「最近僕の影が薄くなっている気がしないかい? いや、違うな……キャラが薄くなっている気がしないかい?」  
 また突然変なことを言い出した。  
 こいつが変人なのはわかっているが、慣れるものでもない。  
 まあ慣れないことに慣れてしまってはいるのだが。  
「すまん病院坂、もう少し僕にわかりやすく言ってくれないか」  
「おっと、僕としたことが。いやね、僕のアイデンティティが色々奪われている気がするんだよ」  
「アイデンティティ?」  
「そう、もはや巨乳は猫委員長を見るまでもなく吐いて捨てるほどいるし変人なんて学年に一クラス分は当たり前だし、対人恐怖症なんて主人公に抜擢されるくらいだ」  
「他作品の話をするんじゃない。そういうのが許されるのは物語シリーズだけだ」  
「何を言っている様刻くん、きみの妹だって戯言シリーズに」  
「言わせねえよ!」  
 慌てて台詞を被せる。  
 というか病院坂に変人の自覚があったんだな。  
 ついでに言っておくと阿良々木くんは対人恐怖症ではなく人間嫌いだっただけだ。  
「まあ話を戻すとだね様刻くん、僕は死ぬのは怖くないが皆に忘れられるのは怖い」  
「…………」  
「個性が薄くなるとどうしても他の人の中に埋没しがちだろう? いや、それでも確固たる自己を持っていられればいいのだが、僕はどうもその辺の心の強さが鍛えられていないようでね」  
 ふう、と病院坂は溜め息を吐く。  
「おかしなものだろう、対人恐怖症の僕が他人に忘れられるのが怖いだなんて…………ああ、すまない、きみには関係ないことなのに弱音を吐き出してしまったね。なに、明日には元通りだから気にしなくていいよ」  
「そうか、わかった。ところでくろね子さん、ひとつ言いたいことがあるんだが」  
「おやおや、なんだい改まって。僕ときみの仲じゃないか、遠慮せずに何でも言ってくれたまえ」  
「大好きだ」  
「……っ!」  
「僕にとって病院坂は換えの利かない大切な人だ」  
「さ、様刻くん」  
「病院坂が死んだら僕は悲しい。生きていていつでも会える現状でもよく病院坂の事を考えているのに、死んだりしたら毎日でも病院坂の事を思い出して」  
「わかった! もうわかったからやめておくれよ様刻くん!」  
 む。まだ言い足りないのだが手で口を塞がれては仕方がない。  
 まあ赤面する病院坂というレアなものが見れたしここは素直に黙っておこう。  
「ふう、まさかきみにここまで情熱的に想われていたとはね……」  
「知らなかったのか?」  
 
「妹さんや琴原さんより上だとは思ってないよ」  
「それとはベクトルが違うな。みんな大切なのは間違いないが」  
「ふふ」  
 病院坂が微笑み、二人きりの保健室に穏やかな空気が流れる。  
 というか保健医はどうしたんだ? いや、いつものことと言えばいつものことなのだが。  
 しかし病院坂はそれをまったく気にせず、こちらに向けて両腕を広げた。  
 僕は椅子から立ち上がり、ベッドに座ってその腕の中に身体を寄せる。  
 互いの背中に手を回し、抱き締め合う。  
「んっ……」  
 病院坂がわずかに呻いた。  
 少し力を込めすぎたかな?  
「いや違うよ、なんだかとても心地良くてね。できればもっと強くしてほしいくらいだ」  
 ならば。  
 僕はそのまま病院坂をベッドに押し倒し、のしかかるように身体を密着させた。  
「ああ……様刻くん、きみがそばにいるというだけでこんなにも幸せな気持ちになるとは、実に僕は単純だよ」  
「じゃあ僕も単純だな」  
「ふふふ」  
「ははは」  
 軽く笑い合ったあと、僕たちは唇を合わせる。  
 離してしばらく見つめ合い、再びキス。  
 柔らかな感触をじっくり味わい、僕は身体を起こした。  
「するかい、様刻くん?」  
「いや、さすがに保健室では駄目だろ……」  
「そうでもないさ。先生はすでに帰宅したし、運動部も大半は今日は軽いメニューで怪我の可能性も低い。鍵さえかけていれば心配はないよ」  
 病院坂は自信たっぷりに断言した。そこまで言うのなら本当にそうなのだろう。  
 僕は病院坂の手を握る。  
「抱いていいかい、くろね子さん?」  
「僕の方からお願いするよ、様刻くん」  
 そんなわけで。  
 僕と病院坂は神聖なる学び舎の保健室でいかがわしい行為をした。  
 病院坂の豊満な胸を思う存分愛撫し。  
 病院坂の口内を舌でじっくり味わい。  
 病院坂の蜜壷から溢れる体液を啜り。  
 病院坂の膣内を乱暴なまでに蹂躙し。  
 病院坂の子宮を僕の白濁液で満たす。  
 あまりに激しく交わったため、病院坂の体力が回復して下校する時にはすっかり暗くなってしまっていた。  
 今日はありがとう、と頬にキスされた時は驚いた。そんなキャラじゃないと思っていたからだ。  
 でも。キャラじゃないことをするのもまた病院坂のキャラなのだろう。  
 頭を軽く撫でてやりながら僕たちは校門を出たのだった。  
 
 

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