「ところで阿良々木君は、この夏休み何か予定はあるのかしら?」  
   
  扇風機の風に当たりながら、ノートパソコンと格闘していると、  
 アイスキャンディーを頬張っていた戦場ヶ原が、そんな事を訪ねてきた。  
 
「予定? 予定っつっても、こう暑いと何かするって気もおきねえしなあ」  
 
 8月18日。高校に比べて随分遅い夏休み開始から1週間が経った頃。  
 民倉莊201号室。  
 一緒に新学期の授業の課題(何故授業前に課題が出るのか甚だ疑問なのだが)を終わらせてしまおうと、  
 高校時代と同じように、戦場ヶ原宅にお邪魔していた。  
 あの時と違うのは、僕達の身分と髪型と、戦場ヶ原の服装が薄手の露出の多いワンピースになっている事くらいか。  
 夏ならでは、といった感じのこの服装に、僕は結構どぎまぎさせられていた。  
 去年のつきあい始めの頃は、こいつ露出は極端に少なかったし。  
 ガードが緩くなったかと思ったら、去年の夏のこの暑い時期、戦場ヶ原は帰省してしまっていたので、  
 こんな薄着の彼女を見るのはまだ慣れていないのだ。  
 
「大学の夏休みを無計画に生きるのは社会的自殺行為よ、阿良々木君。  
 大学生時代は人生の夏休み、なんて不抜けたことを言っていると、  
 そのまま実社会に戻れなくなるわ。  
 一生お休みの貰えない職か、一生お休みの職に就きたいのならそれでも構わないけれど」  
「……少しくらい遊ばせてくれよ」  
 
 大学生活は、高校のそれとは大きく違い、やる事やれる事がおおすぎて、慣れるのに相当時間がかかった。  
 というか、もしかしたらまだ慣れきっていないかもしれない。  
 とにかく息もつけないような、ある意味充実した上半期だった。  
 かなり無茶をして入った大学な訳で、それこそ僕一人だったら高校の時と同じように、落ちぶれていただろう。  
 しかし僕の彼女兼家庭教師がそれを許す筈もなく、  
 落とした単位の数だけ、私が阿良々木君の任意のパーツを切り落とすからね、  
 と期末テスト2週間前に釘を刺された。  
 その後猛勉強をしたから、今期の単位は多分大丈夫、な筈。  
 結果が分かるのは夏休みの後半になってからなので、それまではもうただ祈ることしかできないけれど。  
 
「まあこの夏に二輪の免許は取ろうかな、とは思ってるけれど」  
「そういえばまだ四輪の免許しか持っていないのだっけ、阿良々木君」  
「ああ、いざ車に乗ってみたら、これが思いのほか自分に合っていたから、  
 正直今はもうバイクにそこまでこだわりも無いんだけど、  
 神原がすげー寂しそうな顔するんだよなあ」  
「後輩に良いかっこしたいだけじゃない、全く貴方は神原に甘いのだから。  
 まあバイクになんか乗られても、一緒に乗れないから、  
 その件に関しては私としても文句は無いのだけれど」  
「お前は最初僕の車にも乗ろうとしなかったけどな」  
 
 今では偶に乗ってくれる。  
 期末試験の日に台風が直撃して、電車等の交通機関がまともに動くが心配だったらしく、  
 初めて僕に車で迎えに来るよう頼んできたのが最初。  
 それ以降、まだ片手で数える程だけれど助手席に座って、カーナビよりも素早く正確なナビをしてくれている。  
 機械音声よりも愛想が無いのが玉に瑕だけれど。  
 
「それで、免許を取るなんて2週間くらいでしょう?  
 それ以外に何か予定はあるのかしら?」  
「……特にないな」  
「はあ、阿良々木君。素朴な質問なのだけれど、貴方生きていて楽しい?」  
「そこまで言われるような事か!?   
 夏休みなんてダラダラ遊んでて何が悪いっていうんだ?」  
「あのね阿良々木君。私は遊ぶなとは言っていないの、むしろ遊べと言っているのよ」  
「だったら――」  
「ただね、ダラダラするのと遊ぶのは違うわ、と言いたいの。  
 遊ぶなら遊ぶで全力で遊びなさい?  
 常に全力でいたら疲れてしまうけれど、身体の疲れなんて一日寝れば取れるでしょう?  
 心の疲れの方は寝てたって取れないわ、気分転換なんて気休めよ。  
 むしろそういう時こそ全力で何か自分のしたいことに打ち込むべきだと、私は思うわ」  
「む」  
 
 そう言われると、反論の余地はない。  
 相変わらず口では戦場ヶ原にかなわないどころか、むしろ差は開く一方のような気がする。  
 
「まあでも、阿良々木君にこんな事を言うのは酷だったかもしれないわね。  
 阿良々木君、趣味とか娯楽とか全然なさそうだし。  
 履歴書の趣味・特技の欄は空白なんでしょう?」  
「僕だって流石に履歴書に空白なんてつくらねえよ!」  
「そんなに怒鳴っても貴方の人生の空白は埋まらないわよ」  
「だからその微妙に上手いこと言おうとして、結局何言ってるかわかんねえってのを止めてくれ。  
 一瞬とまどうんだよ」  
「失礼訂正します、阿良々木君の過去は黒い歴史で埋め尽くされているのだものね」  
「ごめんなさいこれ以上は許して下さい」  
 
 打ちのめされた所で再び課題に集中する。  
 戦場ヶ原もそれを察してか口を閉ざした。  
 取りあえず2人で決めた午前のノルマは、今日やる分の半分を終わったら休憩。  
 彼女の方はもう終わってしまったらしく、  
 一人で先にアイスを食べている訳なんだけど。  
 まあもう少しで僕の方も終わりそうだ。  
 
 しかし暑い。  
 戦場ヶ原家にはクーラーが無い、というかこの年期の入った木造建築では、おそらく取り付けられないだろう。  
 よってこの部屋で暑さをしのぐには扇風機に頼るしか無いのだけれど、  
 効果の程は申し訳程度である。  
 脇に置いてある麦茶も、氷はとうに溶けて温くなってしまっていた。  
 早いところアイスを食べて口の中を冷やしたい。  
 その一心で慣れないキータッチを必死で進めた。  
 
「……よし、終わった!」  
「そう、随分遅かったわね。  
 あまりに遅いものだから阿良々木君の分のアイスまで手を付けてしまったわ」  
「何してくれてんの!?」  
   
 振り返って見ると本当に戦場ヶ原はさっきまで食べていたアイスキャンディとは別に、  
 もう一本を口に咥えていた。  
 えー。  
 
「何よ、アイスの一つくらいで小さい男ね」  
「暑い時は口の中を冷やせば、頭も冷えて勉強も進むとかお前が言うから買ってきたのに……」  
「おかげで私の勉強がとってもはかどりそうよ、ありがとう阿良々木君」  
「お前は自分さえよければ、他人はどうなってもいいっていうような冷たい奴なのか?」  
「ええ、私は自他共に認めるクールビューティだから」  
「それはクールビューティとは違うと思う……」  
 
 少なくともビューティは関係ない。  
 しょうがないから麦茶のコップに氷を足そう。  
 と腰を浮かし欠けた所で後ろから服を引っ張られ、尻餅をつく。  
 
「なっ――」  
 
 抗議の声をあげる間もなく、いつの間にか目の前に迫った戦場ヶ原に口をふさがれる。  
 
「んっ――」  
 
 …………。  
 ……………………。  
 
「…………。ね、冷たいでしょう?」  
 
 十数秒間、口の中を冷たい舌で引っかき回された。  
 
「…………。まあ、冷たいけどさ」  
「もう十分口の中は冷えたかしら?」  
「いや、まだあんまり」  
「そう」  
 
 すると再び戦場ヶ原はアイスキャンディの残りを口に頬張ると、  
 口を空けて、その塊を舌に乗せたままこちらに突きだしてきた。  
   
「はもっ」  
   
 僕もそれを唇と舌で受け取る。  
 暫くそのままお、互いの口の中でシャーベット状の塊を弄んだ。  
 シャリシャリという感触は直ぐに2人の熱で消え、  
 液体となって幾分かが口の隙間から漏れる。  
 貴重なアイスをこぼすのは勿体ないので、2人で口の周りを舐め合った。  
 
「ふうっ。流石にくっつくと暑いわね」  
   
 いつの間にかアイスを食べながら自然と抱き合っていた。  
 戦場ヶ原の薄手のワンピースが、汗で張り付き少し透けて、  
 うっすらとブラの線が見えているのがすっげーエロい。  
 
「やっぱり次回からは阿良々木君の家にしましょう?」  
「ウチは妹達がうるせえからなあ」  
「別に私は構わないわよ? それに2人共ちゃんと言えば静かにしてくれるでしょ」  
「お前が居るうちは良い子にしてるってだけだ、言っておくけどあいつらお前の前ではかなり猫被ってるからな。  
 そんで帰った後が色々大変なんだよ。  
 でもまあ確かに暑いな、シャワー浴びようぜ」  
「あらいいわね、阿良々木君に私の身体を洗わせてあげる」  
「へいへい」  
 
 抱き合っていた腕をいったん解き、立ち上がって脱衣所へ向かった。  
 戦場ヶ原は手早くヘアゴムで髪を束ねると服を脱ぎ始めたので、僕もそれに続く。  
 戦場ヶ原はワンピースに下着だけ、僕もTシャツズボンにトランクスだけだったので、  
 お互い直ぐに服を脱ぎ終わった。  
 2人で入るには少し窮屈な空間に、身を寄せ合って入る。  
   
「はいボディソープ、髪は別にいいから」  
「はいよ」  
 
 早々と鏡の前に風呂椅子を置いて腰掛ける戦場ヶ原。  
 別に始めてでも無いので、特に疑問も文句も無い。  
 彼女からボディソープを受け取り、少量を手に取って馴染ませる。  
 十分馴染んだら、背中、肩、腕、腰と泡を広げていった。  
   
「前もお願い」  
 
 鏡越しに戦場ヶ原の顔を伺うと、気持ちよさそうに目を閉じていた。  
 まるでそのうち鼻歌でも歌ってしまいそうなくらいに。  
 それを嬉しいと感じてしまうくらいには、僕は尻に敷かれているのかもしれない。  
 前も洗えと言われたので、後ろから戦場ヶ原を抱きしめるようにして腕を前面にまわす。  
 必然身体が密着し、目の前には髪がアップになった為露出したうなじがある。  
 全然関係ないけれどうなじというものは素晴らしいと思う。  
 ミニスカートとハイソックスの間だけが絶対領域などと呼ばれ、持てはやされているのは真に遺憾であり  
 髪の生え際と後ろ襟の空間にも同等以上の――  
 
「阿良々木君人の身体洗うの上手よね、関心しちゃうわ」  
「え? ああ、そりゃあどうも」  
「他人の身体を洗ってあげるなんて発想、私には出来ないから羨ましい限りね。  
 ああ自分の彼女の身体を洗えるだなんて、阿良々木君本当幸せそう、羨ましくて妬ましいわ」  
「そんなに羨ましいなら次は僕の体を洗ってくれよ」  
「嫌よ面倒くさい、何調子に乗ってるの阿良々木君」  
「何でそこでキレんだよ!?」  
 
 軽口を交わしながらも、手は止めない。  
 殆どお互い裸で抱きしめているのと変わらないので、  
 さっきのキスの後なのも相まって、嫌でも興奮してしまうのだけれど、  
 戦場ヶ原にはそういった素振りは全くない。  
 まあこいつの誘い受けが解りにくいのは、今に始まった事では無いから、  
 実は向こうも期待しているのかもなのだけれど、取りあえずいやらしい動きはせず、  
 本当に純粋に身体を洗い続ける。  
 
「けれど阿良々木君、初めて一緒にお風呂に入った時も、同じくらい上手だった気がするのだけれど、  
 どうやって練習したのかしら?  
 まさか妹達と一緒に未だにお風呂に入っていたりしないでしょうね?」  
「ねえよ、つうか頼まれてもあいつらの身体なんて洗うか」  
「ふーん、そう。じゃあ忍ちゃんは?」  
「えっ?」  
 
 あ、やばい、と思う間もなく鏡越しの戦場ヶ原の目が見開かれ、  
 ガっと勢いよく、背中越しに振り向きもせず急所を捕まれた。  
   
「ちょっ、お前何っ――」  
「阿良々木君は気にせず続けて頂戴。  
 それで聞きたいことがあるのだけれど、いいかしら?」  
 
 ギリギリ痛みを感じないくらいの力加減で、袋の部分を握られる。  
 何でコイツ一切の躊躇もなくこんな真似が出来るんだ?  
 
「目をそらさないで、正直に私の質問に答えなさい。  
 貴方忍ちゃんと、お風呂に入った事があるわね?」  
「いや忍は常に僕の影に居るんだから、そりゃ一緒に――いだだだだっ!」  
「次下らない事を言ったら、二つを一つにするわよ」  
 
 何を、何て聞かない。  
 そんなこと身をもって自分が今体感しているし、多分それは下らない事に分類されるんだろう。  
 
「で、入ったことはあるのかしら?」  
「あ、あります」  
「それは私とよりも先に?」  
「えっと……」  
「今身体の重心が後ろに2ミリ下がったわ、私より先ね」  
「っ!」  
 
 危うく、お前何物なんだよ! と突っ込みそうになった、危ない危ない。  
 多分これも下らない事。  
 
「そう、へえそうなんだ阿良々木君」  
 
 ゴリゴリとかなり強めの力でそこを弄られる。  
 
「いえでも、その最中何もいやらしい事はしていませんし考えてもいません、神に誓って」  
「本当?」  
「本当です」  
「…………」  
 
 鏡越しに戦場ヶ原の目が僕の表情を観察しているのが解る。  
 人類は一体どんな訓練を受ければ、こんなスキルを身につけることが出来るんだ?  
 と思うくらい戦場ヶ原のこういう観察眼というか、嗅覚は凄まじい。  
 
「…………どうやら本当のようね、意外だわ。阿良々木君の事だから、いたいけな幼女のあばらに欲情したり、  
 肉のついていない骨張った膝小僧に性的な興奮を覚えていたりするものだと思ったのだけれど」  
「…………」  
 
 気取られるな! 己を殺せ阿良々木暦!  
 未だに僕の急所は戦場ヶ原に握られて居るんだぞ。  
 
「まあいいわ、許してあげる」  
 
 僕の演技が上手くいったのか、それともそれを見抜いた上で見逃してくれているのかは解らないが、  
 とにかく許して貰えたようだ。  
 
「所で阿良々木君、手が止まっているのだけれど?」  
「あ、ああ」  
 
 何事もなかったかのように続きを要求してくる。  
 お前が思っている以上に、僕にとっては激動の数十秒間だったんだぜ、今。  
 比喩ではなく、普通に死を覚悟していたと言っても過言ではないだろう。  
 
「ていうか何時まで掴んでるんだ、戦場ヶ原?」  
 
 許してあげる、なんて言ったものの、戦場ヶ原の手は未だに僕の股間を掴んだままだった。  
 
「阿良々木君が僕の身体を洗ってくれだなんて言うものだから、一番汚い所を洗ってあげてるんじゃない」  
「うあっ……」  
 
 さっきまでとは一転、手に残ったボディーソープを使って、ぬるぬると竿の部分を扱いてくる。  
 恐怖に縮み上がっていたそこに、血が通い始める。  
 親指の舌の柔らかい部分で、亀頭の部分をグリグリと円を描くように刺激しながら、  
 指でねじったりこすったり引っ掻いたりして、シャフト部分を刺激される。  
 
「んっ」  
 
 負けじと僕も戦場ヶ原のうなじに吸い付き、左手を胸に、右手を股間に差し入れて刺激し始める。  
 スタートは出遅れたけれど、片手でしかも後ろ手の相手に好き勝手されるか。  
 
「んっ、っ、っ」  
 
 心なしか無表情な戦場ヶ原の頬に赤みが差してきた気がする。  
 さっきとは違った意味で気持ちよさそうな顔が鏡越しに覗いていた。  
 が。  
 
「うあっ、ちょっと待て戦場ヶ原っ、やばいって!」  
 
 そのまま暫くすると、先に限界が来たのは僕の方だった。  
 こうやってお互いに相手をイかせ合うなんてシチュエーション、エロ漫画とかでよくあるけどさ。  
 この競争、男子が勝つのはほぼ不可能だからね?  
 生物学上、男の子の方が快感を容易に得やすいんだから、しょうがない。  
 決して僕が情けない訳ではないので誤解なきよう。  
 いやまあ、何時の間に競争になったんだ、という話だが。  
 
「あら阿良々木君何がやばいのかしら?  
 もしかして私が折角洗ってあげたのに、また汚してしまうなんて事はないわよね?」  
 
 つうかこの人はまり過ぎてる!  
 何でこんなSっぽい振る舞いが板についてんだよ。  
 それこそ一体誰相手に練習してんだきっと僕だな。  
 
「もう降参だ降参」  
「そう、何だか解らないけれど降参されてしまったわ、どうしようかしらね」  
 
 言いながらも戦場ヶ原は僕の亀頭を弄る手だけは止めない。  
 
「というか阿良々木君はどうしたいのかしら?  
 まさか中で出したいなんて言わないわよね?」  
 
 いやまあ、ゴムも付けずにそんな事を言うつもりは無いけれど。  
   
「どうしたいって言われても、っ、てかちょっとマジで手止めてくれないか、  
 何か変な汗出てきた」  
 
 何処かの後輩が、男子は亀頭だけ刺激されても、気持は良いが達する事は出来ない、  
 なんてこいつに教えてからというもの、僕はことある毎にこうやって生殺しの虐めを受けている。  
 
「阿良々木君がどうしたいのか言ってくれたら止めるわ」  
 
 ここで口に出したいとか言っても拒否されるのは目に見えている。  
 実験済みだ。  
 ええっと、でもこのまま一人で手の中で果ててしまうのはあまりにも情けないから。  
 
「戦場ヶ原と、一緒に、イキたい」  
 
 言ってから、何かもの凄く恥ずかしい事を言わされているような気がした。  
 
「そう」  
 
 するりと亀頭を弄っていた手が離れた。  
 
「でもだーめ」  
 
 と思ったらまるでドライバーでも握るかのように、ガっと竿の部分を掴みなおして、  
 めちゃくちゃに扱かれる。  
 
「うああああっ!?」  
 
 一瞬の事で、何だかよく分からないうちに、僕は無理矢理射精させられていた。  
 吐き出された液が一部、戦場ヶ原の腰や足にかかる。  
 
「ああもうまた汚しちゃって」  
「うぷっ」  
 
 ざあっ、と冷たいシャワーが振ってきた。  
 僕が脱力感というか虚脱感に支配されぼーっとしているうちに、  
 戦場ヶ原は手早く自身の身体に着いていた泡やら他の物やらを洗い流してしまう。  
 
「ほら、阿良々木君も早くシャワーすませちゃいなさい。  
 上がったら買い物に行くわよ」  
 
 そしてまだ腰を着いてた僕を、大胆にまたぐようにして自分だけ浴室を出て行った。  
 えー。  
 いやまあ、戦場ヶ原が自由なのも今に始まった事じゃないけどさ。  
 一方的に弄ばれただけというのは……うんよくあることだ、やっぱり今に始まった事じゃない。  
 諦めて僕もけだるい体を起こして、自分の体を洗った。  
 行水程度ですませて脱衣所に戻る。  
 んー、ズボンはそのままでいいけど、汗で濡れたTシャツをもう一回着るのは嫌だな。  
   
「ガハラさん、前僕が置いてったTシャツある?」  
「ゴミと間違って捨ててなければあるわよ、少し待ってなさい」  
 
 ゴミって……。  
 暫くすると、脱衣所のドアが少しだけ開けられ、その隙間から、  
 綺麗にたたまれたTシャツを持った手が入ってきた。  
 いや、ここまで親切にしてくれてるのに、どうして悪態をつかずにはいられないんだろうなこいつは。  
 ありがたく受け取って、袖を通し、脱衣所を出た。  
 
 
「買い物って何処で何を買うんだ? 一体」  
「お昼ご飯よ。コンビニで何か軽く買って食べましょう? 作るのも面倒くさいし」  
「ああもうそんな時間か」  
 
 朝早く、9時半くらいからここにお邪魔して勉強していたのだけれど、  
 思ったよりも結構時間が経っていた。  
 
「どうする? 車出すか?」  
「別にいいわ、近いのだし、歩いていきましょう」  
「近いつってもそれなりじゃん、また汗かくぞ?」  
「そしたらまたシャワーを浴びればいいじゃない」  
「なんだかなあ、それこそ無駄っていうか、ダラダラしすぎな気がするけど」  
 
 まあリベンジの機会をくれるなら願ったりだけど、と思いながらほぼ財布に身一つで玄関を出た。  
 
「あ、そうだ。ダラダラで思い出したけどさ戦場ヶ原、お前こそどうなんだ? 夏休みの予定」  
 
 最寄りのファミリーマートに向かって並んで歩く。  
 
「私はバイトをしてみようと思っているわ」  
「バイト?」  
「ええ、私普通のバイトってしたことないのよね。  
 お父さんの手伝いで、きちんと働いて給料を貰った事はあるのだけれど、  
 社会の中で働いた事は、生まれてこの方一度も無いのよ。  
 だから就職活動の前に、一度はきちんと働いておいた方がいいかと思って」  
「成る程な、どんなバイトをするつもりなんだ?」  
「大学の掲示板に張り出されていた求人でいくつか見繕ってきたのだけれど、  
 学校の近くのあの喫茶店のウェイトレスとか」  
「ウェイトレス!?」  
 
 悪いとは思ったけれど思い切り聞き返してしまった。  
 いやだって、ガハラさんだぜ?  
 ああでも、制服姿とかすっげー見てみたいかも。  
 
「何よ、私だって自分に愛想が無い事くらい解っているわ。  
 でもそういうスキルがこれからの時代必要になってくるのでしょう?」  
 
 うわあ、成長してるんだな、僕の彼女も。  
   
「まあ先ず、面接に受からないといけないのだけれどね。  
 取りあえず適当に手当たり次第受けてみようと思うわ、そこのファミマだって、バイトの募集をしていた気がするし」  
「いや、落ちる前から落ちた後の事考える事もないだろ、面接頑張れよ」  
 
 あそこの喫茶店の制服は結構可愛かったし、是非とも戦場ヶ原には頑張って貰いたい所だ。  
 
「言っておくけれど、もし何処に受かったとして、職場に来たら殺すからね」  
「ええっ、何でだよ!?」  
「何でもよ、もし来たら阿良々木君だけ特別サービスで、  
 ふんっ、あんた何てコレで十分よ! それ飲んだらとっとと帰りなさいっ!  
 って言いながらカルピスの原液を出してやるわ、お代は特別価格で3000円」  
「あそこはそんなツンデレカフェみたいな俗っぽい店じゃねえよ!」  
「客の方が制服目当てで来ている俗物なのだからしょうがないでしょう?」  
 
 バレてるっ!  
 だからこいつのこの嗅覚は何なんだよ?  
 
「まあ解ったよ、来られたくないなら無理に行かないけどさ……。  
 それじゃあ夏休みはバイト漬けの予定なのか?」  
「いえ、もし順調に受かったとしても、いきなり仕事に入れるとも限らないし、  
 間が悪かったみたいで、面接自体も2週間後なのよね」  
「じゃあそれまでは暇なのか、なんだよ、ガハラさんだって結局他人の事言えないじゃないか」  
「そうね、神原も受験だし、どこかの誰かと同じで、それ以外には遊びに誘ってくれるような友達も全然居ないし」  
 
 ん、あれ?  
 
「ああ、こう暑いと何処か涼しい所にでも行きたくなるわね」  
 
 これは、もしかして、もしかしなくても誘い受けなんじゃないだろうか。  
 というかこれは僕が悪いか、こいつの誘い受けは解りにくい、なんて言っていられない。  
 
「そんなに暇ならさ、戦場ヶ原。どっか遊びいこうぜ?  
 それこそ北海道にでも行って、蟹を食べに行ってもいいし」  
「ああ、そういえば以前そんな話もしていたわね、すっかり忘れていたわ」  
 
 何ともわざとらしそうな戦場ヶ原。  
 まあわざとらしくもなるか、思えば今朝、勉強中に僕の夏休みの予定を聞いてきたのも、  
 こういう話題を振りたかったからなのだろう。  
 今回ばかりは、いや今回も、僕が鈍すぎた。  
 彼女も成長しているのだし、僕も成長しないとな。  
 それじゃあ早速、目の前に迫ったコンビニで旅行情報誌の一つでも買おう。  
 
 
 

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