『つばさエンドと見せかけてつばさスタート』
羽川に会うことを決意した翌日。
僕は、ちょっぴり絶望していた。
なにせ、羽川に会いにいこうにも羽川の居場所は不明で、
かといって虱潰しに探すにはこの世界は広すぎる。
忍野みたいなふらふらした生活を送っていたうえ忍野ほどのシビアさも持ち合わせていない僕の資金では、
せいぜいアメリカまで行って帰ってくるくらいが限界だろう。
羽川がアメリカにいるわけがない。いや、確証はないのだけれど。
だがしかし決めてしまったものは仕方がない、
ありったけの金品を引き出して、空港へ向かう。
決めたのを撤回すればいいだけなのだが、なんだかそれは癪だ。
自分の無計画さを認めるようで癪だ。認めるまでもなく無計画なのだけれど。
とにかくどっかの国に行って、そこに羽川がいなければそこで金をつくって、以下ループだ。
…すげえ、死ぬまでに羽川が見つかる気がしねえ。
とか何とか僕が現実逃避(癖になってしまった。死ぬまで直りそうもない)をしていると、
なんだか既視感のある女性が眼前に。
二つに結った長髪に、Tシャツにジャケット、デニムと活動的な服装。あと巨乳。超でけえ。
…まさかなー。羽川が直江津高校の制服以外を着てるはずがない。
うん。僕の羽川がこんな所にいるわけがない。
――ん?えっと、何か用ですか?
え?ああすみません。見ちゃってましたか?知り合いに似ていたもので…
大丈夫、用があるとか悪意があるとかじゃないですから。
――ふうん?奇遇ですね、私も貴方がなんだか知り合いに似ているなあと思っていたところなんですよ。
――まあ、貴方が私の知り合いだとするには、貴方の髪は長すぎるし貴方の背は高すぎますけどね。
いやあ、そう言われるとなんだか僕は貴女の知り合いなんじゃないかという気がしてきましたよ。
実は僕、高校の頃まではすっごい身長低かったんですよね。妹に抜かれるくらい。
あと、髪は…どうだろうな、今の仕事を始めてからはずっと切ってないかなあ。
――あはは、じゃあ私が探しているのは本当に貴方なのかもしれないですね。
――じゃあ、貴方の知り合いは、どんな人だったんですか?私に似ているっていう。
ん?そうですね…髪は長ければ三つ編み…いや、短くしたんだな。短いときは降ろしてましたね。
んで、身長は低めで、眼鏡はかけて…いや、結局外したんだったな。
――…曖昧ですね。
あとそいつ、学校の制服しか着ないんですよ。少なくとも僕の前では。
――へ、へえ…か、かかか変わった娘ですね…。
ん?いやあ、今から思えば制服以外のあいつってなんだか想像できないし、まあ良いかなあって。
――えーっと、あ、すみません。お時間とらせちゃいましたね。
――飛行機のほう、大丈夫なんですか?
いやあ、お恥ずかしい限りなんですが行く当ても目指す当てもないような旅でして。
実は、その知り合いを探しに行くんですよ。絶賛失踪中でね。
あ、失踪ってのは誇大表現ですから。ちょっと音信不通なだけですよ。
――それは失踪と言って差し支えないんじゃないでしょうか。
――じゃあ、あとひとつだけ。
――貴方が探している、知り合いの名前を教えてくれませんか?
へ?あ、ああ別に構わないですが…
羽川翼。羽毛の羽に、川柳の川に、えーっと、翼って例示が思いつかないんですが。
――あ、いえ大丈夫です。
――貴方が誰を探しているのかも、貴方が誰なのかも分かっちゃいましたから。
――ついでに、今私が言うべきことも、分かりました。
色々分かったんですね。
――ええ、何でもは分からないけれど、それくらいは分かっているつもりです。
――…ただいま、阿良々木くん。
…………………………………………えっ?