・しのぶエンド(仮)
「…………やっぱり変わったなぁ」
「ほう、どこかと思えばお前様の故郷か」
「なんだ起きていたのか、まだ日は出てるぜ忍」
「なにやら懐かしい感じとなんとも言えぬお前様の感情が伝わってきおったわ」
「そっか」
「…………四十年振り、かの」
「ああ、七十八歳の時にひたぎが亡くなって、この街を出て、四十年か。はは、結構長い間放浪していたんだな。今ではここで僕を知っているやつなんて一人もいない」
「お前様の血縁はどうなんじゃ?」
「さて、ね。知ってたとしても会いに行くわけにもいかないさ。みんな普通の人間なんだから」
「お前様の子どももよくぞ人間として生まれてきてくれたものよの」
「ああ、あの時ばかりは不信心の僕も神様に感謝したよ」
「…………すまぬな」
「そこで謝られる理由は何もないぜ」
「そうじゃな……で、この街に戻ってきたのはただの気まぐれか? それとも何か理由があるのか?」
「…………僕たちがさ」
「ん?」
「僕たちが出会って、今年でちょうど百年だ」
「そういえばそうじゃな」
「もう、いいんじゃないか?」
「…………」
「もう僕たち、お互いを許し合っても、いいんじゃないか?」
「…………」
「忍、ごめんな」
「許す。そしてすまなかったな、暦」
「ああ、許すよ。ははは、お前が僕のことを名前で呼ぶなんてな」
「ひとつのけじめじゃよ」
「…………」
「…………」
「……なあ忍」
「なんじゃ?」
「お前、僕の女になれ」
「…………! 何を言うかと思えば。儂は百年前からお前様のものじゃよ」
「そうじゃない」
「…………」
「『僕のもの』じゃない、『僕の女』になれと言っているんだ」
「…………」
「…………」
「儂なんかで……いいのか?」
「僕にはもうお前しかいないよ」
「よかろう…………お前様の女になってやる」
「……忍」
「儂を愛せ。儂に愛されよ。儂を離すな。儂から離れるな。儂と共に生きよ」
「ああ……今までありがとう。そしてこれからもよろしくな」
「うむ」
「じゃあさしあたって今夜の宿を探すか」
「いつものような野宿ではいかんのか?」
「それはダメだろ、だって今夜は」
『僕たちの新婚初夜だぜ』