つばさエンド裏話。阿良々木さんが女々しい決意を固めているころ、バサ姉は…?  
 
『つばさエンド'』  
 
 
色々な事を経験し、  
色々な事を積み重ねた。  
 
私は、おとなになっていた。  
 
今となっては思い出すことも恥ずかしいくらいに何も知らなかった高校時代。  
初めて悲しみを知り、挫折を知り、諦めることを諦めた高校時代。  
それでもわたしは、人生で一番幸せだった時期を聞かれれば、  
それは一つの間違いも無く高校時代であると答えるだろう。  
 
戦場ヶ原さんと、真宵ちゃんと、神原さんと、千石ちゃんと、  
火憐ちゃんと、月火ちゃんと、忍ちゃんと。  
 
笑いあったあの頃が、昨日のように思い出される。  
あの日、あの時のたわいない日常が今のわたしをかたちづくっている。  
それなのに。  
 
戦場ヶ原さんとも、真宵ちゃんとも、神原さんとも、千石ちゃんとも、  
火憐ちゃんとも、月火ちゃんとも、忍ちゃんとも。  
 
いつから会っていないだろう。  
むしろ、わたしは彼女達といつ出会ったのだろう。  
 
それは間違いなく高校時代であるけれど、阿良々木くんあたりに言えば変な顔をされてしまうだろうけれど、  
別に変な事を言っているわけではないし、変になってしまったわけでもない。  
『出会う』。…人と人とがただ会うだけでは『出会う』とは言えまい。  
…そう、わたしは不安なのだ。  
 
わたしは、彼女達と心を通わせることが出来ていたのだろうか?  
彼女達は、彼女たちの青春の一部にわたしがいたことをおぼえているだろうか?  
 
何でも知っていたがゆえに何も知らなかったわたしを、  
何も知らなかったがゆえに怪異に見せられたわたしを、彼女達は覚えているだろうか?  
 
おそらくは――否だ。  
彼女達は、わたしのことを『頼りになる委員長』とか、『怪異を乗り越えた強い女の子』とか、  
そういう風に認識していただろうし、そうとしか覚えていないはずである。  
それは彼女達の責任ではなく、わたしが弱かったからだ。  
怪異を知ってなお、怪異と共存してなお、わたしが弱かったからだ。  
 
弱いわたしは、自分を他人に見せる勇気がなかったから。  
弱いわたしは、自分を受け入れさせる勇気がなかったから。  
 
だから、本当の意味で『わたし』を知っているのは、阿良々木くんだけだと思う。  
 
阿良々木暦くん。  
 
好き勝手に人の心に入ってきて、  
人の過去を知って勝手に悲しんで、  
嫌味のように自分だけを傷つけて勝手に人を救う彼だけが、  
おそらくはわたしを知っている。  
 
わたしの弱さを、暗さを、悪さを、  
全てを余すところなく知っているのは、おそらく阿良々木くんだけだ。  
だが同時に、わたしの事を絶対に知ってはいけない存在であったのも、阿良々木くんだ。  
 
わたしを知ってしまったがゆえに。  
わたしと関わってしまったがゆえに。  
彼は歪み狂ったのだから。  
 
彼の理想を『演じ続けた』。理想の委員長であり続け『ようと』した。  
その態度は、間違いなく彼を傷つけていた。  
わたしは、知っている。子供でなくなったわたしは、知っている。  
だがしかし、わたしはそうするしかなかったのだから。  
『委員長』としてでなければ、彼に甘えてしまいそうだったから。  
だから彼から逃げるように卒業と同時に街を離れ、国を離れ、出来る限り彼との距離を離した。  
 
けれど、もうそれも終わりにしようかと思う。  
わたしはおとなになった。  
彼を狂わせずに、わたしを甘やかさずに、昔のように笑いあうことが出来るはずだから。  
 
だから、久しぶりに、あの街に戻ろうかと思う。  
わたしはおとなになった。阿良々木くんに、みんなに、お父さん、お母さんに、  
わたしを見てもらいたいから。  
 
いつものようにわたしを褒める彼に、かりそめの自分を演じずに、  
なんでもなんて知らないよ、と言いたいから。  
 
 

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