「ごめんな……戦場ヶ原……でも、もう……」
ようやく。
ようやく戦場ヶ原に会えた。
約束の時間からだいぶ過ぎてしまったけども。
どんな罵詈雑言を浴びせられるのか、などと先ほどまで考えていたが、僕はもう限界のようだ。
意識が薄くなり、慌てて駆けつけてくる戦場ヶ原の声が遠くなる。
「阿良々木くん!? しっかりしなさい、阿良々木くん!!」
※※※こよみスリープ※※※
まったく。冗談じゃないわ。
阿良々木くんはここしばらく学校にも姿を見せず、連絡もつかない。そんな状況で『今日夜、お前の家に行くよ』なんてメールが来たから柄にもなく浮かれてしまったじゃない。
なのに。うちに着くなり寝てしまうなんて。
拷問してでも起こそうと思ったけど、一瞬だけ出てきた金髪幼女に『儂もそやつもここしばらく寝ておらんから勘弁してやってくれ。むしろここまで来たことを褒めるべきじゃ』なんて言われた。
そう言われると私は何も言えない。
どうせまたどこかで人助けでもしていたのだろう。そこに文句をつけたら私の好きな阿良々木くんを否定することになるし。
妹さん達には阿良々木くんが帰宅し次第連絡をくれるように言ってある。
それがないということは阿良々木くんは関わっていた事件が終わったあとまっすぐここに来てくれたということだ。
「いい女というのもつらいものね」
たぶん阿良々木くんは今回の事件の内容も私には話さないだろう。
それでいい。阿良々木くんが話したくないのなら、私に言うべきことでないのなら。
「もちろん愚痴のひとつやふたつは言わせてもらうわよ」
私に膝枕をされている阿良々木くんの頭を撫でながらひとりごちる。
阿良々木くんはくすぐったそうに、それでいて心地良さそうにわずかに笑みを浮かべた。
「寂しかったんだから、本当に」
会えなくて。話せなくて。触れられなくて。
心配で気が狂いそうだった。
でも阿良々木くんの足手まといになるわけにはいかない。
私には羽川さんのような頭脳もなければ、神原のような力もない。ならば私にできるのはただ待つことだけ。
悔しいけども。
大きなため息を私がつくと同時に、阿良々木くんが口を開く。
「せん……ょ…はら」
起きたのかと思ったけれど、どうやら寝言のようだ。
ていうか今私の名前を呼んだかしら?
「戦場……ヶ…原…………会い……たかった……」
「………………」
ちょっと。
なにうろたえているのよ私。
周りを見回しても誰もいないわよ。
携帯の録音機能が偶然起動していたりしないから確認するのをやめなさい。
飛び上がっちゃダメよ、今阿良々木くんに膝枕をしているんだから。
顔がにやけそうになるのを抑え、阿良々木くんの手を握る。
阿良々木くんの表情がほっとしたものに変わり、ギュッと力強く握り返してきた。
あー、マズいわねこれ。何というか、うん。
欲情してきたわ。
でも仕方ないじゃない。阿良々木くんが目の前にいるんだもの。
まあだからといって疲れている阿良々木くんをたたき起こして交わりましょうと言うほど私は気遣いのできない女じゃないわ。
だから。
起こさない程度にこっそりしましょう。
座布団を枕替わりにさせ、私は立ち上がって身体を入れ替える。
そっと頬に口付けをし、そのままキスの雨を阿良々木くんの顔に降らせた。
額からこめかみ、頬から首筋、そして唇へ。
「んっ……」
唇同士が触れ合って阿良々木くんが僅かに呻いた瞬間。私の中で何かが吹っ飛んだ。
情欲の塊が頭の中ではじけて全身に回り、下腹部へと収束していく。
どうしようもないほどに狂おしい感情が身体を支配する。
独りの夜を自分で慰めた時だってここまでではなかった。
私はもう我慢がきかず、服を脱ぎ捨てて裸体をさらけ出す。
そのまま阿良々木くんの手を取り、指を秘所にあてがう。
「ひっ……ん……っ!」
無意識に漏れ出た声に焦り、咄嗟に空いた手で口を塞ぐ。
何、これ。何これ何これ。
していることは自慰と変わらないのに、あそこに触れているのが阿良々木くんの指というだけで快感の度合いが桁違いだ。
すでにしとどに濡れているのをいいことに、やや乱暴気味に阿良々木くんの指を様々に弄くらせる。
陰核に擦り付け、充分湿らせた指を秘口に。ダメ。一本じゃ足りない。二本突っ込ませた。
一気に高まる。
阿良々木くんは相変わらず起きる様子を見せない。だけどそれが背徳感を煽り、ゾクゾクと全身が快感で震える。
ああ、阿良々木くん、阿良々木くん。
「んぅっ! んっ! んっ!」
びくんっと私の身体が大きく震え、上り詰めた。
寝ている阿良々木くんの横でオナニー。しかも阿良々木くんの指を使って、イってしまうなんて。
私変態だったのかしら……?
しかも。
全然満足できてない。
もっと快感が欲しい。もっと阿良々木くんが欲しい。子宮が疼く。
私は阿良々木くんのズボンに手をかけ、ゆっくりとファスナーを下ろす。
やがて、阿良々木くんの陰茎がさらけ出された。いえ、私がさらけ出したのだけども。
ぼうっとする頭をそのままに、身体が動くままに任せる。私はそっと顔を寄せ、舌をその男性器に這わせた。
刺激を与えているとすぐにそそり立ち、恐ろしいほどの硬度を持ち始める。
そこから放たれる強烈な雄の匂いに脳を焼かれながらも、それを口に含んで唾液でまぶしていく。
充分に濡れそぼったのを確認し、私は阿良々木くんを跨いで性器を触れ合わす。
自らの秘口に先端を押し当てると、伝わる熱だけで全身が溶けてしまいそうだった。
ゆっくりと腰を下ろして少しずつ阿良々木くんをくわえ込んでいく。
柔肉を押し広げて侵入してくる感覚に下半身がとろけそうになる。もう我慢がきかない。
私は一気に腰を深く沈め、根元まで阿良々木くんの陰茎を体内に受け入れた。
「っ! ……ぅ……っ……ん……っ!」
予想以上の勢いで最奥を突かれ、必死に声を抑える。
いけないと思いつつも身体は動き続けた。
腰を揺すってぐりぐりと子宮口を刺激し、上下させてとんとんと突かせる。
嫌なのに。感じすぎてしまうのに。止まらない。
体重をかけないよう注意しながら出し入れを繰り返し、口を塞いでいるのとは別の空いた手でクリトリスをいじるとすぐにまた上り詰めてしまう。
「んっ! ……んんっ! ん……ふ……っ!」
びくびくと身体が痙攣し、快楽の電流が全身を駆け巡った。
十二分に余韻に浸り、満足した私は阿良々木くんの陰茎を引き抜こうと腰を浮かそうとする。
「…………」
あら? 今阿良々木くんが何か言ったかしら?
だけどそれを確認する間もなく私は慌てて両手で口を塞ぐ。
「ひぃっ……ん! ……んっ! んぅっ!」
突然阿良々木くんのアレがお腹の中で大きくなったかと思うと、そのまま射精したのだ。
イった直後の敏感な膣内にどくどくと精を注ぎ込まれる感覚に翻弄され、必死に声を抑える。
表情を窺う限り阿良々木くんは起きてはいない。それなのに。
全て出し切っても阿良々木くんは腰を揺するのを止めず、快感を求めて萎えない陰茎で私の中を抉り続ける。
いつの間にか阿良々木くんの手が私の腰をしっかりつかんで逃げられないようになっていた。
というか本当に起きていないのかしらこの男?
でも確認を取る前に理性が飛ばされ、悦楽の波に溺れていく。いえ、沈んでるのではなく上っていってるのかしらね。
ひと突きごとに私は絶頂に達し、声も出さずにイきっぱなしになる。
本当なら髪を振り乱して阿良々木くんの名前を叫びながら思う存分イきまくりたいとこだけど。
ここは初志貫徹。なるたけ阿良々木くんを起こさないように徹した。
そして二回目の膣内射精。結合部から溢れ出るくらいに精液を放たれる。
もちろん気が狂いそうなほど気持ち良かったけど、なんとか気も失わず声も出さなかった。
阿良々木くんは満足したのか、手足から力が抜けてすっきりした表情で寝息を立てている。溜まっていたのかしら?
今度こそ腰を浮かして結合を解き、後始末をする。もちろん二人の体液に塗れた阿良々木くんの陰茎を綺麗にするのは私の舌の役目だ。
余すとこなくじっくりと舌を這わせ、口に含んで次々と飲み込んでいく。
いえ、飲みたいわけではなくティッシュが遠くに置いてあるから仕方なくよ。
尿道に残ったものまで全部吸い出し、綺麗にしたあと元通りに服を着せる。
さて。シャワーでも浴びるとしましょう。
* * *
「う……」
目が覚めて最初に視界に入ったのは見慣れない、だけど知ってる戦場ヶ原家の天井。
そして無表情の戦場ヶ原ひたぎの顔だった。
「おはよう、阿良々木くん」
「……おはよう、戦場ヶ原。今何時?」
「阿良々木くんが来てから三時間くらい経ってるわ」
「そっか」
もうしっかり目は覚めたが、身体を起こす気にはならない。せっかくの戦場ヶ原の膝枕だ。もう少し堪能させてもらおう。
なんだかやけにすっきりした気分だしな。
僕が腕を伸ばして戦場ヶ原の腰に回すと戦場ヶ原は僕の頭を優しく撫でてくる。
戦場ヶ原からいい香りがする。石鹸とシャンプーの匂い。さっきまで風呂にでも入っていたのだろうか?
「阿良々木くん」
「……何だ?」
「お帰りなさい」
戦場ヶ原ひたぎ。本当に僕には過ぎた彼女だ。
僕は身体を起こして戦場ヶ原にキスをする。
「ただいま、戦場ヶ原」
終わり