彼の名を呼びそうになる。  
 けれどそれは許されぬこと。  
 
 
 余接と離れての仕事は久しぶりだ。  
 必然、一人になるのも久方ぶりだ。  
 あれに『見せている』己を、今宵はしまっておくことができる。  
 あれに『見せてはならない』己を、解放することができる。  
 
 今にも朽ちそうな廃屋で、己のほてりに手を伸ばす。  
 戦闘の興奮は未だ冷めやらず、そこは熱く滾っていた。  
 だからといってすぐには触れず、周辺を揉み解して準備する。  
 太股を、下腹の茂みを、足の付け根の窪みを、丁寧に、優しく。  
 あの指を、手のひらを、唇を、思い浮かべながら。  
 零れ出る粘液を指先で掬い上げ、しこった突起に塗り付ける。  
 そして、一心不乱に。  
 指の腹で表面を擦り、二本指で挟んで擦り、しまいには潰して捻り上げた。  
 思わず声が漏れる。  
 はっとして周りを見回し、一人なのだと思い出した。  
 もう我慢はしない。  
 左手を胸に宛がい、先端を摘まむ。  
 そして、右手の中指と薬指を、まとめて中に押し込んだ。  
 ぞくりと何かが駆け上がる。  
 背中を、首筋を這いあがり、脳に達する。  
 両手はひっきりなしに動いている。  
 きつく乳首を押しつぶし、根元まで指を挿しこむ。  
 恥ずかしいばかりに水音を立て、背中を反らせ、足を突っ張って。  
 喉の奥から獣の如き咆哮があがるのを、どこか他人事のように聞く。  
 そして、力が抜けてくずおれて。  
 彼の名を呼びそうになる。  
 けれどそれは許されぬこと。  
 
 名前こそは原初の呪い。呼べばきっと、彼に縛られるから。  
 
 
 

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