それぞれの登場人物のその後については、ここでは
あくまで、それぞれごと想像に任せるにとどめることに
する……ということはつまりはそれぞれに想像の余地
があるということであり、しかし一応、この物語の『総合
優勝者』であるはずの西条玉藻に最低限の敬意を表す
る意味で、あるいは雀の竹取山決戦の、1つの予想外
の象徴として。
数日後。
肉体的にはともかく精神的にはとりあえずの回復を見
た零崎人識は、彼が恋する少女に住処を訪れられてい
た――別に慰めてやろうとか励ましてやろうとか癒して
やろうとか、そういうことではなく、単純に、しばらく実戦
部隊としての仕事ばかりに偏っていて、そういえば最近
は彼女自身の好きなことを、全然やっていないからとい
う――それだけの理由で押しかけられたのだった。
それだけの理由。
いや、理由なんてなくていい。
強いて言うなら気分転換だろうが。
しかしこの子に転換せねばならないような気分がある
ものかどうか。
「……なんで居るんだよ」
「……ゆらーり」
げんなりした表情で、人識は西条玉藻を見る。
ちなみに玉藻の格好は、雀の竹取山で出会ったとき
のものとは全然違う。黒いブルマでもないし、ずたずた
に切り裂かれた半袖の上着でもない。
スクール水着――しかも旧タイプ。
そうとしか呼びようのない、紺のワンピース水着。
しかも腹のあたりがズタズタに裂けていて、へそどこ
ろか色々と危険な部分まで見えそうな雰囲気だ。
胸元に縫い付けられた名札には、『さいじょう』と太い
マジックで、平仮名で書かれていた。相変わらず素性
を隠そうとかいった発想は皆無であるらしい。
――そんな格好の少女が、人気が無いとはいえ、昼
下がりの住宅街の片隅に平然と佇んでいる。
良識ある大人が通報しないのが不思議なくらいの光
景であった。いや、腐ってもプロである玉藻が補導され
警察なんぞの厄介になるようなヘマはするまいが。
……いや、ひょっとしたらそういうことがあってもおか
しくはないな、と思ってしまうのがこの玉藻である。ま、
それはともかく。
「……初めまして」
玉藻は――まず、そう言った。
「あたし魔法のプリンセス、西条玉藻さま、です……」
対して、零崎人識は――
初めましてってお前数日前会ったばかりだろうとか、
その格好はいくらなんでも何のつもりだとか、魔法の
プリンセスってどういうことだとか、自分で自分に様付
けかよとか、数日前とほとんど同じボケ繰り返すなと
か、とにかく相変わらず数秒で突っ込みどころ満載の
西条玉藻の、どこにも突っ込みを入れることなく――
「帰れ」
「…………」
「そんな顔しても無駄だぞ。まだ折れた腕治ってない
んだから。お前だってギプスはめたままじゃねぇか」
再戦を望んだ人識ではあったが、しかしそれは互い
に万全の体調の時に、という限定つきの話だ。どちら
もまだ傷の残るこんな状態で出てこられても、困る。
困るのだが。
「……ゆらーり……戦い来たわけじゃ、ないです……」
「じゃあ何だよ」
「戦いに来」
休憩。
「たわけじゃな」
休憩。
「くってぇ……」
「だからもっとはっきりシャキシャキと喋れって」
「あたしが、来た、目的はぁ……」
いらつく人識にそれでもマイペースを崩さぬまま、玉藻
は答える。
「溜まってるかと、思って」
「……は?」
「両手骨折。健康な男の子」
にまっ、と笑った玉藻の表情に、人識は眩暈を感じた。
これなら両手骨折のままバトルする方が、まだマシだ。
(続く?)