7月7日。
七夕。
織姫と彦星が出会う日。
そして戦場ヶ原の誕生日。
僕は今、戦場ヶ原の家でパーティーを開催していた。
主催、阿良々木暦。
主役、戦場ヶ原ひたぎ。
他に誰もいない、二人きりのパーティーだ。
当初は何人かで賑やかにやろうかと思っていたのだが。
知り合いのツインテール小学生に『あなたは超ド級の阿呆ですか阿良々木さん。彼女さんの身としてはそういう特別な日こそ二人きりで過ごしたいと思うに決まっているじゃないですか。鈍感な阿良々木さんなんか死ねばいいんです』とか言われてしまった。
まあ神原にも似たようなことを言われたし、そういうものなんだろう。さすがに死ねばいいとは言われてないが。
「ごちそうさま、ケーキ美味しかったわよ」
僕が買ってきた小さめのケーキを食べ終え、口元を拭きながら戦場ヶ原はフォークを置いた。
ちなみにその胸元では僕のプレゼントしたアクセサリーが光っている。
どうやらプレゼントもケーキも及第点のようだ。ショップで一時間以上悩んだ甲斐があったぜ。
さて。
これからどうしよう?
一応僕の知識や経験ではゲームをしたりするわけだが、如何せん戦場ヶ原家にはそういった類のものがない。
まあ二人でするゲームなんてたかが知れてるけど……。
「別に気負わなくていいのよ阿良々木くん」
「ん?」
「私を楽しませようとしてくれる気持ちだけでも嬉しいわ。だから普段通りで構わないわ」
「戦場ヶ原……」
「だからいつものアレをやりましょう。背中に文字を書いてそれが何か当てるやつ」
「僕達がいつそんなことをして遊んだ!?」
その突っ込みに何も返さず、戦場ヶ原は僕の後ろに回る。どうやら本当にやるようだ。
まあ戦場ヶ原がやりたいなら構わないけどさ。
「じゃあいくわよ」
戦場ヶ原の指が僕の背中に触れる。
すっ、とそれが文字を描き始めた。
すっ、すっ、すっ、すっ、すっ、すっ。
「…………」
すっ、すっ、すっ、すっ、すっ、すっ。
「…………」
すっ、すっ、すっ、すっ、すっ、すっ。
「…………」
「……はい、解答をどうぞ」
「全然わからない……何文字書いたんだ?」
「一文字よ。正解は『鬱』」
わかるかそんなもん!
ていうかよくスムーズに書けるな。
「じゃ、罰ゲーム」
ぺしっとデコピンをくらってしまった。
本気で痛いわけではないが、痛がる素振りを見せると戦場ヶ原が楽しそうにくすくすと笑う。
……うん、これはこれでいいか。
「じゃ、私の番ね」
戦場ヶ原はくるりと後ろを向いて背中を見せる。
このまんま抱き締めたいなあと思う欲求を堪え、何を書こうか僕は考えた。
普通にやったらあっさりと答えられそうな気がするし、かといって難しい漢字なんてとっさに書けるものでもない。
…………よし。
僕は戦場ヶ原の背中に指を当てた。
すっ、すっ、すっ、すっ、すっ、すっ、すっ、すっ、すっ。
「さあ、どうだ?」
ちなみに正解は『好き』である。
外したら罰ゲーム。
正解したらごく自然に戦場ヶ原の口から『好き』と言われる完璧な作戦だ!
戦場ヶ原がこちらに振り向く。
そしてその唇から発せられた言葉は。
「私もよ、阿良々木くん」
だった。
え? あれ? いや、何て書いたか……あっ。
戦場ヶ原はふいとまた向こうを向いてしまった。
もうこのゲームは終わりなんだろうか?
でも正解を答えてないから罰ゲームは受けてもらうぜ戦場ヶ原。
僕はそっと戦場ヶ原を後ろから抱き締めた。
例え嫌がっても離しはしないぜ。だってこれは罰ゲームなんだからな。
きゅ、と軽く力を込めると僕の方に体重をかけてもたれかかってくる。
「罰ゲームなんだったら痛くしないと駄目よ阿良々木くん」
それは。
もっと強く抱き締めろということだろうか。
僕はさらに力を込める。
「痛くないか?」
「大丈夫よ。それよりさっきの問題の答を教えてくれる?」
「『好き』だ」
「『好き』」
「『好き』だ、『好き』だ」
「『好き』、『好き』」
僕達は答を何度も確認し合う。
結局その日は僕が帰宅する時間になるまで、延々と僕の出した問題の答を言い合うだけだった。
だけど別れ際に。
戦場ヶ原の方から顔を寄せられてキスされたのはまいった。
これじゃあ僕がプレゼントを貰っているみたいじゃないか。
僕は今度は戦場ヶ原を正面から抱き締めて、愛情をたっぷりとのせて唇を合わせたのだった。
ハッピーバースデー戦場ヶ原ひたぎ。