『しのぶネイル』
パチンパチンとリズムよく音が鳴る。
ベッドに寝そべって漫画を読んでいた忍はその音に反応して顔を上げた。
「何かと思えば爪を切る音か、人間は面倒じゃのう」
「んー、慣れていればそんなこともないと思うけどな」
片手を終えて長さを確認し、もう片方に移る。
忍も遥か昔に人間だったころは伸びた爪の処理くらいしていたはずだが、多分覚えてないんだろうな……。
「そういえば戦場ヶ原が言ってたんだけどさ」
「うん?」
「人間って身体からいらないものを排出したりするときには快感を覚えるらしいぜ。そうでないと処理しなくなるからとかなんとか」
「ほう」
その言葉に忍が少し食いついてきた。
シャンプーや耳掻きなど思い当たることがあるのだろう。
「ならばそれも気持ちいいのかの?」
ベッドから降りて僕の前にしゃがみ、まじまじと爪切りの様子を眺める。
少なくとも忍の時代にはこの爪切りのような便利なものはなかっただろう。
「んー、気持ちいいというかスッキリした感はあるかな」
もう片手も終え、ヤスリを軽くかけた。
爪切りを畳もうとした僕の前ににゅっと手が突き出される。
「…………」
「…………」
「なんだよ?」
「儂の爪を切れ」
「いや、何でだよ!?」
吸血鬼は爪伸びないだろ。
指の長さに合った綺麗な爪をしてるじゃねえか。
「なあに、儂くらいになれば…………ぬんっ」
爪がそれぞれ五ミリくらい伸びた!
切るためにわざわざ伸ばすとはなんて無駄なことを!
「さ、早よう切るがよい」
にこにこと天真爛漫な笑顔で促す。ていうかなんで僕が切ることになってるんだ?
まあ慣れない道具を使わせるのも怖いし別にいいか。
僕は忍の手を取る。
「痛かったりしたら言えな」
他人の爪を切るなんて久々のことなので少し緊張する。
ゆっくり慎重に進めていく。
「ん……悪くないの」
パチンパチンと音が鳴って忍の爪が短くなっていく。
ちなみに切られた爪は離れた瞬間から消えていくので飛んでいくのを気にする必要がない。
両手とも切り終え、丁寧にヤスリをかけてやる。
「ほら、終わったぞ」
忍はむふふーと嬉しそうに自分の指を眺めた。
切る前と変わらないと思うんだが。
「いやいや、長くて鬱陶しかったのがなくなるという爽快感があるわい」
だからそれなら最初から伸ばさなきゃいいだろうに。
忍はひとしきり指を眺めたあと、ふと思い当たったように右足を上げて僕の眼前につま先を突き出す。
「…………?」
舐めた。
「何を迷いなく舐めておるのじゃ!」
顔面を蹴られた!
思わず鼻を押さえる。
「なんだよ、お前が『舐めてみ?』って足を突き出すから嫌々舐めたんだろうが」
「捏造するでない! 嫌々のいの字もやの字も感じさせない積極性じゃったわ!」
…………何だろう? この会話にデジャヴを感じる。
まあ気のせいだということにしておこう。
「じゃあいったいなんなのさ」
「足にも爪はあるじゃろうが、ほれ」
言われて見てみるが、こっちの爪はさほど伸びてない。
かといってそれを指摘すればすぐに伸ばしてまた面倒くさいことを要求してくるだろう。
さて、どうする…………うん、ここはひとつ誤魔化しておくか。
「それにしても忍、お前本当に綺麗な脚だよな」
「え? そ、そうかの?」
「ああ……ちょっと舐めさせてもらうからな」
「え、え?」
僕の言葉に忍は戸惑う。
その隙に僕は忍の右足をしっかりと掴み、膝にれろりと舌を這わした。
間髪入れずにふくらはぎやくるぶし、かかとに唇をつけて吸う。
小さな指を一本一本口に含んでしゃぶり、指の股をじっくりと舌で舐め上げる。
「ふあ……ああ……」
忍は力無く横たわり、少し息を荒くしながら四肢を投げ出していた。
僕は反対の足首を掴む。
「忍、こっちもしてほしいか?」
僕の言葉に忍は何も言わず、両足とも上げてつま先を僕の眼前に持ってきた。
そんな格好をしたら当然ワンピースの裾は捲れ上がり、その中身を晒してしまう。
僕は両の親指をくわえながら、足を撫でている手をゆっくりと移動させていく。
先ほど切りそろえたばかりの爪で軽く内腿を引っかき回し、やがて付け根へと辿り着いた。
忍はといえば、声を抑えるためか無意識か、自分の指をくわえてくちゅくちゅとしゃぶっている。
…………なんで爪を切ってあげる行為からこうなってしまったんだろう?
そう思いながらも僕は忍への愛撫を続け、その日は思う存分に忍の身体をしゃぶり尽くしたのだった。