※キャラ崩壊注意
零崎人識。
匂宮出夢。
殺し名の上位に属し、それでいて秘中の秘とされる存在。
もともと接点などなく、出会ったとしてもただ殺し合うだけのはずの二人。
そんな二人が何の因果か今はホテルの一室にいる。
「勘違いするなよ。さっきまで殺し合ってて、疲れたから休憩してるだけだかんな」
「突然何を説明してんだ人識ちゃん?」
「ちゃんって呼ぶんじゃねえ!」
一つのキングサイズのベッドでゴロゴロしながら軽快な会話をする二人。
とても先程まで命のやりとりをしていたとは思えなかった。
ベッドの縁に腰掛けながら部屋に備え付けてあった雑誌をパラパラとめくる人識に、出夢は後ろから抱き付いて首に腕を回す。
「そんなもん読んでねーでもっと僕に構えよー」
「さっきさんざん遊んでやっただろうが。危険極まりないことをして」
「ちえー、つれねーのな」
殺し名序列第一位に後ろから首に腕を回されている。それこそ危険極まりないものだったが、人識にはもうわかっていた。
実際に殺し合っているあの一時間以外は自分に危害を加えたりはしない。
言わば人識は出夢を信頼しているのだった。
もっとも本人に問えば全力で否定するのだろうが。
さて一方、出夢の今の心情はと言えば。
(くっそおおぉぉ! 僕としたことが!!)
激しく後悔していた。
何故この部屋に入った時に『先にシャワー浴びて来いよ』などと言ってしまったのだろう。
いや、恋人っぽく冗談めかして言ったのだが、まさか素直に人識がシャワー浴びに風呂場に入るとは思わなかった。
これでは『人クン』が楽しめないではないか!
ちなみに『人クン』とは『人識可愛いよ人識の体臭良い匂いだなぁクンカクンカ』の略である(匂宮出夢辞典より抜粋)。
しかしせっかくの『人クン』タイムを逃してまでわざわざ運動させたりするのも非効率的だ。
仕方なく出夢はほんのりと石鹸に混じる人識臭を楽しむことにする。
そして出夢は見つけた。見つけてしまった。
(人識のやつ耳の後ろちゃんと洗ってない!)
耳の後ろ、髪の毛、頭皮。それらが優しくもかぐわしいハーモニーを奏でている。
出夢は抑えられないといった様子で人識の髪の毛に顔を埋めた。
鼻腔を膨らませて人識成分を大量に摂取しようとする。
人間の毛というものはセックスアピールの役割を備えているというが、その証拠をこの瞬間まざまざと見せつけられた気分だ。
はたから見ると甘えん坊の子供のようであり、人識は『なにこいつ猫みてえ』といった感想を抱いた。
「どしたんだ出夢、ちょっと変じゃねえか?」
「ぎゃはは、僕が変じゃなかったら逆におかしいだろ?」
「自覚あんのかよ……」
出夢は首に回していた腕を解き、回り込んで人識の足にぽすんと頭を乗せる。
いわゆる膝枕だ。
「何なんだよ、いきなりこんなことしやがって」
「別にー、ただの気分だ気にするな」
「……変なやつだな」
角度的にお互いの顔は見えない。
だから人識が苦笑しながらもどこか優しい表情を浮かべているのも出夢には見えない。
逆に出夢が鼻息を荒くして少々興奮気味になっているのも人識にはわからない。
(あああ、やっぱりセックスアピールったらここだよなー。シャワー直後で臭い薄いけど最高だぜ!)
『人クン』を思う存分楽しむ出夢。
そんな出夢の頭を。
ふわ、と人識の手が撫でられた。
さら、と数回髪を梳くように撫でたあと、ポンポン、と優しく軽く叩く。
直後、人識は自分の行動を省みて顔を赤らめる。
(何やってんだ俺は……こんなキャラじゃねえだろ)
「あー、わりぃ、変なことしちまったな」
「……萌え」
「あん?」
「人識激萌えーっ!!」
突然出夢が起き上がる。
その目は今まで見たことがないほどにギラギラと輝いていた。
出夢はペロリと舌なめずりをし、一気に人識を押し倒す。
「お、おい出夢……んむっ!」
いきなりキスをされ、舌を絡められてじゅるじゅると吸われる。
抵抗しようにも凄まじい力で抑えつけられ、身動きが取れない。
「ぎゃっははは、人識の唾液超美味いぜ、僕の味蕾にぴったり合致してる! 僕にしかわからない新しい旨味成分だ!」
「お、おう?」
「いい臭いだなあ人識の身体は! 人識のいろんな臭い、全部嗅がせてくれよ!」
叫びながら人識のズボンに手をかける。
慌てて人識はそれを押さえた。
「ちょ、待、おい!」
「大丈夫大丈夫! ちょっと真理の向こう側に辿り着くだけだ! 人識は天井のシミでも数えてればいい!」
「男女逆だろそのセリフ!? 離せ!」
「こらっ、パンツが脱がせにくいだろうが!」
「きゃーっ! きゃーっ! いやーっ!」
結局。
この騒動で一汗かいてしまった人識の身体を思う存分嗅ぐことで出夢の欲求は満足するのだったが。
人識は本気で出夢の前から姿を消す事を考えるのだった。