七々見が、いた。  
 魔女らしい黒を基調とした服装が、暗闇に紛れていた。  
 果たして文字が読めているのかどうか知らないが、本を読んでいる、ようだった。  
「うん?」と顔を上げて、僕を見る。  
「お帰り。いのすけ」  
「…………」  
「ただいまと言え」  
「勝手に人の部屋に入るなよ」  
「いのすけの部屋は私の部屋。私の部屋は私の部屋」  
「最初から知ってたけどお前馬鹿だろ」  
 えっと、貯金通帳はどこにやったっけな。記憶力が悪いとこういう時に難儀する。  
「姫っちはどうした?」  
 うるさいなぁ。  
 お前には関係ないじゃないか。  
 誘ってもバイトに来なかったじゃないか。  
 興味なんかないんだろう?  
「死んだよ」  
「あっそ」  
 頷いて、ぱたんと本を閉じる。やはり読んでいたのだろうか。読んでいたのだろう。  
「そんで?」  
「何だよ」  
「いのすけは何してんの」  
「引越しだよ」  
 刹那、硬い何かが僕の額を打った。  
 痛みと驚きで僕は二、三歩後ろに下がり、壁に後頭部をぶつける。  
 ばさばさと紙がめくれる音がして、次いでそこそこに重い物が床に落ちる音がした。  
 どうやら、本を投げつけられたようだ。  
 本を大事にできない人間は友達を大事にできない、って言ったのは誰だっけ。  
 誰でもいいけど。  
 その人はきっと、箴言遣いだったのだろう。  
 にしても、痛い。  
 何を、する。  
「いのすけの悩みなんか欠片も興味ないけどさ。一つだけ教えなよ。何処行くの」  
 
ぼくは答えない。  
 何も答えたくない。  
 必要もない。  
 ない、はずだ。  
「ふぅん、逃げるんだ」  
「お前に、何がわかるってんだよ!」  
 あからさまに嘲りを含んだ言葉に、ぼくはらしくもなく激昂して、七々見に掴み掛かっていた。  
 自分が何をしているのか、わからない。  
 理解が数瞬遅れて、気づけばぼくは七々見の胸元を両手で掴んで、その場で強引に押し倒していた。  
 どくん、と何かがぼくの中で動いた。  
 足首までありそうな長いスカートが乱れ、七々見の白い足が露になっている光景に目を奪われる。  
 暗闇の中だというのに、激しいまでの自己主張を見せる鮮烈な白。人形的ではなく、むしろ生々しい情感を感じさせる淫靡な色だった。  
 見惚れるほどに艶かしいその足を、七々見は隠そうともしない。  
「逃げねぇの?」  
「うるさい!」  
 まだぼくを嘲ろうとする七々見のスカートを、力任せに引き裂いた。  
 足首から膝、膝から太股、扇情的な足がほとんど全容を晒す。そして内股辺りにはわずかに肌とは違う白が覗いていた。  
 今まで一度として感じたことのない色気を、七々見から感じた。  
 壊したい。  
 そう純粋に思った。  
 六年前のように。  
 あの青色のように。  
 壊したい。  
 踏み躙りたい。  
 侵したい。  
 冒したい。  
 犯したい。  
 そう思ったら、そこからは早かった。  
「ちょっ、いのすけ、あんた本気で――」  
「うるさいって言ってるだろ!」  
 馬乗りの状態から七々見の脚を強引に開かせて、剥き出しにした男根をショーツ越しに秘部に押し付ける。  
「ん、っく……いのすけ、や、やめ――」  
 初めて聞く弱気な声で七々見が懇願してくるが、勿論やめるつもりなどない。むしろ嗜虐心をそそられる。もっと、もっと鳴かしたくなってくる。  
 手で太股を押さえて、閉じられないように固定する。滑らかで、それでいて弾力のある感触が手に返ってきた。  
「すごい、七々見」  
 太股を撫でているだけで、身体中が熱くなってくるのを感じる。当然、肉棒は最高潮まで屹立していて、今にも弾けそうなぐらいにビクビクと蠢いている。  
 ソレを太股に押し付けると、七々見は「ひゃっ」と声をあげた。  
「い、いのすけ、熱いよ」  
「七々見のせいだろ」  
 ぼくの周りで人が死ぬのはぼくのせいだけど、これは、ぼくのせいじゃない。  
「んんっ、んあ……やぁ」  
 ショーツに、太股に、スカートに、七々見の下半身を肉棒で蹂躙していく。  
 意思がある存在とは思えないほど、今のぼくは無茶苦茶で滅茶苦茶だった。  
 白い太股がぐにぐにと形を変えるのを愉しんだり、ショーツやスカートの不規則な刺激を愉しんだり、何より《あの》七々見を汚しているのだと思うと、堪らない愉悦を感じた。  
「んぅ、ふあぁっ……はぁ」  
 七々見の声が嬌声に聞こえてきた頃にようやく我に返って、改めて七々見に向き直る。  
 露になった下半身の柔肌は、ぼくの先走り汁でじっとりとぬめっていた。  
 淫猥な光景に、さらに劣情を煽られる。  
 

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