「のうお前様よ」  
「どうした忍?」  
「いやなに、この間ツンデレ娘の誕生日を祝っておったじゃろ? 儂の誕生日も祝ってくれるのかの?」  
「それはいいけど、ていうか是非祝ってやりたいとこだけど……いつなんだ?」  
「えーっと……今日じゃ」  
「絶対嘘だ!」  
 明らかに考えている間があったぞ!  
 僕の突っ込みに忍は少しシュンと落ち込む。  
「もう……覚えておらんのじゃ。夏の終わりに『598年と11ヶ月』と言ったが、それも怪しいもんじゃよ」  
「…………」  
 忍はかつての眷属を失ってからずっと独りだったと言っていた。  
 一人ではなく独り。  
 祝ってくれる存在もおらず、自分が歳を重ねることに意味がなかったのだろう。  
 僕はくしゃくしゃと忍の頭を撫でながら言う。  
「じゃあ忍。お前の誕生日、僕が決めるよ」  
「え……?」  
 予想外のことを言われたか、はじかれたように顔を上げて僕を見る。  
「お前の誕生日は4月で決定だ。『キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード』じゃない、『忍野忍』が生まれた日。それがお前の誕生日だ」  
 僕の言葉に忍は呆けていたが、しばらくしてくしゃっと顔を歪めて涙を流し始める。  
 そしてついには号泣しながら僕に抱き付いてきた。  
「どうした忍、嫌だったか?」  
 僕の腕の中で忍はふるふると首を振って否定する。  
 ひっくひっくとしゃくりあげながら忍は言葉を発した。  
「今度の、儂の、誕生日、ツンデレ娘に、負けないくらい、たくさん、祝って、くれ」  
「ん? なんだ忍、戦場ヶ原に嫉妬したのか?」  
「な、なななな何を!? 儂はただ……その」  
「ははは、とりあえずお前はケーキよりもドーナツの方がいいかな?」  
 未だ僕の胸に顔をうずめる忍の頭を撫でながら、忍の誕生日パーティーのプランニングを建て始める。  
 今はそんな素振りを見せないが、忍が『忍野忍』になった日は本人にとってつらい日のはずだ。  
 それを打ち消すくらい、上書きできるくらいの楽しい思い出にしてやりたい。  
 それはとても難しいことだろうけど、実にやりがいのあるものだった。  
 
 
 

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