「おい七花、なにか面白いことを言ってみろ」
「……突然何を言い出すんだあんたは」
旅籠の部屋で何をするでもなくボーっとしていた七花はいきなりのとがめの要求に戸惑う。
「こうしてただ部屋に閉じこもっていても非生産的ではないか!」
「だからといって無茶振りをするなよ。そういうのはおれの苦手とするところだろうが」
「むー、ひーまー。ひまひまヒマヒマ暇じゃー」
とがめはごろごろと畳の上を転がった。
外はあいにくの天気で出かける気にもならない。
というかここはこの雨で増水した二つの川に挟まれた地域で、渡し舟が出なければどこへも行けないのである。
近所にあるのは旅籠と食事どころ、あとはせいぜい丁半博打くらいのものだ。
「ここの人の話だと明後日くらいには水位が元通りになるって言ってたからそれまでの辛抱だぜ」
「七花、私はな」
ぴたりと転がる動きを止め、とがめは上半身を起こす。
「それなりに刺激的な人生を送っておる」
「そうだな」
それなりどころではない。とがめほど波乱万丈な人生などそうそうないだろう。
今この瞬間だって刀収集を邪魔立てするものが襲ってこないとも限らない。
「その刺激に慣れてしまうと、こういう何もしない何も生み出さない時間というのは退屈を通り越して苦痛なのだ」
「へえ、おれにはよくわかんねーけどそういうもんなのか」
「うむ、わかればいいのだ。というわけで七花」
「なんだ?」
「何か面白いことをしてみろ」
「だから無茶振りするなって。おれに面白いことなんか言うのもするのもできるかよ」
「別にできなくても構わん。何か私を楽しませたり喜ばせようとしたりすればよいのだ」
「わがまますぎるぞとがめ……よし、じゃあ目を閉じろ」
「ん」
とがめは七花の言うままに目を閉じた。
そして七花は迷うことなくとがめに顔を寄せ。
「ちゅう」
「んっ……! な、な、な、そなたなにを!」
目を見開いたとがめはずざざっと後ずさる。
その白い肌があっという間に赤くなっていった。
「いや、とがめを喜ばせようと思って」
「!」
「おれがしてもらうと嬉しいことをとりあえずやってみたんだが……嫌だったか?」
とがめはそれを聞いてしばらくうつむいていたかと思うと、もじもじしながら口を開く。
「よ、よくわかんなかったから……も、もういっかい」