「ふう、寒かったな」
「ええ、でも楽しかったわ」
神社からの帰り道。戦場ヶ原と並びながら僕は歩く。
いわゆる初詣というやつだ。
除夜の鐘をついて。おみくじを引いて。お賽銭を投げて願い事をする。
それなりの人出はあったが、やはり夜は冷えた。
冷たくなった手を繋ぎ、お互いの体温を感じながら益体もない話をする。
「ところで阿良々木くん、眠くはないかしら?」
「いや、別に。昨日は結構寝たしな」
「そう、ならうちに来て一緒に他の三大欲求を満たしましょう?」
「え……?」
「姫始め、よ」
* * *
僕の前に茶碗が差し出された。もちろん炊きたての米がつがれてある。
他にも味噌汁や漬け物が用意された。
「えっと……」
「さ、食欲を満たしましょう。姫始めよ」
「あ、ああ、いただきます」
僕は頭を下げて箸を持ち、食べ始めた。
空いた小腹にはちょうどいいくらいの量だ。
戦場ヶ原も黙々と箸を進める。
確認したところ姫始めとは新年を迎えてから最初に白米を食べることを指すこともあるらしい。
やばい。ちょっと勘違いして浮かれてしまった。
僕は恥ずかしさをごまかすようにご飯をかっこむ。
「ごちそうさま」
「お粗末さまでした」
食後の挨拶を終え、食器を片付ける。
さて、このあとはどうしたものか。
戦場ヶ原のお父さんは年末年始関係なく仕事のようで、ここしばらく帰ってこない。が、年始からお邪魔し続けるのもどうなんだろうか。
そんなことを考えているといきなり戦場ヶ原が後ろから抱きついてきた。
「せ、戦場ヶ原?」
「なにボーっとしてるのよ。早く準備しなさい」
「準備って……なんの?」
「言ったわよね、三大欲求を満たそうって。まだひとつ残ってるわよ」
「!」
驚き振り向いて見た戦場ヶ原の表情はさっきまでとはうって変わって上気していた。
僕は腕を回してそっと戦場ヶ原の身体を抱き締め、唇を合わす。
そのまま倒れ込み、初日の出を拝むまで一晩中僕たちは互いを愛し続けたのだった。