受験が終わり、どうにか卒業もできて、後は入学式を待つばかりという3月末。僕はリビングでくつろいでいた。  
 僕と同様に入学式を控えた火憐に、高校の制服が届いたからだった。  
 ……いやまあもちろん、それが僕に関係がないということは誰よりも僕自身が知っている。  
 けれど、なにせうちのでっかい妹は掛け値なしの馬鹿なので、一緒にいるとこういう脈絡のないことが良く起こるのだ。  
 
「兄ちゃん、あたしのおにゅーな制服姿見せてやろうか? 見たいだろ? 見たいよな?」  
「いや、全然」  
「そうかそうか、やっぱ見たいかー。そこまで言うならしょうがないな!」  
「人の話は聞けよ」  
「ちょっと待っててくれよな。すぐ着替えてくるから!」  
 
 とか、そんな感じのやりとりがあって、僕は仕方なくリビングで待っているのだった。  
 ていうか、どうせジャージで隠すのに制服を見せる意味があるのかよ。  
 と、思っていたのだけれど。  
「阿良々木火憐Mk-U、いっきまーす!」  
 ふざけた台詞と共に階段を駆け下りてきた火憐を見て、僕は目を疑った。  
 火憐が、ジャージをはいていなかったからだ。  
 その、すらりとしているけれど女性的な柔らかさも兼ね備えた足が、惜しげもなくさらけ出されている。  
 スカートが予想以上に短くて靴下をはいていないからか、足の長さが強調されてまるでモデルのようだ。  
「どうよ兄ちゃん。高校の制服は」  
 言われて顔を上げると、輝くような笑みを浮かべて自信満々で胸を張る火憐と目が合った。  
 その少年のような笑顔と制服を押し上げる膨らみがアンバランスで、妖精のような不可思議な魅力を醸し出している。  
 その姿に、思わず本音が漏れて出た。  
「……すげえ似合う」  
「だろ? やっぱし兄ちゃんは見る目があるな!」  
 にっしっし。と火憐が笑う。  
 その言葉で僕は妙に照れくさくなってしまって、無理やりに文句をつける事にした。  
 
「あー、でも、足の爪が結構のびてるぞ。だらしない」  
「あ、ほんとだ。下手な蹴り方したら割れちゃいそうだな」  
 蹴りを出す前提かよ。というか、だ。  
「蹴りって脛とか足首あたりを当てるもんじゃないのか?」  
「普通はそうだけど、足を鞭みたいに使った蹴りだと足の甲も当たるからさ」  
「へー」  
 イメージ的には、ムエタイとかテコンドーなんかの蹴りだろうか。  
 いやだから、お前が習ってるのは空手のはずだろう。  
 内心つっこみを入れていると、火憐がいいことを思いついたとばかりに僕に歩み寄ってきた。  
「そうだ兄ちゃん、爪切ってくれよ」  
「なんでだよ」  
「昔はよくやってくれたじゃん。それに、自分でやるとやすりがけとか面倒なんだよ」  
「僕だって面倒だ」  
「いいじゃんかよー。可愛い可愛い妹の生脚触り放題だぜ?」  
 言われて、僕は火憐の足をもう一度見下ろした。  
「……はいはい、解ったよ。優しい優しいお前の兄ちゃんが、やすりがけまで含めて綺麗にやってやるよ」  
 
 ぱちん、ぱちんと音を立て、爪を切り落としていく。  
 火憐はといえば、僕の太股の上に片足を投げ出したまま、居心地が悪そうに身を捩っていた。  
「トイレ行きたいならさっさと行って来い」  
「あ、いや、そうじゃなくて。なんか変なんだよ」  
「くすぐったいのか?」  
「違うんだけど、えーと、なんて言えばいいかな……」  
「わかるように言えよ」  
「んー。へその下あたりがもやもやする」  
「なんだよそれ」  
 爪を切り終わって顔を上げると、火憐は眉根を寄せて体を縮こまらせていた。  
「あと、内腿がむずむずする」  
 見れば、太股に鳥肌が立っている。  
 足首からついと撫で上げて太股に手を伸ばすと、反射的にだろう、火憐は短く声をあげて空いている方の足を抱え込んだ。  
「ひゃぅっ」  
 なんだよその声。  
 あと、片膝だけ抱え込むのはやめろ。パンツ丸見えだろうが。  
 そんな事を考えながら、何気なくパンツを覗き込んでみる。  
 そこで、時が止まった。  
 
 火憐は、飾り気のないグレーのパンツを穿いていた。  
 これはまあ、外出時に火憐がよく身に着けている上下セットのやつだろう。それはどうでもいい。  
 問題は、その中心部が僅かに変色しているという事だった。  
 ……どういう事だよ火憐ちゃん。  
 僕は平静を装って細長い鑢に手を伸ばし、気を落ち着けるために手を動かし始めた。  
 火憐の足を抱え込み、片手で指を一本づつ支えながらゆっくりと鑢を擦りつける。  
 鑢を動かす度、足指を持ち替える度、火憐が吐息を漏らす。  
 ちらと横目でうかがうと、時折もぞもぞと動いてはぴたりと動きを止め、僅かに声を漏らして小さく息を吐いてる。  
 なんだこれ。妙にエロい。  
 まあでも。  
 別に火憐ちゃんのパンツなんざ見慣れてるしちょっとぐらい変色してたって別になんともないし確かに最近少しだけ大人っぽくなってきたけれどまだまだ子供だしもうすぐ高校生になるからってどうとも思わない。  
 うん。大丈夫だ。  
 そうして小指までしっかり手入れを終えて、火憐の足に息を吹きかける。  
「ふっくぅ」  
 反応した火憐が震える。声に甘さが紛れ込んでいるのが、今度ははっきりと聞き取れた。  
 なぜか暴れ出す心臓を無視して、息を吹きかけながら足指を一本一本丁寧に撫でていく。  
「……兄ちゃん」  
 不意に、切なそうに呼ぶ声がした。  
 僕は崩壊しかけた理性の壁をなんとか塗り固め、顔を上げる。  
 そこには、息の上がった火憐がいた。  
 長い足を投げ出し、最後の防壁となる布を黒く湿らせて。  
 後ろに手をついて辛うじて体を起こしているという風情で、胸が頻繁に上下する。  
「……兄ちゃん」  
 目が合う。潤んだ瞳が僕を射る。  
 その艶やかな表情に、突貫工事で修復した壁では耐えられるはずも無いのだった。  
 
 火憐の足を引き寄せつつ、足を絡めて体勢を変える。  
 今度は踵の角質を取り除くために、鑢を擦りつけていく。  
 そして同時に、爪先の手入れの仕上げとして、指の股を丁寧に舐め回し足指にしゃぶりつく。  
 僕が指先の保湿に気をつかっている間、火憐はびくびくと体を震わせ、ひっきりなしに甘い声を上げていた。  
「んっ、やあっ、にいちゃん、ぅ、にいちゃん……ね、にいちゃ、ねぇ」  
 懇願するような声に太股をひと撫でして答えてから、体を入れ替えて火憐の唇を塞ぐ。  
 僕と火憐の境目から唾液が零れるのをそのままに、懸命に伸ばされる舌を絡め取った。  
 しなやかな腕が首に回されるのを感じながら、背中を、脇腹を、太股を撫で回し、頃合いをみてスカートの中に侵入する。  
 下着の上から軽くさすり、ぬめっているのを確かめてから敏感な場所を狙ってぴたぴたと叩く。  
 水を吸って張り付いた布を手探りで横にずらして、ほころんだ花びら広げるように円を描き、筋に沿って上下にこする。  
 仕上げとばかりに入口を割り広げて浅い部分を掻き回し、口の中で暴れ回る舌を迎撃しながら自分の準備を整えた。  
「……いくぞ」  
 火憐が僅かに目元を緩めたのを合図に、僕は腰を押し出した。  
 
「ふ、くぅ」  
「ほら、力抜け。息吐いて」  
「は、あぁぁ」  
 すがりついてくる火憐をあやしながら、少しずつ侵入していく。  
 全周囲から圧迫される膣の中をかきわけて進み、最奥に僕の先端を押し付けて、一息ついた。  
「……全部入ったぞ」  
「うん」  
 顎を持ち上げてキスを要求する火憐に応えて再び舌を絡ませ合いつつ、お互いが馴染むのを待つ。  
 数分経って火憐の体から余分なこわばりが抜けた頃、特に前置きも無く、けれどゆっくりと腰を使い始める。  
「む、んぅー」  
 少しばかり苦しそうな様子で、火憐が僕の口の中に喘ぎを漏らした。  
 それを逃さぬようにぴったりと唇を合わせ、次第に動きを加速させる。  
 火憐の声が切れ切れになり、視線が絡み合う。  
 下から聞こえる水音、打ち付けた腰の感触、混ざり合う唾液、僅かに感じる女の匂い。  
 様々な感覚が波濤のように押し寄せて、砕けた理性を押し流していく。  
「大丈夫か?」  
「……にいちゃ、ちょっと、きもちぃ」  
 幼児退行したかのような火憐の意外な物言いが、とどめだった。  
 気を遣ったのかもしれないし、雰囲気に酔っているだけかもしれない。  
 けれど、そんなことを考える余裕は、もはや残されてはいない。  
 煮崩れて蕩けた火憐の顔を両手で固定してその瞳を覗き込んだまま、ものも言わずに腰を振り立てる。  
 その動きに苦しげな表情をみせたものの、火憐は両手両足で抱き着いて僕を受け入れる。  
 そんな姿を見下ろしながら、ひたすら悦楽の道を駆け抜ける。腰を打ち合わせる淫らな音を足音の代わりに響かせて。  
 そうして果てに行き着いた僕は、最後とばかりに深い口づけをして、火憐の一番奥底で煮え滾る情欲を解き放った。  
 
 抱え込んだ火憐の頭を解放すると、糸を引く唾液がつうと伸びてぷつりと切れた。  
 ようやく鎮まりつつある猛りを引き抜けば、こちらも泡立つ粘液が糸を引く。  
 一歩下がって見下ろせば、火憐が片足をこちらに伸ばしていた。さっき爪を切ってやった足とは逆だ。  
 どうしたのかと見ていると、まだ回らない舌でおずおずと火憐が僕にねだる。  
「……にいひゃ、こっちも」  
 このあと、しばらく僕の記憶は存在しない。  
 
 
 その後の事というか、今回のオチ。  
 
 気が付いた時には二人で折り重なるように倒れていた。  
 さすがにそのままではまずいので、ぐったりしている火憐を風呂場に運んでからどろどろになった制服や床の後始末をし、再び風呂場に戻ると火憐が目を覚ましたところだった。  
「あー、兄ちゃん」  
 けれど、口調はどうにも億劫そうで、体も未だ動かないらしく寝そべったままだ。  
「お、起きたか」  
「兄ちゃん、べたべたして気持ち悪いけど動けねー」  
「はいはい。僕が洗ってやるよ」  
「ていうか、なんで兄ちゃんは平気なんだよ……。あたしがこんなにダメージ受けてるのに」  
「お前は腰が抜けてるだけじゃないか?」  
「腰? ……これがそうなの?」  
「いや、知らないけどさ」  
 だらだらと言葉を交わしながら、横たわる火憐を引き起こして僕に寄り掛からせた状態で体を洗ってやる。  
「なー、兄ちゃん」  
「ん?」  
「手つきがやらしくない?」  
「今更だろ」  
「まあそっか。じゃあさ、ちゅーもしようぜ、ちゅー」  
 そんな感じで、何やら甘えてくる火憐の要望に応えてやったり、せっかくなので気の済むまでおっぱいを揉んだりして、この日の制服お披露目はお開きとなった。  
 
 その後、脱衣所で月火に目撃されて無双乱舞をくらったり、「薬品くさかった」とか理由をつけて届いたばかりの制服をクリーニングに出したりしたのだけれど、それはまた別の話である。  
 

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