「『いいひざの日』か。幸せそうでなによりだな阿良々木」  
「なぜお前がここにいる。貝木!」  
「特別に、おまえに一つ教えといてやろう。あの女の機嫌が良かったのは、今  
日が『いい遺産の日』だからだ。あいつは阿良々木家の遺産。お前の親の財産  
を目当てにして、既成事実を作るためにお前に近づいたのだよ」  
「縁起でもないこと言ってんじゃねえよ! それに僕と戦場ヶ原は未だ清く正  
しい関係だ!!」  
「では、考えてみるがいい。お前が急に睡魔に襲われてからの一時間。あいつ  
がなにをしていたか。あいつが一体ナニをしていたのかを。いや、そもそもな  
ぜお前が急な睡魔に襲われたのかを」  
「そ、そりゃあ戦場ヶ原の膝枕が気持ち良かったから……」  
「では聞こう。お前が目覚めた時、下半身が妙にスッキリしていなかったか?  
そう、まるで三日前の朝、お前が夢精をして目覚めた時のごとく」  
「――! 三日前って――なぜお前がそれを知っている!」  
「ほう。適当に言ってみるものだな。まさか本当に夢精していたとは思わなか  
った。まだ若くて羨ましいことだ。俺などは、夜ごと搾り取られているので夢  
精などする暇もない」  
「そんな話、聞きたくもねえよ! 大体、適当言ったってことは、どうせその  
遺産目当て云々の話も嘘なんだろう」  
「ああ、そこは嘘ではない。なぜなら、それは俺が戦場ヶ原にやらせたことだ  
からだ」  
「おい、貝木。世の中には言っていい嘘といっちゃいけない嘘があるんだぜ」  
「そんなものはない。嘘に区別があるのなら、それは儲かる嘘か儲からない嘘  
かという区別ぐらいなものだ。それに詐欺師の俺が言っても説得力はないが、  
今の話は「本当」だ。あいつは毎晩、俺の上に乗って嬉しそうにことの進捗具  
合を報告してくれているぞ」  
「な!?」  
 
 

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