ぶいいいいん、と充電器の上で携帯が震える。うとうとと眠りかけていた意識が無理矢理引き起こされていく。
着信メロディは、ダースベーダーのテーマ。
「………………また来た」
もう溜息も出ない。そんなものはとっくに尽き果ててしまった。
本日百十四回目の着信。通算ならば千四百二十三通目のメールだ。
「ストーカー」
チカチカと光るサブディスプレイに浮かび上がった、差出人を示す五文字。こんな不毛かつ無意味な仕返しをするのは彼女の主義ではないが、しかし。
だがしかし。
今回に限っては、その雀の涙ほどの意趣返しも、自分の平静を保つためには仕方のないことであると割り切る事にしている。
「………………」
緩慢な動作で携帯電話を手に取り、メールを開く。
「おやおや、わざわざ気を使ってくれているのだね、ありがとう子荻ちゃん。この通り(と言っても君には見えないが(笑)、平に伏して感謝するよ。それにし
ても、子荻ちゃんは本当に優しい女子中学生だねえ。まるで女神のようだねえ。でも大丈夫、私ならいつまでだって起きていられるよ。まだ二時半じゃないか、
私は普段八時に寝て十六時に起きているから平気なのだよ。いや、子荻ちゃんのためなら何十年だって起き続けようじゃないか。私は紳士だからね、女子中学生
のためなら死すら厭わないさ。ところで今まで私の隣に少女趣味の変態な友人(私は友達が多いのだよ、うふふ)がいたんだが、やはり友人とはいいものだね。
家族のようだ。子荻ちゃんには家族はいるかな?私には先日言ったかわいいかわいい愚弟を始めたくさんの家族がいるが、本当に幸せだよ。子荻ちゃんも反抗期
だからってうっかりキレて殺したりしちゃいけないよ?うふふ、子荻ちゃんにそんな心配はいらないかな?まあ、どうしても殺したくなったら私を呼んでくれた
まえ、私は既に君の兄のようなものだからね。兄とは頼られるために、妹とは、女子中学生とは、頼るために存在するのだよ。うふふ、なんなら今からそっちに
行こうか?どこへだって駆けつけるよ。どうかな?今心配な事はないかい?良かったら今から電話でもしようか?───愛しの子荻君へ、零崎双識」
「もう、いっそ、あたしがその人、殺しに、行きましょうかあ?」
「………………………………だめよ」
一瞬お願いしそうになった。
なんかあの人、どさくさに紛れて死なないかなあ……。
萩原子荻、十三歳。ちょっぴり過激なお祈りが叶うまでに、それは数年を要する───。