「それじゃ、乾杯」  
『かんぱーい!』  
 音頭がとられ、カチンと四つのコップがぶつかる音が響く。  
 そのまま皆……いや、女三人は一気に飲み干した。  
 この場唯一の男はひと口飲んだだけで他三人の様子を窺っている。  
 一人暮らしをしている女のマンションにちょっと遅い大学入学祝いのために集まったはいいが、なにぶん皆未成年。羽目を外し過ぎないように見張るのは自分だと思っているようだった。  
 色々絡む連中を空気を壊さない程度に宥め、適当にあしらう。  
 むしろそんな立ち位置にいないとこの内の一人の女がうるさいのだ。  
 まあそんなポジションにいるのもすっかり慣れてしまっているが。  
 
 
 ◇ ◇ ◇  
 
 
「で、どうすんだコイツら……」  
「どうしようかねえ」  
 二人の男女は酔いつぶれた二人を見る。  
「智恵は家主だからそのままベッドに潜らしときゃいいとして巫女子は……そういやベスパで来てたな」  
「それで飲み会って……最初から泊まる気で来たってことかよ」  
 むいみの言葉に秋春は呆れたように呟く。  
 やれやれ、と二人は立ち上がった。  
 秋春は智恵を、むいみは巫女子を抱え上げ、ベッドに寝かせてやる。  
 ちょっとしたイタズラとして二人の手足を互いに回させ、しっかりと抱き合わせておいた。  
「貴宮はどうすんだ? 泊まってくのか?」  
「いや、あたしは帰るよ。明日……もう今日か、妹が遊びに来るから相手しなきゃならないんだ」  
「そんじゃ俺様も帰るとしますかね。一応お前も女だし送ってってやるぜ」  
「一応って言うな」  
 二人は軽口を叩き合いながら部屋のゴミを片していく。  
 思ったより空き缶の数が多い。  
「意外と飲んだんだな、はしゃぎすぎだぜお前ら」  
「せっかくの入学祝いだからな、楽しくやらないと」  
「五月にもなって今更入学祝いってのもどうかと思うがな……よっと」  
 まとめた空き缶を玄関先に置いておく。  
 今日の朝が空き缶回収の日だったはずなので帰りがけに出しておくつもりなのだ。  
 
 二人は書き置きを残して鍵を閉め、その鍵をエントランスのポストに放り込む。  
 空き缶を回収箱に突っ込んでまだまだ冷え込む外に出た。  
「うおっ、寒っ! この時間はまだ薄着するのはツラいな」  
「くそっ、油断した……おい秋春、上着よこせ」  
「なんでだよ!? 俺が寒いじゃねえか!」  
「お前はあたしがどうなってもいいのか!」  
「じゃあ俺がどうなってもいいのかよ……」  
 ぶつくさ言いながらも秋春はジャンパーをむいみにかけてやる。  
 明らかにむいみが本気で寒がっていたからだ。  
「へへ、ぬくいな。サンキュー」  
「へいへい」  
「まあ手くらいならあったかさを伝えてやるよ」  
 むいみはそう言って秋春の手を取る。  
 秋春もそれを解こうとはせず、そのままだらだらと他愛もない話をしながら歩く。  
 やがてむいみの住むマンションに着いた。  
「茶くらい出すから冷えた身体あっためていきな」  
「んじゃちょこっとだけお邪魔しますかね」  
 むいみは鍵を取り出し、秋春を招き入れる。  
 ポットからお湯を注ぎ、湯気の立つ緑茶を卓袱台の前に座る秋春に差し出した。  
「おうサンキュ」  
「ん」  
 むいみは秋春の隣に腰を下ろした。  
「しかし葵井も江本も学習しねえなあ。アルコールに弱いくせに無茶飲みしやがる」  
「その辺は全く成長しないな二人とも」  
「まあ身体の方はそうでもな……あ」  
「おい」  
 しまった、という表情をする秋春に、むいみがドスの効いた声を発する。  
「いつ確認した? 手を出したら容赦しないよ。欲情もするな」  
「出さねえよ! でも欲情するなってのはあいつらの酔ったら脱ぐ癖とキス魔になる癖を治させてから言ってくれ!」  
 秋春は必死に弁明した。  
 ちなみに巫女子は脱いだとき、智恵はキスしてこようと抱きつかれたときに身体の成長を確認している。  
「信じられないな。ココをこんなにしてるのも巫女子の身体を想像してのことなんじゃないのか?」  
「い、いや、これは貴宮からいい匂いがするから……ってナシナシ! 今のナシだ!」  
 股間の膨らみに手を伸ばしてきたむいみは秋春の言葉にニヤニヤと笑う。  
 そのままにじり寄って身体を密着させた。  
「そっかーあたしに欲情しちまったかー、こりゃ責任取らないとなー」  
「お、おい貴宮」  
「しようぜ。巫女子達に欲情するくらいならあたしでしておきな」  
「…………」  
 秋春は無言でむいみを抱き寄せ、唇を合わせる。  
 
 そのまま肩を掴んで押すと、むいみは抵抗することなく後ろに倒れる。  
 服の上から身体をまさぐると、少しずつ息が荒くなってきた。  
 いつからだろう。身体を重ねるようになったのは。  
 いつからだろう。秋春がむいみに友情以上のものを感じ始めたのは。  
 肉体関係を持ったから好きになったのか。  
 好きになったから肉体関係を持ったのか。  
(どっちにしても同じことか……)  
 むいみは秋春が自分を女として好きだなんて思ってもないし、秋春も自分の想いをむいみに伝える気はない。  
 伝えたいと思った事は幾度となくあるけれど。  
 心に生じた何かを誤魔化すために秋春はむいみの服を捲り上げて、露わになった胸に吸い付く。  
 自分の思うがままに。ではなく、愛おしいものを慈しむように。  
 相手に気持ち良くなってくれるように丹念に愛撫していく。  
「ん……あ……あ、あっ」  
 むいみの呼吸が乱れていく。  
 秋春の手や唇から与えられる快感にたまらない気持ちになる。  
 直接触れられているわけでもないのに股間が熱くなって濡れてくるのがわかった。  
 むいみにとって性体験のある男は秋春しかいない。  
 だから男とのセックスは誰とでもこんなにも気持ちいいのだと思っていた。  
 秋春が自分を愛しく想っているからこんなにも気持ち良くしてくれるのだとは微塵も考えていなかった。  
「貴宮、下脱がすぞ」  
「ん……」  
 むいみは腰を浮かして脱がせやすいようにする。  
 ジーンズがショーツごと脱がされ、愛液に濡れそぼった性器が露わになった。  
「うわ、すげえ……もうこんなになってる」  
「よ、酔ってるからだ、余計なこと言うな!」  
「へいへい、っと」  
 秋春は再びむいみと唇を合わせ、右手でむいみの性器に刺激を与え出す。  
 びくんとむいみの身体が震え、切なげに眉根を寄せるのがわかった。  
 唇を離すとつうっと唾液が糸を引く。  
「秋春…………もう……入れて」  
「ああ」  
 指を蜜壷から引き抜き、身体を起こす。  
 ズボンを脱いで自らの肉棒を取り出し、むいみの脚を開かせて間に割って入る。  
「今さら聞くけど、今日はゴムつけなくていいのか?」  
「ん……今日は大丈夫だから、早く……」  
「わかった……よっ、と」  
「んっ、はあああっ」  
 秋春が腰を進めて肉棒をむいみの蜜壷に挿入すると、下から押し出されるように口から淫靡な声が飛び出た。  
 一番深くまで一気に埋め、ゆっくり出し入れしながらむいみの身体に覆い被さる。  
 
「んっ、はっ、あっ、ああっ! な、何だこれ、すごいビリビリくるぅ!」  
「お、おい貴宮?」  
 明らかにいつも以上に感じている。  
 酔った状態だからだろうか?  
「あっ、秋春っ! 秋春ぅっ!」  
 むいみは両脚を秋春の腰に、両腕を背中に絡めて思い切りしがみついてきた。  
 それに連動してきゅうきゅうとむいみの蜜壷が秋春の肉棒を締め付けてくる。  
「ヤ、ヤバい、もう出ちまうから、脚、離せっ!」  
 与えられる凄まじい快感に秋春は焦るが、むいみはぶんぶんと首を振った。  
「このままっ、出していい! 中で出していいからっ! 激しく動いてぇっ!」  
「あ、貴宮!?」  
 自分から許可を求めたことはあっても、むいみの方から膣内射精を求められたのは初めてだ。  
 普段がどうであろうとこの瞬間だけはむいみは自分を求めてくれている。  
 秋春は自分の今の表情を見られないようにむいみの肩のあたりに顔を伏せ、腰を揺すり始めた。  
「いくぞ貴宮。中出しすっぞ! 今止めてっつってもぜってぇ中で出してやっからな!」  
「んっ! あっ、ああっ! イく、イくううう!」  
「イくぞ、出すぞ……あっ、うああっ! あっ! あっ!」  
 二人はほぼ同時に絶頂に達し、お互いを強く抱きしめ合った。  
 
 
 ◇ ◇ ◇  
 
 
 ふぅー、と秋春は煙草の煙を吹き出した。  
 傍らのベッドではむいみが規則正しい寝息を立てている。  
「起こすのも可哀想だし今日はこのまま退散しますかね」  
 一緒のベッドに入って共に微睡む誘惑に駆られたが、むいみの妹が遊びに来るのがいつになるかわからない以上危険なことは避けるべきだ。  
 むいみに毛布をかけてやると、智恵の時と同じように書き置きを残して鍵をかけ、鍵をポストに突っ込んでマンションを出る。  
 何となくむいみがここに来る際に呟いた言葉を思い出した。  
『あたし達、いつまで一緒にいられるのかねぇ』  
 予感。  
 近い将来自分達はバラバラになる。  
 それは巫女子が話題に出した『いっくん』のせいかもしれないし、近頃出没する通り魔のせいかもしれない。  
(ま、殺されるのは勘弁だけどな)  
 けど、どうせ殺されるのなら。  
 貴宮むいみ。  
「殺されるなら最期を看取るのはソイツになる、か……はは、どんなヤンデレだよ」  
 秋春は自嘲気味に笑いながらうっすらと明るくなってきた京都の道を歩いていった。  
 
 
 
 

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