色々な――本当に、色々な事があった。  
 
数多くの人の闇を見てきたし、  
幾多の怪異の契を見てきた。  
 
身を削った回数なんてもう数えるのをやめてしまったし、  
命を燃やした回数も、両の手足じゃ数え切れなくなった。  
 
色々な物を手に入れたけれど  
色々な者を、失った。  
 
火憐ちゃんと戯れることをしなくなった。  
 
僕も彼女もおとなになった。  
子供の頃は懐かしいけれど、それは懐かしさでしかない。  
 
月火ちゃんを心配することももうない。  
 
彼女はもう僕が心配するような子供ではないし、  
僕が心配するには彼女はしっかりしすぎていた。  
 
神原と最後に会ったのはいつだったか。  
 
スポーツ万能で礼儀正しく、優しい彼女と会わなくなったのは、  
ただ僕が彼女の正義を恐れていただけかもしれない。  
 
千石の声がどんなだったか、いまや不明瞭ではっきりしない。  
 
子供の頃…から見ても、さらに小さかった頃。  
か細い彼女とのつながりは、あっけなく途切れてしまった。  
 
あれだけ好きだった八九寺にも、もう関わろうとは思えない。  
 
姿を見掛けないわけではない。嫌いになったわけではない。  
ただ、僕が変わってしまっただけで、彼女も変わってしまっただけのこと。  
 
忍との絆は続いているが、心はもう、繋がっていないのかもしれない。  
 
お互いを許さないことに、疲れてしまった。  
お互いに歩み寄る意志がないわけではないが、  
それをするには僕も彼女も、意地を張っていた期間が長すぎた。  
 
そして――戦場ヶ原ひたぎとの恋人関係も、終わりを告げた。  
 
誰より僕を愛し、誰よりも僕を求めた彼女は、  
誰よりも僕が愛し、誰よりも僕が求めた彼女は、  
僕が身を削り命を燃やして闇と契に首を突っ込むのに耐えられなかったのだ。  
 
僕の思い出は靄がかかったように曖昧模糊で、  
確かなものなんて見つけられない。  
それでも僕は、ただひとつ、ただひとりが忘れられなかった。  
 
何もかもを知って何もかもを失った僕が、  
ただひとつ未だ知らない、さいごのひとつ。さいごのひとり。  
 
羽川翼。  
 
またあの頃のように馬鹿な事がしたい。  
彼女を気にしたい。  
最後に会ったのはいつだったか。  
声を聞いたのはいつだ?  
最も遠い場所にいる彼女に関わりたい。  
心を、また、繋げたい。  
そして――  
 
決めた。  
会いに行こう。  
羽川翼に、会いに行こう。  
 
あいつが今何をしているかなんてもう知らないし、  
あいつが今どこにいるかなんて聞いたこともない。  
 
けれど、決めた。  
僕が決めた。  
あいつに会って、一緒に話そう。隣りで歩こう。共に生きよう。  
 
待っていてくれなんて言わない。  
僕を見てくれなんて言わない。  
ただ、僕に会って、また下らない話でも聞いてくれ。  
こんなになっちまった僕だけど…それくらい、良いだろう?  
なあ、羽川。  
 
 
 

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