「『スニペット』とは『○ニスのペット』が変化した単語に相違あるまい。つまり阿良々木先輩のエロ奴隷である私のことだな!」  
「人の家に来ていきなり何言ってんだよこの変態」  
 こいつに敷居を跨がせたのは間違いだった。  
 というか、こいつの存在自体が間違いである。  
 まあでも、仕方ないのか?  
 トップレベルのスポーツ選手って、どこかズレてるところがあったりするしな。  
「私は確かにレズだが」  
「ズレてるって言ったんだよ!」  
 あと、モノローグを読むのはやめろ。  
「いや、最近はもうレズってはいないぞ。部活もやめてしまったしな。いまや阿良々木先輩のペ○ス一筋だ」  
「ペニ○一筋とか言うんじゃねえよ……」  
 そっちが僕の本体みたいに聞こえるだろ。  
 あと、同じボケを繰り返すな。せめて少し間を開けろ。八九寺を見習え。  
「ところで、ペニニ木先輩」  
「僕をそんな卑猥な名前で呼ぶな! 僕の名前は阿良々木だ!」  
 ていうかそういう意味で見習えって言ったわけじゃねえ!  
「失礼、噛んでしまった。あと、舐めてしまった」  
「いつの間に脱がせた!?」  
 気が付いた時には、神原は僕の幹を甘噛みしつつ先端に舌を押し付けて来ていた。  
 まるで知覚できなかったぞ、仮にも僕は吸血鬼だっていうのに。  
 お前はドミニク・ザ・サイクロプスか。  
「なに、『間を外した』だけだ。『間は魔物なり』と言うからな。相手を抜き去るのに必要なのはスピードだけではないのだ」  
 おい神原。もっともらしくバスケットの事を絡めて言っているけれど、『間は魔物なり』って歌舞伎の人が言ったんじゃなかったっけ?  
 それから、いいかげんその場所から離れろ。扱くな。喋る合間に舐めるな。  
 僕がそう言って、股間にうずくまる神原のを引き離そうとすると――  
「ああ、すまない。片手間の奉仕などエロ奴隷にあるまじきことだな」  
 神原は、舌をだらりと出して口を開け、一気に僕自身を飲み込んでしまったのだった。  
「――ぅく、かん、ばら、ま――」  
 でこぼこの上あごを擦りながら奥へ進んだ先端は、今や神原の喉奥で圧迫されている。  
 ごくりごくりと神原が喉を鳴らし、さらに奥へと僕を誘う。  
 その度にきゅっきゅっと咽頭が狭まって僕を苦しめた。  
 唇が根元を覆いかくし、鼻の頭がへその下に当たり、少しはみ出た舌がちろちろと袋を舐める。  
 体に力が入らない。  
 腰がうずいて立ち上がる事もできず、腕を伸ばす筋肉が硬直してしまって、神原を押しのけることすらできない。  
 僕にできるのは、神原の頭を両手で抱えて呻きながら耐える事だけだった。  
 そんな僕を見あげて、神原が淫蕩に笑う。  
 そしてその直後、抱き着くように両腕を回して腰を引き寄せると、神原は僕に引導を渡した。  
 
「うむ、美味い。真夏の部活の後に飲む、濃い目に作ったポカリスエットくらい美味いぞ、阿良々木先輩」  
 神原が、足りぬとばかりに僕自身を上下に扱きながら言う。  
 そうして、鈴口から漏れ出るものをその都度舐め取っては、満足そうに微笑むのだ。  
「なんだよそれ」  
 なんというか、こいつには勝てる気がしない。  
 いや、変態性で勝つとかそういう事ではなく。  
「さて、阿良々木先輩」  
「ん?」  
「さっきから、これ以上萎える気配がないのだが」  
 手を動かしながら、神原が僕を見る。  
「そりゃそうだろ」  
 お前がそんな事してるんだから、出したからって簡単には萎えたりしない。  
 そう言外に示して、僕は神原の頭を撫でる。  
「では、その、阿良々木先輩。……あ、いや、なんでもない」  
 そう言い直して、神原は珍しく頬を染めた。  
 やばい。ちょっと、いや、かなり可愛い。  
 なんかもじもじしてるし。  
「なんだよ」  
「すまない、忘れてくれ。こんな浅ましい考えでは、阿良々木先輩のエロ奴隷など務まらない」  
「いや、気になるから言えよ」  
 ていうか務めなくていいから。  
「……その、嫌でないのであればだが……下の口にも、飲ませて欲しい」  
 そう言って、神原が恥じるようにふいと目を逸らす。  
 本当に基準が解らないやつだ。  
「嫌なわけがないだろ」  
 端的に答えて、神原を立ち上がらせる。  
 そして、抱き合うように引き寄せて僕の上に座らせ、一息に貫いた。  
 
 どろどろになった神原に栓をして、反らされて露わになった首を舐め上げる。  
 片手で腰を引き寄せ、もう一方の手で脇腹に触れ、背中を撫で上げ、肩甲骨をさする。  
 その度に神原の中が反応し、びくびくと断続的に締め付けてくる。敏感なやつだ。  
「なあ、神原」  
「……ふぅ……なんだろうか」  
「なんでさっき、あんなに恥ずかしがってたんだよ」  
 奥まで貫いた状態で、体中をやさしく撫でながら聞いてみる。  
 赤くなる神原などというレアなものを見られたのはいいけれど、少し気になるのだ。  
「エロ奴隷ともあろうものが、主人よりも己の性欲を優先してしまうなどと……我ながら未熟だ」  
「え、そんな理由なの?」  
「うむ。私がおねだりをしてよいのは、阿良々木先輩が挿れたいと思った時だけだからな」  
「ずいぶん限定的な条件だな」  
「様式美だからな。それを自分一人の欲望で崩してしまうとは、本当に恥ずかしい」  
 いや、なんでそこまでストイックにエロを追及してんだよお前。  
 まあ、今更な気もするけれど。  
「そういうわけで、これは汚名返上の機会なのだ。動くのは任せてもらえないだろうか」  
 僕が苦笑して頷くと、神原は唇を引き結んで、腰を使い始めた。  
 
 ぬちゅ、くちゅ、と水音が部屋に響く。  
 引き結ばれた筈の神原の口は、いくらももたずにだらしなく開いてわなないた。  
 そして、思い出したように口を閉じて表情を引き締めては、自ら腰を打ち付けるたびに吐息を漏らして蕩けた貌をする。  
 ……うん。もうだめ。  
 可愛すぎる。  
 降りてくる神原に合わせ、腰を跳ね上げる。  
「ふぐぅっ」  
 声を上げ、神原が信じられないものを見るような目で僕を見る。  
 僕を止めようとしてか、神原が手を伸ばしてくる。  
「いいんだ神原。僕がしたいんだから」  
 伸ばされた手に指を絡ませて引き寄せる。  
 スタッカートする神原の吐息を追って、唇にしゃぶり付く。  
 背骨が無くなったかのようにぐらつく体を抱き締めて、腰を合わせて揺すり上げる。  
 神原が、ようやく諦めたのか、僕に縋り付いてくる。  
 それに応えて舌を思い切り吸い上げると、神原の喉から唸るような声が漏れた。  
 その瞬間、ぎゅんと入口が締まる。  
 その収縮が奥のほうへと波のように伝わり、僕を絶頂へと押し上げる。  
 もう耐えられない。  
 僕は、折れそうなほどに神原の腰を抱き寄せて、最奥の壁に全ての力を叩きつけた。  
 
「そういえばさ、神原」  
 しばらく身じろぎすらしなかった神原が意識を取り戻したのを見て声を掛ける。  
「……なんだろうか」  
 ベッドに倒れ込んでいた神原が、顔だけ上げて返事をした。  
 らしくないが、まだ夢うつつなのかも知れない。  
「『スニペット』って、『切れ端』とか『断片』って意味らしいぞ」  
 それを聞いて、神原は覚醒したのかがばりと起き上がった。  
「つまり、私のごときエロ奴隷はいつでも脱がせて犯せるように布の切れ端でも身に着けておけ、という意味だな!」  
 ていうかいちいち立ち上がるな。拳を握るな。  
 まあでも。  
 元気なようで何よりだった。  
 

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