰ぞ出てきてくれるかはわからんが」  
「まあ警戒して出てこないってこともあるかもな」  
 そう。例え花火に反応する人がいなかったとしても。  
 それで人類が滅んでいるとは限らない。  
 そりゃ忍はかつて国が滅んだのを何度も見ているかもしれないが。  
 人類は滅んでないだろ?  
 忍、人間ってのはさ。  
 結構しぶといんだぜ。  
 
 
 
 
 

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