「Water was spurting from だから……水がほとばしり出ていた、でいいのだろうか」  
「そうね」  
「ところで戦場ヶ原先輩。『ほとばしり』という言葉はえっちだと思う」  
「悪くはないわね。けれど神原、『ほとばしる』のほうがよりいやらしいと私は思うわ」  
「ほう、その心は」  
「分解すればわかるわ。女性器の隠語である『ほと』、東北や関西で使われる格助詞の『ば』、そして『しる』」  
「格助詞の『ば』?」  
「ええ。共通語で言うところの『が』『の』『を』などの代わりになる助詞よ。つまり――」  
「……つまり?」  
「『女性器がいやらしい汁でびしょびしょに濡れている』――という意味になるわね。まさに今の私の状態というわけ」  
「元の意味と掛かっている……だと……!?」  
「そういうわけだから神原、しばらくどこかで時間をつぶしてきてくれないかしら」  
「うむ。そういう事情ならば仕方がない。ゆっくり愉しんでくれ、戦場ヶ原先輩」  
 
 ヴァルハラコンビが二人揃うとこういう会話になるのは今に始まった事ではない。  
 とはいえ、つっこむ気は今の僕には無い。そもそも僕は勉強中なのだ。  
 ……と、そう思っていたのだけれど、神原がちゃぶ台の上に広げていたあれこれを鞄に入れて立ち上がった事でついに我慢が出来なくなってしまった。  
 羽川が用事があるとかで、今日は久しぶりに戦場ヶ原が家庭教師なのだけれど、二人きりになると勉強が進まないから神原に来てもらったっていうのに猥談に持っていくんじゃねえよ。空気読め。  
「いや、なんで出ていくんだよ」  
「何故、とは異なことを言うな阿良々木先輩。それとも私も混ぜてくれるというのか?」  
「これ以上何に!? 勉強には混じってるじゃん!」  
 相変わらず神原の言動はいかれている。  
 けれど、僕はすっかり忘れていたのだった。神原が、誰の弟子だったのかということを。  
 
「そうね。そうしましょうか」  
 後ろからの声に振り向くと、いきなり唇を塞がれた。  
 座っている僕に立膝の戦場ヶ原がのしかかる。  
 その、今や四十キロ後半強あるらしい体を抱きとめると、戦場ヶ原は自分のネクタイをしゅるりと外し始める。  
 そして、密着するまで抱き寄せられて僕も膝立ちになったところで、舌が侵入してきて口内を舐りまわされた。  
 これほど情熱的に戦場ヶ原が求めてくることは滅多にない。  
 だからか。  
 僕は、神原の存在を一瞬忘れてしまった。  
 
 気付いた時にはもう遅かった。  
 僕の腕力は本気を出した神原には遠く及ばない。吸血鬼もどきの人間ごときが、怪異そのものに勝てる道理など無い。  
 後ろで両手を縛られる。  
 おそらくさっきのネクタイだろう。ブランクがあるくせに妙に連携のとれたコンビだ。  
「縛り終わったぞ、戦場ヶ原先輩」  
 その声が届いているのかいないのか、戦場ヶ原は唇を離そうとしなかった。けれど、僕を抱き締める腕を外して制服を脱ぎ始める。  
 焦るでもなく、僕の目を見詰めながら、まるで誘うように、扇情的に。  
 その間、神原も僕の制服を脱がしにかかっていた。  
 前をはだけて肩まで露出されられ、さらに腕の自由が利かなくなる。  
 そして、神原は僕のベルトに手を掛けるとあっという間にトランクスごとズボンを膝まで下ろし、その直後に戦場ヶ原が体重を掛けてくる。尻もちをつくように押し倒された。  
 後ろにいる神原の胸に背中を預ける格好で二人に挟まれ、縛られたうえに中途半端に脱がされ身動きできない状態で、体中をまさぐられる。  
 かわるがわる口を塞がれ、唾液を流し込まれ、二人のうちどっちがどこを触っているのかも判らないまま、体は勝手にたかぶっていく。  
 
 不意に、局部にぬるりとした感触があった。  
 目の前には神原の上気した顔がある。犯人は明確だというのに、僕にはどうする事も出来ない。  
 ぴちゃぴちゃという水音が、じゅぽじゅぽと空気交じりの淫靡な音に変わっても、神原の舌と戯れる意外何も出来ない。  
 神原に顎を上に向けられていて行為が見えないせいか、感覚が鋭敏になって、後戻りができないところまであっさりと押し上げられる。  
 そうして、膨張率が最大になったところで図ったように戦場ヶ原が離れ、直後、再び何かが局部に触れた。  
 今度はさっきとは違う。  
 沼地に足が潜るような。  
 湿ったスポンジを握りつぶすような。  
 風呂に肩までつかるような。  
 そんな感触を僕に残して、戦場ヶ原が嬌声をあげた。  
 神原の顔が離れていく。  
 ようやく見えた景色は、全く予想通りのものだった。  
 ニーソックス以外何も身につけず、戦場ヶ原が僕の上に腰を下ろしている。  
 その戦場ヶ原が手を伸ばし、僕の体を引き起こす。  
「いつも思うのだけれど」  
「……なんだよ」  
「阿良々木くんのこれって、特別なのかしら。大きさとか、形とか」  
 言いながら、戦場ヶ原が体を揺する。ぬちぬちと粘りつく音がした。  
「普通だろ、多分」  
「だとしたら私がおかしいのかも知れないわね。余りに気持ちいいものだから、最近はこの部屋で阿良々木くんと一緒にいるだけで濡れてしまうのよ」  
 むう。と考え込むような顔で、けれど戦場ヶ原は手を緩める事も無く腰を小刻みに動かし続ける。  
 僕は行為に没頭してしまわないように気を張りつつ、言葉を返した。  
「やめろ。神原がいるんだぞ」  
 今止めるのは僕自身にとってもかなり厳しいけれど、このまま後輩の前で続けるよりはましだろう。  
 だというのに。  
 戦場ヶ原の答えは、悪い方へさらに一歩踏み込んだものだった。  
 
「……そうね。そろそろ神原も混ぜてあげましょうか」  
 言葉と同時に再び押し倒され、床に転がる。下敷きになった両手が少し痛い。  
 そうして顰めた顔に影が差す。見上げると、スパッツが目に入った。  
 いや、正確には少し違う。  
 湿って僅かに色の変わったスパッツと、その中で蠢く指が見えたのだ。  
 ごくりと、自分の喉が鳴る音を聞いた。  
「……あら。今少し大きくなったかしら」  
 そんな楽しそうな戦場ヶ原の声に押されるように、神原の手が動く。  
 両手でスカートを捲りあげ、スパッツに手を掛けて一息でずり下ろす。その下には何も身に着けてはいない。  
 小さな飛沫が顔にかかる。  
 それを払うように瞬きする間に、神原は僕の頭上で尻を突き出していた。  
 張りのある臀部。中心の窄まり。その向こうの肉のあわいから粘液が漏れている。  
 そこを神原が自ら両手で割り開き、てらてらと赤く濡れ光る膣内を見せつけた。  
 目を逸らせない。  
 ゆっくりと降りてくる神原の中心からつうと透明な糸が引き、僕の頬に垂れ落ちる。  
 鼻先にむわりとした女の匂いが漂い、僕の吐き出す息が神原の一番敏感な場所に当たって、ひくひくと媚肉を震えさせる。  
 そしてそれだけでなく、現在進行形で戦場ヶ原が僕の腰の上で踊っているのだ。  
 ――こんなの、我慢できるわけがないじゃないか。  
 ぷちりと、理性の糸が切れるのがわかった。  
 首をもたげて神原の足の付け根に顔を差し入れる。  
 太股に舌を這わせ、垂れてくる愛液を啜りあげ、鼻を下腹部に押し付ける。  
 陰唇を舐め上げ、開かれた隙間に舌を挿し入れ、唇で突起を挟み込む。  
 すると、尻を差し出すようにしゃがみこんでいた神原がくぐもった声を漏らし、崩れ落ちそうになって両手を床についた。  
 構わず舌を動かしていると神原が僕の攻撃範囲から離脱し、生まれたての小鹿のように四つ足で震えながら、スパッツだけを足から引き抜いていく。  
 そうして神原を眺めていると、戦場ヶ原の動きが変わるのがわかった。擦りつけるように腰をくねらせて、艶やかな息を吐く。  
「神原ばかり視姦するのはいただけないわ」  
 そう言って両手を伸ばし、私を見なさいとばかりに僕の顔を固定する。  
 そのまま、今度は焦らすように、ゆったりと長いストロークを繰り返す。  
 細い体が前後に動くたびに白い塊が揺れ、僕の腰がひとりでにせりあがる。  
 そろそろ強くいこうかと構えた矢先、戦場ヶ原がそれを察したようにふっと笑い、啄ばむようになキスをして遠ざかって行く。  
 何事かと思えば、神原が僕の頭上に再び現れていた。  
 
 スカートがふわりと舞い降りて、僕の視界を遮った。  
 さっきとは体勢が違うからか、目に映る景色も大きく異なっている。  
 左右から張りのある太股が伸び、それがぷりんとした尻肉へと続き、その中心は閉じていながら湿り気を帯びている。  
 それに、スカートで遮断されたからか甘酸っぱい匂いが充満していた。  
 誘われるように鼻先を隙間に突っ込む。  
 ほぐれた肉を掻き分けて桃色の粘膜を探しだし、その向こうで口を開ける奈落へと踏み出す。  
 つぷりと舌を沈めれば、あとからあとから粘液が湧いて出て、僕の喉を潤した。  
 一方、戦場ヶ原はといえば、僕を焦らしていたのが嘘のように、ものも言わずに激しく腰をくねらせていた。  
 僕もそれにタイミングを合わせて、細かく腰を突き上げる。  
 そういえば神原の声も聞こえない。二人のくぐもった呻きと、小さな水音が聞こえるだけだ。  
 吐息と喘ぎと水音だけが部屋の中に降り積もる。  
 言葉もなく三人絡まって貪り合い、バターになった虎のように互いの境界が曖昧になってくる。  
 今僕は誰に挿れていて、誰のを舐めているのか。それすら思い出せなくなる。  
 脳みそは蕩け、心臓は爆発する。  
 けれど本能か、一番愛しい、口の悪い少女が脳裏に浮かんだ。そこへ向かって懸命に腰を振り立てる。  
 そうして、ぎゅうぎゅうと締め付けてくる壁の中で少しだけ感覚の違う場所に先端を押し付け、僕は絶頂のときを迎える。  
 首ブリッヂの要領で腰を突出す。  
 その瞬間、僕自身の先端から具現した熱情がほとばしった。  
   
 やってしまった。  
 というか、やられてしまったというか。  
 これでは羽川に合わせる顔が無い。  
 けれど、僕がうなだれているのを知らぬ気に、二人は会話を始める。  
「そうそう、『ほとばしる』がいやらしいという根拠は、もう一つあるわ」  
「ほう、その心は」  
「格助詞の『ば』は万能だから『ほとの汁』という意味だけでなく、『ほとに汁』というふうにもとれるのよ。つまり――」  
「……つまり?」  
「『中に出す』――という意味になるわね。まさに今の私の状態というわけ」  
「膣内に精液がほとばしる――という意味……だと……!?」  
 いや、それはもういいから。  
 そう思ったものの、僕にはまだそれを口に出す気力が戻ってはいなかったのだった。  
 ていうか、さっさとどいてくれ。  
 それから、この縄を解いてくれないだろうか。  
 

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